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2.バタバタ!入学までにもイベント盛りだくさん!

待ってろよ俺の推し!(出会いは未定)

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「ふんっ! ……どうですか?」
「おお、腰が軽くなった! いつもありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。いい訓練にさせてもらってます」

 ぺこりと頭を下げるおじいさんに手を振り、俺は立ち上がって屈めていた背中をグッと伸ばした。
 ここは侯爵領でも辺境伯領にほど近い村。目覚めてから3年経った今、屋敷から数時間はかかるこの場所に来るのも、もう両手では数えきれないほどである。

 魔物襲撃疑惑に慄いた数日後、タイミングよくやってきたのは魔力の判定士の人たちだった。そう、待ちわびていた魔力判定の儀式である。
 ザ・長老みたいな見た目のにこにこしたおじいちゃんと目つきの鋭いお姉さんの前に座らされ、真昼間に野外にある机に置かれた水晶玉のようなものに魔力を注ぐように言われた。
 属性と魔力量に応じて色が付いたり濃くなったりするらしいそれに、ゆっくり魔力を流していく俺。その間お姉さんの方から抉るように強い視線が飛んできてちょっとビビったりもしたが、他は特別何事もなく判定を終えることができた。

 結果、俺の得意属性は水。水色の髪をしていたからなんとなく知ってた。ついでに瞳はもったり重たげな青をしているのだが、その割には結構な魔力量があるそうだ。嬉しい。

 そうと分かれば早速魔法の訓練だ! いくぜ、ウォーターカッター水の刃で攻撃!!
 ……みたいなことをしてみたかったが、残念ながら俺にウォーターカッターはまだ使えない。
 というか、ウォーターカッターもリーフブレードも始めから使えるとするとそれは火属性なのである。

 きみすきでの属性というのは少しばかり変わっていて、火だから火魔法、水だから水魔法、と分けられるものではない。
 属性には特性があり、それぞれ火は攻撃、水は癒し、土は防御で風は補助、といった具合に担当が割り振られている。だから属性分けでは出てこないのに存在する雷魔法は火属性に分類されるし、結界のような神聖チックな魔法は土属性となる。

 この世界でもそんな分け方であるため、俺が一番早くたくさん取得できるのは回復関連の魔法ってわけだ。ちなみに光属性は浄化で闇属性は消滅。光と水で回復が被っているようにも思えるが、怪我は水の回復魔法で病気は光の回復魔法、みたいな感じで対処できるものが分かれている。

 しかし、癒しである。これじゃ魔物に対抗できないよー! と嘆きそうなものだが、ところがどっこい。要素のあるなしではなく得意不得意だから元から属性二つ持ちなんてのも珍しくないし、頑張れば他属性の魔法を使えるようにもなるという。
 あの、目を覚ました時に俺を見てくれた紫髪のお医者さんは火と水属性の二つが得意で、病巣を攻撃したり疲弊した体を癒したり魔法を使い分けてるんだそうな。魔法界のトップ、王都の魔道士長は光と闇を除いた4属性を自在に操れるというのだから夢がある。

 まぁ壊滅的にセンスがなくて他の属性が使えないってこともざらにあるそうなので、水属性の魔法を伸ばしつつ他のものにも手を出していくことで俺の魔法訓練の方針は決まった。そのころにはある程度基礎知識も頭に入ってきたため、説得に説得を重ねて満を持して余裕の出来た時間を使っての領地視察が解禁されたって訳である。
 
 というのも、やはり魔物の襲撃イベントが怖い。俺が生きているうちに起こるかも分からないが、起こった時になにも対処をしていなかったらそれこそ悔やまれる。
 それに、襲撃があるってことはゲーム本編の時間軸ってことなのだ。俺の推しを護れるチャンス、逃すわけにはいかない! とくかく俺は学園に入学するまで無事に過ごさなければならない!!

 と、色々といいつつ欲望丸出しな思惑もあって、炭鉱のカナリアよろしく侯爵領に瘴気が漂っていないか自ら回ってみることにしたのである。魔物が活発化しているというのは父も懸念していたことであるそうで、俺が頼むより前に辺境伯へは連絡を取っているそう。傭兵も雇って各地に配置の手配をしてくれており、感謝感謝だ。

 そんな草の根運動を3年続け、出会った端から訓練がてら領民の怪我を治していたら、すっかり未来の侯爵様として俺の顔は広まっていた。領主一族が顔を見せることなど滅多にないアルベント領であるため、俺への歓待はすさまじい。誰もかれもが穏やかで人懐っこく、割と放置しているであろうに暴動が起きないのは土地が恵まれているからというのもあるが彼らの人柄もあるのだろうとひしひしと感じていた。始まりは推しとの未来(出会えるかは未定)の為であったが、今ではすっかりこの人たちも救いたいという気持ちが育っている。

 魔法の腕もめきめき上がり、時間が経っていないならば千切れた腕も問題なくくっつけることができるようになっていた。回復魔法に、風属性の効果促進魔法を掛け合わせたのである。
 今は水と風、あと切り傷を作るくらいの火属性魔法を覚えている俺だが、何となく4属性を一応は扱えそうな感じがする。遺伝は頼りになり辛いとはいえ、父と、恐らく妹も土属性だし。血筋から言えば、ポロっと光属性だって使えるかもしれない。

 それは、俺にとって吉報だ。あの推しのイベントが起こった時、他人任せになんかしてられるもんか。
 光属性があれば最上、そうでなくても属性魔法をかけ合わせて効果を高めることができると分かった現在、出来るだけ魔法を習熟しておけば推しの生存確率はきっと上がる。
 推しは優しいから俺みたいなモブとも仲良くしてくれるだろうし、これがきっかけでもっと仲良くなれるかもしれない。別に、付き合いたいとかではない。ただ、大好きな推しには幸せになってもらい、それを眺めていたいのだ。
 
 まぁ、何事もないのが一番いいんだろうが。そうなると推しと会えない可能性の方が高くなるため、ちょっとばかし残念ではある。
 そんな理性と欲望の間を揺れることを考えつつ、今回も瘴気は漂っていないのを確認すると視察の目的は果たしたために屋敷へ帰ろうと護衛の騎士に声をかけて帰り支度をしていく俺。
 
「っ!?」
「! どうされましたかカノン様!」

 すると突然空気が重くなった感じがし、気付けば蹲っていた。
 体の中がぐちゃぐちゃに掻き回されているようでありながら、何かが吸い取られているような感覚もある。青褪めた俺の尋常じゃない様子を見て、騎士たちも剣を引き抜き辺りを警戒していた。

 前兆はなかったはずだ。だけど、これが瘴気に侵された、というやつなのだと本能が告げている。
 まだ、いるとは限らない。たまたま少しだけ瘴気だけが濃くなった、というのもあるかもしれない。

「グルルルルッ!!」

 しかしそんな願望も虚しく、蹲った俺の背後から悲鳴と獣の唸り声が聞こえてきた。 
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