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1.ドキドキ!異世界転生しちゃったぞ!
『両親』の到来
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それから数日の間は俺の覚えていることを確認しながら、リハビリがてら屋敷の中を連れ回されることになった。
事故というのがどんなものだったのか、聞こうとしてもはぐらかされるため詳細は知らないが、かなり体にダメージをくらっていたらしい。ベッドの上にいたときは気にならなかった体の重さが立ち上がると途端に襲い掛かってきて、初日はろくに歩けもしなかった。
大人から子供に変わったが為に距離感も微妙におかしく、リハビリついでにその辺りの感覚に慣れていく俺。
そうしていると時間はあっという間に過ぎ、ようやく『カノン』の体に馴染んだ時には目覚めてから2週間は経っていた。
「え? 両親が帰ってくる?」
「はしたないですよカノン様」
リハビリは俺が忘れたとされている礼儀作法にも及び、全く知らないテーブルマナーを一から叩き込まれている最中語られた話につい顔を上げる。ポロリとフォークから落ちたブロッコリーに冷ややかな視線を送りつつ、話を続けたのはあの時部屋にいたメイドさん。遠縁の伯爵家から預っているというメイミさんは、ちょっと厳しい俺の先生でもある。
「早馬からの知らせですと、旦那様と奥様は遅くても明日の夜にはこちらにご到着する予定だそうです」
「明日……いや、随分いきなり……」
身内が相手だと中身が違うことに気づかれるんじゃないかという懸念も多少あるが、それよりも俺には気にかかっていることがあった。目覚めてからの間、『両親』に俺は顔を合わせていない。それはつまり2週間はこの屋敷に『両親』が居らず、さらに言うならそれより以前から、さらにさらに言うなら基本は王都のタウンハウスで過ごしており、領地の本邸には年に数回しか帰ってこないのだという。
これはもしや、『両親』は『カノン』に興味がないのでは……。恐らく『カノン』自らが引き起こしたのであろう事故の理由を垣間見て、ほんの少し胸が痛む。
「あぁ! カノン!! 大丈夫なの? 起きていて平気なの?」
「落ち着けシャミア。まずはカノンを横たわらせるのが先だろう。カノン、無理はしなくていいからな」
……いや思ってたのと違う!
部屋に入って早々、俺の姿を見て泣き出す『母』に、母を宥めつつ俺を気にかける『父』。どう勘ぐっても普段から息子を放置していた人たちの反応ではなく、むしろ溺愛していたかのような素振りである。だったらなんでこんなにも放置されていたんだという話だが、もちろんちゃんと理由があった。
宰相補佐をやっている父は王宮に顔を出す必要があり、侯爵夫人である母は俺が領地に引っ込んでいる分を補うためにも茶会に顔を出す必要がある。
領地から王都までは片道2週間。つまりはこの屋敷に住んでいたら仕事も社交もできないって訳で、様子を見にちょくちょく帰りはするものの管理はもっぱら家令任せなんだそうだ。
だったら『カノン』も王都に連れて行くべきじゃないかって話だが、どうも俺は体が弱かったみたいである。
ちょっとしたことで魔力流れが乱れる体質。特に人が多いと症状が悪化するとのことで、とても王都じゃ過ごせない状態だったのだという。
あ、そう。魔力があるんだよな、この世界。当然、魔法も。
ただ最近じゃ滅多なことで体調は崩さないようになってたらしいし、成長するにつれ治るものだからか中身が変わったからか、俺としては目覚めてから今まで何か不調を感じることもなかった。そろそろカノンも王都に住むか、ってな話も出ていたようだが、とにかくまぁ、そんな感じで緑豊かな辺境で養生する俺と王都の家族、みたいな形で生活が続いていたんだそうな。
危惧していた冷たい家族関係だったのでは? という不安はどこへやら、なんなら現在うざったいほどに甲斐甲斐しく世話を焼かれている。『カノン』はけっこう優秀だったようで、細かいやらかしにも大げさに狼狽する両親にバレたら不味いよな、と思うも息子に関心のあり過ぎる両親はすぐに違和感を覚えたらしい。
そうして誤魔化せば誤魔化すほど気まずくなるだろうと腹をくくって記憶喪失だと告げた俺の目の前には、ついに気絶し倒れた母と、俺と母両方にあわあわと声をかける混乱した父という光景が広がったのだった。
事故というのがどんなものだったのか、聞こうとしてもはぐらかされるため詳細は知らないが、かなり体にダメージをくらっていたらしい。ベッドの上にいたときは気にならなかった体の重さが立ち上がると途端に襲い掛かってきて、初日はろくに歩けもしなかった。
大人から子供に変わったが為に距離感も微妙におかしく、リハビリついでにその辺りの感覚に慣れていく俺。
そうしていると時間はあっという間に過ぎ、ようやく『カノン』の体に馴染んだ時には目覚めてから2週間は経っていた。
「え? 両親が帰ってくる?」
「はしたないですよカノン様」
リハビリは俺が忘れたとされている礼儀作法にも及び、全く知らないテーブルマナーを一から叩き込まれている最中語られた話につい顔を上げる。ポロリとフォークから落ちたブロッコリーに冷ややかな視線を送りつつ、話を続けたのはあの時部屋にいたメイドさん。遠縁の伯爵家から預っているというメイミさんは、ちょっと厳しい俺の先生でもある。
「早馬からの知らせですと、旦那様と奥様は遅くても明日の夜にはこちらにご到着する予定だそうです」
「明日……いや、随分いきなり……」
身内が相手だと中身が違うことに気づかれるんじゃないかという懸念も多少あるが、それよりも俺には気にかかっていることがあった。目覚めてからの間、『両親』に俺は顔を合わせていない。それはつまり2週間はこの屋敷に『両親』が居らず、さらに言うならそれより以前から、さらにさらに言うなら基本は王都のタウンハウスで過ごしており、領地の本邸には年に数回しか帰ってこないのだという。
これはもしや、『両親』は『カノン』に興味がないのでは……。恐らく『カノン』自らが引き起こしたのであろう事故の理由を垣間見て、ほんの少し胸が痛む。
「あぁ! カノン!! 大丈夫なの? 起きていて平気なの?」
「落ち着けシャミア。まずはカノンを横たわらせるのが先だろう。カノン、無理はしなくていいからな」
……いや思ってたのと違う!
部屋に入って早々、俺の姿を見て泣き出す『母』に、母を宥めつつ俺を気にかける『父』。どう勘ぐっても普段から息子を放置していた人たちの反応ではなく、むしろ溺愛していたかのような素振りである。だったらなんでこんなにも放置されていたんだという話だが、もちろんちゃんと理由があった。
宰相補佐をやっている父は王宮に顔を出す必要があり、侯爵夫人である母は俺が領地に引っ込んでいる分を補うためにも茶会に顔を出す必要がある。
領地から王都までは片道2週間。つまりはこの屋敷に住んでいたら仕事も社交もできないって訳で、様子を見にちょくちょく帰りはするものの管理はもっぱら家令任せなんだそうだ。
だったら『カノン』も王都に連れて行くべきじゃないかって話だが、どうも俺は体が弱かったみたいである。
ちょっとしたことで魔力流れが乱れる体質。特に人が多いと症状が悪化するとのことで、とても王都じゃ過ごせない状態だったのだという。
あ、そう。魔力があるんだよな、この世界。当然、魔法も。
ただ最近じゃ滅多なことで体調は崩さないようになってたらしいし、成長するにつれ治るものだからか中身が変わったからか、俺としては目覚めてから今まで何か不調を感じることもなかった。そろそろカノンも王都に住むか、ってな話も出ていたようだが、とにかくまぁ、そんな感じで緑豊かな辺境で養生する俺と王都の家族、みたいな形で生活が続いていたんだそうな。
危惧していた冷たい家族関係だったのでは? という不安はどこへやら、なんなら現在うざったいほどに甲斐甲斐しく世話を焼かれている。『カノン』はけっこう優秀だったようで、細かいやらかしにも大げさに狼狽する両親にバレたら不味いよな、と思うも息子に関心のあり過ぎる両親はすぐに違和感を覚えたらしい。
そうして誤魔化せば誤魔化すほど気まずくなるだろうと腹をくくって記憶喪失だと告げた俺の目の前には、ついに気絶し倒れた母と、俺と母両方にあわあわと声をかける混乱した父という光景が広がったのだった。
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