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2.バタバタ!入学までにもイベント盛りだくさん!
これはちゃんと現実で
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ダッ! と隣にいた騎士の一人が駆け出し、残りは俺を囲むように陣形をとる。今にも倒れそうな体に魔力を巡らせ乱れを落ち着かせ、同時に後ろに振り向いた。
「っ!!」
腰が抜けたのか座り込むさっきのおじいさん、その前には剣を前に突き出し険しい顔をした騎士と、向かい合うように佇む大きな黒い獣。
輪郭がぼんやりとしているのは瘴気があふれているからだろう。四つ足の狼に似た獣は黒の中に濁った灰色の目を浮かばせて、隙あらば飛びかかろうと重心を傾けている。
「っは、あれが、魔物……!」
体中に巡らせた魔力が膜のようになり、ふらつきながらも立ち上がれるようになった俺。しかし未だ気持ち悪さと脱力感は抜けず、どれだけの魔力が瘴気となり放たれているか突きつけられる。
目覚めてから毎日気を抜いていたつもりはない。だけど、やはりどこかしらに「俺にとっての現実ではない」という気持ちが残っていたのかもしれない。
姿形はゲームと同じ、しかしまるで違う存在感に、あれは『生きているのだ』と本当の意味で理解する。忘れていた脇腹の痛みが蘇り、何もないそこをそっと抑えながら俺はこの世界の住人なのだと再度頭に刻みつけた。
多分、これはまだ危惧していた襲撃ではないだろう。恐らく最近活発化したという魔物がたまたま侯爵領に入り込んだものであり、辺りを見渡してもいるのはあの一体だけだ。
先ほどいきなり体調が悪くなったことからも分かるが、思っていたより動きは素早いらしい。だが近付けばああして感じることができるし、魔物になるためにはそれこそずっと瘴気が漂っている必要があるため、俺の領地巡回は無駄ではなかったようだ。
いや、今はそんなことに安心している場合ではない。
「かっ、回復! 回復!! 素早さアップに攻撃力アップ、それに水の槍を……くっ、弾かれる!」
魔力の膜が張れた時点で俺を護ってくれていた騎士からさらに2人魔物の撃退に向かってもらい、少し離れたところから俺は魔法を放ち続ける。デカいとは思っていたがどうやら発生してからかなりの時間が経っているようで、その分色々と食べて成長したせいで手ごわくなっているみたいだ。
じりじり村から離しつつ、攻撃の手を緩めない騎士たち。俺も座り込んでいたおじいさんの前に立ち、戦う騎士の援護をしていく。救援信号は打ち上げたから近場にいる傭兵も参戦してくれるだろうが、それまでは俺たちで対処するしかない。
爪でえぐられた瞬間から回復魔法を飛ばして再生させ、諸々のバフをありったけかける。少しでも援護になればと攻撃もしてみたが、残念ながら俺の練度では魔物の毛を濡らすことくらいしかできなかった。
そうと分かればきっぱり攻撃は諦め、俺は補助と回復に専念する。切り裂いても噛みついても一瞬のうちに治って数秒前より鋭くなった攻撃を繰り出す騎士に、魔物も徐々に押され気味になっていった。
「ガウッ!」
「! こっちに……!」
これならいける! と一層魔力を込めて魔法を放つ俺。それが自分を窮地に立たせていると気付いたのだろう、魔物がするりと騎士の間をすり抜け、全力で俺へと向かってきた。
大きく開いた口を躱そうと一歩後ずさるが、小さく息を呑む音に後ろにまだおじいさんがいたことを思い出す。俺がここで避けてしまったら、おじいさんが丸のみにされてしまう。
土属性の魔法が使えればよかったが、この瞬間になっても湧き上がってくるものはない。覚悟を決めて交差させた腕を前に突き出しありったけの魔力を腕に込める。これで、すぐさま首を噛み千切られることはないだろう。
ゆっくり近づく魔物の口。本当に命の危機に瀕すると時間の流れが遅くなるんだな、なんて考えていると、瘴気ではなく純粋な魔物の魔力がふわりと俺に届いた。
なんだか、懐かしい。魔力が懐かしいなんておかしな話だが、そうとしか言えない感じなのだ。
どうして、なんで、という疑問は魔物の口が俺に辿り着くまでに解けるものではなく、筋肉と神経の引き千切られる熱さに時間は本来の速度を思い出した。
「ぐっ、うぅっ!」
ぼたりと血が地面に落ちたのは一瞬、失われた肉がぶくぶく膨らみ俺の腕は元通りになる。
だが、未だ魔物は健在だ。すぐにでも爪か牙が襲ってくると気を引き締め、再度腕を前に構えた。
「……あれ?」
しかし、いつまで経っても予想していた衝撃はこない。
思わず閉じていた目を開け周囲を確認すると、俺のすぐ近くで魔物が横たわりバタバタと転げ回っていた。
観察してみれば異常に腹部が膨らんでいる。あんな風になっていたっけ? と首を捻ったその瞬間、パァンッ! と景気のいい破裂音と共に魔物は見事にはじけ飛んだ。
呆然とその光景を見る俺と騎士たち。核も傷ついたのだろう、崩れるようにして魔物はそのまま消えていく。
後からやってきた傭兵たちと情報の交換をし、領境の警備を強化するということで話が付いた後、俺は騎士たちとあれはなんだったんだろうかと話し合った。
辿り着いた結論はちょっと信じたくないし認めたくない。
だけどどうやら、あの原因は食い千切られた俺の腕。重ね掛けしておいた回復魔法のせいで膨らみまくった俺の肉片が破裂したんじゃないかってことである。
ああ! これで俺にも立派な攻撃手段、肉片爆弾が!
「って、嬉しくない!!!」
「っ!!」
腰が抜けたのか座り込むさっきのおじいさん、その前には剣を前に突き出し険しい顔をした騎士と、向かい合うように佇む大きな黒い獣。
輪郭がぼんやりとしているのは瘴気があふれているからだろう。四つ足の狼に似た獣は黒の中に濁った灰色の目を浮かばせて、隙あらば飛びかかろうと重心を傾けている。
「っは、あれが、魔物……!」
体中に巡らせた魔力が膜のようになり、ふらつきながらも立ち上がれるようになった俺。しかし未だ気持ち悪さと脱力感は抜けず、どれだけの魔力が瘴気となり放たれているか突きつけられる。
目覚めてから毎日気を抜いていたつもりはない。だけど、やはりどこかしらに「俺にとっての現実ではない」という気持ちが残っていたのかもしれない。
姿形はゲームと同じ、しかしまるで違う存在感に、あれは『生きているのだ』と本当の意味で理解する。忘れていた脇腹の痛みが蘇り、何もないそこをそっと抑えながら俺はこの世界の住人なのだと再度頭に刻みつけた。
多分、これはまだ危惧していた襲撃ではないだろう。恐らく最近活発化したという魔物がたまたま侯爵領に入り込んだものであり、辺りを見渡してもいるのはあの一体だけだ。
先ほどいきなり体調が悪くなったことからも分かるが、思っていたより動きは素早いらしい。だが近付けばああして感じることができるし、魔物になるためにはそれこそずっと瘴気が漂っている必要があるため、俺の領地巡回は無駄ではなかったようだ。
いや、今はそんなことに安心している場合ではない。
「かっ、回復! 回復!! 素早さアップに攻撃力アップ、それに水の槍を……くっ、弾かれる!」
魔力の膜が張れた時点で俺を護ってくれていた騎士からさらに2人魔物の撃退に向かってもらい、少し離れたところから俺は魔法を放ち続ける。デカいとは思っていたがどうやら発生してからかなりの時間が経っているようで、その分色々と食べて成長したせいで手ごわくなっているみたいだ。
じりじり村から離しつつ、攻撃の手を緩めない騎士たち。俺も座り込んでいたおじいさんの前に立ち、戦う騎士の援護をしていく。救援信号は打ち上げたから近場にいる傭兵も参戦してくれるだろうが、それまでは俺たちで対処するしかない。
爪でえぐられた瞬間から回復魔法を飛ばして再生させ、諸々のバフをありったけかける。少しでも援護になればと攻撃もしてみたが、残念ながら俺の練度では魔物の毛を濡らすことくらいしかできなかった。
そうと分かればきっぱり攻撃は諦め、俺は補助と回復に専念する。切り裂いても噛みついても一瞬のうちに治って数秒前より鋭くなった攻撃を繰り出す騎士に、魔物も徐々に押され気味になっていった。
「ガウッ!」
「! こっちに……!」
これならいける! と一層魔力を込めて魔法を放つ俺。それが自分を窮地に立たせていると気付いたのだろう、魔物がするりと騎士の間をすり抜け、全力で俺へと向かってきた。
大きく開いた口を躱そうと一歩後ずさるが、小さく息を呑む音に後ろにまだおじいさんがいたことを思い出す。俺がここで避けてしまったら、おじいさんが丸のみにされてしまう。
土属性の魔法が使えればよかったが、この瞬間になっても湧き上がってくるものはない。覚悟を決めて交差させた腕を前に突き出しありったけの魔力を腕に込める。これで、すぐさま首を噛み千切られることはないだろう。
ゆっくり近づく魔物の口。本当に命の危機に瀕すると時間の流れが遅くなるんだな、なんて考えていると、瘴気ではなく純粋な魔物の魔力がふわりと俺に届いた。
なんだか、懐かしい。魔力が懐かしいなんておかしな話だが、そうとしか言えない感じなのだ。
どうして、なんで、という疑問は魔物の口が俺に辿り着くまでに解けるものではなく、筋肉と神経の引き千切られる熱さに時間は本来の速度を思い出した。
「ぐっ、うぅっ!」
ぼたりと血が地面に落ちたのは一瞬、失われた肉がぶくぶく膨らみ俺の腕は元通りになる。
だが、未だ魔物は健在だ。すぐにでも爪か牙が襲ってくると気を引き締め、再度腕を前に構えた。
「……あれ?」
しかし、いつまで経っても予想していた衝撃はこない。
思わず閉じていた目を開け周囲を確認すると、俺のすぐ近くで魔物が横たわりバタバタと転げ回っていた。
観察してみれば異常に腹部が膨らんでいる。あんな風になっていたっけ? と首を捻ったその瞬間、パァンッ! と景気のいい破裂音と共に魔物は見事にはじけ飛んだ。
呆然とその光景を見る俺と騎士たち。核も傷ついたのだろう、崩れるようにして魔物はそのまま消えていく。
後からやってきた傭兵たちと情報の交換をし、領境の警備を強化するということで話が付いた後、俺は騎士たちとあれはなんだったんだろうかと話し合った。
辿り着いた結論はちょっと信じたくないし認めたくない。
だけどどうやら、あの原因は食い千切られた俺の腕。重ね掛けしておいた回復魔法のせいで膨らみまくった俺の肉片が破裂したんじゃないかってことである。
ああ! これで俺にも立派な攻撃手段、肉片爆弾が!
「って、嬉しくない!!!」
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