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2.バタバタ!入学までにもイベント盛りだくさん!
結局俺たちはどうなるんだ?
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季節は巡り、エドワードを保護してからそろそろ1年が経とうという月日が過ぎた。
本日の侯爵邸は少々騒がしい。というのも、久しぶりに両親と妹が揃って屋敷へとやってきているのだ。父とは既に顔を合わせていたが、母とラウラはこれが初めて婚約者となったエドワードとのご対面である。
事前に父から説明があったのか、フードを外した瞬間母は少し顔をこわばらせはしたものの特別忌避感を露にすることはなく、ラウラに至ってはピクリとも顔色を変えずに平然と挨拶を言ってのけた。
「始めましてエドワード様。カノンの妹、ラウラ・アルベントです。色々と抜けたところのある兄ですが、どうぞ末永く見守っていただけますと幸いです」
……親かな? というか一応エドワードが侯爵家に入るって建前なんだけど、俺が娶られるような言われ方な気がするな? あれ、婿入りってことだから、それでも間違っていない……のか……?
そして、「一生全力をかけて見守ります」って非の打ち所のない満面の笑顔で答えているエドワード。うん、随分と感情豊かになったよね。父がびっくりしてるよ。そんでそのまま過半数の人が勘違いしちゃいそうなゆるゆるの笑みを俺に向けるもんだから、母は固まっています!
「……仲が良いとは思っていたが、想像以上に……その、親し気になったな」
「他に付け入られることのないよう、しっかり役目を努めさせていただきます」
「……うん、まぁ、ほどほどに、な?」
ちょっと父は戸惑ったままなんだが、仲が悪くなるよりはと折り合いをつけたようだ。一方詳しい事情は知らされていなかったらしく、母は固まったまま、ラウラは少しだけ目を見開いて俺たちを見ている。な、なんか気恥ずかしい……!
ともあれ何事もなく対面は終わり、そのまま和やかに雑談がてらのお茶タイムである。こまめに手紙を送ってはいたが、やはり直に話すとなると話題も尽きない。特に俺のイチオシであるエドワードの魔法の話ではラウラの食いつきが凄まじく、普段は大人びているラウラが珍しくせがんだために庭に出て披露する一面もあった。
ちなみに、エドワードが見せたのはちょっとした天候操作。バリアで作り出したボウリング玉くらいの大きさの透明な球体の中で、温度やら湿度やらを変化させることで雨だったり雲だったりを生み出すーーというもの。……俺の知らないうちにエドワードが魔法を極めている……!?
そんな成長を俺が知らなかったのだから当然父も知るはずがなく、少し話があるとエドワードが父に連れられていくのを俺と母とラウラで見送った。
「……大丈夫?」
「ああ、なんでもない。これからもカノンをよろしくって念を押されただけだ」
「そう……」
あんまりにも強引に引きずられていったのが心配になって戻ってきたエドワードにこっそり尋ねてみれば、返ってきたのは爽やかな笑顔。後ろに見える父はどことなく疲弊の色が濃くなっている気がするが、間に漂う空気が険悪にはなっていないのでまぁ気にすることもないのだろう。
どことなく尊敬の眼差しを受けるようになったエドワードはあっという間に家族に馴染み、その後に控えていた晩餐も和やかな雰囲気で話が進む。うんうん、よかった。辺境伯家の問題もゆくゆくはどうにかするつもりではあるけれど、少なくともそれまでは侯爵家にいることになるからね。よく接することになる人との関係が良いのはいいことだ。
そんなことを考えほわほわしていると、ふと思い出した、といったように父が口を開く。
「そうだ、先ほどエドワード君には伝えたが、彼の叔父一家が捕まったため時期は早まったが私を後見人としてエドワード君が辺境伯当主になることになった。この先辺境伯としての職務もあるので、侯爵家から離れることもしばしばあるだろう」
「へぇ…………うん? 捕まった?」
「ああ」
「エドが当主?」
「ああ。……婚約は、解消しないからな?」
「いやそれを気にしてたんじゃなくて……あれ、え?」
エドワードが辺境伯家に戻ると危なかった原因は叔父一家が牛耳っていたから。その原因が捕まりエドワードが当主となった今、俺と婚約していた根本的な理由ってなくなったのでは?
いやそれより、辺境伯家の当主になったなら侯爵家に婿入りなんてできないのでは……?
「カノン。捕まったっていっても、奴らはすでに釈放されている。まぁもう何もできないとは思うが、俺が力をつけるまでは婚約者でいてくれるか……?」
「別に俺から解消とか破棄とかをするつもりはないんだけど……んん? ていうか、まずなんで捕まったの?」
「領主としての仕事を放棄していることと魔物の核の不当所持、だな。職務放棄については当主が交代してから長らく声が上がっていたのが、アルベント侯爵からもせっつかれたことでようやくしっかり調査されたって感じだ。辺境伯領のお抱え騎士団が優秀で、被害が最小限に抑えられていたのが逆に認められるまで時間がかかる一因になっていたらしい」
「核の不当所持ってのはあの……あれのことだよな?」
「そうだ。そっちの方は流石に外部に漏らしてはいなかったようだが……ふふ、台無しになったなぁ……」
「?」
「カノンと話して思い出してすぐ、エリザに手紙で伝えておいたんだ。王子の婚約者候補って立場を使ってそれとなく話を通してくれってな。それで屋敷に踏み込んだところ、どこかに移動するつもりだったのか隠されもしないでまとめて置かれていたのがすぐ発見されたらしい。だが核を見たところでいつ入手したかまでは分からないから、今から浄化の申請をするところだったって言い訳を完全に否定しきれなかったんだそうだ。数も数だったしな、そんなのずっと持ってるなんて危険な行為、普通は考えられないし」
「そのためはっきりと罪に問えたのは職務放棄についてのみ。当主の資格なしとして辺境伯位を退き、元の子爵位に降爵ということで話を付けることになった」
「それで、空いた辺境伯の座に俺が収まるってわけだ。まだ未成年だが後見人もいるし、なにより他に妥当な血縁者がいないからな。特例として当主になる……が、しばらくはエリザに同行して王都に行っている使用人を多少呼び戻して手伝ってもらいながら仕事に慣れていくことになるな」
「なるほど……」
いきなりすぎていまいち実感はないが、とにかくエドワードを苛んでいたことが一応はなくなったらしいことに安心する。なお王都にいる使用人というのは辺境伯家の古株使用人たちであるらしく、叔父一家の味方になったふりをして単身王都に滞在することになったエリザベスを守っていたそうだ。不当に解雇された使用人も見つけ出して望めば再雇用する予定で、その人たちの力を借りて当主業をやっていくのだという。
そういった諸々から辺境伯にある屋敷にエドワードは帰ることになるのだが、実はエドワード、本当に身の回りの世話をする人にしか髪色のことを知られていなかったのだそう。当主交代のバタバタしている時期に不安を煽るようなものを見せるのは余計な反感を生むということで、ある程度落ち着き指示をまとめた後は時々確認に戻る以外は基本侯爵家で過ごすとのことである。
「それだと今とあんまり変わらないのかな」
「そうだな。学園にも入学するし、本格的に離れるのは卒業の後ってことになるだろう」
「そっか……ん? でも貴族って学園卒業と同時に結婚するのが一般的だろ? 俺たちも卒業後は一緒に住むことになるんじゃ……ってそうだ、俺たちどっちも跡継ぎだけど、そこら辺って問題ないのか?」
「……心配しなくていい。俺もカノンも、それぞれ爵位を継ぐことになる」
「そうなんだ? じゃあ俺もちゃんと辺境伯領について勉強しておかないとな」
「なんでだ?」
「え、だってどっちも跡を継ぐってことは2人で二つの領を治めるってことだろ? お互い支え合っていくことになるじゃんか。まぁそうじゃなくてもお隣さんなんだし内情は知っておきたいとこだけど……。いや、むしろ侯爵領の方はこのままいくならあんまり統治に関わることはないのか……?」
それでいいのかと頭を悩ませる俺。代々続いている統治方法であるが、やっぱり領主がちゃんと見てくれるってのは領民にとって嬉しいものだろう。実際俺が視察に回っていると歓迎されるし。
いきなりは無理でも、少しずつ意識を変えていくのは悪いことではないと思うのだ。狭くても実り豊かってのが領地の強みであるんだから、うまくいけば特産品とかが見つかってわざわざ王都で職を見つけなくても収入が追い付くようになる可能性だってある。
孫やひ孫くらいの代くらいには領地経営だけで侯爵領を保てるようになる未来も……と、そこまで考え俺は気付いてしまった。
「……なぁエド」
「なんだ?」
「ど忘れしちゃったんだけどさ、男同士で子供ってできるんだっけ?」
「……は?」
返ってきたのはエドワードの気の抜けた声。なるほど分かった。この世界も同性同士では子供は作れないんだな。なるほどなるほど。
だから、そんな不思議なものを見るような目を向けるなエドワード!
本日の侯爵邸は少々騒がしい。というのも、久しぶりに両親と妹が揃って屋敷へとやってきているのだ。父とは既に顔を合わせていたが、母とラウラはこれが初めて婚約者となったエドワードとのご対面である。
事前に父から説明があったのか、フードを外した瞬間母は少し顔をこわばらせはしたものの特別忌避感を露にすることはなく、ラウラに至ってはピクリとも顔色を変えずに平然と挨拶を言ってのけた。
「始めましてエドワード様。カノンの妹、ラウラ・アルベントです。色々と抜けたところのある兄ですが、どうぞ末永く見守っていただけますと幸いです」
……親かな? というか一応エドワードが侯爵家に入るって建前なんだけど、俺が娶られるような言われ方な気がするな? あれ、婿入りってことだから、それでも間違っていない……のか……?
そして、「一生全力をかけて見守ります」って非の打ち所のない満面の笑顔で答えているエドワード。うん、随分と感情豊かになったよね。父がびっくりしてるよ。そんでそのまま過半数の人が勘違いしちゃいそうなゆるゆるの笑みを俺に向けるもんだから、母は固まっています!
「……仲が良いとは思っていたが、想像以上に……その、親し気になったな」
「他に付け入られることのないよう、しっかり役目を努めさせていただきます」
「……うん、まぁ、ほどほどに、な?」
ちょっと父は戸惑ったままなんだが、仲が悪くなるよりはと折り合いをつけたようだ。一方詳しい事情は知らされていなかったらしく、母は固まったまま、ラウラは少しだけ目を見開いて俺たちを見ている。な、なんか気恥ずかしい……!
ともあれ何事もなく対面は終わり、そのまま和やかに雑談がてらのお茶タイムである。こまめに手紙を送ってはいたが、やはり直に話すとなると話題も尽きない。特に俺のイチオシであるエドワードの魔法の話ではラウラの食いつきが凄まじく、普段は大人びているラウラが珍しくせがんだために庭に出て披露する一面もあった。
ちなみに、エドワードが見せたのはちょっとした天候操作。バリアで作り出したボウリング玉くらいの大きさの透明な球体の中で、温度やら湿度やらを変化させることで雨だったり雲だったりを生み出すーーというもの。……俺の知らないうちにエドワードが魔法を極めている……!?
そんな成長を俺が知らなかったのだから当然父も知るはずがなく、少し話があるとエドワードが父に連れられていくのを俺と母とラウラで見送った。
「……大丈夫?」
「ああ、なんでもない。これからもカノンをよろしくって念を押されただけだ」
「そう……」
あんまりにも強引に引きずられていったのが心配になって戻ってきたエドワードにこっそり尋ねてみれば、返ってきたのは爽やかな笑顔。後ろに見える父はどことなく疲弊の色が濃くなっている気がするが、間に漂う空気が険悪にはなっていないのでまぁ気にすることもないのだろう。
どことなく尊敬の眼差しを受けるようになったエドワードはあっという間に家族に馴染み、その後に控えていた晩餐も和やかな雰囲気で話が進む。うんうん、よかった。辺境伯家の問題もゆくゆくはどうにかするつもりではあるけれど、少なくともそれまでは侯爵家にいることになるからね。よく接することになる人との関係が良いのはいいことだ。
そんなことを考えほわほわしていると、ふと思い出した、といったように父が口を開く。
「そうだ、先ほどエドワード君には伝えたが、彼の叔父一家が捕まったため時期は早まったが私を後見人としてエドワード君が辺境伯当主になることになった。この先辺境伯としての職務もあるので、侯爵家から離れることもしばしばあるだろう」
「へぇ…………うん? 捕まった?」
「ああ」
「エドが当主?」
「ああ。……婚約は、解消しないからな?」
「いやそれを気にしてたんじゃなくて……あれ、え?」
エドワードが辺境伯家に戻ると危なかった原因は叔父一家が牛耳っていたから。その原因が捕まりエドワードが当主となった今、俺と婚約していた根本的な理由ってなくなったのでは?
いやそれより、辺境伯家の当主になったなら侯爵家に婿入りなんてできないのでは……?
「カノン。捕まったっていっても、奴らはすでに釈放されている。まぁもう何もできないとは思うが、俺が力をつけるまでは婚約者でいてくれるか……?」
「別に俺から解消とか破棄とかをするつもりはないんだけど……んん? ていうか、まずなんで捕まったの?」
「領主としての仕事を放棄していることと魔物の核の不当所持、だな。職務放棄については当主が交代してから長らく声が上がっていたのが、アルベント侯爵からもせっつかれたことでようやくしっかり調査されたって感じだ。辺境伯領のお抱え騎士団が優秀で、被害が最小限に抑えられていたのが逆に認められるまで時間がかかる一因になっていたらしい」
「核の不当所持ってのはあの……あれのことだよな?」
「そうだ。そっちの方は流石に外部に漏らしてはいなかったようだが……ふふ、台無しになったなぁ……」
「?」
「カノンと話して思い出してすぐ、エリザに手紙で伝えておいたんだ。王子の婚約者候補って立場を使ってそれとなく話を通してくれってな。それで屋敷に踏み込んだところ、どこかに移動するつもりだったのか隠されもしないでまとめて置かれていたのがすぐ発見されたらしい。だが核を見たところでいつ入手したかまでは分からないから、今から浄化の申請をするところだったって言い訳を完全に否定しきれなかったんだそうだ。数も数だったしな、そんなのずっと持ってるなんて危険な行為、普通は考えられないし」
「そのためはっきりと罪に問えたのは職務放棄についてのみ。当主の資格なしとして辺境伯位を退き、元の子爵位に降爵ということで話を付けることになった」
「それで、空いた辺境伯の座に俺が収まるってわけだ。まだ未成年だが後見人もいるし、なにより他に妥当な血縁者がいないからな。特例として当主になる……が、しばらくはエリザに同行して王都に行っている使用人を多少呼び戻して手伝ってもらいながら仕事に慣れていくことになるな」
「なるほど……」
いきなりすぎていまいち実感はないが、とにかくエドワードを苛んでいたことが一応はなくなったらしいことに安心する。なお王都にいる使用人というのは辺境伯家の古株使用人たちであるらしく、叔父一家の味方になったふりをして単身王都に滞在することになったエリザベスを守っていたそうだ。不当に解雇された使用人も見つけ出して望めば再雇用する予定で、その人たちの力を借りて当主業をやっていくのだという。
そういった諸々から辺境伯にある屋敷にエドワードは帰ることになるのだが、実はエドワード、本当に身の回りの世話をする人にしか髪色のことを知られていなかったのだそう。当主交代のバタバタしている時期に不安を煽るようなものを見せるのは余計な反感を生むということで、ある程度落ち着き指示をまとめた後は時々確認に戻る以外は基本侯爵家で過ごすとのことである。
「それだと今とあんまり変わらないのかな」
「そうだな。学園にも入学するし、本格的に離れるのは卒業の後ってことになるだろう」
「そっか……ん? でも貴族って学園卒業と同時に結婚するのが一般的だろ? 俺たちも卒業後は一緒に住むことになるんじゃ……ってそうだ、俺たちどっちも跡継ぎだけど、そこら辺って問題ないのか?」
「……心配しなくていい。俺もカノンも、それぞれ爵位を継ぐことになる」
「そうなんだ? じゃあ俺もちゃんと辺境伯領について勉強しておかないとな」
「なんでだ?」
「え、だってどっちも跡を継ぐってことは2人で二つの領を治めるってことだろ? お互い支え合っていくことになるじゃんか。まぁそうじゃなくてもお隣さんなんだし内情は知っておきたいとこだけど……。いや、むしろ侯爵領の方はこのままいくならあんまり統治に関わることはないのか……?」
それでいいのかと頭を悩ませる俺。代々続いている統治方法であるが、やっぱり領主がちゃんと見てくれるってのは領民にとって嬉しいものだろう。実際俺が視察に回っていると歓迎されるし。
いきなりは無理でも、少しずつ意識を変えていくのは悪いことではないと思うのだ。狭くても実り豊かってのが領地の強みであるんだから、うまくいけば特産品とかが見つかってわざわざ王都で職を見つけなくても収入が追い付くようになる可能性だってある。
孫やひ孫くらいの代くらいには領地経営だけで侯爵領を保てるようになる未来も……と、そこまで考え俺は気付いてしまった。
「……なぁエド」
「なんだ?」
「ど忘れしちゃったんだけどさ、男同士で子供ってできるんだっけ?」
「……は?」
返ってきたのはエドワードの気の抜けた声。なるほど分かった。この世界も同性同士では子供は作れないんだな。なるほどなるほど。
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