【R15】ネクロマンサー風太 ~異世界転生 死霊術師のチート~

ぺまぺ

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1章 王国編

六話 破滅の予兆

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「なんで彼女が火刑になるんだ!」
 風太が怒るのも無理はない。
 敵の手引をした可能性があると言うだけで、オッセアは火刑に処される事が決まったのである。
 証拠もなく、憶測だけで命が奪われようとしている。
 それを誰も理不尽だと思わず、当然のことのように扱っていた。
 
 メーメルは困った様子で手に持った法術の本を閉じた。
「学びの前に、余計な情報を伝えたのは誤りでした」
「今は彼女の事だ。
こんな不快で学べるわけない!」
 風太にとってオッセアとは特段親しい訳ではなく、毒見をするメイドの一人に過ぎない。
 魔法を学ぶことは、とても楽しく進んで行うほどなのはメーメルも周知である。
 だから不都合なことを事前に伝え、学びで忘れてもららうと言う策であった。
「はぁ……、困りましたね」
「一体誰が、こんな理不尽なことを決めたんだ」
 不満をあらわにしているとレレゲナがやってくる。
「何か問題でもあったのかな?」
 レレゲナが普段は姿を表すこともなく影で様子を伺っているのは風太も感ずいていた。
 そして彼が責任者であり、それなりの地位に居ることもだ。
「オッセアが火刑になるって聞いた。
誰がこんな残酷な事を決めたんだ」
「それは私です。
秩序を保つために必要なことだと理解していただきたい」
 一瞬、糞じじいと言いそうになるが堪えた。
 感情で動いていたら悪い方へと転がっていくだろう。
 風太は深呼吸し、冷静に成ろうと瞑想する。

 権力者の気持ち一つで命が奪われるなんて理不尽がまかり通る世界であっても、それを覆す事ができるはずだ。
 其の為には交渉するのが最も有効だろう。
 だから自分の武器となる物を探す。

「見て下さい。
上手く術を操れるように成りました」
 部屋のテーブルに飲み物が置かれている。
 グラスを手に取り、ゆっくり傾ける。
 中に入ったフルーツジュースは溢れること無く凍っているように静止していた。
 それはひっくり返しても変わらない。

「見えざる衣を、ここまで完璧に習得できたのは素晴らしいことです。
メーメルの指導は理解しやすかったのか?」
「はい、師匠は解りやすく教えてくれました。
高度な術を複数操るのは非常に難しい事も聞いています」
「では引き続き学ぶと良いだろう」
「俺は不器用だから、複数同時には出来ない。
だから問題の解決を先にさせて欲しい」
「問題とは?」
「オッセアの事です」
「ふん、一度決まった罰を変えることは出来ない」
 ならば対決するしか無い。
 勝負魂に火が灯る。
 根拠も証拠もない、それでも作り出すことは可能だ。
 それは言葉だけで人狼を追い詰めるゲームのように。
 
「もし賊が忍び込み、酒蔵に入ったとします。
一本に毒を入れたと知ったら、貴方は全部捨てるんですか?」
「勿論、それが最善だろうな。
それが百、いや千本であっても変わらない」
 最悪の事態、それは毒を引くことだろう。
 そのリスクを回避する為なら、どんな犠牲を払っても良いと言うことだ。
 そんな相手に灰色が許される訳が無い。

 完全な白を証明するのは難しいことだ。
「では師匠が裏切り者ではないと、どうして判断できるのですか?」
 予想外な切り口にレレゲナは困惑する。
 しかし、感情で決め打つような愚かさはない。
「なにか不審な点でもあったなら聞かせてくれ」
「人生の全てを監視していたのですか。
見ているのは一部に過ぎないでしょう」
 悪魔の証明。
 悪魔が存在しないと証明するにはすべてを調べ尽くす必要がある。
 そんな事は実質不可能。

 何もない所から突如出てきた切り札だ。
 それをレレゲナが予測することは不可能だった。
 もしオッセアを処理すれば、疑わしいもの全てを処分しなければならない。
 それは全員の処刑で完結することになる。
 だから認めるしか無い。
「確かに……」
「ではオッセアに何か不審な点があったのですか?」
 彼女が白という証拠もなければ、黒と言う証拠もない。
 血の痕跡がたまたま、彼女の部屋で途切れていたに過ぎない。
 納得できる解をレレゲナは持ち合わせていなかった。
「どうして庇うのか解らない。
彼女を処分すれば、それで不安は取り除かれる」
 生贄を神に捧げるのと同じようなものだ。
 問題は可決していないのに不安は取り除かれ安心が得られる。

 

 風太は深呼吸すると。瞑想し考えをまとめる。
 焦れば、積み上げてきたものが一気に崩る。
 だから慎重に確実な言葉を選ぶ。
「銃声は耳が痛い程なのに、どうして誰も出てこなかったのか。
それは音を遮断する魔法を使ったからだと思う」
「なるほど」
 魔法の練習をするために的が置かれている。
 それに向かって、ファイアボルトを連続的に放つ。
「俺の場合は、右手の指に力を込める感じで五連射が精一杯だ。
でも侵入する程の使い手ならもっと沢山の魔法を切り替えれたはず」

 銃に弾を込めるような感覚で魔法を使っている。
 事前に弾となる魔法を準備しておくことで再現しているのだ。
 これ以上は、詠唱が必要で連射は不可能だった。

「そんな事はない。
2つの法術を切り替えれば熟練者と言える」
 風太が予想していたよりも、かなり高度なことが出来るようになっていた。
 知らず学ぶ内に達人を超える域へと。
 だから価値観が食い違う。

 それでも修正は可能だ。
「では熟練者なら、直ぐに見えざる衣に切り替えることが出来ると言う事。
でも実際は血痕が残っていた」
「痛みで法術の継続が途切れたのだろう」
「いいえ、故意に血痕を残したとしか考えられない。
何故なら、後を追わせ誘導する必要があったからだ」
 想像、いやもはや創作と言って良い。
 人狼を狩るには、でっち上げや憶測を事実であるかのように扱う。
 それは鋭い刃だ。
 
「それは興味深い話しだが、何か根拠でもあるのかね?」
「部屋の中には血痕がなく窓が閉まっていた。
時間稼ぎをしたいなら扉の鍵を閉めれば良い」
 窓まで逃げるよりも遥かに簡単で確実な方法だ。
 閉まっていれば隣の扉に入った可能性を考える分、遅れる。
 これが部屋で感じていた違和感である。

「確かに、そういう考え方もある」
「俺の結論は、オッセアに恨み、あるいは嫉妬した奴が仕組んだ。
だからオッセアを死刑することは、その悪人の思い通りになるという事だ」
 余りに適当な言い分に絶望感しかない。
 ここで刃を向ける相手に心当たりがないのは痛い。
 ビシッと犯人を導き出せていれば決まったのだろうが、今の状況ではこれが限度だ。


 風太の熱弁に、レレゲナは別の解を見出す。
「まさか、彼女に惚れているのか?」
「違う、無実かも知れない人を助けたいだけだ」
「まあ良い。
では火刑は取り消し謹慎処分にしよう」
 その決断をすることは、風太が予測するよりも大きい事だった。
 一見、断行し不信を抱かせるより恩を売るほうが良いと判断した様に見えるが違う。
 力関係の逆転を意味していた。
 風太の制御が出来ないと判断し、諦めるしかなかったのである。
「じゃあ命が助かるんだな?」
「ああ、それは保証しよう」
「やった!」

 思わずガッツポーズで喜ぶ。
 人助けをしたと言うより、じじいに勝ったという気持ちが大きい。
 風太は気持ちよく過ごせそうだと高揚していた。
 対象的にレレゲナの顔色は良くなかった。

 それまで傍観を決め込んでいたメーメルか割って入る。
「新しい術を見せますので覚えてください」
「はい」
 風太の余韻は消え真剣な眼差しとなっていた。
 それだけ魔法に関心があったのだ。
 空想の世界でしか存在しない不思議な力を自ら使えて面白くないはずがなかった。

 メーメルが空中に指先で円を書くと、それが光の軌跡となって見える。
 円の内側に紋様が浮かび上がり法術陣となる。
「アビスの炎より生まれし獣。
いでよ、サラマンダー」
 すると法術陣より、紫色のトカゲが顔を出す。
 ゴゴゴゴォォォォ

 喉元から激しい唸り音が聞こえる。
 それが可愛いのか、メーメルはサラマンダーの喉元をくすぐる。
 馬ほど巨体だが、大人しくチョロチョロと舌を出すぐらいだ。
「でも呼び出してどうするんだ?」
「召喚した獣は操ることが出来ます」
 メーメルが指を振ると、それに反応してサラマンダーは首を回す。
「操り人形みたいだ」
「ええ、さあ火を吐きなさい」
 サラマンダーの息は炎となって吹き出す。
 的が一瞬で灰となって崩れ落ちる。

「よし、俺も」
 見たままの動きを完全に真似ていた。
 それは完璧で寸分の狂いもない。
 だが出来上がった法術陣からサラマンダーが顔を出すことは無かった。
「初めは誰でも上手くいかない物です。
もう一度……」
 ドン!
 衝撃音と共に空間が揺れるような衝撃が走る。
「ん?」
 風太は特に驚いた様子は無い。
 怪獣が歩けば音や振動ぐらい普通である。
 だが周りの者は違った。
 動揺し何が起きたのか解らずざわめく。
「帰送! と唱えれば術を解除できます」
 メーメルが召喚したサラマンダーは法術陣へと戻り、陣自体も消滅する。
 術の干渉によって予期せぬ事態が起きたのだと判断したからだ。
 それは稀に起きる事で原因は解明されていない。
 だがこの時は、その判断は誤りだった。
 
 風太が解除しようとした時、炎に燃える尻尾の先が出てきた。
 開いた入口が小さすぎて、顔が出せなかったのである。

 メーメルは、その尻尾が顔だと誤認した。
 彼女の責任と言うにはあまりに酷だ。
 小さな尻尾の先でしか無いとは誰が予想できただろう。
 だから封じるべき危険な術だと認識できなかったのだ。
 
「帰送!」
「この法術は、またの機会にしましょう。
他にも色々とあります」
「んん……」
 
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