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2章 亡国編
10話 アンデットの沼
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「ニャェ? 飛び込めって聞こえたのです」
骨龍の口の中にいる。
白く硬い骨で顎の下に隙間があり、木々が見える。
そう空を飛んでいるのだ。
「俺は言ってない」
「じゃあ食べられて……」
「食らう為に噛みついたようには思えないな」
頭部より奥は空洞で肋骨が見えている。
尻尾の先のほうが地面に近いようで、木々の葉っぱを揺らしている。
何かを探すように大きく蛇行しながら進んでいるようだ。
うねり曲がる背骨を伝って尻尾に向かうのは落下しそうで怖い。
「私、高いところは苦手です」
彼女の手は震え、顔色も悪く汗が落ちる。
刺さっている矢の影響か、高所による恐怖なのか解らない。
状況は好転したのか悪化したのかも。
「出来ることから始めよう」
ゼラは矢を抜き捨てる。
転がり落ち森の何処かへと消えた。
「止血をします」
「矢を捨てるなんて、なんて事をするんだ」
「ニャンですか」
矢の先は尖っていて、突き刺す武器に成る。
手持ちの道具が多いいほど、選べる選択肢が増える。
特に今は頼りない護身用のナイフしかない。
頼りがいのある護衛なら安心して身を任せられるのだが。
「もういい、早く止血してくれ」
ゼラは自分のローブを引き裂く。
足が露出し、綺麗に手入れされているのかムダ毛がないつるつるな肌がみえる。
血が流れ出ている。
矢で塞がっていた傷口が開いたのだろう。
明らかに出血が今までより多くなっていた。
「多分これで大丈夫です」
包帯のように巻いているが、そこからも血が滲んで赤くなっている。
「縫ったり、焼いたりして止血しないのか?」
「四つ耳族は再生力が高いので、多少の傷は直ぐに塞がります」
「対策されて毒とか塗ってあっても大丈夫なのか?」
「そんな怖いこと考えたことなかったです。
異界人って恐ろしい」
創作に出てくる暗殺者が毒を使うのはお約束みたいなものだ。
メイドが警戒しすぎてた影響も大きいのかも知らない。
それ程、毒は使われないのだろうか。
「所で、何で馬車を走らせて逃げなかったんだ?」
隠れてやり過ごすのは明らかに不利だろう。
無能な奴を護衛に付けて、一緒に始末しようとしていたようにしか思えない程だ。
「三人なら、撃退出来る確信がありました」
「なんで三人と思ったんだ?」
「獣耳は人耳よりも遠くの小さな音まで拾えるんです。
それで足音から三人だと解りました」
「静寂の魔法があるのに、それで囲まれたんだ」
「法術が使えるは、基本的には貴族だけです。
落ちぶれて術師を名乗る人もいますが……」
「魔族崇拝者が俺を狙っているんだろう。
それなら地位なんか関係ない」
「違い……!」
ゴツンッ!
勢いよく立ち上がったゼラは頭をぶつけたのだ。
手で頭を抑え涙目と成る。
「痛そう」
「私達、貴族ははるか昔から魔族と戦ってきたのです。
魔族崇拝なんてしません」
「じゃあ魔族崇拝者じゃないのかもな。
一体誰が差し向けたんだろうな」
明らかに追ってが来るのが早い。
ずっと付けられていたとすれば、厄介払いしたいと考える者達だろう。
だとしら王子も候補に入る。
何故なら厄介な客人でしかない役立たずを守らなくてはならない。
それを王子盲信しているゼラに伝えるのは悪手だ。
感情が先走り思考することを放棄し、拒絶するからだ。
だから彼女に考えさせ言わせる必要があった。
「恐らくですが第二王子かと。
権力争いで優位に立つために色々と暗躍しているらしいです」
予想外な答えに、王家が抱えている複雑な状況に巻き込まれたのかとより悩む事になる。
考えれば考えるほど深みへと沈み誰も信じられなく成る。
味方すら信じられなくなればほぼ詰みだ。
「敵を探るのは後にしよう。
何を持っているのか見せてほしい」
「殆ど馬車に置いてきたので、食べられるものは少しだけです」
ゼラは腰につけているポーチから棒状の干し肉を出す。
一つもらい食べるが固くて塩の塊かと思うような味だ。
「そういえば剣は?」
「あの場に置いてきました。
剣を持って抱きかかえるのは危険だと思って」
「本当に護衛なのか?」
「私を疑うなんて。
この紋章を見てください」
ゼラはポーチから盾の紋章が入ったハンカチを出す。
「解った、このハンカチは預かっておく」
「むっ、それは王子から預かった名誉ある物です。
絶対に返してください」
武器は護身用のナイフだけだ。
これをゼラに渡して良いのだろうか。
手に取り眺めていると、持ちての真ん中に割れ目がある。
回すと2つに割れ、丸めた紙が出てくる。
鳥の絵が書かれているだけで特に文章はない。
「うーん……、切り抜けられる物じゃないな」
「それって伝書紙ですね。
今すぐ助けを呼びましょう。
ニャヒヒヒ」
一瞬何言っているんだと思った。
リアハが急いで手紙を送るのを見せたのは、この紙の使い方を教える為だったのだろう。
なにかを予期していたが伝えられなかった。
……。
「これは切り札に成るから、今は使わない」
「えっ、今使わないと、いつ使うんです。
遅くなれば、それだけ状況が悪化します」
「飛んで動いているのに、送っても意味はないだろう」
「では止まってからですね」
ノー天気さに呆れてしまう。
骨の龍の気分次第で、死ぬかもしれない。
それが解っていてボケているのなら、まだマシだ。
ふわっと体が浮かぶような感覚。
降下しているのだ。
「牙に掴まるんだ!」
直ぐに龍の牙に掴まり落下の衝撃に備えた。
ドドドンーー!
地面をえぐり止まった。
すると骨龍の口が開く。
「外に出られるようです。
これで助けを呼べますね」
「状況を確認してからだ」
この場所をどうやって伝えるつもりなのだろうか。
何も考えていないのだろう。
外に出るとゼラは欠伸をして背伸びを擦る余裕を見せる。
だが顔色は悪く、汗がたれ流れていた。
日が暮れ薄暗くなっている。
夜も近く蛙の鳴き声が響く。
「周りに明かりが見えますね……。
ニャ! 待ってください!」
「明かりがあるなら、すぐ近くに人が居るんだろう」
「アレは沼招きです。
それにスケルトンやゾンビ等のアンデットが徘徊して囲まれてます」
沼招きは赤い火の玉で、ふらふらと沼の上を飛んでいる。
雑草に地面が覆われ、沼との境界が分かりづらく気落ちけ無いと足を踏み入れてしまうだろう。
周りを見渡すと蔦に覆われた城がすぐ近くに見える。
「あの城に行ってみるか?」
いかにも怪しく、そこに行くのは出来れば避けたい。
しかし、他に行くところがない。
「はい」
入口には、ランタンとマッチが一本置いた台がある。
「これはアルコールランプだな。
持って入れって事か?」
「廃墟だと思うのですが、
もしかすると死んでも主人に仕えるお化けが用意したのかもしれない」
「アンデットだったらどう対処するんだ?」
「スケルトンやゾンビなら火を付ければ、灰となって復活しません。
霊体なら法術で対抗するしか無いです」
「武器を用意してくれたみたいだな」
「松明の方が良いんですけど」
ランタンで殴ればガラスが割れて引火するかもしれない。
直接火をつけるのは向かない。
扉が開く。
「歓迎されているみたいだ」
「誰も居ないのに開くなんて、絶対罠です。
ランタンの明かりでは心もとないですが、沼地を抜けましょう」
「俺を守りながら抜けられる自身はあるのか?」
「それはあります」
ゼラはふらっとして風太に抱きつく。
苦しそうに息をして今にも死にそうだ。
「無理をするな。
そんな体でどうやって切り抜けるっていうんだ」
「いざとなれば私を見捨てて逃げて」
「もし俺達を殺すつもりなら、あの骨の龍を使っている。
歓迎してくれると信じて進むしか無い」
「はい」
風太は小声で作戦を伝える。
「俺が囮になる、隙を伺って倒してくれ」
ナイフをゼラに手渡し意を決して中へと進む。
完全に光を閉ざし暗黒に包まれている。
ランタンの弱々しい光だけが頼りだ。
真っ直ぐに進む通路が続き、扉の前で来る。
取っ手を掴もうとすると、扉が開く。
薄明かりが灯る部屋。
四角く長細いテーブルに、椅子が前後に置かれている。
奥の椅子に、それは座っていた。
「席に座ると良い」
青く光る目、白い肌で髪はない。
骸骨である。
豪華な服に宝石を散りばめた金の装飾を身に纏っている。
物語に出てくる言葉を操る化け物は総じて強大な力を持つ。
恐らく、この骸骨も底しれない力を持っているのだろう。
席につくと、紋章の入ったハンカチをテーブルの上に広げる。
そしてカードゲームを楽しむかのように言い放つ。
「トラップを伏せさせて貰う」
魔法の知識では遠く及ばない。
同じ土俵で挑めば間違いなく、敗北するだろう。
だから新しい概念で勝負する必要があった。
「ただの布に見える。
法術は掛かってはない」
「さてどうかな?」
「白骨化するまでにどれだけ年月が掛かるか知っているか?」
「数十年ぐらいか」
「違う、アンデット化した者が白骨化するには少なとも百年は掛かる。
つまりそれよりも遥かに生き続けてきた。
その間、法術を研究し続けている」
「そんな昔話をするために呼んだんじゃないだろう?」
「そうだな、お前たちには時間があまり残されていない」
「不死と比べれば短い」
アンデットが不死なのかは知らない。
知識の無さを教えることになるが何も答えないわけにはいかなかった。
話している間は時間稼ぎ成るからだ。
ゼラがどう動くのか予想できない以上、会話で引き付けて機会を作るしかない。
「そこの女は呪薬によって命が尽きようとしている」
「あんたが犯人だっていうのか?」
「あの化け物が召喚された時から探していた。
遥か遠くからでも力を感じるほど恐ろしい」
骸骨が人間を雇う事ができるとは到底思えない。
いや精神支配で操ったのか。
「それはどうも」
「知っているか。
毒には殺すための物と交渉に使うものがある」
「つまり交渉しよっていうのか?」
「そう取引をしたい」
遠回しな言い回しは何かある。
顔色を伺えず、何を考えているのか読むことは不可能だ。
「内容による。
無理難題を言われても困るだけだしな」
「お前の体を貰うだけのこと。
異界の肉体は優れている」
何故同意を求めようとするのだろうか。
無条件に力ずくで奪うこともできるだろう。
「まずは彼女を助けてからだ。
どの道、俺には選択肢はない」
「そこの棚に、解呪の宝玉がある」
骸骨のすぐ近くに棚がある。
「自分で取ってくれ」
近づく口実が出来た。
武器を持っているゼラなら、骸骨に一太刀浴びせる事もできるだろう。
そんな思いが通じる訳けもなくゼラは棚から宝玉を手に取る。
「ありました。
では使わせていただきます」
護衛の任務を忘れているのか。
あるいは裏切り者だったのかと思うほどあっさりだ。
宝玉に影のようなものが吸い込まれて、砕け散る。
骸骨は不敵に笑う。
「では、約束の肉体を頂こう」
「トラップ発動だ。
このハンカチには、アルコールが染み込ませてある」
軽く濡らす程度で、もう気化して完全に乾いている。
「ハッタリなど無意味」
「時間が経てばどうなるか解っているはずだ。
すでに空気中に満たされている。
これに火を付ければ」
「それがうまくいっても、お前たちも火に包まれる。
共に死ぬ覚悟はあるのか?」
「俺が失うのは彼女だけだが、
あんたが失うのは3つだ」
「聞こう」
「この城、そしてあんたの命に、俺の体だ」
「では試してみせよ」
あの時からずっと見ていたなら力が封じられていることも知っている筈だ。
だから法術が使えないと思い込んでいる。
ここで本当の切り札が火を吹く。
「トラップオープン!」
手に持った伝書紙を天に掲げる。
時間の動きがゆっくりに成ったような、動きがゆったりして見える。
念じた言葉が光の文字となって現れる。
自分だけが見えるのだろう。
ファイアボルトの呪文に、連鎖が着くと良いなと表記して放つ。
周囲を飛び回り骸骨にぶつかれ!
鳩が飛び立つ。
少しでも隙が出来れば、テーブルを蹴り飛ばして逃げる。
あの時のように咄嗟に防いでしまう防衛本能に期待するしかなかった。
「フハハハ……。
そんな手品で何ができよう」
骸骨が余裕を見せた時だ。
鳩がファイアボルトを放った。
小さな炎だったが、衣を燃やすには十分だった。
「なんだ!?」
驚いたのは風太の方だ。
地面が輝き、身動きが取れない。
「この時を待っていた。
さて肉体を頂こう」
骸骨から魂が抜け出るのが見え、風太の口の中へと入っていく。
奪われて成るものか。
生きる!
強い意志は凄まじい力と成った。
封印に穴を空け魂が侵入しようとした時だ。
溢れる力に押し流されそうに成る。
ダムの底に穴を開けるようなもので、高圧力の水が押し出されて前に進めない。
それでも肉体への渇望は止まらない。
必死にしがみつき手を伸ばし遂に届いた。
ボワン!
風太の前に、新刊の本が落ちた。
骨龍の口の中にいる。
白く硬い骨で顎の下に隙間があり、木々が見える。
そう空を飛んでいるのだ。
「俺は言ってない」
「じゃあ食べられて……」
「食らう為に噛みついたようには思えないな」
頭部より奥は空洞で肋骨が見えている。
尻尾の先のほうが地面に近いようで、木々の葉っぱを揺らしている。
何かを探すように大きく蛇行しながら進んでいるようだ。
うねり曲がる背骨を伝って尻尾に向かうのは落下しそうで怖い。
「私、高いところは苦手です」
彼女の手は震え、顔色も悪く汗が落ちる。
刺さっている矢の影響か、高所による恐怖なのか解らない。
状況は好転したのか悪化したのかも。
「出来ることから始めよう」
ゼラは矢を抜き捨てる。
転がり落ち森の何処かへと消えた。
「止血をします」
「矢を捨てるなんて、なんて事をするんだ」
「ニャンですか」
矢の先は尖っていて、突き刺す武器に成る。
手持ちの道具が多いいほど、選べる選択肢が増える。
特に今は頼りない護身用のナイフしかない。
頼りがいのある護衛なら安心して身を任せられるのだが。
「もういい、早く止血してくれ」
ゼラは自分のローブを引き裂く。
足が露出し、綺麗に手入れされているのかムダ毛がないつるつるな肌がみえる。
血が流れ出ている。
矢で塞がっていた傷口が開いたのだろう。
明らかに出血が今までより多くなっていた。
「多分これで大丈夫です」
包帯のように巻いているが、そこからも血が滲んで赤くなっている。
「縫ったり、焼いたりして止血しないのか?」
「四つ耳族は再生力が高いので、多少の傷は直ぐに塞がります」
「対策されて毒とか塗ってあっても大丈夫なのか?」
「そんな怖いこと考えたことなかったです。
異界人って恐ろしい」
創作に出てくる暗殺者が毒を使うのはお約束みたいなものだ。
メイドが警戒しすぎてた影響も大きいのかも知らない。
それ程、毒は使われないのだろうか。
「所で、何で馬車を走らせて逃げなかったんだ?」
隠れてやり過ごすのは明らかに不利だろう。
無能な奴を護衛に付けて、一緒に始末しようとしていたようにしか思えない程だ。
「三人なら、撃退出来る確信がありました」
「なんで三人と思ったんだ?」
「獣耳は人耳よりも遠くの小さな音まで拾えるんです。
それで足音から三人だと解りました」
「静寂の魔法があるのに、それで囲まれたんだ」
「法術が使えるは、基本的には貴族だけです。
落ちぶれて術師を名乗る人もいますが……」
「魔族崇拝者が俺を狙っているんだろう。
それなら地位なんか関係ない」
「違い……!」
ゴツンッ!
勢いよく立ち上がったゼラは頭をぶつけたのだ。
手で頭を抑え涙目と成る。
「痛そう」
「私達、貴族ははるか昔から魔族と戦ってきたのです。
魔族崇拝なんてしません」
「じゃあ魔族崇拝者じゃないのかもな。
一体誰が差し向けたんだろうな」
明らかに追ってが来るのが早い。
ずっと付けられていたとすれば、厄介払いしたいと考える者達だろう。
だとしら王子も候補に入る。
何故なら厄介な客人でしかない役立たずを守らなくてはならない。
それを王子盲信しているゼラに伝えるのは悪手だ。
感情が先走り思考することを放棄し、拒絶するからだ。
だから彼女に考えさせ言わせる必要があった。
「恐らくですが第二王子かと。
権力争いで優位に立つために色々と暗躍しているらしいです」
予想外な答えに、王家が抱えている複雑な状況に巻き込まれたのかとより悩む事になる。
考えれば考えるほど深みへと沈み誰も信じられなく成る。
味方すら信じられなくなればほぼ詰みだ。
「敵を探るのは後にしよう。
何を持っているのか見せてほしい」
「殆ど馬車に置いてきたので、食べられるものは少しだけです」
ゼラは腰につけているポーチから棒状の干し肉を出す。
一つもらい食べるが固くて塩の塊かと思うような味だ。
「そういえば剣は?」
「あの場に置いてきました。
剣を持って抱きかかえるのは危険だと思って」
「本当に護衛なのか?」
「私を疑うなんて。
この紋章を見てください」
ゼラはポーチから盾の紋章が入ったハンカチを出す。
「解った、このハンカチは預かっておく」
「むっ、それは王子から預かった名誉ある物です。
絶対に返してください」
武器は護身用のナイフだけだ。
これをゼラに渡して良いのだろうか。
手に取り眺めていると、持ちての真ん中に割れ目がある。
回すと2つに割れ、丸めた紙が出てくる。
鳥の絵が書かれているだけで特に文章はない。
「うーん……、切り抜けられる物じゃないな」
「それって伝書紙ですね。
今すぐ助けを呼びましょう。
ニャヒヒヒ」
一瞬何言っているんだと思った。
リアハが急いで手紙を送るのを見せたのは、この紙の使い方を教える為だったのだろう。
なにかを予期していたが伝えられなかった。
……。
「これは切り札に成るから、今は使わない」
「えっ、今使わないと、いつ使うんです。
遅くなれば、それだけ状況が悪化します」
「飛んで動いているのに、送っても意味はないだろう」
「では止まってからですね」
ノー天気さに呆れてしまう。
骨の龍の気分次第で、死ぬかもしれない。
それが解っていてボケているのなら、まだマシだ。
ふわっと体が浮かぶような感覚。
降下しているのだ。
「牙に掴まるんだ!」
直ぐに龍の牙に掴まり落下の衝撃に備えた。
ドドドンーー!
地面をえぐり止まった。
すると骨龍の口が開く。
「外に出られるようです。
これで助けを呼べますね」
「状況を確認してからだ」
この場所をどうやって伝えるつもりなのだろうか。
何も考えていないのだろう。
外に出るとゼラは欠伸をして背伸びを擦る余裕を見せる。
だが顔色は悪く、汗がたれ流れていた。
日が暮れ薄暗くなっている。
夜も近く蛙の鳴き声が響く。
「周りに明かりが見えますね……。
ニャ! 待ってください!」
「明かりがあるなら、すぐ近くに人が居るんだろう」
「アレは沼招きです。
それにスケルトンやゾンビ等のアンデットが徘徊して囲まれてます」
沼招きは赤い火の玉で、ふらふらと沼の上を飛んでいる。
雑草に地面が覆われ、沼との境界が分かりづらく気落ちけ無いと足を踏み入れてしまうだろう。
周りを見渡すと蔦に覆われた城がすぐ近くに見える。
「あの城に行ってみるか?」
いかにも怪しく、そこに行くのは出来れば避けたい。
しかし、他に行くところがない。
「はい」
入口には、ランタンとマッチが一本置いた台がある。
「これはアルコールランプだな。
持って入れって事か?」
「廃墟だと思うのですが、
もしかすると死んでも主人に仕えるお化けが用意したのかもしれない」
「アンデットだったらどう対処するんだ?」
「スケルトンやゾンビなら火を付ければ、灰となって復活しません。
霊体なら法術で対抗するしか無いです」
「武器を用意してくれたみたいだな」
「松明の方が良いんですけど」
ランタンで殴ればガラスが割れて引火するかもしれない。
直接火をつけるのは向かない。
扉が開く。
「歓迎されているみたいだ」
「誰も居ないのに開くなんて、絶対罠です。
ランタンの明かりでは心もとないですが、沼地を抜けましょう」
「俺を守りながら抜けられる自身はあるのか?」
「それはあります」
ゼラはふらっとして風太に抱きつく。
苦しそうに息をして今にも死にそうだ。
「無理をするな。
そんな体でどうやって切り抜けるっていうんだ」
「いざとなれば私を見捨てて逃げて」
「もし俺達を殺すつもりなら、あの骨の龍を使っている。
歓迎してくれると信じて進むしか無い」
「はい」
風太は小声で作戦を伝える。
「俺が囮になる、隙を伺って倒してくれ」
ナイフをゼラに手渡し意を決して中へと進む。
完全に光を閉ざし暗黒に包まれている。
ランタンの弱々しい光だけが頼りだ。
真っ直ぐに進む通路が続き、扉の前で来る。
取っ手を掴もうとすると、扉が開く。
薄明かりが灯る部屋。
四角く長細いテーブルに、椅子が前後に置かれている。
奥の椅子に、それは座っていた。
「席に座ると良い」
青く光る目、白い肌で髪はない。
骸骨である。
豪華な服に宝石を散りばめた金の装飾を身に纏っている。
物語に出てくる言葉を操る化け物は総じて強大な力を持つ。
恐らく、この骸骨も底しれない力を持っているのだろう。
席につくと、紋章の入ったハンカチをテーブルの上に広げる。
そしてカードゲームを楽しむかのように言い放つ。
「トラップを伏せさせて貰う」
魔法の知識では遠く及ばない。
同じ土俵で挑めば間違いなく、敗北するだろう。
だから新しい概念で勝負する必要があった。
「ただの布に見える。
法術は掛かってはない」
「さてどうかな?」
「白骨化するまでにどれだけ年月が掛かるか知っているか?」
「数十年ぐらいか」
「違う、アンデット化した者が白骨化するには少なとも百年は掛かる。
つまりそれよりも遥かに生き続けてきた。
その間、法術を研究し続けている」
「そんな昔話をするために呼んだんじゃないだろう?」
「そうだな、お前たちには時間があまり残されていない」
「不死と比べれば短い」
アンデットが不死なのかは知らない。
知識の無さを教えることになるが何も答えないわけにはいかなかった。
話している間は時間稼ぎ成るからだ。
ゼラがどう動くのか予想できない以上、会話で引き付けて機会を作るしかない。
「そこの女は呪薬によって命が尽きようとしている」
「あんたが犯人だっていうのか?」
「あの化け物が召喚された時から探していた。
遥か遠くからでも力を感じるほど恐ろしい」
骸骨が人間を雇う事ができるとは到底思えない。
いや精神支配で操ったのか。
「それはどうも」
「知っているか。
毒には殺すための物と交渉に使うものがある」
「つまり交渉しよっていうのか?」
「そう取引をしたい」
遠回しな言い回しは何かある。
顔色を伺えず、何を考えているのか読むことは不可能だ。
「内容による。
無理難題を言われても困るだけだしな」
「お前の体を貰うだけのこと。
異界の肉体は優れている」
何故同意を求めようとするのだろうか。
無条件に力ずくで奪うこともできるだろう。
「まずは彼女を助けてからだ。
どの道、俺には選択肢はない」
「そこの棚に、解呪の宝玉がある」
骸骨のすぐ近くに棚がある。
「自分で取ってくれ」
近づく口実が出来た。
武器を持っているゼラなら、骸骨に一太刀浴びせる事もできるだろう。
そんな思いが通じる訳けもなくゼラは棚から宝玉を手に取る。
「ありました。
では使わせていただきます」
護衛の任務を忘れているのか。
あるいは裏切り者だったのかと思うほどあっさりだ。
宝玉に影のようなものが吸い込まれて、砕け散る。
骸骨は不敵に笑う。
「では、約束の肉体を頂こう」
「トラップ発動だ。
このハンカチには、アルコールが染み込ませてある」
軽く濡らす程度で、もう気化して完全に乾いている。
「ハッタリなど無意味」
「時間が経てばどうなるか解っているはずだ。
すでに空気中に満たされている。
これに火を付ければ」
「それがうまくいっても、お前たちも火に包まれる。
共に死ぬ覚悟はあるのか?」
「俺が失うのは彼女だけだが、
あんたが失うのは3つだ」
「聞こう」
「この城、そしてあんたの命に、俺の体だ」
「では試してみせよ」
あの時からずっと見ていたなら力が封じられていることも知っている筈だ。
だから法術が使えないと思い込んでいる。
ここで本当の切り札が火を吹く。
「トラップオープン!」
手に持った伝書紙を天に掲げる。
時間の動きがゆっくりに成ったような、動きがゆったりして見える。
念じた言葉が光の文字となって現れる。
自分だけが見えるのだろう。
ファイアボルトの呪文に、連鎖が着くと良いなと表記して放つ。
周囲を飛び回り骸骨にぶつかれ!
鳩が飛び立つ。
少しでも隙が出来れば、テーブルを蹴り飛ばして逃げる。
あの時のように咄嗟に防いでしまう防衛本能に期待するしかなかった。
「フハハハ……。
そんな手品で何ができよう」
骸骨が余裕を見せた時だ。
鳩がファイアボルトを放った。
小さな炎だったが、衣を燃やすには十分だった。
「なんだ!?」
驚いたのは風太の方だ。
地面が輝き、身動きが取れない。
「この時を待っていた。
さて肉体を頂こう」
骸骨から魂が抜け出るのが見え、風太の口の中へと入っていく。
奪われて成るものか。
生きる!
強い意志は凄まじい力と成った。
封印に穴を空け魂が侵入しようとした時だ。
溢れる力に押し流されそうに成る。
ダムの底に穴を開けるようなもので、高圧力の水が押し出されて前に進めない。
それでも肉体への渇望は止まらない。
必死にしがみつき手を伸ばし遂に届いた。
ボワン!
風太の前に、新刊の本が落ちた。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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