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第三章 ドタバタの歓迎会

一挙に飲み会に突入

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 急に静まり返る宴会場。場の流れを読むと嵯峨は静かに立ち上がった。

「じゃあ、酒も注ぎ終わったみたいだし。ここでつまらねえ訓示をしても仕方ないや。とりあえず初の実働部隊生え抜きの新入隊員の前途を祝して……乾杯!」 

 嵯峨はここは隊長らしく日本酒の猪口をかかげた。その場の者はそれぞれにコップを差し上げ誠と乾杯するが、一人かなめは一息にラム酒を飲み干すと手酌で注ぎ始めた。

「西園寺!続けざまに飲むな!」 

 カウラがかなめをにらみながらそう言った。

「へいへい悪うござんしたねえ。どうせアタシは空気が読めませんよーだ!」 

 かなめはそう言うと、また一息でコップのラム酒を空にした。

「はいお待たせしました。小春!シャムちゃんの豚玉は3倍盛のだからね」 

 駆け上がってきた小夏のお盆の上にはお好み焼きの具とたこ焼きをが乗っている。彼女はそのまま器用に隊員達の間をすり抜けて歩いていく。誠はそれにどことない色気を感じて眼を伏せた。そんな誠に微笑を浮かべてお春は誠の隣に座った。

「あら、ビール空いているのね」 

 そう言うとお春はビールの瓶を持つ。照れながら誠がコップを持つと彼女はゆっくりとビールを注いだ。

「神前君でいいのよね。うちは本当に新さんにお世話になりっぱなしで……」 

 微笑んだ目元に泣きぼくろが見える。

「そう言えば何で隊長を『新さん』って呼ぶんですか?」 

 誠が言葉をかけるとお春は楽しげに嵯峨の方に視線を飛ばした。

「昔ね、私の前の旦那の関係でお世話になった時に、『椎名新三郎』って名前で自己紹介したのよ。どうもその時のことが忘れられなくて……。ああ、そう言えば私達の紹介もまだだったわね。私が家村春子、この店は私のお店。それであの子が小夏。中学二年生だったわよね?」 

 そんな春子の言葉に小夏は口を尖らせた。

「お母さん。『だったわよね』じゃ無いでしょ?」 

 小夏にそう言われると春子も右手で軽く自分の額を叩いた。

「ごめんね、小夏」 

 そう言いながら今度は烏龍茶を手に春子をにらみつけていたカウラに向かう。

 カウラは戸惑いながらもコップを差し出した。

「おい新入り!おめえロリコンだけじゃなくて年上好みなのか?」

 かなめの冷やかす声が飛んだ。ビールを持って明華達のテーブルに向かう春子の背中を見ながら誠は少し冷や汗をかく。 

「聞こえてるぞ!外道。じゃあ外道には烏賊玉で……」

 小夏が嬉しそうにお好み焼きの入ったお椀をかなめの前に置いた。 

「やめろ!アタシは軟体動物が苦手なんだ!」

 そう言うとかなめはそのお椀を誠の前に置きなおす。 

「そうだよ。かなめちゃんたらこの前せっかく蛸(たこ)さんの着ぐるみ作ってあげたのに、全然着てくれないんだから……」 

 シャムは豚玉を鉄板に乗せながらそう言った。

「シャム……お前、やっぱ病院行って来い!蛸じゃなくてもアタシは着ぐるみなんて着ないんだ!」 

 その二人の光景を見るためか、それとも春子に近づく為か、嵯峨は不意に立ち上がると小夏の隣に置かれたお好み焼きの具の入ったお椀を乗せた盆をかなめの前に置いた。

「かなめ坊。先輩にそんな口の利きかたないだろ?さあ神前。ウチの隊じゃあ遠慮は厳禁だ。豚玉、烏賊玉、ミックス、野菜玉、好きなの選べや」 

 嵯峨がテーブルに置いた盆の上のお好み焼きの具を誠に見せて勧める。誠は特に嫌いなものは無いので、手前にあった豚玉を取る。たっぷりの具に満足するとそのままこね回した。カウラは烏賊玉、かなめは誠の豚玉をモノ欲しそうに一瞥した後、野菜玉を手にした。

「神前少尉。ここのお好み焼きは関西風だが、特にタレが秀逸なんだ。春子さんの手作りだからな」 

 ようやく話題をつかめたというように、カウラは豚玉を鉄板に拡げるのに熱中している誠に話しかける。

「そうなんですか。それは楽しみですね」 

 誠はカウラが自慢げに鉄板の隣に置いてあるタレの中につけてある刷毛を取り上げて見せた。誠はそれを見ながら具材を満遍なく鉄板の上に拡げ終わると春子が注いでくれたビールを飲み干す。

「そう言やカウラ。テメエなんでいつもの烏龍茶なんだ?今日は晴れの日だろ?まったく、付き合い悪いよなあ……この女は」

 かなめが絡み酒でそう言ってくるのを無視してカウラは烏賊玉をひっくり返した。そのタイミングを見計らったようにコテを持ったシャムがひょいと現れ、ぽんぽんとその表面を叩いた。カウラは鋭い目つきでシャムを睨み付ける。

「こうやって叩くと美味しくなるんだよ!知らなかった?」 

 あっけらかんとした調子でシャムは今度はかなめの野菜玉を叩き始めた。

「テメエ!お好み焼きを叩いたら歯ざわりが悪くなるじゃねえか!お前のはこうしてやる!」

 怒り出したかなめが立ち上がると、シャムと吉田の座っているテーブルまで出かけて、自分のこてで力任せにシャムの巨大な豚玉を叩いた。シャムの豚玉がちぎれて吉田の烏賊玉にくっついた。その瞬間、吉田はコテを器用に使って自分の烏賊玉と一緒にした。

「あー!俊平!それアタシのだよ!」 

 自分の席に急いで駆けつけたシャムが何事も無かったように烏賊玉を焼いている吉田に詰め寄った。

「西園寺を怒らせたお前が悪い。自業自得だ」

 そう言うと吉田はこてで焼き加減を確かめると、自分の烏賊玉と豚玉の集合体に軽く刷毛でタレを塗った後、鰹節を振りかけて完全に占有した。悲しそうな眼でシャムがその様子を眺めている。そんなシャムを見かねたのかマリアが出来上がった自分の豚玉をひとかけら皿に乗せてやってきた。

「泣くな……私のをやるから」 

 袖に手を回した落ち着いた手つきでシャムの巨大な豚玉にタレを塗りながらマリアがやさしく声をかける。シャムはそんなマリアのやさしさに、嗚咽しそうになるのをやめて満面の笑みを浮かべると、海苔も鰹節もかけずにもらった豚玉を一口で平らげた。

 シャムは嬉しそうにマリアからもらった一口を食べると、そのままビールを飲み始めた。
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