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4章 帰国編
27話 呪物
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「やってくれました。
実に良かったと言いたいですが、敵を逃がしたことは褒められません」
仲介人のサズーンとしては、手土産があれば王子の機嫌を取ることがてきて手数料もガッポガッポだった。
「俺がなにか間違えたのか?
砦を壊してくれって頼まれた筈」
「確かに言い方が良くなかったことは認めましょう。
しかし事情が変わてしまいまして、あの程度では雇用は出来なくなってしまいました」
「いやいや、砦を爆破して使えなくしただろう。
包囲していた兵隊が指くわえて見ているしか出来なかったのに、なんでだ?」
改革派の兵は、一般人が武装しただけの民兵が主である。
対して旧体制派は、騎士等の職業軍人が主で覚悟や戦歴の差が激しく相手にならない状態だった。
10倍の戦力で取り囲んでいるにも関わらず、攻めれば多大な被害を出すばかりで全く勝ち目がない有り様だ。
それをたった一人で乗り込んで、敵を追い出し施設を爆破粉砕したのである。
大戦果なのは間違いない。
この時、王子が欲していたものを知らなければ風太は激怒していただろう。
そう死体が手に入らなかった事が問題なのである。
「納得できないのはよく解ります。
玉国では、力があっても活躍する機会もございませんし、王国に鞍替えしたい気持ちも」
「だったら……」
「では覚悟を見せてもらいましょうか。
東に旧体制派の街があります、民を皆殺しにしてきて下さい。
兵はお貸ししますから、存分に力を発揮して頂けると思います」
簡単に兵を貸せるだけの地位にいるのか。
ただの怪しい男では無いとは思っていたが……。
「なんで皆殺しにする必要があるんだ?」
「街と言っても千人程度しか住んでいません。
見せしめとしてしては丁度いい規模でしょう」
王子は悪政を正す為に貴族を排除した開放者かと思っていたが、実際は残虐な男だった。
従わない者を見せしめとして抹殺し、恐怖によって従わせようとしている。
念の為に会っておいたが、流石にこの条件は飲めない。
聖女様の助言に頼ろうか。
「解った。
策を練る時間をくれ」
「構いませんが、あまり時間は無いと思っていて下さい。
今月には祝がありますので」
話が終わるとサズーンは何処かへと去っていった。
忙しいやつだ。
他にも声を掛けている相手がいるのだろう。
だとしたら、別の条件を提示しているのだろうか?
競争相手の影すら無いのが奇妙だな。
馬車がやって来てベルが鳴る。
可憐な少女……聖女ユークアが降りてくる。
「その仮面は捨ててしまっていいわ」
「魔法使いの身だしなみだから」
「貴方を知っていることは仮面を付けていても私のように気づきます。
ここは王国ですから、逆に目立って皆がジロジロて見います」
確かに視線を感じるような。
玉国と違って仮面を付けている人は見当たらない。
ずっとこんな恥ずかしい仮装している変な人にみられてたのか。
恥ずかしい。
「もう少し早く教えてくれても……」
にっこりと微笑む彼女は、これぐらい気づきなさいと思っているのだろうか。
「所で話は如何でしたか?」
予知能力は本当なのか、いい頃合いに出迎えてくれた。
彼女がサズーンと裏で通じていたとしても不思議ではないが、今は考えないことにした。
「見せしめがしたいらしい。
流石に、そんな事に協力するつもりはない」
「では、未来を見て見ましょうか」
彼女が手を伸ばした時、風太は思わず後ずさる。
また口づけをするのかと思ったからだ。
それを彼女は微笑み笑う。
「まだ気持ちの整理が……」
「手を握るだけです。
一緒に未来へ急加速します、思う様に行動して下さい」
ユークアは包み込むように風太の手を握る。
煌めきが世界を覆う、光の渦を抜けた。
急加速している間の記憶は殆ど無い。
最後の場面、死体の山、血の海が広がっていた。
魂が空を埋め尽くし、空を赤く染める。
数万人の魂が苦痛を撒き散らし絶望が侵食する。
ああ、俺が依頼を放置しなければ良かった。
後悔だけが心に刻まれ、元の時間へと帰る。
「うあっ……うえぇぇぇっ……」
物凄い吐き気と身体の震えが襲う。
涙が止まらない……。
「拒否する未来は、悲惨な結果になるようですね。
さあ忘れなさい、進むべき道は別の道です」
ユークアが風太の額に触れる。
不思議と気持ちよくなり、気持ちが高揚する。
「奴に従って、殺戮をするのが正しいのか?
馬鹿げた未来なのに」
自分の判断ミスが致命的な結果となった。
これまでも、そんな致命的な間違いをしていたのだろうか。
別の誰かが指揮を取っただけのことと割り切れればどれだけ良かったか。
あの未来を回避するためには自分の手を汚すしか無い。
頑張れば一方だけの被害で済むだろう。
そう一万人を犠牲にすれば……。
「貴方に導きを与えましょう。
さあ助けとなる人物に会いに行きましょう」
ユークアに引っ張られ馬車に乗り込む。
「あの悲劇は回避できるのか?」
「そんな都合の良い神様は存在しません。
私達に出来るのは被害を少なくし、犠牲を減らすことだけです」
「どれだけ減らせる?」
「数百程度には……。
犠牲になってもらうのは旧体制派の貴族です」
貴族が死んでも、それは役目を果たした結果だろう。
無抵抗な市民に比べれば命の価値は軽い。
……どうして?
命の重さは同じで、貴族だろうが市民でも変わらないはずなのに。
……。
甘い香り、温かい吐息。
ユークアが顔を近づけていた。
「うわっ……、考えてるいる時に止めてくれ」
「クフフフ……。
決断を聞きたいわ」
「君に従うのが最善なのかも知れない。
けどじっくり考えさせて欲しい」
「あの未来は1週間以内に起きることです」
余裕が殆ない状況だ。
もう考えるのを止めて動かないと間に合わなくなる。
何もしなければあの惨劇が起きてしまう。
時限爆弾のようなものだ。
俺が止めるしか無い、其の為には聞くしか無いのか?
考えるのを止めたら彼女の操り人形になってしまう。
でも多くの人々を動かす力は俺にはない。
「……どうすれば良い?」
「能力不足で放置されてる異界人が居ます。
彼女を手玉にとれれば、かなりの戦力となってくれるでしょう」
「能力不足なのにか?」
「法術適性が微妙なだけで、武術に長けています。
それに貴方にとっては天敵となる巫女ですし」
「へぇ~。
巫女なのか、なんか魔法を使えそうな感じなのにな」
「出会って直ぐに腰に手を回し、引き寄せて唇を奪えば……」
「ちょっと、いや、なんだって。
初対面でそんな事をしたら嫌われるだろう」
そもそも知らない人に口づけなんてあり得ない。
お互いに好きになって初めて行う行為なのに、ここの人達は野蛮だ。
破廉恥も極まりない。
本当に彼女は聖女なのか?
自称ってだけで誰にも認められてない変人という可能性も……。
「私の能力を疑うのでしたら、もう助言はしません」
「ううぅ、解った聞くから。
ごめん動揺して君の力を疑ってないから」
あの光景と感情は本物だ。
絶対に招いてはいけない未来。
それを疑ったら何もかもが信じられなくなって何もできなくなる。
多少の不自然さは無理に未来を変えようとする世界の収束によって引き起こされた現象かも知れない。
未来改変の覚悟が足りていなかった。
とんなに違和感があっても従う。
今は、それしか方法はない。
「初めから全力で近づかないと、投げ飛ばされて失敗に終わります。
練習するなら少し手伝ってあげてもいいですよ」
ありがとうと言いそうになって、止まる。
彼女は口づけをされたいのだろう、そういう下心が見えている。
騙されるところだった。
いや、妻として迎えるなら、積極的に好きになるようにそういう事もたくさんしたほうが良いのか?
……脳が焼けそう……ジュルジュル……。
風太は顔が真っ赤になり、意識が朦朧とした。
こんな有り様で大丈夫なのだろうか。
決意しただろう!
「いや、大丈夫」
抱き寄せて唇を重ねるだけだ。
そしてどんな相手であっても愛す。
「いい、これは彼女を救う事にもなることです。
彼女は猫耳の少年と一緒に暮らしています」
「それが問題なのか?
四つ耳族は嫌われているのは知っているけど……」
「少年の生まれは旧体制派の貴族です。
心優しい彼女は少年が未成年という理由で処刑から救ったのです」
悪事を働いたのは親だろうし、子どもは関係ないよな。
俺だったら助けるか際どい所だな。
無関係なら関わらないだろうし、知り合いだったら助ける。
あー巫女だし、きっと清らかで純粋で優しい筈。
彼女は無関係でも助けていそう。
「良いことに思えるけど、まさか少年に何かされるのか?」
「まさか彼は従順で素直です」
「うーん、不正を働いていた貴族の生き残りだから、恨んでいる者がいるってことか?」
「はい、彼は人質として捕まり、
彼女は自ら犠牲に助けようとしますが、暴行された挙げ句に殺されてしまうのです」
治安が悪すぎる。
内戦中だから、まともに機能してないのか?
嫌いなやつの味方は悪という思考は流石に野蛮すぎる。
親が粛清で罰を受けたのだから子は見逃してやればいいのに。
「俺が守ってやれば良いんだな。
悪党共をボコボコにしてやる」
「ただ守っても、それは一時しのぎにしかなりません。
永遠と守り続けるためには愛を誓わせるのが一番の策です」
「君は俺に惚れているよな?
なのに他の女に手を出すことを進めてくるのは何なんだ」
「多くの愛を受け入れている器の大きい男の方が魅力的で惚れ惚れするわ」
この価値観だけは良くわからない。
女が生活に困らないように救済するための制度を彼女は恋愛に利用しているのが……。
もし一人しか愛せない前世に彼女と出会っていたら、修羅場になっていたのか?
ストーカーみたいな、怖い人になっていたかも知れない。
ああ、異世界で良かった。
うっとりと見つめる瞳は本物だろう。
連れて帰ったらリアハがどう思うかは解らないけど……。
いや貴族は当たり前に、多妻だから当然だと思うか。
「解った。
もう受け入れる、もう手に入るだけ手に入れてやる」
「頼もしい言葉、これぐらいは愛を詰め込められるといいですね」
何処かで見たことある皮の袋を貰う。
ああ、鯨の胃袋。
異様に伸びて広がる代物だ。
「うっ……、俺に何をさせようとしているのか?
これを一杯にするなんて……」
「来るものを拒まず全て入れて良い。
その方が素敵でしょう?」
「正気か?」
「助けたいと思えば、少年だって入れて良い。
ただ家族として扱うだけで良いのだから」
ああ、そうか恋愛が一つの解ではないということか。
助けたい人と思えば誰でも手を差し伸べれば良いのか。
「気分が楽になった。
自分の幸せと相手の幸せを天秤に掛けるなんて愚かな考えが崩壊した」
自分の幸せのために相手を不幸にするわけじゃない。
互いに幸せになる道を示してくれているんだろう。
丁度、馬車が止まる。
レンガ造りの綺麗な町並みに相応しくない汚いゴミ置き場があるだけで、家など見当たらない。
「ここからは歩きます。
見ての通り、廃棄された物が散乱していますので足に注意をして下さい」
腐敗臭が漂い、ハエが飛び回る。
割れた食器や壊れた桶と分別もせずに何でも捨ててある感じだ。
「こんな所に住んでいるのか?」
「以前は、ここに立派な屋敷があったのですが……。
憎悪は人を化け物に変えてしまう。
もっと私に力があればそん人々の憎しみを浄化出来たのかも知れない」
ユークアは涙を零していた。
この時だけは聖女だと思えた。
「手伝えることはないか?」
「今は救うべき彼女の事を思っていて下さい」
館は焼き尽くされ、焦げ跡が残るぐらい。
少し離れた奥にボロホロで今にも崩れそうな木造の小屋があった。
棒を振る黒髪の少女の姿がある。
振袖に袴、長い髪は後ろに束ねてある剣道女子といった印象。
お人形かと思うような可愛らしさなのに、どこかボーとしているような間の抜けた感じの雰囲気。
お互い目があった瞬間、運命を感じた。
風太はゆっくりと彼女に近寄る。
彼女も棒を捨て間合いを詰める。
手を出したのは彼女の方だった。
伸ばす手は首元を掴もうとしている。
投げるつもりなら拒否させてもらうと内から外へ受け流す。
激しい手の攻防がバシバシと続く。
もし掴まれれば、投げ飛ばされるだろう。
陽動や搦め手を交わしつつ、パンッと眼の前で手を合わせる。
猫騙し……。
一瞬怯んだ所で身体を当て、手を背に回し抱きしめる。
あっ、彼女のほうが背が低い、このままだと額というか前髪に口づけすることになる。
彼女が顔を上げて、見つめ合う形となった。
虚ろな目に輝きと、頬を赤らめる可愛さがある。
ああっ……、口づけを。
こんな可憐な少女の真っ赤で小さな唇を奪って良いのか?
ドキドキと鼓動が高まって押し倒したいけど、汚したくはない純粋な乙女。
彼女が唇を重ねる。
「うちの事は青楓って呼んでくれる?
ねぇねぇ、今の気持ちを知りたいなー」
なんか勝利目前で、逆転負けした気分なのに嬉しいような複雑な感じ。
転生したんだよな。
口づけは特別な意味があるって認識の俺が間違っているのか?
もう解らない。
「君は俺で良かったのか?
誰でもホイホイと口づけしないだろう」
「うん、君がうちを救ってくれると聖女様が教えてくれて」
あの聖女は恋の天使なのか、偽りの堕天使か。
抵抗してきたのは、やっぱり迷いがあったんだろうな。
それとも生理的に受け付けずに抗おうとしたのか……。
だったら落ち込んでしばらく立ち直れないかも知れない。
けど知りたい。
「だったらあの攻防は何だったんだ?
嫌だから防いだんじゃないのか」
「ちっちっちっ、軟弱者に奪われる唇は持ってない。
抱けるだけの力を見せてもらったから、うちの心臓がパクンパクンと唸った」
「それって惚れたってことか?」
なんか嬉しいような。
やっぱり両思いは最高に素敵だ。
「うちの見た未来は、君のたまたまを握りつぶして拒絶してみた。
どうなったと思う?」
えげつないことを普通の事のように言う。
怖い奴かもしれない。
想像は付く、だって口づけを選んだってことは……。
「結局死んだ」
「気絶している君も一緒に殺されるという、皆死亡エンド。
そういうことだから、女の子が2人が良い」
「どういう事?」
「娘が欲しい。
息子だったら、もう一度チャレンジして絶対に娘が産まれるまで頑張ってもらう」
もう子どもを作る予定なのか。
気が早いと言うか、今のことしか考えてなかった。
結婚したら子どもが欲しいって皆が言ってきたら……、俺の身が持つのか?
青楓がジト目で返事を待っている。
なんで同意しないのか圧力。
「あっ、はい……。
いや、今は呪いであの、出来ないんだけど」
「知っている。
時が来れば解いてしんぜよう」
おお、彼女に後光が輝いて見える。
ははぁ、ひれ伏さなくてはと思うほど偉大。
「巫女だと、呪いなんて簡単に解除できるのか?」
「……まあ、そんなとこ。
後、レベルを200ぐらい上げたら解呪の力を授かると思う」
レベルって概念は無い。
つまりあり得ないぐらいの冗談って事だ。
急にちっぽけな少女に戻るのはやめて。
まあ彼女を助けたいだけど。
すごい力がなくても、むしろ守ってあげるだけだから良い。
「所で少年は何処にいるんだ?」
「ううっ、うちが目を離した時には居なくなっていて、
もうすぐ例の人達が来かも」
「君は逃げて」
「むっ。青楓って呼んでくれないから拒否するもん。
言ったよね、もう忘れたの?」
「ごめん、青楓さんは隠れて」
「さん?
さんを付けて良いのは、知り合いまでなの。
友達以上は禁止だから」
……この子と仲良く出来るのか心配になってきた。
「解った。
青楓、見ていてくれ」
「宜しい、ではこの神聖な樫の助君を貸してあげよう」
2メートルぐらいの棒だ。
いつも使う細剣の倍近い長さがある。
「もう少し短いほうが成れているけど……」
「大は小を兼ねるから、彼氏君なら使いこなせると信じている。
えっへん、うちでも楽々に使えるし、お揃いだし」
あっ、彼氏に昇格したみたいだ。
なんか嬉しいけど拒否したら破局だよな。
「ありがたく使わせて頂きます」
襲ってくるのは市民だろうし、殺す訳にもいかないよな。
手加減するなら素手のほうが良いんだけど。
棒で殴ったら骨が折れるかも。
考えていると後ろで物音がする。
「異端者に裁きを!」
数人が棍棒を振り回し、ゴミの山を殴り散らかしている。
風太は彼らの前に姿を表す。
「俺の女に用があるのか?」
「お前も逆賊に味方するのか! 叩き殺してやる!」
話をする余裕はなさそうだ。
数人が一斉に殴りかかってくる。
それはゆっくりと見える、ただの市民に過ぎない彼らの動きは単調で読みやすい。
棒で相手の獲物を叩き落としていくのは容易く、瞬く間に地面に棍棒が転がる。
「このゴミの山を片付けるのに手が足りない。
君達の手をくれないか?」
「ふざけるな!」
「切断は俺がやっても良い」
恐怖は理解できない者に対して抱く感情だ。
この時、彼らは理解した眼の前にいる奴は危険だと。
一歩近づくと、緊張で抑え込まれた恐怖心が爆発した。
悲鳴を上げ暴徒達は、転びながらも必死に逃げていく。
ほほ無傷だったのに、ボコボコに殴られたみたいに傷だらけになって行くのは流石に哀れだ。
「後は少年を探すだけか」
またべつの集団がやって来る。
彼らは少年の髪を掴み引きずっていた。
少年の顔は青く腫れ、ボロボロの衣服に肌もあざだらけだ。
「こいつの飼い主はお前か?」
「まあ、そうなるな。
彼が何をしたんだ?」
「川の水を盗んでいたんでな。
責任を取ってもらおうか?」
川の水は誰でも利用できる大地のめぐみである。
彼が水を飲んだとしても誰も咎めることは出来ない。
完全な言いがかりに過ぎない。
「確かにそれは大罪、万死に値するな。
では全力で排除させてもらおうか」
手の平を少年に向ける。
円錐状の火炎が形成されていく。
見える形で魔法が組まれているのだ。
それはあまりにも強大で熱を放つ螺旋だった。
集団は恐怖を感じていた。
それが自分達にも被害が及ぶほどの大きさだと予感出来たからだ。
「まて、そんな法術を街なかで使って良いわけ無いだろう」
「魔族化しているかも知れないと判断してボコボコにしたんだろう?
ならこの程度では物足りないぐらいだ」
「こいつは狂ってやがる。
やべーぞ」
少年を放置して集団は逃げていく。
……激痛確定だな。
まあゴミでも消しとくか。
解き放たれた螺旋状の炎はゴミの山を塵へと変えていく。
パッチンと指を鳴らすと炎は消滅し残ったのは焼け跡だけだ。
倒れた少年は虫の息だった。
5歳ぐらいの小柄で茶色の髪は短く、くせ毛でくるんくるんしている。
それが血で赤く染まっている。
片方しか猫耳がない。
切断された後……、まさか切り取ったのか?!
「彼奴等を見つけらたら、片耳を切り取ってやる。
……いや、早く手当しないと」
子どもを守るべき大人がよってたかってボコボコにするなんて。
少年を抱きかかえ、聖女が待っている馬車に戻ろうと歩む。
そんな後ろから覗き込むように青楓がやって来る。
「あー、だからずっと側にいるように言ったのに」
彼女は懐から、護符を取り出すとペタペタと少年に貼り始めた。
「何しているんだ?」
「うちは巫女、巫女といえば癒やしでしょう?」
「いや知らない」
実際の巫女って何しているのか知らないし、神社にいるだけって感じ。
創作なら凄い神聖な力を持っているけど。
どちらかと言えば攻撃的な印象かな、悪霊とか妖怪をバシバシ倒しているみたいな。
「はぁ、なんで。
そんなのじょーしきだし、よーく見てて、はい」
青楓が両手をパンッと合わせると、護符がビリビリと破けて散った。
途端に傷が癒えて、あざが消えていく。
「凄い……」
ビビッと来る直前だ。
少年を青楓に預けると、激痛が襲う。
涙を見せたくない、格好良いままでいたのに痛みが耐えられない。
「うああぁぁぁっ……」
助けてくれるよなと青楓を見る。
彼女は顔を赤らめてニッコリと微笑む。
ルンルン気分な鼻歌を口ずさみ、風太の頭を撫でる。
「その呪いは肩代わり出来ないから。
ごめんけど、耐えてくれる?」
いや、出来そうな雰囲気は何だったんだ。
絶望的な痛みが全身を張り裂くように襲う。
「そんなあぁぁぁぁっ」
うっ……、意識飛ぶ。
目を覚ますと床でごろ寝していた。
物置小屋らしく木箱や色々と物が積み重ねられ狭苦しい。
側にいた青楓がジト目で見ている。
「おお、彼氏よ。 気絶してしまうとは情けない」
「封印が施されていて、魔法を使うとこうなる。
死ぬほど痛い……」
「ふむ、その封印を解くには、うちがクラスチェンジして神になれば可能。
ジョブの全マスターが必須にて果てしない修行を要する」
どれだけ大変なのかわからないが、ほぼ不可能なのだろう。
「君……、青楓はゲーム好きなのか?」
「嗜む程度には、じっくり思考するゆっくりとしたものを好む。
何時でも相手いたすので、余暇を楽しみたい時は声を掛けてくれても良い」
「遊べるものがあったら手に入れておく」
「うむ。
彼氏らしく振る舞うのは良き良き」
青楓は木箱から、林檎飴を取り出し風太に手渡す。
林檎に持ちやすいように木の棒を突き刺し、飴で表面を覆うお菓子だ。
小ぶりで一口で食べられる大きさだ。
「青楓が作ったのか?」
「懐かしの故郷の味を思い出して。
太鼓が鳴り、舞い、花火が空を輝かせる」
祭りの時を思い出す。
カリッと表面の飴を砕き、果実と一緒に食べる。
甘酸っぱい。
「なんか故郷って感じがする」
先人達が色んな物を持ち込んできたのに、こんなに懐かしく思う物はなかった。
ここの人達が望まなかったのか、先人が伝えなかったのか解らない。
でもこんな故郷を思い出すものがあっても良いなと思えるのは何でだろう。
俺は故郷を捨てたわけでもないし、ただこの世界に惹かれたから残ったんだ。
「美味しい?」
「うん、また食べたくなる。
皆にも食べさせてあげたいぐらい」
「彼氏の運勢はいかに。
棒の先を見るべし」
凶と赤く記されている。
もう既に痛めにあってるし当たっているのか?
それともまだこれから来るのか……、考えたくもない。
「俺も選びたい」
箱の中にまだ林檎飴が残っている。
その一つを手に取り青楓に渡す。
「運命は変えられるかも知れない。
でも彼氏君は気絶したし、変わらない所もあるよう」
ガリガリ……。
蕩けるようなうっとりした顔の青楓は引き当てる。
大吉を!
彼女は誇らしげに見せびらかし、幸運のお裾分けと風太に抱きつくとほっぺに口づけをする。
「占いなんて気にしてないから」
「そう、変えられない定めがもし、重大なことだった時。
彼氏君は受け入れたりするのかな?」
聖女の未来予知によって変えられない未来って事か。
難題を持ってくるな。
「全力を出して駄目なら受け入れる」
「うちは、国王様に謁見する機会があって聞いたの。
どうして、どうして、って」
あの王様か。
俺に塩対応しておいて、可愛い子には何でも答えるって。
「何が解った?」
「食糧不足、人口を半分以下にしないと来年には9割が餓死する。
そんな深刻な状態だって」
「魔族を撃退して、領土を取り戻した筈なのに」
「ああ、それ残酷な事実があって、田畑は魔獣化した作物によって壊滅って。
撃退しても浄化しないと魔素によって魔物へと変化するおまけ付き」
……魔素って剣すら変質させて目玉キョロギョロの魔物に変えていたよな。
あんなのがわんさか出てきたら目玉の集合体みたいに……、うぇってなりそうな程気持ち悪い。
あー、元々は作物でも魔獣はたおしたらグチャーって汚く潰れて食べられなさそう。
「君って巫女だろう。
浄化出来ないのか?」
「ふん」
名前を呼ばないと不機嫌になるのは、面倒くさい。
いくら可愛くても、無理かもしれない。
「青楓、ごめん気をつけるから」
「宜しい、ここに壺があるじゃろ。
うちの成果が詰まっている、心して見よ」
壺の中には、漆黒に近い紫色の結晶が入っている。
禍々しい気を放っているのか、黒い湯気を発す。
「これが魔素の結晶なのか。
という事は畑が使えるようになったのか?」
「彼氏よ、うちは非力ゆえ、封印ができず魔素が漏れ出てしまう。
幾ら集めてもブワーと放出して結局、極僅かしか減らせない有り様、知恵を授けて欲しい」
「うーん。
エネルギーとして使えるみたいだから一気に消費すれば、貯めなくて良いだろう?」
「どのようにして、何に使うのか存ぜぬゆえ」
「……俺も知らない」
青楓は呆れてジト目でため息を付く。
もし仮に内戦を止めて死者を減らせば、後には大量の餓死者が出ることになる。
少ない命を助けてもっと多くの死を招く最悪な結末。
争いの根本的な所を解決しなければ、結局は殺し合いは終わらない。
王家の人達は、民に自分達が生き残るのには誰に付くのか?
誰を排除すれば良いのかと無言で問うている。
「さーて、勇者なら魔王を討つだけでハッピーエンドを迎える。
彼氏君なら、どんなエンドを見せてくれる?」
「……それはお楽しみと言うことで」
「さては考えておらぬな。
では助言してしんぜよう、天命だと受け入れ何もせず幸せにスローライフとやらを満喫する」
「いいかもって何故か微塵も思えない。
自分の手で幸せは掴む……いや、作り出すものだ」
「クスクス……。
ほら、その手で掴んでもみもみしたら、真っ赤な紅葉が舞うかも」
ええっ?
これって揉んでほしいのか、嫌なのかどっちなんだ。
いやよ、いやよと言いつつ、もっとして欲しいみたいな。
……どうすれば良いのか解らない。
話の流れなら男を見せろって感じか?
……詰まったら、スルーするだな。
放置されて青楓は恥ずかしさのあまりに顔が赤くなって、目が泳いでいる。
「助言を得られそうな知り合いがいるから聞いてみることにする」
アマネルは魔素を研究していた筈だから、きっと何か教えてくれるはずだ。
この時、アマネルはドウジン成分不足によって悶え苦しんでいた。
そんな事を知る筈もなく、謎の信頼感を風太は抱いていた。
魔法の手紙は3通持っている。
1枚は作戦の成否を伝える為に残す。
使えるのは2枚しかない、補充もできない。
エリクサー症候群に掛かっていたら、封印して使うことが出来なかっただろう。
しかし、俺は使える。
何故なら道具は使われて初めて輝くことが出来るからだ。
手にした魔法の手紙を青楓が奪い取る。
「うちに任せ給え。
えっへん、字が綺麗と褒められる腕前を見せよう」
「いや、それは念じるだけで良いから」
「ふむふむ、では式神として相手に直接送り届けてあげようかなぁ。にこ」
ニコっ言うのか、それってただの表現を表しているだけの……。
「魔法が掛かっていて、鳩になって飛んでいくから必要ない」
「はっ! うちの価値が暴落中……。
王子様に君は要らないってポイって捨てられたのも、うぅぅぅぅっ」
「無能と捨てられた俺の嫁は最強のチート能力者だった件について、みたいな感じになる。
きっと覚醒してない力が目覚めたら凄いことになるに違いない」
「なにそれ。
クスクスクス……、では彼氏君にそのチートアイテムを授けよう」
積み上げられた箱をよいしょ、よいしょと動かして取り出したるは、巨大なつづらだった。
中には木彫りの人形が収められていた。
「からくりで動くのか?
なんか胸の所が開いて、歯車とか見えているんだけど」
「式神を憑依させる為の依代。
あまりにも可愛いく作りすぎて、彼氏君が惚れないかと心配な逸品ゆえ、見せたくはなかった」
髪もなければ目も口もない、のっぺらぼう。
こんな物に惚れるのか?
制作者は作品を我が子のように愛してしまうらしい。
出来が悪い子ほど可愛いって言うし。
「嬉しいな、俺にくれるのか?」
「うん、大切に使って欲しい」
って、要らないんだけど。
なんで手放すんだ。
ここは絶対にあげない、見せただけって流れになって終ると予想していたのに。
まさか、まんじゅう嫌いか?
だったら失敗作を押し付けられた。
どうするんだ、こんなもの……、今は宿で生活するしか無いのに邪魔な荷物は増やしたくない。
そもそも式神ってなんだ。
幽霊なのか?
だったら、メイドの霊に入ってもらったら……。
たしか人形に入れれば良いって話だし。
人形の額に触れて、メイドの霊を移す。
ドロン!
一瞬で、姿が変貌しメイド姿の少女へとなった。
「にひひひ……、これで風太殿に触れられる」
人形が風太に抱きつく。
「なんだ?
急に髪の毛も生えたし、目や口も……」
感触は硬い、木の香りが漂い、人の魂を入れても人形に変わりない。
「一生、このままでも良い。
転生なんて、諦めて下さい」
「えっと君は誰だった?
顔に見覚えがない」
「私は、えーと、うーん。
思い出せません」
死霊術によって使役されるたびに記憶が失われ従順な下僕と変えられていく。
既に自我が崩壊し、ただの思いだけしか残っていない。
死者の書が仕込んでいた罠が発動しようとしていた。
人形が力を込め始める。
風太の身体が悲鳴を上げ、ググッと締め付けられていく。
「止めろ、痛い!」
「止まらない……」
青楓は針を手に、人形の肩に突き刺す。
「邪悪なるものよ。去りなさい」
開放されたと風太が思った瞬間、青楓が抱きつく。
「ちょっと、何で君が……。
ああっ……、青楓!」
ガラガラと扉が開く。
少年が水桶を持って入ってくる。
「ただいまー」
「おかえり、テラスタン」
少年テラスタンは、人形と一緒に抱きつく青楓の姿に驚きを隠せない。
硬直し、はわわわ……と混乱する。
目がぐるぐると回り、渦を巻くと皆と混じろうと抱きつく。
「いや君も抱きつくのか」
実に良かったと言いたいですが、敵を逃がしたことは褒められません」
仲介人のサズーンとしては、手土産があれば王子の機嫌を取ることがてきて手数料もガッポガッポだった。
「俺がなにか間違えたのか?
砦を壊してくれって頼まれた筈」
「確かに言い方が良くなかったことは認めましょう。
しかし事情が変わてしまいまして、あの程度では雇用は出来なくなってしまいました」
「いやいや、砦を爆破して使えなくしただろう。
包囲していた兵隊が指くわえて見ているしか出来なかったのに、なんでだ?」
改革派の兵は、一般人が武装しただけの民兵が主である。
対して旧体制派は、騎士等の職業軍人が主で覚悟や戦歴の差が激しく相手にならない状態だった。
10倍の戦力で取り囲んでいるにも関わらず、攻めれば多大な被害を出すばかりで全く勝ち目がない有り様だ。
それをたった一人で乗り込んで、敵を追い出し施設を爆破粉砕したのである。
大戦果なのは間違いない。
この時、王子が欲していたものを知らなければ風太は激怒していただろう。
そう死体が手に入らなかった事が問題なのである。
「納得できないのはよく解ります。
玉国では、力があっても活躍する機会もございませんし、王国に鞍替えしたい気持ちも」
「だったら……」
「では覚悟を見せてもらいましょうか。
東に旧体制派の街があります、民を皆殺しにしてきて下さい。
兵はお貸ししますから、存分に力を発揮して頂けると思います」
簡単に兵を貸せるだけの地位にいるのか。
ただの怪しい男では無いとは思っていたが……。
「なんで皆殺しにする必要があるんだ?」
「街と言っても千人程度しか住んでいません。
見せしめとしてしては丁度いい規模でしょう」
王子は悪政を正す為に貴族を排除した開放者かと思っていたが、実際は残虐な男だった。
従わない者を見せしめとして抹殺し、恐怖によって従わせようとしている。
念の為に会っておいたが、流石にこの条件は飲めない。
聖女様の助言に頼ろうか。
「解った。
策を練る時間をくれ」
「構いませんが、あまり時間は無いと思っていて下さい。
今月には祝がありますので」
話が終わるとサズーンは何処かへと去っていった。
忙しいやつだ。
他にも声を掛けている相手がいるのだろう。
だとしたら、別の条件を提示しているのだろうか?
競争相手の影すら無いのが奇妙だな。
馬車がやって来てベルが鳴る。
可憐な少女……聖女ユークアが降りてくる。
「その仮面は捨ててしまっていいわ」
「魔法使いの身だしなみだから」
「貴方を知っていることは仮面を付けていても私のように気づきます。
ここは王国ですから、逆に目立って皆がジロジロて見います」
確かに視線を感じるような。
玉国と違って仮面を付けている人は見当たらない。
ずっとこんな恥ずかしい仮装している変な人にみられてたのか。
恥ずかしい。
「もう少し早く教えてくれても……」
にっこりと微笑む彼女は、これぐらい気づきなさいと思っているのだろうか。
「所で話は如何でしたか?」
予知能力は本当なのか、いい頃合いに出迎えてくれた。
彼女がサズーンと裏で通じていたとしても不思議ではないが、今は考えないことにした。
「見せしめがしたいらしい。
流石に、そんな事に協力するつもりはない」
「では、未来を見て見ましょうか」
彼女が手を伸ばした時、風太は思わず後ずさる。
また口づけをするのかと思ったからだ。
それを彼女は微笑み笑う。
「まだ気持ちの整理が……」
「手を握るだけです。
一緒に未来へ急加速します、思う様に行動して下さい」
ユークアは包み込むように風太の手を握る。
煌めきが世界を覆う、光の渦を抜けた。
急加速している間の記憶は殆ど無い。
最後の場面、死体の山、血の海が広がっていた。
魂が空を埋め尽くし、空を赤く染める。
数万人の魂が苦痛を撒き散らし絶望が侵食する。
ああ、俺が依頼を放置しなければ良かった。
後悔だけが心に刻まれ、元の時間へと帰る。
「うあっ……うえぇぇぇっ……」
物凄い吐き気と身体の震えが襲う。
涙が止まらない……。
「拒否する未来は、悲惨な結果になるようですね。
さあ忘れなさい、進むべき道は別の道です」
ユークアが風太の額に触れる。
不思議と気持ちよくなり、気持ちが高揚する。
「奴に従って、殺戮をするのが正しいのか?
馬鹿げた未来なのに」
自分の判断ミスが致命的な結果となった。
これまでも、そんな致命的な間違いをしていたのだろうか。
別の誰かが指揮を取っただけのことと割り切れればどれだけ良かったか。
あの未来を回避するためには自分の手を汚すしか無い。
頑張れば一方だけの被害で済むだろう。
そう一万人を犠牲にすれば……。
「貴方に導きを与えましょう。
さあ助けとなる人物に会いに行きましょう」
ユークアに引っ張られ馬車に乗り込む。
「あの悲劇は回避できるのか?」
「そんな都合の良い神様は存在しません。
私達に出来るのは被害を少なくし、犠牲を減らすことだけです」
「どれだけ減らせる?」
「数百程度には……。
犠牲になってもらうのは旧体制派の貴族です」
貴族が死んでも、それは役目を果たした結果だろう。
無抵抗な市民に比べれば命の価値は軽い。
……どうして?
命の重さは同じで、貴族だろうが市民でも変わらないはずなのに。
……。
甘い香り、温かい吐息。
ユークアが顔を近づけていた。
「うわっ……、考えてるいる時に止めてくれ」
「クフフフ……。
決断を聞きたいわ」
「君に従うのが最善なのかも知れない。
けどじっくり考えさせて欲しい」
「あの未来は1週間以内に起きることです」
余裕が殆ない状況だ。
もう考えるのを止めて動かないと間に合わなくなる。
何もしなければあの惨劇が起きてしまう。
時限爆弾のようなものだ。
俺が止めるしか無い、其の為には聞くしか無いのか?
考えるのを止めたら彼女の操り人形になってしまう。
でも多くの人々を動かす力は俺にはない。
「……どうすれば良い?」
「能力不足で放置されてる異界人が居ます。
彼女を手玉にとれれば、かなりの戦力となってくれるでしょう」
「能力不足なのにか?」
「法術適性が微妙なだけで、武術に長けています。
それに貴方にとっては天敵となる巫女ですし」
「へぇ~。
巫女なのか、なんか魔法を使えそうな感じなのにな」
「出会って直ぐに腰に手を回し、引き寄せて唇を奪えば……」
「ちょっと、いや、なんだって。
初対面でそんな事をしたら嫌われるだろう」
そもそも知らない人に口づけなんてあり得ない。
お互いに好きになって初めて行う行為なのに、ここの人達は野蛮だ。
破廉恥も極まりない。
本当に彼女は聖女なのか?
自称ってだけで誰にも認められてない変人という可能性も……。
「私の能力を疑うのでしたら、もう助言はしません」
「ううぅ、解った聞くから。
ごめん動揺して君の力を疑ってないから」
あの光景と感情は本物だ。
絶対に招いてはいけない未来。
それを疑ったら何もかもが信じられなくなって何もできなくなる。
多少の不自然さは無理に未来を変えようとする世界の収束によって引き起こされた現象かも知れない。
未来改変の覚悟が足りていなかった。
とんなに違和感があっても従う。
今は、それしか方法はない。
「初めから全力で近づかないと、投げ飛ばされて失敗に終わります。
練習するなら少し手伝ってあげてもいいですよ」
ありがとうと言いそうになって、止まる。
彼女は口づけをされたいのだろう、そういう下心が見えている。
騙されるところだった。
いや、妻として迎えるなら、積極的に好きになるようにそういう事もたくさんしたほうが良いのか?
……脳が焼けそう……ジュルジュル……。
風太は顔が真っ赤になり、意識が朦朧とした。
こんな有り様で大丈夫なのだろうか。
決意しただろう!
「いや、大丈夫」
抱き寄せて唇を重ねるだけだ。
そしてどんな相手であっても愛す。
「いい、これは彼女を救う事にもなることです。
彼女は猫耳の少年と一緒に暮らしています」
「それが問題なのか?
四つ耳族は嫌われているのは知っているけど……」
「少年の生まれは旧体制派の貴族です。
心優しい彼女は少年が未成年という理由で処刑から救ったのです」
悪事を働いたのは親だろうし、子どもは関係ないよな。
俺だったら助けるか際どい所だな。
無関係なら関わらないだろうし、知り合いだったら助ける。
あー巫女だし、きっと清らかで純粋で優しい筈。
彼女は無関係でも助けていそう。
「良いことに思えるけど、まさか少年に何かされるのか?」
「まさか彼は従順で素直です」
「うーん、不正を働いていた貴族の生き残りだから、恨んでいる者がいるってことか?」
「はい、彼は人質として捕まり、
彼女は自ら犠牲に助けようとしますが、暴行された挙げ句に殺されてしまうのです」
治安が悪すぎる。
内戦中だから、まともに機能してないのか?
嫌いなやつの味方は悪という思考は流石に野蛮すぎる。
親が粛清で罰を受けたのだから子は見逃してやればいいのに。
「俺が守ってやれば良いんだな。
悪党共をボコボコにしてやる」
「ただ守っても、それは一時しのぎにしかなりません。
永遠と守り続けるためには愛を誓わせるのが一番の策です」
「君は俺に惚れているよな?
なのに他の女に手を出すことを進めてくるのは何なんだ」
「多くの愛を受け入れている器の大きい男の方が魅力的で惚れ惚れするわ」
この価値観だけは良くわからない。
女が生活に困らないように救済するための制度を彼女は恋愛に利用しているのが……。
もし一人しか愛せない前世に彼女と出会っていたら、修羅場になっていたのか?
ストーカーみたいな、怖い人になっていたかも知れない。
ああ、異世界で良かった。
うっとりと見つめる瞳は本物だろう。
連れて帰ったらリアハがどう思うかは解らないけど……。
いや貴族は当たり前に、多妻だから当然だと思うか。
「解った。
もう受け入れる、もう手に入るだけ手に入れてやる」
「頼もしい言葉、これぐらいは愛を詰め込められるといいですね」
何処かで見たことある皮の袋を貰う。
ああ、鯨の胃袋。
異様に伸びて広がる代物だ。
「うっ……、俺に何をさせようとしているのか?
これを一杯にするなんて……」
「来るものを拒まず全て入れて良い。
その方が素敵でしょう?」
「正気か?」
「助けたいと思えば、少年だって入れて良い。
ただ家族として扱うだけで良いのだから」
ああ、そうか恋愛が一つの解ではないということか。
助けたい人と思えば誰でも手を差し伸べれば良いのか。
「気分が楽になった。
自分の幸せと相手の幸せを天秤に掛けるなんて愚かな考えが崩壊した」
自分の幸せのために相手を不幸にするわけじゃない。
互いに幸せになる道を示してくれているんだろう。
丁度、馬車が止まる。
レンガ造りの綺麗な町並みに相応しくない汚いゴミ置き場があるだけで、家など見当たらない。
「ここからは歩きます。
見ての通り、廃棄された物が散乱していますので足に注意をして下さい」
腐敗臭が漂い、ハエが飛び回る。
割れた食器や壊れた桶と分別もせずに何でも捨ててある感じだ。
「こんな所に住んでいるのか?」
「以前は、ここに立派な屋敷があったのですが……。
憎悪は人を化け物に変えてしまう。
もっと私に力があればそん人々の憎しみを浄化出来たのかも知れない」
ユークアは涙を零していた。
この時だけは聖女だと思えた。
「手伝えることはないか?」
「今は救うべき彼女の事を思っていて下さい」
館は焼き尽くされ、焦げ跡が残るぐらい。
少し離れた奥にボロホロで今にも崩れそうな木造の小屋があった。
棒を振る黒髪の少女の姿がある。
振袖に袴、長い髪は後ろに束ねてある剣道女子といった印象。
お人形かと思うような可愛らしさなのに、どこかボーとしているような間の抜けた感じの雰囲気。
お互い目があった瞬間、運命を感じた。
風太はゆっくりと彼女に近寄る。
彼女も棒を捨て間合いを詰める。
手を出したのは彼女の方だった。
伸ばす手は首元を掴もうとしている。
投げるつもりなら拒否させてもらうと内から外へ受け流す。
激しい手の攻防がバシバシと続く。
もし掴まれれば、投げ飛ばされるだろう。
陽動や搦め手を交わしつつ、パンッと眼の前で手を合わせる。
猫騙し……。
一瞬怯んだ所で身体を当て、手を背に回し抱きしめる。
あっ、彼女のほうが背が低い、このままだと額というか前髪に口づけすることになる。
彼女が顔を上げて、見つめ合う形となった。
虚ろな目に輝きと、頬を赤らめる可愛さがある。
ああっ……、口づけを。
こんな可憐な少女の真っ赤で小さな唇を奪って良いのか?
ドキドキと鼓動が高まって押し倒したいけど、汚したくはない純粋な乙女。
彼女が唇を重ねる。
「うちの事は青楓って呼んでくれる?
ねぇねぇ、今の気持ちを知りたいなー」
なんか勝利目前で、逆転負けした気分なのに嬉しいような複雑な感じ。
転生したんだよな。
口づけは特別な意味があるって認識の俺が間違っているのか?
もう解らない。
「君は俺で良かったのか?
誰でもホイホイと口づけしないだろう」
「うん、君がうちを救ってくれると聖女様が教えてくれて」
あの聖女は恋の天使なのか、偽りの堕天使か。
抵抗してきたのは、やっぱり迷いがあったんだろうな。
それとも生理的に受け付けずに抗おうとしたのか……。
だったら落ち込んでしばらく立ち直れないかも知れない。
けど知りたい。
「だったらあの攻防は何だったんだ?
嫌だから防いだんじゃないのか」
「ちっちっちっ、軟弱者に奪われる唇は持ってない。
抱けるだけの力を見せてもらったから、うちの心臓がパクンパクンと唸った」
「それって惚れたってことか?」
なんか嬉しいような。
やっぱり両思いは最高に素敵だ。
「うちの見た未来は、君のたまたまを握りつぶして拒絶してみた。
どうなったと思う?」
えげつないことを普通の事のように言う。
怖い奴かもしれない。
想像は付く、だって口づけを選んだってことは……。
「結局死んだ」
「気絶している君も一緒に殺されるという、皆死亡エンド。
そういうことだから、女の子が2人が良い」
「どういう事?」
「娘が欲しい。
息子だったら、もう一度チャレンジして絶対に娘が産まれるまで頑張ってもらう」
もう子どもを作る予定なのか。
気が早いと言うか、今のことしか考えてなかった。
結婚したら子どもが欲しいって皆が言ってきたら……、俺の身が持つのか?
青楓がジト目で返事を待っている。
なんで同意しないのか圧力。
「あっ、はい……。
いや、今は呪いであの、出来ないんだけど」
「知っている。
時が来れば解いてしんぜよう」
おお、彼女に後光が輝いて見える。
ははぁ、ひれ伏さなくてはと思うほど偉大。
「巫女だと、呪いなんて簡単に解除できるのか?」
「……まあ、そんなとこ。
後、レベルを200ぐらい上げたら解呪の力を授かると思う」
レベルって概念は無い。
つまりあり得ないぐらいの冗談って事だ。
急にちっぽけな少女に戻るのはやめて。
まあ彼女を助けたいだけど。
すごい力がなくても、むしろ守ってあげるだけだから良い。
「所で少年は何処にいるんだ?」
「ううっ、うちが目を離した時には居なくなっていて、
もうすぐ例の人達が来かも」
「君は逃げて」
「むっ。青楓って呼んでくれないから拒否するもん。
言ったよね、もう忘れたの?」
「ごめん、青楓さんは隠れて」
「さん?
さんを付けて良いのは、知り合いまでなの。
友達以上は禁止だから」
……この子と仲良く出来るのか心配になってきた。
「解った。
青楓、見ていてくれ」
「宜しい、ではこの神聖な樫の助君を貸してあげよう」
2メートルぐらいの棒だ。
いつも使う細剣の倍近い長さがある。
「もう少し短いほうが成れているけど……」
「大は小を兼ねるから、彼氏君なら使いこなせると信じている。
えっへん、うちでも楽々に使えるし、お揃いだし」
あっ、彼氏に昇格したみたいだ。
なんか嬉しいけど拒否したら破局だよな。
「ありがたく使わせて頂きます」
襲ってくるのは市民だろうし、殺す訳にもいかないよな。
手加減するなら素手のほうが良いんだけど。
棒で殴ったら骨が折れるかも。
考えていると後ろで物音がする。
「異端者に裁きを!」
数人が棍棒を振り回し、ゴミの山を殴り散らかしている。
風太は彼らの前に姿を表す。
「俺の女に用があるのか?」
「お前も逆賊に味方するのか! 叩き殺してやる!」
話をする余裕はなさそうだ。
数人が一斉に殴りかかってくる。
それはゆっくりと見える、ただの市民に過ぎない彼らの動きは単調で読みやすい。
棒で相手の獲物を叩き落としていくのは容易く、瞬く間に地面に棍棒が転がる。
「このゴミの山を片付けるのに手が足りない。
君達の手をくれないか?」
「ふざけるな!」
「切断は俺がやっても良い」
恐怖は理解できない者に対して抱く感情だ。
この時、彼らは理解した眼の前にいる奴は危険だと。
一歩近づくと、緊張で抑え込まれた恐怖心が爆発した。
悲鳴を上げ暴徒達は、転びながらも必死に逃げていく。
ほほ無傷だったのに、ボコボコに殴られたみたいに傷だらけになって行くのは流石に哀れだ。
「後は少年を探すだけか」
またべつの集団がやって来る。
彼らは少年の髪を掴み引きずっていた。
少年の顔は青く腫れ、ボロボロの衣服に肌もあざだらけだ。
「こいつの飼い主はお前か?」
「まあ、そうなるな。
彼が何をしたんだ?」
「川の水を盗んでいたんでな。
責任を取ってもらおうか?」
川の水は誰でも利用できる大地のめぐみである。
彼が水を飲んだとしても誰も咎めることは出来ない。
完全な言いがかりに過ぎない。
「確かにそれは大罪、万死に値するな。
では全力で排除させてもらおうか」
手の平を少年に向ける。
円錐状の火炎が形成されていく。
見える形で魔法が組まれているのだ。
それはあまりにも強大で熱を放つ螺旋だった。
集団は恐怖を感じていた。
それが自分達にも被害が及ぶほどの大きさだと予感出来たからだ。
「まて、そんな法術を街なかで使って良いわけ無いだろう」
「魔族化しているかも知れないと判断してボコボコにしたんだろう?
ならこの程度では物足りないぐらいだ」
「こいつは狂ってやがる。
やべーぞ」
少年を放置して集団は逃げていく。
……激痛確定だな。
まあゴミでも消しとくか。
解き放たれた螺旋状の炎はゴミの山を塵へと変えていく。
パッチンと指を鳴らすと炎は消滅し残ったのは焼け跡だけだ。
倒れた少年は虫の息だった。
5歳ぐらいの小柄で茶色の髪は短く、くせ毛でくるんくるんしている。
それが血で赤く染まっている。
片方しか猫耳がない。
切断された後……、まさか切り取ったのか?!
「彼奴等を見つけらたら、片耳を切り取ってやる。
……いや、早く手当しないと」
子どもを守るべき大人がよってたかってボコボコにするなんて。
少年を抱きかかえ、聖女が待っている馬車に戻ろうと歩む。
そんな後ろから覗き込むように青楓がやって来る。
「あー、だからずっと側にいるように言ったのに」
彼女は懐から、護符を取り出すとペタペタと少年に貼り始めた。
「何しているんだ?」
「うちは巫女、巫女といえば癒やしでしょう?」
「いや知らない」
実際の巫女って何しているのか知らないし、神社にいるだけって感じ。
創作なら凄い神聖な力を持っているけど。
どちらかと言えば攻撃的な印象かな、悪霊とか妖怪をバシバシ倒しているみたいな。
「はぁ、なんで。
そんなのじょーしきだし、よーく見てて、はい」
青楓が両手をパンッと合わせると、護符がビリビリと破けて散った。
途端に傷が癒えて、あざが消えていく。
「凄い……」
ビビッと来る直前だ。
少年を青楓に預けると、激痛が襲う。
涙を見せたくない、格好良いままでいたのに痛みが耐えられない。
「うああぁぁぁっ……」
助けてくれるよなと青楓を見る。
彼女は顔を赤らめてニッコリと微笑む。
ルンルン気分な鼻歌を口ずさみ、風太の頭を撫でる。
「その呪いは肩代わり出来ないから。
ごめんけど、耐えてくれる?」
いや、出来そうな雰囲気は何だったんだ。
絶望的な痛みが全身を張り裂くように襲う。
「そんなあぁぁぁぁっ」
うっ……、意識飛ぶ。
目を覚ますと床でごろ寝していた。
物置小屋らしく木箱や色々と物が積み重ねられ狭苦しい。
側にいた青楓がジト目で見ている。
「おお、彼氏よ。 気絶してしまうとは情けない」
「封印が施されていて、魔法を使うとこうなる。
死ぬほど痛い……」
「ふむ、その封印を解くには、うちがクラスチェンジして神になれば可能。
ジョブの全マスターが必須にて果てしない修行を要する」
どれだけ大変なのかわからないが、ほぼ不可能なのだろう。
「君……、青楓はゲーム好きなのか?」
「嗜む程度には、じっくり思考するゆっくりとしたものを好む。
何時でも相手いたすので、余暇を楽しみたい時は声を掛けてくれても良い」
「遊べるものがあったら手に入れておく」
「うむ。
彼氏らしく振る舞うのは良き良き」
青楓は木箱から、林檎飴を取り出し風太に手渡す。
林檎に持ちやすいように木の棒を突き刺し、飴で表面を覆うお菓子だ。
小ぶりで一口で食べられる大きさだ。
「青楓が作ったのか?」
「懐かしの故郷の味を思い出して。
太鼓が鳴り、舞い、花火が空を輝かせる」
祭りの時を思い出す。
カリッと表面の飴を砕き、果実と一緒に食べる。
甘酸っぱい。
「なんか故郷って感じがする」
先人達が色んな物を持ち込んできたのに、こんなに懐かしく思う物はなかった。
ここの人達が望まなかったのか、先人が伝えなかったのか解らない。
でもこんな故郷を思い出すものがあっても良いなと思えるのは何でだろう。
俺は故郷を捨てたわけでもないし、ただこの世界に惹かれたから残ったんだ。
「美味しい?」
「うん、また食べたくなる。
皆にも食べさせてあげたいぐらい」
「彼氏の運勢はいかに。
棒の先を見るべし」
凶と赤く記されている。
もう既に痛めにあってるし当たっているのか?
それともまだこれから来るのか……、考えたくもない。
「俺も選びたい」
箱の中にまだ林檎飴が残っている。
その一つを手に取り青楓に渡す。
「運命は変えられるかも知れない。
でも彼氏君は気絶したし、変わらない所もあるよう」
ガリガリ……。
蕩けるようなうっとりした顔の青楓は引き当てる。
大吉を!
彼女は誇らしげに見せびらかし、幸運のお裾分けと風太に抱きつくとほっぺに口づけをする。
「占いなんて気にしてないから」
「そう、変えられない定めがもし、重大なことだった時。
彼氏君は受け入れたりするのかな?」
聖女の未来予知によって変えられない未来って事か。
難題を持ってくるな。
「全力を出して駄目なら受け入れる」
「うちは、国王様に謁見する機会があって聞いたの。
どうして、どうして、って」
あの王様か。
俺に塩対応しておいて、可愛い子には何でも答えるって。
「何が解った?」
「食糧不足、人口を半分以下にしないと来年には9割が餓死する。
そんな深刻な状態だって」
「魔族を撃退して、領土を取り戻した筈なのに」
「ああ、それ残酷な事実があって、田畑は魔獣化した作物によって壊滅って。
撃退しても浄化しないと魔素によって魔物へと変化するおまけ付き」
……魔素って剣すら変質させて目玉キョロギョロの魔物に変えていたよな。
あんなのがわんさか出てきたら目玉の集合体みたいに……、うぇってなりそうな程気持ち悪い。
あー、元々は作物でも魔獣はたおしたらグチャーって汚く潰れて食べられなさそう。
「君って巫女だろう。
浄化出来ないのか?」
「ふん」
名前を呼ばないと不機嫌になるのは、面倒くさい。
いくら可愛くても、無理かもしれない。
「青楓、ごめん気をつけるから」
「宜しい、ここに壺があるじゃろ。
うちの成果が詰まっている、心して見よ」
壺の中には、漆黒に近い紫色の結晶が入っている。
禍々しい気を放っているのか、黒い湯気を発す。
「これが魔素の結晶なのか。
という事は畑が使えるようになったのか?」
「彼氏よ、うちは非力ゆえ、封印ができず魔素が漏れ出てしまう。
幾ら集めてもブワーと放出して結局、極僅かしか減らせない有り様、知恵を授けて欲しい」
「うーん。
エネルギーとして使えるみたいだから一気に消費すれば、貯めなくて良いだろう?」
「どのようにして、何に使うのか存ぜぬゆえ」
「……俺も知らない」
青楓は呆れてジト目でため息を付く。
もし仮に内戦を止めて死者を減らせば、後には大量の餓死者が出ることになる。
少ない命を助けてもっと多くの死を招く最悪な結末。
争いの根本的な所を解決しなければ、結局は殺し合いは終わらない。
王家の人達は、民に自分達が生き残るのには誰に付くのか?
誰を排除すれば良いのかと無言で問うている。
「さーて、勇者なら魔王を討つだけでハッピーエンドを迎える。
彼氏君なら、どんなエンドを見せてくれる?」
「……それはお楽しみと言うことで」
「さては考えておらぬな。
では助言してしんぜよう、天命だと受け入れ何もせず幸せにスローライフとやらを満喫する」
「いいかもって何故か微塵も思えない。
自分の手で幸せは掴む……いや、作り出すものだ」
「クスクス……。
ほら、その手で掴んでもみもみしたら、真っ赤な紅葉が舞うかも」
ええっ?
これって揉んでほしいのか、嫌なのかどっちなんだ。
いやよ、いやよと言いつつ、もっとして欲しいみたいな。
……どうすれば良いのか解らない。
話の流れなら男を見せろって感じか?
……詰まったら、スルーするだな。
放置されて青楓は恥ずかしさのあまりに顔が赤くなって、目が泳いでいる。
「助言を得られそうな知り合いがいるから聞いてみることにする」
アマネルは魔素を研究していた筈だから、きっと何か教えてくれるはずだ。
この時、アマネルはドウジン成分不足によって悶え苦しんでいた。
そんな事を知る筈もなく、謎の信頼感を風太は抱いていた。
魔法の手紙は3通持っている。
1枚は作戦の成否を伝える為に残す。
使えるのは2枚しかない、補充もできない。
エリクサー症候群に掛かっていたら、封印して使うことが出来なかっただろう。
しかし、俺は使える。
何故なら道具は使われて初めて輝くことが出来るからだ。
手にした魔法の手紙を青楓が奪い取る。
「うちに任せ給え。
えっへん、字が綺麗と褒められる腕前を見せよう」
「いや、それは念じるだけで良いから」
「ふむふむ、では式神として相手に直接送り届けてあげようかなぁ。にこ」
ニコっ言うのか、それってただの表現を表しているだけの……。
「魔法が掛かっていて、鳩になって飛んでいくから必要ない」
「はっ! うちの価値が暴落中……。
王子様に君は要らないってポイって捨てられたのも、うぅぅぅぅっ」
「無能と捨てられた俺の嫁は最強のチート能力者だった件について、みたいな感じになる。
きっと覚醒してない力が目覚めたら凄いことになるに違いない」
「なにそれ。
クスクスクス……、では彼氏君にそのチートアイテムを授けよう」
積み上げられた箱をよいしょ、よいしょと動かして取り出したるは、巨大なつづらだった。
中には木彫りの人形が収められていた。
「からくりで動くのか?
なんか胸の所が開いて、歯車とか見えているんだけど」
「式神を憑依させる為の依代。
あまりにも可愛いく作りすぎて、彼氏君が惚れないかと心配な逸品ゆえ、見せたくはなかった」
髪もなければ目も口もない、のっぺらぼう。
こんな物に惚れるのか?
制作者は作品を我が子のように愛してしまうらしい。
出来が悪い子ほど可愛いって言うし。
「嬉しいな、俺にくれるのか?」
「うん、大切に使って欲しい」
って、要らないんだけど。
なんで手放すんだ。
ここは絶対にあげない、見せただけって流れになって終ると予想していたのに。
まさか、まんじゅう嫌いか?
だったら失敗作を押し付けられた。
どうするんだ、こんなもの……、今は宿で生活するしか無いのに邪魔な荷物は増やしたくない。
そもそも式神ってなんだ。
幽霊なのか?
だったら、メイドの霊に入ってもらったら……。
たしか人形に入れれば良いって話だし。
人形の額に触れて、メイドの霊を移す。
ドロン!
一瞬で、姿が変貌しメイド姿の少女へとなった。
「にひひひ……、これで風太殿に触れられる」
人形が風太に抱きつく。
「なんだ?
急に髪の毛も生えたし、目や口も……」
感触は硬い、木の香りが漂い、人の魂を入れても人形に変わりない。
「一生、このままでも良い。
転生なんて、諦めて下さい」
「えっと君は誰だった?
顔に見覚えがない」
「私は、えーと、うーん。
思い出せません」
死霊術によって使役されるたびに記憶が失われ従順な下僕と変えられていく。
既に自我が崩壊し、ただの思いだけしか残っていない。
死者の書が仕込んでいた罠が発動しようとしていた。
人形が力を込め始める。
風太の身体が悲鳴を上げ、ググッと締め付けられていく。
「止めろ、痛い!」
「止まらない……」
青楓は針を手に、人形の肩に突き刺す。
「邪悪なるものよ。去りなさい」
開放されたと風太が思った瞬間、青楓が抱きつく。
「ちょっと、何で君が……。
ああっ……、青楓!」
ガラガラと扉が開く。
少年が水桶を持って入ってくる。
「ただいまー」
「おかえり、テラスタン」
少年テラスタンは、人形と一緒に抱きつく青楓の姿に驚きを隠せない。
硬直し、はわわわ……と混乱する。
目がぐるぐると回り、渦を巻くと皆と混じろうと抱きつく。
「いや君も抱きつくのか」
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