【R15】ネクロマンサー風太 ~異世界転生 死霊術師のチート~

ぺまぺ

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6章 帝国編

49話 勝負

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「眠り姫は薔薇に包まれて眠り続けました」
 異界から持ち込もた物語。
 眠りつつ蹴る姫を助けようと王子が苦難を乗り越え結ばれるという話だ。

 アリアは学園の図書室にいる。
 ゲームでの役割は、ひっそりと目立たず大人しく過ごすこと。
 闇に飲まれまいと調べて対抗しようと必死に文献を読み漁っていた。
 結局それは意味もないのだけど……。

「私も眠り続けていれば良かったのかも知れない。
けど悲劇を変えられるなら……」
 同級生の女の子達がアリアの周りに集まってくる。
「私達とお茶をしませんか?」
 はい、いいえ……。
 分岐する選択肢、早く答えなければ最悪な結果をもたらす。
 面倒なシステム。

「ええ、私で良ければご一緒させて下さい」
 自然に風格が態度に現れて優雅な振る舞いに、同級生達はキュンと心を鷲掴みにされていた。
 何処にも属さない謎多きアリアと独特の高貴さに興味を惹かれないものはいない。
 
 アリアが持つゲームキャラの印象が投影され美化されていった結果である。
 全く違う人生を選ぶことで正義の使者と成れると思っていたが、それはもう捨てていた。
 慣れない事をすればミスをして、ドジな性格が表に出てしまう。
 だから完璧に演じると決意して、キャラになり切っているのであった。

 もし破滅の道に進んだとしても、風太が助けてくれる。
 他にも信頼できる家族……血の繋がりはなくとも同じ屋根の下に暮らしていれば、そう呼んでもいいよね。

 お茶会専用の部屋がある。
 テーブルを囲み楽しく話をする場だ。
「アリアは、とっても綺麗でいいよね。
あのジェーリア嬢とは違って優しいし」
「ねー、あの人親が偉いからって威張っているよね」
 アリアは黙ってお茶を飲んでいたが、聞くに絶えない悪口が始まると気分が悪くなっていた。
 邪悪な影が後ろで彼女達を操り言わせている様な錯覚。
 空気が淀み歪むような気味の悪さ。

 アリアは絶えきれず立ち上がる。
「申し訳ないですが、私は先に失礼させて頂きます。
相手を下げることでは自分の力を高めることは出来ませんよ」
 少し冷たく言い過ぎたかと思いつつも席を離れる。
 こうやって孤立していくのだろうか?
 けど一緒になって悪口に乗る気は見時もない。

 あー、彼女達の機嫌を損ねて、今頃悪口を言われているのかも。
 でもどうすれば良かったの?

 そんな背を向けたアリアに呼びかける。
「もしかしてジェーリア嬢派なの?
だったら解るでしょう、聞かなかったことにして」
 アリアは振り返り少し沈黙する。
 それが彼女達の注意を引くことになった。
 余計に言葉に詰まりそう。
 けど折角作り上げた印象を壊したくない。
 
 アリアは意味深な言葉を告げる不思議なキャラだ。
「夜に咲く花も魅力的でしょう。
月が欠けたとしても陰りはない」
 ゲームでのセリフをそのまま告げただけ。
 場面にあっている気がしなかったけど。
 ジェーリア嬢を知らないから、どう答えて良いのか解らなかった。
 純粋に違うと答えば良かったのかも知れない。

「派閥争いに参加しないなんて勇気があるのか。
それとも愚か者なのか、勝手にすれば良いわ」
「ええ、さようなら」
 ふぅ……、一安心して、また読書をしようかと歩き始める。

 その行く手を塞ぐように美青年が立ちはだかった。
 金髪の爽やか丸で王子様。
 えっ一体誰?
「そう身構えないで、僕はココット。
貴女の魅力に惹かれてしまったようです」
 これは最高のヒロインに成れるチャンスかも知れない。
「私はアリアです。
ふふふ、とても嬉しい」
「もし良かったら一緒にお茶をしてくれませんか?」
 また派閥争いに巻き込まれる予感が過ぎる。
 都合、美青年が現れるのも不自然。

 ここは意地悪な回答をして反応を見るのもありなのかな?
「既にご馳走になったばかりです。
ある茶人は、茶室に案内するのに遠回りしたと言います」
 お腹が空いている事が最も美味しくする方法である。
 
「ハハハ……。
貴女は面白い、確かに満腹ではお茶を楽しむことは出来ない。
では少し一緒に散歩でも如何でしょう」
「ええ、中庭を一周するぐらいは構いませんわ」
「中庭?
そんな場所があるなんて聞いたことがないです」
 ゲームにはあった中庭がない。
 それは迂闊な発言だった。
 アリアは微笑みつつ、どう誤魔化すかと悩む。
 
 迂闊な事を言ったら風太や皆に迷惑が掛かってしまう。
 勘違いでしたテヘッと言いたいけど、それはキャラ崩壊。
 もうドジで、転んでしまった。
「では、私が案内しましょう」
 転送門を使うしかない。
(中庭……)
『どうぞ、お通り下さい』
 
 えっ、本当にそんな場所があるの?
 なんだ彼が知らなかっただけ……、冷汗かかせないで。
 
 そこはゲームで見た風景と同じだった。
 中央に人魚像の噴水があり貝から水が流れ落ちる。
 桜色の花びらが舞い散り。
 外周の花壇には、様々な草花が咲き乱れていた。
 ユキノケッショソウ……、丸い果実が張り裂けると雪結晶の形をした種が舞い散る不思議な草。
 フエノフキソウ……、穴の空いた葉がクルンと丸くなり風が吹くと音色が聞こえる草。
 リュウノヒ……、とんでもなく辛い実をつける草。
 ……どれもゲームに出てきた植物。
 やっぱりこの世界は、ゲームの世界。

「こんな場所があったなんて知らなかった。
貴女は入学して間もないのに、もしかして探索好きで色々と巡っていたりするのかい?」
 彼の疑問は自然なものだ。
 学園から最低限の情報しか与えられていない。
 不要な場所に行く必要性がないからだ。
 
 前世で見たとは言えない。
「ふふふ、謎が多いほうが魅惑的に感じるでしょう。
消して開けてはならない箱程中身が気になるもの」
「いいね。
こんな素敵な場所を教えてくれた礼をしないと」
「それなら……」






 チャイムが鳴り響き授業の終わりを知らせた。
守護する青い盾ライフシールって……。
もう終了か」
 風太の前に、半透明の青い盾が出現している。
「フフフ……。
制限を掛けるのに手間取っているから、そんなに遅いのよ」
 赤髪の女ラカーユは、簡単に魔法盾を作り出し3枚並べている。
 誘拐から彼女を助けてしまったことで、学園中に噂を広められてしまった。
 迷惑しているが好意的に接してくるのでなんとも言えない。

「効率よくしたいと思って整理していた。
術書に記せる領域に限りがあるから、節約しないと入り切らない」
「見せて」
 ラカーユはそう言うと、風太の術書を取り上げた。
 内容を確認すると、ずらりと並んだ大量の術のリストが出る。
 系列、用途、強さ等に順序良く並べられていた。
「まだ50個しか記録してなくて。
それでもカツカツに成りかけていたから、工夫してやっと後20入れられるぐらい」
「ちょっ、ちょっと、嘘でしょう」
「やっぱり、もっと入るよな」
「私の術書はまだ10も記録されてないのよ。
なんでこんなに一杯記録しているの?」
「それは改善しようと色々と試したから。
折角作ったなら残しておきたいと思って」
 試作段階のを消せば容量の節約にはなる。
 それを消してしまったら、それまで苦労した痕跡も無くなる。
 アドバイスを貰うためには、残しておいたほうが何かと都合が良い。
 
「もう一冊買えれば、今は配給された物しか無いし。
本当に、勿体ない、私のを貸してあげたいけどシリアル番号が付いているから駄目なのよね」
「確かにもう一冊欲しいけど。
不要な術を消せば問題は解決するから大丈夫」
「闇市に行けば手に入るかも知れない。
ちょっと値段は高めって噂らしいけど」
「そんな怪しい物を使いたくない。
それに資格を取っていけば、貰えるって聞いているから……」
 習得に必要な術が増えていくから、それに合わせて配給される仕組みになっている。
 術師の育成に力を入れているだけあって、ある程度は融通が利くのだろう。

「ふーん。
所で噂を広めてあげたのに、あんまし人が集まってないのは不思議ね」
「初日はぞろぞろ来て迷惑だった。
そういう事は止めてくれ」
「えー。
助けて貰ったて言っただけなのに」
「学びに来ているだけで、人気ものになりたいとは思ってない」
 ある程度の評判は必要だとは思うが、目立ちすぎるのは違う。
 玉国に潜入していたスパイは程々の地位の相手と接触して、情報を得ていたようだ。
 その加減はよく解っていないから、初めの内は自然に振る舞うことにしている。
 周りとの空気感が解ってくれば、それに合わせて調整して行く予定。

「勿体ない。
私は風太なら学園のトップに成れると……」
 パン!
 扇子を閉じる音が響いた。

 いつの間にジェーリアがやって来ていた。
「あら、失礼。
彼に用があるの、二人にしてくれないかしら?」
「なによ。
先に話しているは私の方、横取りするような真似をしないで」
「まだ楯突く者が居たようね。
では決闘で決めましょう」
 学園では実戦も重要している。
 決闘も学びの一環として認められていた。
 
 ラカーユはまともな攻撃術の習得はしておらず、実戦経験もほぼ無い。
 初心者未満である。
 だが怒り沸騰していた彼女は冷静さを失っていた。
「脅せば屈するとは思わないで。
ええ、受けて立ちましょう」
「では、集団戦で勝負したいわ。
貴方に人望があるとは思えないけど」
「私がポッチみたいに言わないで。
不利だからって助っ人を呼びたいって言いなさいよ」
 二人の間に火花が飛んでいる気がする。
 どんどん不利な条件を突きつけられて事に気づかずに破滅する愚者。
 
 ほぼ勝ち目のない勝負なるだろう。
 助け舟を出すか。
「勝算はあるのか?
そんなにホイホイ決めずに、条件を付けたほうが良いだろう」
「そ、そうね。
3対3でどう、私は風太と組むから」
「あら可哀想に、たったそれだけしか集められないのですね。
数十人ぐらいの勝負になると思っていたのにしょぼい対決に成りそう」
「あー、5人!
これで納得しないなら決闘は無し」

「ええ、良いわ。
その代わり負けたら一つ言うことを聞いてもらう」
「私が勝ったら、貴方の秘密を一つ教えなさい」
 釣り合ってない。
 これは勝っても得られるものは少なく、負けたら何を要求されるか。
 リスクだけが高い損な賭け。

 恐らくラカーユは遊びの感覚で交渉しているのだろう。
 それが命取りになるかも知れないというのに。
 
「やってくれたな」
 周りから同級生が消えたのはジェーリアが仕組んだことだろう。
 それは孤立させ、この状況を作り出すため。
 ラカーユの性格から、挑発すれば乗ってくる事ぐらい予想出来る。
 無能な味方は有能な敵よりも……だな。
 
 ジェーリアは微笑みを返す。
 これぐらい乗り越えてくると予想しているのだろうか。
 実力を測るためだとしたら、ギリギリまで抑える縛りプレーみたいな状況で勝つしかない。
「では楽しみにてしいます。
猶予を与えるために決闘は明日にしておきますわ」
 決闘は一日前に申請して、場所を確保する。
 全く猶予になっていない。

「舐めないで、今直ぐに勝負したって良いのよ。
猶予が欲しいのは貴方の方でしょう、精々強い人を連れてくることね」
 とうしてそんな自信を持てるのか。
 野兎がライオンに噛みつくようなものだ。
 
 ジェーリアが去り二人きりになる。
「そんな強気で考えがあるのか?」
 冷静になった彼女は顔色が青ざめていた。
 やはり勢いだけで受け答えしていたのだ。
「私達には勇気と知恵がある。
悪党共を撃退した経験だって彼女にはないはず」
「ふーん。
なら君に任せることにする」
「どーんと大船に乗ったつもりで居て」
 大船だからといって沈まないとも限らない。
 彼女の場合はハリボテの紙の船だろうけど。
 乗る前から沈み始めている。

 しかし負けてジェーリアの思惑通りになるのは気に入らない。
 うまい方法を考えないとな。
「ああ、頼りにしている」
 
 

 そして次の日、決闘の広場にやってくる。
「決闘の方法は射撃戦です。
防御陣地から攻撃し合って、相手に着弾させて下さい」
 ルールを説明するアナウンスだ。
 防御陣地は壁が千鳥状に並んだだけの場所で、隙間から魔法を放って攻撃するのだろう。
 
「なお、学年差があるので3分間はハンデが付きます。
一定時間防衛ボーナス、攻撃位置の視覚化……」
 相手の方に高学年がいるようだ。
 謎のハンデが付くようだが、最も大きいのが一定時間防衛ボーナスだ。
 勝敗に関係なくて5分間生き残るだけで、実戦の授業を一回受けたのと同じ評価を受けるのである。
 逆に相手は5分以内に勝たないと評価を受けられない。

「一気に突撃して叩きのめすしか無い。
開始の合図と共に一気に駆け抜けましょう」
 やはり何も考えずに突進するようだ。
 無謀な作戦としか思えない。
「ちょっと待ってくれ。
相手の距離が結構遠い気がする、全力で走ったら息切れして術が使えるのか?」
「最初の3分は攻撃の軌道が見えるのよ。
その間に避けて近づかないと、私達の攻撃は当てられない」
 火の飛礫ファイアボルトの射程は短く、距離が離れると減衰して威力が極体に弱くなる。
 風太なら余裕で届く距離だが、彼女では十歩以内範囲しか有効打に成らない。
 
 だから勝つ為に近づくのは当然の事。
「盾でゆっくり近づくのは?」
「消耗が激しくて、とても持たない。
3撃受けたら砕けてしまう」
 仲間は彼女と一緒に誘拐されていた無口な女シェヌサ。
 それとジューリアに反感を持っている二人組。
 
「私達もラカーユに賛成、皆でバラバラに出て行けば攻撃も拡散するはず。
目標はジューリアただ一人」
 勝利条件すら解っていないようだ。
 一泡吹かせてやろうと意気込むだけ。
 彼女達は雰囲気とノリだけで何も考えていない。

 今まで愚策だと思っていたものすら、マシに思えるほど。
 相手は勝つために最善を尽くすだろう。
「こういう時は相手の思考を読んで行動すると良い。
出ていったら攻撃が届かないから仕方なくそうするしか無かったと読まれるだろう?」
「うーん、そうね。
だけど誰を狙って良いのか解らない筈だし、避けるのは容易い」
「ゆっくり一人ずつ狙っていく作戦だったら?
到着するまでに脱落すれば、それだけ攻撃の手が減ってしまう」
「確かに、でも守ってばかりでは勝てない。
だから突撃するしか無い」

 カーン♪
 試合開始の合図が鳴り響いた。
 
 ラカーユの思考は突撃しか無い。
 飛び出した瞬間、赤外線の網が張ってあったかのように狙い撃ちにされたのだった。

 赤い光線で狙いが見えると言っても避けられるほどゆっくり来るわけもない。
 彼女は変な動きでクネクネと体を捻るが無理な体制になり。
「あっああ……倒れる」
 バタン!
 次の攻撃を避けられるはずもなくバシバシと一気に攻撃を受けた。

 ブブー♪
「嘘、まだ何も出来てないのに……」
 ラカーユの体がゆっくりと消えていく。
 敗者は転送されて退場させられる。

「ラカーユ脱落!」
 一緒に飛び出した2人も順番に一人一人狙われ脱落した。
 予想した通りの展開。
 だから止めたのに言うことを聞かないとは流石に思わなかった。
 サポートして、上手く攻撃を防ぎながら目的を達成させてあげればよかったのか?
 いや、後悔よりも次の手を考えないと。

「……もう、無理……降参しよう」
 シェヌサは戦意を喪失してしまい、実質風太しか残っていない。
 5分どころか1分も持たずに3人も脱落したのだから当然だろう。

「君はここでじっとしていくれ。
俺が戦局を変えよう」
 とは言ったものの、今は制限の術リミッターを掛けていて身体の能力がかなり制限を受けている。
 解除すれば余裕だけど、ある程度のハンデは必要だろう。
 実戦経験が豊富で異界人と言うチート能力を持っている。

 それで一方的に負けたら可哀想。
 だから、この制限は解かずに行く。
「でも、どうやって?」
「口笛が吹けるなら、好きな音楽を奏でて欲しい。
出来ないなら手を叩いてリズムを取るだけでも良い」
「意味を知りたい」
「音で位置を調べているのか知りたいから。
できるだけ大きく聞こえるように」
 こくりとシェヌサは頷き口笛の音色を響かせた。
 ピーピピピーピー♪

 風太は忍び足で移動し、攻撃で欠けた壁の隙間から様子を見る。
 目視では相手の位置を確認はできない。
 ぼやけて壁がうっすら見えるぐらいだ。
 突然、空中に赤い光源が見え赤い線が放たれる。
 透明化で空を飛んでいるというわけでもなさそうだ。

 来る!
 伏せて壁に隠れた。
 ババババハン!
 
 壁が崩れる。
 想像以上に脆く簡単に崩れるようだ。
 ここに留まれば直撃するかも知れない。
 這いずり奥の壁に戻り一息つく。

「相手は見えているのか。
でもどうやって攻撃しているんだろう」
「カプセルに入れて飛ばしている」
「そんな物があるのか?」
「違う。術で形成する」
 二段ロケットみたいな感じで飛ばして距離を稼いでいるのか。
 再現はできそうだけど、習ってない事を自力で到達したら学園にいる意味はないよな。
 習った事だけの範囲で手を打つしか無い。
 けどあんなに遠くに攻撃を届かせる方法はあるのか?

『任せてくれたら飛んでいって一撃で……』
 取り付いている魔女の霊の声だ。
 脳内に直接語りかけてくるので他人には聞こえない。
(君達を使うつもりはない)
 死霊術を使えば不意打ちは出来るだろう。
 それは学びにない攻撃であって反則のようなものだ。

 そんなズルは出来ない……、いや精霊なら行けるか?
「ありがとう」
 相手は作戦を切り替えたようで壁を破壊する攻撃を始めた。
 3層あるが、簡単に削られて全部なくなりそうな勢いだ。
 ガガガガカ……!
 壁が崩れる音が響く。


静寂の美しき六角盾ライフシール……、壁に防御しました」
 シェヌサは隠れていない離れた壁に術を施し守ったのである。
 時間稼ぎするならそれが最善だろう。
 良い判断だ。

 隠匿効果が付いた盾。
 隠れようという意思があるからこそ、そこに隠れている可能性が高い。
 だからこそに狙いが集中する。

 けどどれだけ持つのか解らない。
 できるだけ早く手を打たないと負ける。
 最も早く動けそうな精霊を出さないと……。
「風の精霊よ。俺に従い姿を現せ!
カマイタチ!」
 前足がかまとなったイタチが魔法陣から出でくる。
 望んだ姿で精霊は姿を表すらしいけど。
 怪獣を召喚した時は精霊が化けていたのか?
 それとも前世から召喚されたのか。
 解らない。
 
 前世から来たと信じたい。
 ならこのカマイタチも前世から来たのかも知れない。
「可愛い……」
 イタチの顔は愛くるしいけど、鋭い鎌がそれを台無しにしている。
 いやどう見たって不気味でおどろおどろしい。

「凄く怖い妖怪なんだけど……。
まあ良いか、さあ行け」
 また顔を出して、視線誘導させるか。

 転がっている瓦礫を踏む。
 クッキーを踏んでしまったかのような砕ける感触。
 そして魔素が充満する寒気を感じる。

 ここにある物は魔素によって構築されているのだろうか?
 だとしたら破壊された事によって充満している筈だ。
 それを利用すれば、足りない分を補える。

「私も協力したい。
何か手はある?」
「君は生き残る事に専念してして欲しい。
制限時間まで生き残っている人数が多いほうが勝ちだから」
「でも、既に3人が脱落している」
「メーメル師匠が得意だった秘策がある。
大地を喰らう土の壁アースウォール
 幾重にも連なる壁が生成されようとしていた。
 それを相手が黙って見ている訳もなく、一斉に攻撃が始まる。







 一方、ジェーリアは高みの見物を決め込んでいた。
 陣地構築術によって大地を盛り上げ実際に高い位置から見下ろしている。
 相手が壁から少しでも出れば丸見え。
 陣地の周囲に陽炎を発生させ、蜃気楼のような光の屈折によって相手からはこの高台が見えない。
 圧倒的に優位な環境で戦っているのである。

 敵陣地との中央地点に地面から土壁がせせり上がるのが見える。
「今更、土壁を作った所で意味はないと教えてあげなさい。
木っ端微塵にして心も砕くのです」 
 ティーセットにテーブルと椅子。
 決闘前に申請しておけば用意出来るサービスだ。
 それすら知らない相手に負ける筈はない。

 優雅に過ごし勝つ。
 理想的な展開にジェーリアに笑みが溢れていた。
 
 それが凍りつく自体が起きる。
 攻撃が命中し破壊できるはずの土壁が巨大化していた。
「止め! 一度作戦を切り替えるわ。
消耗具合を報告して」
「遊撃組3人はかなりの消耗。
狙撃手は消耗無しです」
 壁破壊でかなりの消耗を強いられてしまった。
 石系の法術でぶつければ、壁は簡単に破壊できる。
 だから土壁も同じように破壊できると思い込んだのだろう。
 それを逆手に取られて同属性の吸収を仕込まれていた。
 敵に塩を送ることに。
 
「攻めではなく防御に徹する。
迎え撃つ準備を……」
 何かとてつもなく早いものが動く気配。
 風が通り過ぎた。

「うわっ!」
 ブブー♪

 一人脱落した。
 すでに法術の射程圏。
 いや、違う精霊……だとしたらまだ終わらない。
簡易な盾ライフシール!」
 攻撃の要、狙撃手が倒れることが最悪なことだ。
 だから何よりも優先して狙撃手を守る盾を形成した。
 その判断は正しく風精霊かまいたちが狙ったのは狙撃手。

 狙撃手も風精霊を狙いお互い同時に術を放つ。
 風の刃がパリンと盾を砕く。
「避けて!」
 悲鳴に似た叫び。
 ジェーリアは凍りつく寒気に冷や汗が落ちる。

 ブブー♪
 遊撃組の一人が身を挺して庇い、狙撃手は守られた。
 そして、風精霊は霧散し消える。
「お嬢様、勝利を……」
「良い判断でしたわ。
あれだけの術を使ったから、もう殆ど余力は残っていないと油断せずに仕留めなくてはならない」
 特別待遇だけあって、想定よりも遥かに強い。
 まだ敗北に追い込まれる可能性も十分ある。
 だからこそ欲しい。

 狙撃手の男カーバルは不満げな様子だ。
「ちっ、聞いていた話と違う。
もっと楽に勝てると踏んでいたのに……」
 あの素早く動き回る風精霊を仕留めるだけの腕は見事。
 ただやる気のなさが欠点。
「それなら報酬を倍に増やしましょう。
さらに風太を脱落させたら、ボーナスとして更に倍。
少しはやる気がでたかしら?」
「いいね。
なら好きに動いてもいいか?」
「ええ、貴方の判断で動きなさい」
 上級生の方が経験豊富で下手に指揮を取って足かせをつけるのは愚かだろう。
 成績優秀な者を連れてきている。
 どこぞの突撃娘みたな、愚策を取ったりはしない。

「期待してくれて良い。
じゃあな」
 カーバルは飛び降り、何処かに隠れてしまう。
 潜伏して待ち伏せするもの狙撃手の役割だ。
 
 一瞬で所在が解らなくなっている。
 頼もしさを感じると同時に自らがぼさっとして負けたのでは話にならないと気を引き締めた。
「私達も出来る手を打つ。
防御に徹する、結界ロイヤルガードを起動しますわ」
 足元の地面はただの足場ではない。
 魔素を蓄えておく箱でもある。
 初めに構築したのは、自然回復を考慮してのことだ。

 溜め込んだ魔素を使い、四方に透明な壁が生成された。
 そして周囲には接近すると爆発する罠もある。
 もし踏み入れば爆発が彩りを添えるだろう。
「了解、俺はお嬢様の護衛に徹するぜ。
何処から来ても任せてくれ」
 残った遊撃組の一人だ。
 期待はしないが、2対1の状況なら優位に進められる。
「広範囲を狙い。
少しでもダメージを与えて、動きを鈍らせなさい」
「もう一人は?」
「怯えて動けないと思うのは楽観しすぎかも知れない。
けど戦力外と思っています」
 資料にも情報はほとんど無く、どんな術を使うのかすらよく解っていない。
 成績はあまり良くなく下から数えた方が早い。
 取るに足らず実際忘れていた。
「一応は警戒しておく」
 何故か、来るなら風太一人と予測していた。
 実際、動いているのは風太一人である。
 
 確信が何処にあった。
 結界の壁に立ち手を触れる。
 硝子のように冷たく硬い。
「私はここに居ます。
さあ、来なさい!」

 揺らめく陽炎の中、人影が見える。
 命を脅かす灼熱の暑さ、そんな所に居るなんて。
 隠れる場所がないからと言って愚策ではないかしら。
 ジェーリアは何をするのかと期待に心を踊らせ見下ろしていた。

 風太が手を銃のように構える。
 指先に形成される火の玉。
「フフフ……。
そんな火の玉で、これを破れるものですか」
 放たれた火は鳥のように羽ばたき勢いよく迫った。
 強固な結界が破れるはずはない。
 なのに迫るにつれて恐怖心が一歩後退りさせた。
 ドン!
 結界にぶつかり火の鳥は火炎を撒き散らし消える。
 やはり無傷なのに、底しれぬ恐怖に腕を組む。
 
 何か見落とすことがあったのか?
 思考を巡らせるが思い当たる節はない。
 一度、盾を破られたことがトラウマになっているだけ。
 
 彼に期待する余りに高く評価しすぎていたのかも知れない。
 落ち着き冷静になろうと振り向く。
「お嬢様、異常事態です。
術式が侵食を受けて改変さていきます」
「まさか術式汚染ウイルスを……。
保護プロテクトは完璧ではなかったのですか」
「完全に乗っ取られています。
保護プロテクトは突破されてしまったようです」
 結界内が急激に熱くなっていく。
 まるで陽炎がここに移ってきたかのように。
 
「仕掛けておいた陽炎の術式を、そのまま移植。
そんな事が可能だとしたら……、爆発術式を乗っ取られてしまいますわ」
「では今すぐ起動します」
 ドンドンドドドドド………
 小規模な爆発から始まり、連鎖的に爆発が起きる。
 近づこうとしていなら、巻き込まれているかも知れない。
 そんな淡い期待も直ぐに消える。

 大地は元の平らな平地に戻り、結界も消失していた。
 爆発のけむりが風とともに流れ視界が戻る。
 壁がなくなり、真正面に立つ風太の姿が見えた。
 彼は一歩も動かずに立っていた。

 陽炎の中にいる限り、狙撃手からは揺らめきでよく見えない。
 最も安全な場所となっていた。
「皮肉なものね。
用意したものが裏目に出て窮地きゅうちに追いやられるなんて」
「お嬢様お下がり下さい。
拡散する火の雨ファイアアロー!」
 広範囲に火の矢が降り注ぐ。
 それでも彼は動く気配はない。

 いや違う、あれは土人形……。
 なら何処に、視線を周囲に向ける。
「うわっ!」
 ブブー♪
 遊撃組全滅。

 斜め後ろから石が飛んできた。
 それを見逃すはずもなく、ジェーリア咄嗟に閉じた扇子を構え封じていた術式を解放する。

 最後の切り札。
 辺り一面を切り刻む風の刃が飛び回る。
 背に感触が。
 本の上面が触れているような、恐らく術書……
「君の負けだ。
降参してくれないか?」
「力を使い果たして術が使えないのでしょう。
でも私はまだ余力を残しています」
「感が良い。
けど起動すれば自滅する術式を書き込んである」
 それで術書を接触させたと……。
 理由としては納得出来る。
 彼は手を失っても脱落しない、私は背に爆発で致命傷となって脱落。
 良くて相打ち。

 けど自然回復を待つためのブラフだったら、騙された私だけが愚かと言うこと。
「もし私に勝利を譲ってくれれば、あの条件を取り消します。
それに敗北条件である秘密を明かしましょう」
「断る。
君にも切り札が残っているみたいだ、なら終わらせよう」
 狙撃手の存在に気づかれた。
 ならこの手で仕留めるしか無い。

 前に出てすぐさま振り返る。
荒ぶる赤い火ファイアボルト
 放った火の玉を風太は片手で受け止めていた。
 そして投げ返す。

 他国に盗用されないように帝国の術式は保護が掛けてあり、遠距離主体。
 対して王国は短距離主体で、撃ち合えば負ける。
 だから見えざる衣を開発し近距離まで近づけるようにした。
 
 自らの炎に焼かれて負けるなんて……。
 空にキラリと輝く狙撃の刃が見える。
 
 ブブー♪

 ジェーリアは気がつけば小部屋に立っていた。
 脱落したものが来る通称、天使の間。
 既に退場した遊撃組とラカーユ達が席に座り、それぞれがゆったりと水晶を眺めている。
 試合の様子を、もう一度初めからみて反省し改改善策を記録ているのだろう。
 ……いいえ、ラカーユ達は風太の活躍を見てニタニタしているだけのよう。
 それより。
「すぐに彼が来る。
あの一撃は見えざる衣でも貫通しますわ」
 飛ばされてきたのはカーバルだった。
 あの状況で何処に居るのかわからない狙撃手をどうやって……。
 ジェーリアの同様が表情に現れていたのか、カーバルは ばつが悪そうに言う。
「無効にも狙撃手が居たようだ。
放った瞬間に殺られた」
 狙撃の瞬間だけは、魔素の濃度が上がり感知されてしまう。
 だから狙撃されない位置に陣取って隠れていたはず。
 彼に気づかれずに、どうやって……。

 それなりに時間が過ぎたが風太が来る気配が無い。
「どうして彼が来ない。
あの状況で避けたというの?」
 腰に翼が生えた女が、飲み物を持ってやってくる。
 天使がやって来たのかと錯覚するような美貌を持つ水色短髪のくっきりとした体型。
 翼人、帝国でも珍しい種族でほとんど見ることはない。
 天使の間と呼ばれているのは、彼女がいるからだろう。
 学園関係者と示すカードの付いた首飾りを付けている。
 癒やし手のミディ。
  
「彼とは風太殿の事でしょうか?
最後の狙撃は試合終了によって無効化されました」
「もし試合が続いていたなら?」
「直撃していたでしょうね。
さあ疲れたでしょう、ゆっくりくつろいで行って下さい」
 受け取ったグラスから甘い香りがする。
 フルーツがミックスされた甘く酸味のあるスッキリとした飲み味。

 遊撃組に入っている補佐の男に聞く。
「彼の能力分析の結果を教えて下さい。
Bランクの私よりも高いA、もしくはS相当のはずです」
 Sが特別で、AからFまでの格付けがある。
 異界から持ち込まれずっと使い続けられている。
 簡単な評価付けに最適な枠組みなのが残り続けた理由だろう。

「それがEランクの能力値です」
「それは銀級、それとも金でしょうね。
格違いなのは間違いない」
 能力によって与えられるパッチ色の事で、銀は2年生と同格、金は3年制と同格を意味する。
「いいえ、級無しです。
最下層のEランク、これは推測になるのですが制限リミッターを掛けて居たのではないでしょうか」
「あれだけの力を振るってEと評価は厳しい過ぎる気もしますわ。
流石にあれだけの法術を扱うには無理があります」
「彼は周りの環境を利用して、足りない分を補っていました。
術式を解析されて利用されたのが痛く敗因と思われます」
 能力で数値化されない知恵と知識で切り抜けたということだ。
 
 ミディはクスリと笑い助言を初めた。
「触接地面に術式を記しましたね。
術書に記し複製転記コピペすれば、元の術式を改変されずに上書きし直せたのですよ」
「それではお互いに消耗し続ける持久戦に……。
いやそれで時間切れで勝っていたのですね」
固定転記シリアルを使えば、
術式介入ハッキングされて乗っ取られる事はあっても書き換え出来ないです」
 術式介入はかなり高度な技術であり殆ど使われることはない為、学びでは後回しにされがちだ。
 地味で使い所が限られるのも習得を避ける要因となっていた。

「背後から攻撃が来たのに、振り向いた私の背後を取れた理屈がどうしても解らない。
転送でも使ったとしか思えないです」
「地面を走らせて反対に位置から放っただけです。
土壁生成アースウォールと同じといえば解るかな?」
「それは大地の精霊特有のはず、どうして火の法術が……。
……相性が良いから一緒にという事でしょうか」
「はい、正解。
大噴火ヴォルケーノも火と地の混合によって発揮する法術と言う感じで連携させる事ができます」
 ジェーリアは特化した学びこそが最善と信じていた。
 それが汎用の学びに敗退する。
「ああ、やはり彼が欲しい。
期待以上……」

 カーバルは「俺はの役目は終わっただろう」と、一声掛けて部屋を出ようと背を向けた。
「待ちなさい。
報酬の受け取りを忘れています」
 小切手に額を記し彼に手渡す。
 その額を見てカーバルは驚く。
「役目も果たせず負けたのに気前のいい事だ」
「今後も役立って貰うための投資と思って頂戴」
 有能だと判断した相手はキープしておきたい。
 試合が継続していたなら直撃で目的は達成した。
 ジェーリア自身も、大した働きができず即退場した事も敗因の大きな要素だ。
 もう少し粘ることが出来ていたなら、逆転もあり得た。
 それだけに悔しい決闘である。





 その頃、風太は別の部屋に強制転送されていた。
 桃色髪の翼人が椅子に腰掛け読書をしている。
 彼女は風太に気づくと、側のテーブルに本を置き立ち上がり微笑む。
 何処となく、適正テストに出会った二人の天使の片割れに似ていた。
「勝利、おめでとう。
私はエムニア、この迷宮ダンジョンを管理、守護するものです」
「どうして俺だけがここに?」
「私はここに縛られてあの空を羽ばたきたいと夢見るカゴの中の鳥。
もしこのいばらから解き放ってくれるとしたら貴方だと直感したのです」
 本の題名は眠り姫。
 魔女の呪いによって茨の覆われ眠り続ける姫を王子のキスによって助ける話だ。
 物語に憧れたのだろうか?
 
 なのに、彼女は風太に迫って壁際まで追い詰める。
 おいおい、そんな強引な話ではないだろう。
「ちょっと、なんでそんなにガツガツしている」
「貴方に一目惚れしたから」
「だから、近いって」
「貴方に触れたいから」
「なんで手を掴む……」
「逃さないためよ!」
 柔らかい唇の感触。
 舌にピリリと感じる。
 何かしらの魔法を仕掛けて来た時の反応だ。
 対策として自動反射が施してある。
 
 唇が離れエムニアはウットリして、顔だけでなく体全体が赤くなっていた。
 誘惑の魔法でも仕掛けていたのだろうか?
 あるいは何かしらの支配系の魔法。

「それは王子役がすることだろう?
君は姫役なんだから違う」
 風太は彼女の腰に手を回して、クルッと回転し彼女を壁側に反転させた。
 そして、うるっとしてぼんやりしている彼女の唇を重ねる。

 術式が砕け、反射した魔法が解けていく。
 エルニアの目にハートが浮かび上がり。
 沸騰したかのように前進が熱くなり益々真っ赤になった。
 唇が離れる。
 彼女は目がグルグルと回り気を失い崩れて倒れた。

 魔法が解けていた筈、なのに気を失うというのは……。
「君から仕掛けておいて……。
俺は魔女役だってことなのか?」
 
「クフフフ……。
抜け駆けをして、なんて醜態をしているの」
 水色髪の翼人が背後に立っていた。
 名札に癒やし手ミディと書いてある。
「彼女が倒れた。
見てくれないか?」
「彼女の事は放っておいて大丈夫です。
そこのテーブルの席に座りなさい」
 もしかして怒られるのか?
 恋愛禁止なんて規則は無かったし、仕掛けてきたのは彼女の方だ。

 逆らう理由もない。
 大人しく席につく。
「君も俺に何かするつもりなのか?
不意打ちで術を掛けられたら、誰だって抵抗するだろう」
「彼女の事とは関係ないから安心して。
決闘を見ていました」
 何か不正と見なされる行為があったかも知れない。
 一応は規定を見ているが、怪しい部分もある。
 もし俺の行為で反則負けになったとしたら、彼女達にどう謝ろうか。

 不正の確認は藪蛇だ。
 意図して無くとも自覚があったと思われれば、悪印象を持たれる。
 だから予測すらしない。
「恥ずかしいな。
初めての試合だったから、手探りで至らない所もあったと思う」
「術書の交換。
どうしてあんな事をしたのか知りたい」
 識別番号が付いて、個人に与えられたものだ。
 それを貸し借りする事がタブーだったのだろうか?
 わざわざ、識別番号で分けているのは専用で使って欲しいからだろう。
 規則には、そんな貸し借りを禁じた内容は書かれていない。
 常識だから記すまでもない事だったとしたら。
 
 悪い方に考え過ぎている。
 ただ聞かれたことだけを答えれば良い。
「相手の仕掛けた魔法陣に気がついて。
俺の術書には入り切らない規模だったので借りました」
「違うでしょう。
シェヌサ殿に貴方の術を使わせたかったから交換した」
「そういう見方も出来るのか。
彼女には隠れていて欲しかったから、そんな意図はない」
「彼女が使ったのは貴方が記した、貫通する頑固な蒼き氷の突撃槍アイシクルランサー
飛距離を出す為に魔素を取り込みなが飛んでいく仕組みよね」
 魔法の手紙と同じ仕組みを採用しているが、取り込む魔素の量が圧倒的に多い。
 爆破によって壁が崩壊した時に散った魔素があってこそ、維持出来たようなものである。

 シェヌサが土壁の上から狙撃をしてくれたおかげで狙撃手を撃退出来たのも勝因だろう。
「何も指示をしていない。
数ある中の一つをたまたま選んだのか、それとも解析して判断したんだろう」
「交換せずに貴方一人でも勝てたでしょう。
陽炎ではなく、爆破を仕込めばあんな危うい勝負に成らずに済んだ」
 そのとおりで3人まとめて撃退もあり得た。
 実際は、狙撃手は潜伏していた。
 もし相手が勝ちを狙うとしたら狙撃手が狙いを変えることもありえた。
 風太ではなくシェヌサに向かい一騎打ちに持ち込まれる状況はかなり厳しい。
 
 狙撃手を見つけることが出来ず、不意打ちを受ける結果となった。
「買いかぶりすぎだ。
解析する余裕がなかった」
「嘘をつかないで。
私の目は誤魔化せない、制限リミッターもそう、どうしてそんなに不利な状況に追い込もうとするの?」
「その方が面白そうだから。
力が拮抗している方が楽しめるだろう」
「クフフフ……。
そうよね、楽しいって実に面白くて良い」

 エルニアが起き上がり、風太に抱きつく。
「私達を愛して」
「もっと親密になったら、知り合うことも大切だろう?」

 瞬間的に、外に転送されていた。
 白い霧が迫ってくる。
 冷たい風が髪をなびかせた。
 
 屋上なのか手すりがあるだけで青空も見えている。
 エルニアはその手すりに掴まり、体を前に出して下を眺める。
「眼下に街がみえるでしょう?
ここは上空にあるように見える」
 不事前な言い回し。
 下に見える街が偽物とでも言いたいのだろうか?

 実際の学園が空中にあって、下にある学園風の建物が転送門でしか無い。
 そうだったとしても何の不思議でもないと思えるのはファンタジーの世界に夢を見すぎているのだろうか。
「飛んでいるようにしか見えない。
こんな場所に連れてきて何をするつもり」
「ここに紙飛行機があります。
投げると、どうなるでしょうね」
 放たれた紙飛行機は真っすぐ飛び、ゆっくりと滑空する。
 ある高さまで降りると、ちりとなって消失した。
「落ちれば消滅するのか?」
 まるでゲームの世界だ。
 現実なら途中で消えること無く着地する。
 そう思い込ませるために、細工してあった可能性もあるけど……。
 彼女達に、そんな事をする意味はない。

「広く見える空間も、迷宮が作り出した幻影に過ぎない。
閉ざされて出ることも叶わないのが私達です」
「もし俺が君達を外に出しても問題ないのか?
学園を追放になるのは勘弁して欲しい」
「私達は愛する者に迷惑をかけたりはしない。
ただ少し、本物の空を見たいだけです」

 
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