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3.ワクワク!待ちに待ってた学園生活!
結局のところ、エドワードお前、推しなのか……?
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確かに、一番判別情報にしていた髪の色があまり頼りにならないのは分かっていた。だからおそらく変わることはないだろうと思われる得意属性と性格……困っている人に手を差し出せるような優しさと細やかなところにも気が付けるような目端の利く頼もしさ、という点で探してもらっていたのだ。
そして改めて言われてみると、そういう部分から考えるとエドワードは合致する。何かにつけてエスコートをしたがるし、少しでも普段と違うところがあれば察して尋ねてくるし。
……ただ、なぁ。
「ほら、早く私を……」
「……騒々しいな。気安く話しかけないでくれ」
「なっ!?」
薄々感付いていたけど、エドワードの優しさ、俺限定なんだよなぁ!
まったく視線を向けず、冷たすぎる声でヒロインを突き放すエドワード。ヒロインが俺を用無しだと切り捨てた瞬間一気に機嫌が悪くなったそのままに、舌打ちしそうなくらいのイライラを全身から迸らせている。
いくらゲームと差があるといったって、根本的な部分は多分変わってない。となるとこんなエドワードがあの推しだとは信じがたい、のだが……。否定しきれないのも事実ではある……。
「~~っ!! もう……もう、知らないっ! アンタなんか、『魔王』になっても絶対選んでやんないんだからね!」
「そうか。何のことだか分からないが、俺も君に選ばれたくなんぞないからよかった」
「っ!!!! このっ……!!」
どうなんだろ……と俺が悩んでいる間にも口論は続き、悔し紛れに放たれたヒロインの捨て台詞に俺はぴしりと思考が止まる。
俺も里香も『絶対に買う』と決めている本は、読んだ瞬間の感動を大切にしたくて事前情報はあまり入れないタイプだった。そのため『きみすき』の公式設定資料集は発売前に数ページ公開されていたが、俺たちはむしろ内容をほとんど知らない。薄っすらと流れてくる話を薄っすらと受け取るくらいの情報しか持っていなかった。
その僅かな情報の中に、ルート次第で『魔王』が肉体を持ち新キャラとして登場する、というものがあったのだ。
アプリ化で増える追加シナリオに、新キャラ。しかもそのキャラは原作では敵側の存在だった者、となったらそれはもう8割がたは新しい攻略対象だろう。リメイクで攻略対象が増える、とかよくある話だしな。
それでもって、エドワードだ。
領地だけならまだしも、学園を見渡してもトップクラスの顔面力。そう、エディやカルロスに引けを取らないそのイケメン具合は、逆に言うと攻略対象として彼らに並んでもなんら遜色ないってことである。
きっと資料集のサンプルページも読んでいたのであろうヒロインならば、『魔王』が新攻略対象なのでは? と同じ様に思っただろう。もしかしたら立ち絵とかも出てたのかもしれない。そして、それがエドワードの事だ、と言っているのだ。
……だがしかし。そのヒロインがついさっきエドワードの事を『説明お助けキャラ』とも言ったのだ。
それはつまり……あれ……どういう……?
「……推しがエド……エドが……魔王…………魔王が推しで……エド…………??」
一度に知らない情報が入り、ちょっと混乱する俺。え、あの聖人君子という言葉では足りないくらい『善』の存在が、『魔王』に?
魔物を生み出し土地を枯らす、瘴気を振りまく存在に……??
「……いや……いやいやいや」
落ち着いて考えると、『魔王』がやってたことってそのままエドワードがやろうとすればできてしまう。
今は回収されて浄化されているはずの魔物の核はエドワードが生み出したものであり、核があるならばそのまま魔物に育て上げることだって可能だ。
瘴気は精神が落ち着いて出なくなっているが、あのまま虐げられ続けていたならば止まることはなかっただろう。
……もし、あの時。俺がエドワードに始めて会った時。
逃げ出したエドワードを俺が捕まえていなければ、エドワードは『魔王』になっていた……?
「なら、この世界だと『魔王』は生まれないはず……」
多分、"カノン"はエドワードを追いかけられなかった。
我儘を言わず自分の身の振り方を弁えていただろう"カノン"なら、俺みたいに領地をフラフラして魔物に遭遇、なんてことは体験していないはず。そんな状況で足が竦む瘴気と始めて触れ合ったなら、いくら耐性が付いてきたからって暫くは動けないだろう。
そうして逃げていったエドワードが『魔王』になったのが、ゲームの中の世界……。
「……ん? だけど、推しは学園にいたぞ……?」
「……カノン? どうかしたのか?」
『魔王』がいた作中でも、推しは普通に学園に通っていた。それに、推しは闇じゃなくて水属性だ。
だから別人で……違うな。現に今だって、エドワードは「水属性」なんだ。
「"俺"も、ゲームにいた……それで……『魔王』の『エドワード』を『推し』に仕立て上げた……」
「カノン」
……まずい。考えれば考えるほどこんがらがる。
だけど、俺みたいな存在がゲームにもいたなら、一応筋は通ってしまう。
逃げたエドワードを保護して、水属性を使えるようにして。学園に入学した水属性を使うエドワードが死んで、闇属性を使うエドワードになる。
「学園の襲撃は、『推し』を違和感なく退場させるため? 『魔王』として動きやすくなるように……」
「カノン……カノンっ」
「だけど、元々『魔王』はモヤだったんだぞ? 推しと同一人物なら、肉体はあるはずで……」
「カノン!」
ガッ! と強く肩を掴まれ、途端に狭まっていた視界が開ける。
いつの間にかヒロインはいなくなり、残っているのは心配そうに俺を見るエディと肩を掴む険しい顔つきのエドワードだけ。
「え……エド?」
「あぁ……よかった…………。いくら呼びかけても反応がないから、てっきりあの女の撒き散らしている魔力で意識が朦朧としたのかと……」
「え?……あ、ああ! そういうことか。ごめん、少し考え込んでただけだ。どこにも不調はないよ」
「そうか……」
途端に手からも顔からも力を抜いて安堵するエドワード。
……そうだよな。例え『魔王』なんだとしても、エドワードはエドワードなんだ。恐れることも、ましてや敵対することもしなくたっていい。俺が伸ばした手を、掴んでくれたエドワードなんだから。
第一、ヒロインの思い違いって線もあるし。だって公開されてたページの画像、チラッと見た感じ小さかったしところどころモザイクかかってたりしたしな。
推し=魔王じゃなくて、推しの体をモヤだった魔王が乗っ取ったって可能性もある。むしろ、その方がしっくりくるような気もする。
となると、『魔王』ってモノ自体は自然発生した瘴気の塊の特殊型なんじゃないかって考えになる訳で。そしたらやっぱりエドワードは『魔王』じゃないのでは?
「……うん? だけど、これって……」
エドワード=推し、否定できてなくないか?
あまりの衝撃に脱線してたけど、大切な疑惑は疑惑のままなのでは??
「カノン……本当に大丈夫か……?」
「っ! ひぇ……顔がいい……」
「?」
またしても物思いに耽りかけた俺を、エドワードがのぞき込んでくる。近い位置にある、見慣れたようで慣れない美貌。
それが記憶にしっかり刻まれている推しのセリフと混じり合い、エドワードの姿でセリフが脳内再生された。……控えめに言って致命傷ですありがとうございます。
……って、いや……違うんだ……。俺は内面に惹かれたのであって、外見がどんなだってよかった。それが推しだというのなら、誰だって好きになった。その想いに嘘はない。
だけど、さ。だけどだよ? 最高の内面に最高の外見が付いてきたらそりゃ……駄目だよ。駄目。耐えらんない。
「!? カノン!?」
上がって下がってかき混ぜられて、最後には爆弾を投げつけられて。俺の情緒と思考は限界だった。
ふらりと椅子から倒れ落ちる寸前の俺の耳には、焦ったようなエドワードの声。
あんま意識してなかったけど、お前、声までイケメンだな。
そんなしょうもないことを最後に、俺は意識を途切れさせた。
そして改めて言われてみると、そういう部分から考えるとエドワードは合致する。何かにつけてエスコートをしたがるし、少しでも普段と違うところがあれば察して尋ねてくるし。
……ただ、なぁ。
「ほら、早く私を……」
「……騒々しいな。気安く話しかけないでくれ」
「なっ!?」
薄々感付いていたけど、エドワードの優しさ、俺限定なんだよなぁ!
まったく視線を向けず、冷たすぎる声でヒロインを突き放すエドワード。ヒロインが俺を用無しだと切り捨てた瞬間一気に機嫌が悪くなったそのままに、舌打ちしそうなくらいのイライラを全身から迸らせている。
いくらゲームと差があるといったって、根本的な部分は多分変わってない。となるとこんなエドワードがあの推しだとは信じがたい、のだが……。否定しきれないのも事実ではある……。
「~~っ!! もう……もう、知らないっ! アンタなんか、『魔王』になっても絶対選んでやんないんだからね!」
「そうか。何のことだか分からないが、俺も君に選ばれたくなんぞないからよかった」
「っ!!!! このっ……!!」
どうなんだろ……と俺が悩んでいる間にも口論は続き、悔し紛れに放たれたヒロインの捨て台詞に俺はぴしりと思考が止まる。
俺も里香も『絶対に買う』と決めている本は、読んだ瞬間の感動を大切にしたくて事前情報はあまり入れないタイプだった。そのため『きみすき』の公式設定資料集は発売前に数ページ公開されていたが、俺たちはむしろ内容をほとんど知らない。薄っすらと流れてくる話を薄っすらと受け取るくらいの情報しか持っていなかった。
その僅かな情報の中に、ルート次第で『魔王』が肉体を持ち新キャラとして登場する、というものがあったのだ。
アプリ化で増える追加シナリオに、新キャラ。しかもそのキャラは原作では敵側の存在だった者、となったらそれはもう8割がたは新しい攻略対象だろう。リメイクで攻略対象が増える、とかよくある話だしな。
それでもって、エドワードだ。
領地だけならまだしも、学園を見渡してもトップクラスの顔面力。そう、エディやカルロスに引けを取らないそのイケメン具合は、逆に言うと攻略対象として彼らに並んでもなんら遜色ないってことである。
きっと資料集のサンプルページも読んでいたのであろうヒロインならば、『魔王』が新攻略対象なのでは? と同じ様に思っただろう。もしかしたら立ち絵とかも出てたのかもしれない。そして、それがエドワードの事だ、と言っているのだ。
……だがしかし。そのヒロインがついさっきエドワードの事を『説明お助けキャラ』とも言ったのだ。
それはつまり……あれ……どういう……?
「……推しがエド……エドが……魔王…………魔王が推しで……エド…………??」
一度に知らない情報が入り、ちょっと混乱する俺。え、あの聖人君子という言葉では足りないくらい『善』の存在が、『魔王』に?
魔物を生み出し土地を枯らす、瘴気を振りまく存在に……??
「……いや……いやいやいや」
落ち着いて考えると、『魔王』がやってたことってそのままエドワードがやろうとすればできてしまう。
今は回収されて浄化されているはずの魔物の核はエドワードが生み出したものであり、核があるならばそのまま魔物に育て上げることだって可能だ。
瘴気は精神が落ち着いて出なくなっているが、あのまま虐げられ続けていたならば止まることはなかっただろう。
……もし、あの時。俺がエドワードに始めて会った時。
逃げ出したエドワードを俺が捕まえていなければ、エドワードは『魔王』になっていた……?
「なら、この世界だと『魔王』は生まれないはず……」
多分、"カノン"はエドワードを追いかけられなかった。
我儘を言わず自分の身の振り方を弁えていただろう"カノン"なら、俺みたいに領地をフラフラして魔物に遭遇、なんてことは体験していないはず。そんな状況で足が竦む瘴気と始めて触れ合ったなら、いくら耐性が付いてきたからって暫くは動けないだろう。
そうして逃げていったエドワードが『魔王』になったのが、ゲームの中の世界……。
「……ん? だけど、推しは学園にいたぞ……?」
「……カノン? どうかしたのか?」
『魔王』がいた作中でも、推しは普通に学園に通っていた。それに、推しは闇じゃなくて水属性だ。
だから別人で……違うな。現に今だって、エドワードは「水属性」なんだ。
「"俺"も、ゲームにいた……それで……『魔王』の『エドワード』を『推し』に仕立て上げた……」
「カノン」
……まずい。考えれば考えるほどこんがらがる。
だけど、俺みたいな存在がゲームにもいたなら、一応筋は通ってしまう。
逃げたエドワードを保護して、水属性を使えるようにして。学園に入学した水属性を使うエドワードが死んで、闇属性を使うエドワードになる。
「学園の襲撃は、『推し』を違和感なく退場させるため? 『魔王』として動きやすくなるように……」
「カノン……カノンっ」
「だけど、元々『魔王』はモヤだったんだぞ? 推しと同一人物なら、肉体はあるはずで……」
「カノン!」
ガッ! と強く肩を掴まれ、途端に狭まっていた視界が開ける。
いつの間にかヒロインはいなくなり、残っているのは心配そうに俺を見るエディと肩を掴む険しい顔つきのエドワードだけ。
「え……エド?」
「あぁ……よかった…………。いくら呼びかけても反応がないから、てっきりあの女の撒き散らしている魔力で意識が朦朧としたのかと……」
「え?……あ、ああ! そういうことか。ごめん、少し考え込んでただけだ。どこにも不調はないよ」
「そうか……」
途端に手からも顔からも力を抜いて安堵するエドワード。
……そうだよな。例え『魔王』なんだとしても、エドワードはエドワードなんだ。恐れることも、ましてや敵対することもしなくたっていい。俺が伸ばした手を、掴んでくれたエドワードなんだから。
第一、ヒロインの思い違いって線もあるし。だって公開されてたページの画像、チラッと見た感じ小さかったしところどころモザイクかかってたりしたしな。
推し=魔王じゃなくて、推しの体をモヤだった魔王が乗っ取ったって可能性もある。むしろ、その方がしっくりくるような気もする。
となると、『魔王』ってモノ自体は自然発生した瘴気の塊の特殊型なんじゃないかって考えになる訳で。そしたらやっぱりエドワードは『魔王』じゃないのでは?
「……うん? だけど、これって……」
エドワード=推し、否定できてなくないか?
あまりの衝撃に脱線してたけど、大切な疑惑は疑惑のままなのでは??
「カノン……本当に大丈夫か……?」
「っ! ひぇ……顔がいい……」
「?」
またしても物思いに耽りかけた俺を、エドワードがのぞき込んでくる。近い位置にある、見慣れたようで慣れない美貌。
それが記憶にしっかり刻まれている推しのセリフと混じり合い、エドワードの姿でセリフが脳内再生された。……控えめに言って致命傷ですありがとうございます。
……って、いや……違うんだ……。俺は内面に惹かれたのであって、外見がどんなだってよかった。それが推しだというのなら、誰だって好きになった。その想いに嘘はない。
だけど、さ。だけどだよ? 最高の内面に最高の外見が付いてきたらそりゃ……駄目だよ。駄目。耐えらんない。
「!? カノン!?」
上がって下がってかき混ぜられて、最後には爆弾を投げつけられて。俺の情緒と思考は限界だった。
ふらりと椅子から倒れ落ちる寸前の俺の耳には、焦ったようなエドワードの声。
あんま意識してなかったけど、お前、声までイケメンだな。
そんなしょうもないことを最後に、俺は意識を途切れさせた。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(2件)
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更新めちゃくちゃ嬉しいです!ずっと楽しみに待ってましたー♪♪これからの展開ももちろん楽しみなのですが、カノンくんの攻めシーンもすんごく楽しみです!!
素敵な小説をありがとうございます。
これからも応援してます!
ありがとうございます!
今のところエドワードの好意に押され気味なカノンですが、是非格好良さを見せれるよう頑張りたいです!
更新待ってました(*⁰▿⁰*)ワーイ!
そう、そうだよ!
君の推しはすぐそばにいたんだよ!
このままイチャイチャキャッキャだ!!
ありがとうございます!
推し疑惑浮上のエドワード、果たして真にカノンの推しとなることができるのか…!?といったところですね!