22 / 48
3章 玉国編
22話 夢魔の生贄
しおりを挟む
「待って、それは自爆竜よ!」
静止の声が聞こえた時には、自爆竜の首下に来ていた。
大きく息を吸い込み肺が膨らんでいるようで、倍近くに巨大化し今にも破裂しそうだ。
「ブレスを吐くのかと思って、隠れるならここだろう?
それにしても小さくて可愛いな」
10トントラック以上の巨大な緑トカゲだ。
踏みつけられたら重症……いや死ぬかも知れない。
それでも怖くはない。
恐竜が出てくるVRゲームの方が迫力があるし、実物の怪獣と比べてもしょぼい。
どう対処しようかと思うと幻影の刃が現れ切り裂く様子が見える。
その動き通りに雀剣を喉元に突き刺し、スーッと切り裂く。
硬い鱗に覆われているはずなのに、紙を切り裂くような軽い感触だ。
「ああっ! 爆発、逃げて!」
セウファは自分を守るだけで精一杯だった。
渦巻く破風の盾。
爆発に特化して防御の法術である。
衝撃波を空気の流れで螺旋状に分散させて威力を削ぐというものだ。
シュルシュル……。
自爆竜は赤紫の霧を発生させ溶け崩れていく。
「なんだこれは?」
「それは魔素です、あまり浴びないようにして下さい。
でもどうして爆発しかなかったのでしょう」
骨格すら崩れ、ボロボロの皮とごく一部の残骸しか残っていない。
死体が残っていれば、命を奪ったことに後悔があったかも知れない。
全く生き物とは違う異質なものに感じ、むしろ撃退したと喜びを感じていた。
「解らない。
……それより、こんな場所にリアハがいるのか?」
空から見ても森にしか見えず、建物なんて何処にもない。
それどころか魔獣が徘徊している。
「未登録の四つ耳族が街に入ると警報がなるので、
魔狩場の中にある施設を利用したようです」
「扱いが悪い気がする。
貴族としての扱いをしても良いだろう?」
ゼラは自称貴族で尚且つ待遇の悪い四つ耳族だ。
しかも今はお尋ね者となって賞金が掛けられている。
匿ってくれるだけでもありがたい状況ではあるが……。
それでも限度がある。
「国によって扱いは異なります。
王国との友好関係もありますし、色々と難しいのです」
仕方ないとは言え、こんな場所しかなかったのかは疑問だ。
「それで遠くに着地したのか。
隠匿の魔法を過信せず警戒するのは流石」
「いえ、魔狩場は異空間になっていて、出入口は決まっています」
「木々の隙間を通れそうに見えるけど?」
「どうぞ」
道を外れるとボヨンと弾き飛ばされ戻された。
荷物を預けてきて良かった。
果物が散乱し、折角のお見舞いの品が台無しになっていただろう。
宅配してくれるなら、ついでに乗せていってくれればとも思うのだが、荷物限定だから拒否された。
しかし、道の制限なんて奇妙な場所だ。
それにしてもゲームみたい。
「一定時間で地形が変わって地図が使えないみたいな事は無いよな?」
「禁止事項に触れると排除されます。
地図もその一つです」
「試すのは?」
「欲の為に、命を散らすのは愚者です」
「他に禁止事項は?」
「私についてくれば、特に気をつけることはないです。
この栄養剤を飲んで下さい」
「君もあるのか?」
「はい」
同じ形の瓶に入った茶色の液体だ。
2つとも取り、袋に入れてどちらか解らなくなるようにして渡す。
「何か入れるとは思わないけど一応」
「では私から飲みます」
失敗作を見てからの、謎の薬だ。
本当に大丈夫か疑わないなんてあり得るだろうか?
後ろから足がニョキッと生えてきたりと想像するだけで恐ろしくて飲めない。
そんな事はな見た感じは何も変わっていない。
ただの栄養剤だったようで杞憂に終わった。
「俺も……」
ゴクゴク……!
苦みの中に酸っぱさがまじり、遅れて舌が痺れる。
不味い。
今まで味わった中で最低を更新した瞬間だった。
うえぇぇぇっ。
「軽く体を動かしてみて下さい。
すごく軽く感じるはずです」
重力が激減したのかと思うほど軽く、すこし跳ねただけで彼女を飛び越えた。
指一本で逆立ちなんて、現実か? と疑いたくなる程の身体強化が起きていた。
「まるでゲームの中みたいだ。
全然、疲れないし思い通りに動ける」
「消耗はしているので、あまり無茶をすると効果が早く切れて到着前にばてます。
息苦しさを感じ始めたら、危険信号なので教えて下さい」
「解った」
「では行きます」
その先は地獄だった。
数歩進めば魔獣に出くわし戦闘になるという繰り返し。
何十体と撃破したにも関わらず、進んだのほんの少しと言う有り様だ。
進めば敵、敵、敵……。
初めは楽しいと剣を振るっていた風太も面倒で逃げたいと思うようになる。
「あの緑とかげ、多すぎだろう。
遠くからは見えないのに霧が晴れたように現れて」
「魔獣のもつ特性でして厄介ですよね」
「見えなくても適当に攻撃したら当たらないか?」
「試した人は自分の放った法術で自滅したらしいです。
道なき場所を通るものはすべて戻されますので」
「代わり映えのしない風景、同じところをぐるぐる回っているような感覚で。
変化が欲しい」
「ここからが本格的な危険領域です。
色々な魔獣が出てくるので注意して下さい」
「いや、もう戦いはお腹いっぱい」
ドドドド……。
地響きの方向から岩石が転がってくる。
罠を踏んたのかと焦る風太。
「回転猛獣! 早く来て!」
風太の手を掴みセウファは走る。
それでも徐々に距離が縮まり後ろに迫る。
横道が見える。
だが真っ直ぐに進む。
「なんで、曲がらない!?」
「あの魔獣は曲がる癖があるんです。
えっと確か……交替性転向反応?」
ドドドド……
回転猛獣は曲がり、そのままと遠くへ去っていく。
丸くなっている時は顔を内側にして外は見えない。
だから追うというより条件反射で動いているのだろう。
「他にどんなのが居るか知りたい」
「空を見て下さい。
白く浮いているのが見えますよね?」
「巨大なたんぽぽの種か。
アレも?」
「落下剣虫が付いている事があって、
上から襲われるので要注意です」
空が白く埋め尽くされ暗くなる。
大量の巨大なたんぽぽの種が放出されたのだろう。
「まさか来るのか?」
予期した通り、何かが落下してくる。
長い足が剣のようになった蜘蛛だ。
そのキモさは絶望的で、発狂しそうな程だ。
ザザザ……!
木々の枝葉を切り裂き、地面に突き刺さる。
動き出す前!
グサッと雀剣で突き刺す。
「大量に来ます!」
「なっ!」
ザススス……!
数体が地面に降り立ち一斉に来る。
敵は舞う剣のような足の動きで、それが一度に迫ってくる。
キンキン……と、弾くが風太に切り返す余裕はない。
「アイスショット!」
セウファの伸ばした指先5本から氷の刃が放たられる。
横からの不意打ちが決まり敵は倒れる。
「強い……、体が付いてこない」
「ここは法術士の上級試験で使用されるような場所です。
かなり凶悪な魔獣が出る事が知られています」
「魔法が使えれば落ちてくる前に迎撃できたのか。
君は……」
「御存でしょう?」
「……まだ俺を試そうとするのか。
良いだろう挑戦に乗ってやる」
障害となるのは魔獣だけではない。
世界の中心に繋がってそうな裂け目の上を浮遊する草が転々と見える。
「ここを通っていきます。
では飛んで下さい」
「えっ!
底が真っ暗で見えないのにジャンプするのか?」
「では見本を見せます」
セウファが先に飛ぶ。
浮遊する草は根が回転し、浮力を出しているらしく乗っかると高度が下がる。
トントントンとリズムよく飛び対岸へと渡って行く。
真似ができるのか、落ちたら死ぬと考えたら足がすくみそうだ。
覚悟を決めて風太は飛んだ。
ポヨンって感じの踏み応え、気持ちよく下から吹き上げる風。
行ける。
ピュルルーーー
風を切るように巨大な怪鳥が側面から襲ってくる。
実物は見たこと無いが、個人用の飛行機がぶつかって来るようなものだ。
か細い剣でどうにかなる大きさではない。
「くっ! 済まない」
迫りくる直前で剣を草に突き立てる。
急激な落下で避けた。
羽ばたき巻き上がる風。
この風に乗れば行けるかも知れない。
いや行くしかなかった。
このままだと地の底へ落下するだけだ。
風太は飛ぶ曲芸のような動きでギリギリ端を掴む。
這い上がる時間すら与えてくれずUターンしてあの怪鳥が戻って来る。
あと一歩…… いや一飛びでたどり着く。
回転する根を掴む。
遠心力で体が浮き上がる。
離すタイミングを間違えれば、あらぬ方向に飛ぶ。
1、2、3……、今だ!
手を離したと同時に草が怪鳥によって貫かれ散る。
ギリギリ間に合った。
回転しながら飛んでいく、手足を動かしても意味がないと解りつつもジタバタせずに居られなかった。
着地予想地点にセウファが両手を広げて待っている。
か弱い女の子の手で、勢いの付いた男の身体を受け止めることなんて出来るだろうか?
魔法なら可能だろう。
だが彼女は、素手で受け止めようとした。
「うあああぁぁぁっ!」
ドスッ!
抱きつく形で衝突したが勢いが止まらない。
進入不可領域に到達しボヨンと跳ね返る。
くるくると回転しながら地面へ倒れる。
咄嗟に彼女の頭を庇うように手を回し守っていた。
「大丈夫か?」
「はい」
「どうして魔法を使わなかったんだ?」
「うっかりしていました」
風太が立ち上がろうとすると、セウファは風太の首筋に手を回し止める。
またかと思いつつも振り払う前に聞く。
「どういうつもり?」
「事故に見せかけて始末するつもりでした。
それは叶わないようです」
「直接手を下さいのか?」
「はい、それが出来ないように刻印が施されています。
ですから魔獣の手を借りるしかなかったのです」
ゼラも刻印がどうのと言っていた。
何かしらの制約で束縛されているのだろう。
「どうして俺の命を狙う」
「狂姫は帝国と手を組み、王国とは決別するつもりです。
私怨だけで国を滅ぼしかねない」
婚約している姫を無断で連れ帰れば、友好関係は破綻して戦争になっても不思議ではない。
帝国の後ろ盾がアレば王国は手が出せないと見ているのだろう。
そんな事はどうでもいい。
「リアハに会って、何が起きたのか知りたい。
状況によっては姫様とも決別もある」
「それでは困ります。
ですから、私は貴方を置いて帰らせて頂きます」
セウファが巻物を開いた途端、光に包まれ飛んでいく。
風太は呆気にとられて見送るしか出来なかった。
「やられた。
地図が禁止なのは、初めから置いていくつもりだったんだな」
入口で魔法の箒を置いていった時に気づけないのは流石に甘かった。
変な規則もそうだ。
戻ろうにも、さっき怪鳥によって浮かぶ草が砕け散っている。
進む先は未知の領域、どんな魔獣が潜んでいるのかも解らない。
荷物を置いてきたのは仇となった。
ポケットを探るとアマネルから貰った球体があった。
「まあ、味方は居たようだ」
彼女の望み通りに剣で叩き切る。
簡単に割れ紙切れが出てくる。
地図と手紙だ。
"にひひひ……、乙女の言葉を唱えよ"
「はぁ……。
ダイイングメッセージとかもそうだけど素直に書けばいいのに、なんで謎解きにするのか」
文句をいっても返事はない。
つまり通話するような代物ではないということだ。
何かしらの言葉で反応するとしたら、思いつく言葉を総当り。
「アマネルは可愛い、賢い、偉い……」
言いそうだと思う言葉を選んでみたが、外れのようで何も変化はない。
もしかすると唱える場所が決まっている?
地図には、赤色の家ぐらいしか目立つ印は無い。
「うーん、後はざこなめくじぐらいしか言ってない気がする」
ピカーと地図が一瞬光り、新たな道筋が浮かび上がる。
どうやら抜け道のようで、進入不可の場所に矢印が書き足されていた。
こういうのは一方通行だろう。
しかも自分がいる場所に二重丸が入ると言う親切設計。
しかし、合言葉を伝える為に何故ゲームを選んだのか。
彼女は弱すぎた。
初めから本気で負かせに行ってたら、どうやって伝えていたのだろうか?
泣く泣く自分のことを……、それは流石に無いか。
気を取り直し地図を確認する。
思ったよりも近くにある。
案外、セウファも迷って場所が解ってなかったのかも知れない。
「これなら楽勝だ」
予想した通り、抜け道を通れば簡単に目的地にたどり着く。
風車小屋や立派な建物が並ぶ。
近づこうとすると、見張りの女が槍を持って近づいてきた。
「身分を示すものを出しなさい」
「えっと……」
ペンダントが無くなっていることに気づく。
何処で落としたのだろうか?
他に証明できるものは思い当たらないが探すふりを続ける。
「ええい、怪しい奴め。
両手を上げて動くな!」
セウファが居れば、証明が出来た……。
他にも……!
「ゼラなら俺が誰か証明できる。
呼んで欲しい」
「そんな名の者は居ない!
ますます怪しい、じっくり取り調べるしか無い」
女は身体をべたべた触り、調べ始めた。
「なんでこんな事に……」
「フフフ……。
冗談です、連絡は受けております」
「えっ?」
「彼女に会いに来られたのでしょう?
別館のほうが宿になっており、そこで療養しています」
セウファがドッキリでしたーと出てくるんじゃないかとあたりを見回すが居ない。
「どういうつもりで、脅かしたんだ?」
いつの間に抜き取ったのか、あのアマネルの手紙を見せる。
「紹介状を見せないのが悪いんです。
ここは重要施設なので、不審者の侵入は許されないから」
「案内してくれ」
「では、こちらへ」
工房のような部屋に案内された。
調合しているのか、計量し混ぜ合わている所のようだ。
「見た感じ、女性ばかりだけど。
魔女だったりするのか?」
「建前では錬金術師となっています。
実際は薬師に近いです」
「へぇー、良かった。
それなら安心かな?」
「狼が紛れ込んでいるかも知れませんよ。
周りを見て……、普段はすっぴんなのに、どうです。ふふふ……」
「甘い香りがする」
男女比が狂うと、相手を得るために必死になるようだ。
逆の立場だったら格好良く振る舞わなくてはならず面倒くさいと挫折しそう。
「荷物は届いています。
こっちよ」
ワンワン!
中型の犬が風太にすり寄る。
「うわっ……」
「撫でてあげて下さい」
「それより荷物は?」
「その子です」
意味が解らなかったが、直ぐに鳩と同じだと気づく。
魔法で変化させて、運ばせたのだろう。
「いい子だ」
フサフサの毛並みで心地よい温かみ。
ボワーンと変化して風呂敷包みへと変わる。
結び目が自然とほどけて果物や死者の書があらわになった。
「ふふふ……、研究長と同じでムフフな本がお好きなようで」
「これはち……、ちょっと興味があって」
否定すれば証明が必要だ。
まさか死者の書だと言うわけにもいかず、実際前世の本なのだから似たようなものだ。
いや健全な本であって、全然違うのだが。
ここは無意味な詮索をされないために仕方がない。
変態だと、エッチだと思われるのも……。
「解っています。
それは内密にします」
うっっ。
案内された先にリアハがいた。
扉は風通しが良くするためか、隙間が空いており中が見える。
彼女は壁伝いにゆっくりと歩く、よろめき倒れそうになるとゼラが手を差し伸べ支えた。
後遺症なのか、それとも……。
扉を開きリアハに近づく。
「良かった……、生きていて!」
「風太殿、こんな恥ずかし姿を晒し申し訳ないです。
直ぐに着替えてきます」
半袖半パンの姿だ。
それほど恥ずかしい格好には見えない。
肌を晒すのが恥ずかしいのだろうか?
「足を見せて欲しいと思って……。
あっ……あっ、いや、怪我の具合を見たいだけだ」
「私が不甲斐ないばかりに、歩くこともままならないです。
こんなに綺麗に治してくれたというのに……、悔しい」
リアハは涙をこぼす。
顔も痩せこけ、それが一層悲しく見えた。
「落ち着いて君は何も悪くない」
「……私にはもう何も残っていないのです。
貴方を守るという使命すら全うできない」
「何があったのか教えてくれないか?
言いたくないなら言わなくてもいい」
「レレゲナは裏切り、第二王子側へ鞍替えしたのです。
第一王子派の私達は排除されこの有り様、情けない」
「あのジジイ……、俺がぶん殴ってやる!」
「……私はどうして、ああっ……」
リアハは頭を抑え倒れた。
「ニャっアハ!」
ゼラが彼女を抱きかかえベットへ寝かせる。
まだあの日から一ヶ月程しか経っていない。
立てるほどに回復したのは奇跡だ。
いや無理をしていただけなのだろう。
「こんなことになるなんて、俺は気が利かないな」
「ニャフフフ……♪
心配しなくても、峠は遥か遠くに過ぎてます。
半年もすれば完全に元通り……いえ、もっと早いかも」
「果物がある。
食べるか?」
「そんな高価な物をどうやって?
まさか私達を売って得た……」
「知り合った女が俺に惚れたみたいで用意してくれた」
「むむむ……。
私というものがありながら、手を出すなんて酷い」
「……何人でも出来るって聞いたけどる
嘘だったのか」
「うっ……、それは本当です。
にゃひひ……、父もそうでしたけど、しっかりと私も愛されたい。
独占したいって思うのは解るでしょう?」
「そうなのか。
亡霊に操られて言っていたのかと……」
「ニャッにー、そんなことはないです。
あんなに愛し合った中なのに、それを忘れてしまうなんて酷い、酷すぎます」
「……なんか勘違いしてないか?
まあ良いか……、俺はリアハが一番だと思っている」
「それでも構いません。
にゃひひひ……、私もリアハの事は好きですし……」
はじめにあった時よりも幼い雰囲気が出ている。
化けの皮が剥がれただけか。
「ん……?」
急な疲れが襲う、栄養剤の効果が切れてきたのだろう。
同時に眠気で眼の前が揺れる。
「にゃひっ!
抱きつくなんて、ちょっと嬉しい……いえ、気が早すぎます」
温かい、そのまま眠りたい。
まぶたの重みに負けて、眠りに落ちていた。
夢の中。
「どうして、私をこんな姿に……」
「リアハ?」
彼女の下半身は変色し、小さな手が生えている。
それだけではない、無数の口が体中に現れケタケタと合唱する。
なんで、どうしてこんな事に。
「殺して……」
リアハは自らを傷つけるが、死ぬことが出来ず傷口から目が出る。
「そんな、つもりじゃなかった。
ただ助けたかったんだ!」
風太が目を覚ますとベットで寝ていた。
「悪夢だったのか?」
『ありうる未来、予期せぬ事態が起きている。
彼女に悪霊がとりついている』
「どうして……」
『壊れた船を修理して部品を入れ替えていくと、
全て入れ替わり新しい部品だけになる。
それが生きている者の中で起きている』
「過去の自分は別人かって事?」
『そうなれば良かった。
その前に悪霊が取り憑いたことで、それが阻害され生命が吸い取られている』
「……だったら悪霊を取り除けば良い」
『出来るのか?
取り憑いているのは、よく知る人物』
「まさか、メーメル師匠!」
リアハの言った私達……、つまりメイド達も。
この世界に転生して、知り合えた人達だ。
色々あったが一緒に過ごす内に家族みたいだと感じるほどに親しくなっていた。
「うああああぁぁぁぁっ!
なんでだ!」
『助けたいなら、取引をしないか?』
悪魔の囁きだろうか。
生身の体を手にするために、一時的に協力関係となっだたけ。
助ける義理は微塵もないことは理解している。
だが、溺れる眼の前に木の棒が浮かんでいたら掴んでしまう。
それで絶対に助からないと解りつつもだ。
「内容による」
『禁書庫に預けてくれれば良い。
色んな知識に触れて時間を過ごすのも悪くない』
「解った、頼んでみる」
『まずは魂を器に入れ保管する必要がある。
人形にでも移せばいいだろう』
「それで助けることにはならないだろう」
『待て、そう焦るな。
知っているだろう、どうすれば生き返るのかを』
「生き返る方法なんか知らない。
そもそも身体が無いんだ」
『転生の秘術』
「……あのジジイから聞き出すしかないな」
風太は知らない。
転生術の成功率の低さを。
どれだけの犠牲が必要なのかを。
静止の声が聞こえた時には、自爆竜の首下に来ていた。
大きく息を吸い込み肺が膨らんでいるようで、倍近くに巨大化し今にも破裂しそうだ。
「ブレスを吐くのかと思って、隠れるならここだろう?
それにしても小さくて可愛いな」
10トントラック以上の巨大な緑トカゲだ。
踏みつけられたら重症……いや死ぬかも知れない。
それでも怖くはない。
恐竜が出てくるVRゲームの方が迫力があるし、実物の怪獣と比べてもしょぼい。
どう対処しようかと思うと幻影の刃が現れ切り裂く様子が見える。
その動き通りに雀剣を喉元に突き刺し、スーッと切り裂く。
硬い鱗に覆われているはずなのに、紙を切り裂くような軽い感触だ。
「ああっ! 爆発、逃げて!」
セウファは自分を守るだけで精一杯だった。
渦巻く破風の盾。
爆発に特化して防御の法術である。
衝撃波を空気の流れで螺旋状に分散させて威力を削ぐというものだ。
シュルシュル……。
自爆竜は赤紫の霧を発生させ溶け崩れていく。
「なんだこれは?」
「それは魔素です、あまり浴びないようにして下さい。
でもどうして爆発しかなかったのでしょう」
骨格すら崩れ、ボロボロの皮とごく一部の残骸しか残っていない。
死体が残っていれば、命を奪ったことに後悔があったかも知れない。
全く生き物とは違う異質なものに感じ、むしろ撃退したと喜びを感じていた。
「解らない。
……それより、こんな場所にリアハがいるのか?」
空から見ても森にしか見えず、建物なんて何処にもない。
それどころか魔獣が徘徊している。
「未登録の四つ耳族が街に入ると警報がなるので、
魔狩場の中にある施設を利用したようです」
「扱いが悪い気がする。
貴族としての扱いをしても良いだろう?」
ゼラは自称貴族で尚且つ待遇の悪い四つ耳族だ。
しかも今はお尋ね者となって賞金が掛けられている。
匿ってくれるだけでもありがたい状況ではあるが……。
それでも限度がある。
「国によって扱いは異なります。
王国との友好関係もありますし、色々と難しいのです」
仕方ないとは言え、こんな場所しかなかったのかは疑問だ。
「それで遠くに着地したのか。
隠匿の魔法を過信せず警戒するのは流石」
「いえ、魔狩場は異空間になっていて、出入口は決まっています」
「木々の隙間を通れそうに見えるけど?」
「どうぞ」
道を外れるとボヨンと弾き飛ばされ戻された。
荷物を預けてきて良かった。
果物が散乱し、折角のお見舞いの品が台無しになっていただろう。
宅配してくれるなら、ついでに乗せていってくれればとも思うのだが、荷物限定だから拒否された。
しかし、道の制限なんて奇妙な場所だ。
それにしてもゲームみたい。
「一定時間で地形が変わって地図が使えないみたいな事は無いよな?」
「禁止事項に触れると排除されます。
地図もその一つです」
「試すのは?」
「欲の為に、命を散らすのは愚者です」
「他に禁止事項は?」
「私についてくれば、特に気をつけることはないです。
この栄養剤を飲んで下さい」
「君もあるのか?」
「はい」
同じ形の瓶に入った茶色の液体だ。
2つとも取り、袋に入れてどちらか解らなくなるようにして渡す。
「何か入れるとは思わないけど一応」
「では私から飲みます」
失敗作を見てからの、謎の薬だ。
本当に大丈夫か疑わないなんてあり得るだろうか?
後ろから足がニョキッと生えてきたりと想像するだけで恐ろしくて飲めない。
そんな事はな見た感じは何も変わっていない。
ただの栄養剤だったようで杞憂に終わった。
「俺も……」
ゴクゴク……!
苦みの中に酸っぱさがまじり、遅れて舌が痺れる。
不味い。
今まで味わった中で最低を更新した瞬間だった。
うえぇぇぇっ。
「軽く体を動かしてみて下さい。
すごく軽く感じるはずです」
重力が激減したのかと思うほど軽く、すこし跳ねただけで彼女を飛び越えた。
指一本で逆立ちなんて、現実か? と疑いたくなる程の身体強化が起きていた。
「まるでゲームの中みたいだ。
全然、疲れないし思い通りに動ける」
「消耗はしているので、あまり無茶をすると効果が早く切れて到着前にばてます。
息苦しさを感じ始めたら、危険信号なので教えて下さい」
「解った」
「では行きます」
その先は地獄だった。
数歩進めば魔獣に出くわし戦闘になるという繰り返し。
何十体と撃破したにも関わらず、進んだのほんの少しと言う有り様だ。
進めば敵、敵、敵……。
初めは楽しいと剣を振るっていた風太も面倒で逃げたいと思うようになる。
「あの緑とかげ、多すぎだろう。
遠くからは見えないのに霧が晴れたように現れて」
「魔獣のもつ特性でして厄介ですよね」
「見えなくても適当に攻撃したら当たらないか?」
「試した人は自分の放った法術で自滅したらしいです。
道なき場所を通るものはすべて戻されますので」
「代わり映えのしない風景、同じところをぐるぐる回っているような感覚で。
変化が欲しい」
「ここからが本格的な危険領域です。
色々な魔獣が出てくるので注意して下さい」
「いや、もう戦いはお腹いっぱい」
ドドドド……。
地響きの方向から岩石が転がってくる。
罠を踏んたのかと焦る風太。
「回転猛獣! 早く来て!」
風太の手を掴みセウファは走る。
それでも徐々に距離が縮まり後ろに迫る。
横道が見える。
だが真っ直ぐに進む。
「なんで、曲がらない!?」
「あの魔獣は曲がる癖があるんです。
えっと確か……交替性転向反応?」
ドドドド……
回転猛獣は曲がり、そのままと遠くへ去っていく。
丸くなっている時は顔を内側にして外は見えない。
だから追うというより条件反射で動いているのだろう。
「他にどんなのが居るか知りたい」
「空を見て下さい。
白く浮いているのが見えますよね?」
「巨大なたんぽぽの種か。
アレも?」
「落下剣虫が付いている事があって、
上から襲われるので要注意です」
空が白く埋め尽くされ暗くなる。
大量の巨大なたんぽぽの種が放出されたのだろう。
「まさか来るのか?」
予期した通り、何かが落下してくる。
長い足が剣のようになった蜘蛛だ。
そのキモさは絶望的で、発狂しそうな程だ。
ザザザ……!
木々の枝葉を切り裂き、地面に突き刺さる。
動き出す前!
グサッと雀剣で突き刺す。
「大量に来ます!」
「なっ!」
ザススス……!
数体が地面に降り立ち一斉に来る。
敵は舞う剣のような足の動きで、それが一度に迫ってくる。
キンキン……と、弾くが風太に切り返す余裕はない。
「アイスショット!」
セウファの伸ばした指先5本から氷の刃が放たられる。
横からの不意打ちが決まり敵は倒れる。
「強い……、体が付いてこない」
「ここは法術士の上級試験で使用されるような場所です。
かなり凶悪な魔獣が出る事が知られています」
「魔法が使えれば落ちてくる前に迎撃できたのか。
君は……」
「御存でしょう?」
「……まだ俺を試そうとするのか。
良いだろう挑戦に乗ってやる」
障害となるのは魔獣だけではない。
世界の中心に繋がってそうな裂け目の上を浮遊する草が転々と見える。
「ここを通っていきます。
では飛んで下さい」
「えっ!
底が真っ暗で見えないのにジャンプするのか?」
「では見本を見せます」
セウファが先に飛ぶ。
浮遊する草は根が回転し、浮力を出しているらしく乗っかると高度が下がる。
トントントンとリズムよく飛び対岸へと渡って行く。
真似ができるのか、落ちたら死ぬと考えたら足がすくみそうだ。
覚悟を決めて風太は飛んだ。
ポヨンって感じの踏み応え、気持ちよく下から吹き上げる風。
行ける。
ピュルルーーー
風を切るように巨大な怪鳥が側面から襲ってくる。
実物は見たこと無いが、個人用の飛行機がぶつかって来るようなものだ。
か細い剣でどうにかなる大きさではない。
「くっ! 済まない」
迫りくる直前で剣を草に突き立てる。
急激な落下で避けた。
羽ばたき巻き上がる風。
この風に乗れば行けるかも知れない。
いや行くしかなかった。
このままだと地の底へ落下するだけだ。
風太は飛ぶ曲芸のような動きでギリギリ端を掴む。
這い上がる時間すら与えてくれずUターンしてあの怪鳥が戻って来る。
あと一歩…… いや一飛びでたどり着く。
回転する根を掴む。
遠心力で体が浮き上がる。
離すタイミングを間違えれば、あらぬ方向に飛ぶ。
1、2、3……、今だ!
手を離したと同時に草が怪鳥によって貫かれ散る。
ギリギリ間に合った。
回転しながら飛んでいく、手足を動かしても意味がないと解りつつもジタバタせずに居られなかった。
着地予想地点にセウファが両手を広げて待っている。
か弱い女の子の手で、勢いの付いた男の身体を受け止めることなんて出来るだろうか?
魔法なら可能だろう。
だが彼女は、素手で受け止めようとした。
「うあああぁぁぁっ!」
ドスッ!
抱きつく形で衝突したが勢いが止まらない。
進入不可領域に到達しボヨンと跳ね返る。
くるくると回転しながら地面へ倒れる。
咄嗟に彼女の頭を庇うように手を回し守っていた。
「大丈夫か?」
「はい」
「どうして魔法を使わなかったんだ?」
「うっかりしていました」
風太が立ち上がろうとすると、セウファは風太の首筋に手を回し止める。
またかと思いつつも振り払う前に聞く。
「どういうつもり?」
「事故に見せかけて始末するつもりでした。
それは叶わないようです」
「直接手を下さいのか?」
「はい、それが出来ないように刻印が施されています。
ですから魔獣の手を借りるしかなかったのです」
ゼラも刻印がどうのと言っていた。
何かしらの制約で束縛されているのだろう。
「どうして俺の命を狙う」
「狂姫は帝国と手を組み、王国とは決別するつもりです。
私怨だけで国を滅ぼしかねない」
婚約している姫を無断で連れ帰れば、友好関係は破綻して戦争になっても不思議ではない。
帝国の後ろ盾がアレば王国は手が出せないと見ているのだろう。
そんな事はどうでもいい。
「リアハに会って、何が起きたのか知りたい。
状況によっては姫様とも決別もある」
「それでは困ります。
ですから、私は貴方を置いて帰らせて頂きます」
セウファが巻物を開いた途端、光に包まれ飛んでいく。
風太は呆気にとられて見送るしか出来なかった。
「やられた。
地図が禁止なのは、初めから置いていくつもりだったんだな」
入口で魔法の箒を置いていった時に気づけないのは流石に甘かった。
変な規則もそうだ。
戻ろうにも、さっき怪鳥によって浮かぶ草が砕け散っている。
進む先は未知の領域、どんな魔獣が潜んでいるのかも解らない。
荷物を置いてきたのは仇となった。
ポケットを探るとアマネルから貰った球体があった。
「まあ、味方は居たようだ」
彼女の望み通りに剣で叩き切る。
簡単に割れ紙切れが出てくる。
地図と手紙だ。
"にひひひ……、乙女の言葉を唱えよ"
「はぁ……。
ダイイングメッセージとかもそうだけど素直に書けばいいのに、なんで謎解きにするのか」
文句をいっても返事はない。
つまり通話するような代物ではないということだ。
何かしらの言葉で反応するとしたら、思いつく言葉を総当り。
「アマネルは可愛い、賢い、偉い……」
言いそうだと思う言葉を選んでみたが、外れのようで何も変化はない。
もしかすると唱える場所が決まっている?
地図には、赤色の家ぐらいしか目立つ印は無い。
「うーん、後はざこなめくじぐらいしか言ってない気がする」
ピカーと地図が一瞬光り、新たな道筋が浮かび上がる。
どうやら抜け道のようで、進入不可の場所に矢印が書き足されていた。
こういうのは一方通行だろう。
しかも自分がいる場所に二重丸が入ると言う親切設計。
しかし、合言葉を伝える為に何故ゲームを選んだのか。
彼女は弱すぎた。
初めから本気で負かせに行ってたら、どうやって伝えていたのだろうか?
泣く泣く自分のことを……、それは流石に無いか。
気を取り直し地図を確認する。
思ったよりも近くにある。
案外、セウファも迷って場所が解ってなかったのかも知れない。
「これなら楽勝だ」
予想した通り、抜け道を通れば簡単に目的地にたどり着く。
風車小屋や立派な建物が並ぶ。
近づこうとすると、見張りの女が槍を持って近づいてきた。
「身分を示すものを出しなさい」
「えっと……」
ペンダントが無くなっていることに気づく。
何処で落としたのだろうか?
他に証明できるものは思い当たらないが探すふりを続ける。
「ええい、怪しい奴め。
両手を上げて動くな!」
セウファが居れば、証明が出来た……。
他にも……!
「ゼラなら俺が誰か証明できる。
呼んで欲しい」
「そんな名の者は居ない!
ますます怪しい、じっくり取り調べるしか無い」
女は身体をべたべた触り、調べ始めた。
「なんでこんな事に……」
「フフフ……。
冗談です、連絡は受けております」
「えっ?」
「彼女に会いに来られたのでしょう?
別館のほうが宿になっており、そこで療養しています」
セウファがドッキリでしたーと出てくるんじゃないかとあたりを見回すが居ない。
「どういうつもりで、脅かしたんだ?」
いつの間に抜き取ったのか、あのアマネルの手紙を見せる。
「紹介状を見せないのが悪いんです。
ここは重要施設なので、不審者の侵入は許されないから」
「案内してくれ」
「では、こちらへ」
工房のような部屋に案内された。
調合しているのか、計量し混ぜ合わている所のようだ。
「見た感じ、女性ばかりだけど。
魔女だったりするのか?」
「建前では錬金術師となっています。
実際は薬師に近いです」
「へぇー、良かった。
それなら安心かな?」
「狼が紛れ込んでいるかも知れませんよ。
周りを見て……、普段はすっぴんなのに、どうです。ふふふ……」
「甘い香りがする」
男女比が狂うと、相手を得るために必死になるようだ。
逆の立場だったら格好良く振る舞わなくてはならず面倒くさいと挫折しそう。
「荷物は届いています。
こっちよ」
ワンワン!
中型の犬が風太にすり寄る。
「うわっ……」
「撫でてあげて下さい」
「それより荷物は?」
「その子です」
意味が解らなかったが、直ぐに鳩と同じだと気づく。
魔法で変化させて、運ばせたのだろう。
「いい子だ」
フサフサの毛並みで心地よい温かみ。
ボワーンと変化して風呂敷包みへと変わる。
結び目が自然とほどけて果物や死者の書があらわになった。
「ふふふ……、研究長と同じでムフフな本がお好きなようで」
「これはち……、ちょっと興味があって」
否定すれば証明が必要だ。
まさか死者の書だと言うわけにもいかず、実際前世の本なのだから似たようなものだ。
いや健全な本であって、全然違うのだが。
ここは無意味な詮索をされないために仕方がない。
変態だと、エッチだと思われるのも……。
「解っています。
それは内密にします」
うっっ。
案内された先にリアハがいた。
扉は風通しが良くするためか、隙間が空いており中が見える。
彼女は壁伝いにゆっくりと歩く、よろめき倒れそうになるとゼラが手を差し伸べ支えた。
後遺症なのか、それとも……。
扉を開きリアハに近づく。
「良かった……、生きていて!」
「風太殿、こんな恥ずかし姿を晒し申し訳ないです。
直ぐに着替えてきます」
半袖半パンの姿だ。
それほど恥ずかしい格好には見えない。
肌を晒すのが恥ずかしいのだろうか?
「足を見せて欲しいと思って……。
あっ……あっ、いや、怪我の具合を見たいだけだ」
「私が不甲斐ないばかりに、歩くこともままならないです。
こんなに綺麗に治してくれたというのに……、悔しい」
リアハは涙をこぼす。
顔も痩せこけ、それが一層悲しく見えた。
「落ち着いて君は何も悪くない」
「……私にはもう何も残っていないのです。
貴方を守るという使命すら全うできない」
「何があったのか教えてくれないか?
言いたくないなら言わなくてもいい」
「レレゲナは裏切り、第二王子側へ鞍替えしたのです。
第一王子派の私達は排除されこの有り様、情けない」
「あのジジイ……、俺がぶん殴ってやる!」
「……私はどうして、ああっ……」
リアハは頭を抑え倒れた。
「ニャっアハ!」
ゼラが彼女を抱きかかえベットへ寝かせる。
まだあの日から一ヶ月程しか経っていない。
立てるほどに回復したのは奇跡だ。
いや無理をしていただけなのだろう。
「こんなことになるなんて、俺は気が利かないな」
「ニャフフフ……♪
心配しなくても、峠は遥か遠くに過ぎてます。
半年もすれば完全に元通り……いえ、もっと早いかも」
「果物がある。
食べるか?」
「そんな高価な物をどうやって?
まさか私達を売って得た……」
「知り合った女が俺に惚れたみたいで用意してくれた」
「むむむ……。
私というものがありながら、手を出すなんて酷い」
「……何人でも出来るって聞いたけどる
嘘だったのか」
「うっ……、それは本当です。
にゃひひ……、父もそうでしたけど、しっかりと私も愛されたい。
独占したいって思うのは解るでしょう?」
「そうなのか。
亡霊に操られて言っていたのかと……」
「ニャッにー、そんなことはないです。
あんなに愛し合った中なのに、それを忘れてしまうなんて酷い、酷すぎます」
「……なんか勘違いしてないか?
まあ良いか……、俺はリアハが一番だと思っている」
「それでも構いません。
にゃひひひ……、私もリアハの事は好きですし……」
はじめにあった時よりも幼い雰囲気が出ている。
化けの皮が剥がれただけか。
「ん……?」
急な疲れが襲う、栄養剤の効果が切れてきたのだろう。
同時に眠気で眼の前が揺れる。
「にゃひっ!
抱きつくなんて、ちょっと嬉しい……いえ、気が早すぎます」
温かい、そのまま眠りたい。
まぶたの重みに負けて、眠りに落ちていた。
夢の中。
「どうして、私をこんな姿に……」
「リアハ?」
彼女の下半身は変色し、小さな手が生えている。
それだけではない、無数の口が体中に現れケタケタと合唱する。
なんで、どうしてこんな事に。
「殺して……」
リアハは自らを傷つけるが、死ぬことが出来ず傷口から目が出る。
「そんな、つもりじゃなかった。
ただ助けたかったんだ!」
風太が目を覚ますとベットで寝ていた。
「悪夢だったのか?」
『ありうる未来、予期せぬ事態が起きている。
彼女に悪霊がとりついている』
「どうして……」
『壊れた船を修理して部品を入れ替えていくと、
全て入れ替わり新しい部品だけになる。
それが生きている者の中で起きている』
「過去の自分は別人かって事?」
『そうなれば良かった。
その前に悪霊が取り憑いたことで、それが阻害され生命が吸い取られている』
「……だったら悪霊を取り除けば良い」
『出来るのか?
取り憑いているのは、よく知る人物』
「まさか、メーメル師匠!」
リアハの言った私達……、つまりメイド達も。
この世界に転生して、知り合えた人達だ。
色々あったが一緒に過ごす内に家族みたいだと感じるほどに親しくなっていた。
「うああああぁぁぁぁっ!
なんでだ!」
『助けたいなら、取引をしないか?』
悪魔の囁きだろうか。
生身の体を手にするために、一時的に協力関係となっだたけ。
助ける義理は微塵もないことは理解している。
だが、溺れる眼の前に木の棒が浮かんでいたら掴んでしまう。
それで絶対に助からないと解りつつもだ。
「内容による」
『禁書庫に預けてくれれば良い。
色んな知識に触れて時間を過ごすのも悪くない』
「解った、頼んでみる」
『まずは魂を器に入れ保管する必要がある。
人形にでも移せばいいだろう』
「それで助けることにはならないだろう」
『待て、そう焦るな。
知っているだろう、どうすれば生き返るのかを』
「生き返る方法なんか知らない。
そもそも身体が無いんだ」
『転生の秘術』
「……あのジジイから聞き出すしかないな」
風太は知らない。
転生術の成功率の低さを。
どれだけの犠牲が必要なのかを。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる