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第26章 装備品
装備品
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「容疑者は計十五名……ですか」
杉田と言う老刑事はどうにか言葉を絞り出したと言う体でつぶやいた。
それまでなんとかこの十五人の共通点を提示して見せたカウラの言葉。そんな彼女の苦労に誠はただ黙って賛辞を送るだけだった。だが明らかに杉田の表情は気に入らないことばかりという風にしか見えなかった。
狭い元倉庫の豊川警察署の誠達の詰め所。空気はどんよりと重い。吉田の自治体のサーバへのハッキングの事実がこのデータを裏付けているは言うわけにも行かず『同盟厚生局の資料』と言う言い訳で何とか説明しようとしたが、明らかに杉田は胡散臭い目つきでモニターを動かすカウラを眺めていた。
「同盟厚生局がどんな資料を持っているか知りませんが……そんなよく分からない資料で絞り込んだ十五人を名指しで指定して捜査を進めろと?問題にならないですね。馬鹿馬鹿しい」
そんな杉田の一言にかなめが飛び掛りそうな勢いで立ち上がろうとするのをアイシャが何とか制した。しかし誠にもかなめの気持ちはよく分かった。
「犠牲者が出てしまったんですよ……」
「それは分かっているんですが……万が一、この資料が正しいとしましょう。それではこの十五人を呼んで任意で聴取を取るとして、根拠は何ですか?うかがった限りではその呼び出しをかける資料が同盟機構の持ち出し禁止の資料らしいじゃないですか?そんなものに頼って呼び出したところで弁護士を立てられたら即、証拠不十分で釈放ですよ」
「んなことは分かってんだよ!」
かなめはついに切れて机を叩き折ってしまった。その轟音と迫力でさすがの杉田も飛び上がってあとづさる。杉田を殺気を込めた瞳で睨み付けるかなめの前にさっと出たアイシャがかなめの壊した机をそのまま脇にどける。そして何事も無かったかのように元の椅子に戻った。
「確かに。私達も起訴が難しいことは十分予想していますよ。でもね、杉田さん……もしこの事件の犯人に興味を持つ人物が悪意を持ってこの十五人の中にいるだろう犯人と接触を図ったとしたらどうします?」
アイシャはその通称『伝説の流し目』と呼ばれる色気のある視線を杉田に向けた。こういう時はアイシャは悪いことを考えている。
「クラウゼ少佐……いや、警部。言っている意味が分かりませんが……」
杉田の表情が明らかに曇っている。誠は直感した。杉田はアイシャの言うことが分からないんじゃない分かりたくないんだ。事実、杉田の手元の湯飲みに伸びる手は震えていた。アイシャは当然のようにたたみ掛ける。
「杉田さん。私はあなたはそれほど愚かだとは思っていませんよ。分かりませんじゃなくて分かりたくないって意味なんじゃありませんか?」
アイシャの流し目が凡庸な顔立ちの杉田を捕らえた。しばらく目をそらし、頭を掻きながら考えた振りをしている杉田。その様子がさらにかなめをいらだたせて立ち上がる口実を与える。そして当然のように驚いた杉田が椅子を後ろに下げた。
「実際前の『同盟厚生局事件』を見れば分かるようにゲルパルトの非合法テロ組織やベルルカンや東モスレムのイスラム至上主義勢力による法術師の開発や取り込みの動きがあるのはご存知ですよね」
アイシャの落ち着いた言葉遣いに何とかかなめにおびえる心を奮い立たせるように杉田は椅子を元に戻した。そして口を開こうとするところでアイシャはそれを制するように言葉を続けた。
「現在、私達同盟司法局でも他者の法術適正を発動させると言う今回のような能力を持った例を確認してはいません。我々にとってもまた今回の容疑者の能力はきわめて興味深いんです。それはどの組織にとっても同じことだと言うのが専門家の一致した見解です」
『専門家の一致した見解』と言うアイシャの言葉に鬼の形相だったかなめが思わず噴出しそうになる。単にここに座っている誠達と吉田の意見をそれらしく修飾した『専門家』と言う言葉。その意味を知って必死に笑いをこらえているかなめの姿がおかしくて誠は思わず噴出したが、冷酷そうに見えるアイシャの細い目ににらまれて誠はそのまま黙り込んだ。
「つまり……法術に関心を持つ組織が本当に実在するとして、彼等がこの十五人との接触を図ると言いたいんですね」
さすがにここまで言われて杉田は苦々しげに話しの序の口に当たる前提条件をようやく認めてみせた。彼も警察組織の一員である。法術師を研究対象として集めている組織が多数あることも杉田は知っているだろう。集める手段も多額の報酬を払っての自発的協力から誘拐まで様々あることも十分分かっているはずだった。
それでも治安の守護者である警察が勝手気ままにテロ組織や他国の工作員に自分の庭を荒らされている事実を身内ではない司法局に認めるわけには行かない。そして組織人である杉田もまたその事実を自分の口から吐露することだけは避けたいというように表情をゆがめて座っている。
「本当にそんな組織が実在するかどうかだって?認めたく無いのは東都警察だけだろ?」
また怒りがふつふつと煮えてきたのかかなめがつぶやく。その言葉に杉田は不快感を隠そうとしない。カウラはかなめの肩に手を伸ばすがかなめは心配するなと言うようにそれをふりほどいた。
「別にそれらの組織に対する警察の内偵の実情まで知りたいわけではありませんから。それに東都警察お得意の別件逮捕や予防検束をお願いするつもりは無いですよ。人手を必要とするような戸別訪問も必要ありません。我々に与えられた時間は少ないですが……司法局は警察の面子をつぶすのが仕事ではありませんから」
アイシャの言葉に杉田は大きく安堵のため息をつく。それを見てまたかなめが噴出しそうになっているのが誠の腹筋を刺激する。
「今までお願いしていた警邏隊の巡回活動をこの十五人を重点的に行っていただければ結構です。それと……」
そう言って立ち上がったアイシャは部屋の隅の大きな箱に向かう。誠も見たことが無いいつの間にか置かれた上下1メートルほどの箱をアイシャが持ち上げようとする。
「ちょっと!そこの怪力二人!」
「誰が怪力だ!」
誠はアイシャの助けに向かうが売り言葉で挑発されたかなめは叫ぶだけで立ち上がる気配も無い。仕方なくアイシャと箱を持ち上げようとしてみた。結構な重さと中に入った多くの小箱が箱の上から見えた。
「菱川精密機械株式会社……」
誠は隙間のラベルを見て読み上げる。二人で運ぶ大きな箱に杉田は興味を示しているようだった。
「これが……新型の演操術系法術反応対応の簡易型のアストラルパターンゲージです」
テーブルの横に箱を置くとアイシャはその中の一つ。二十センチ四方くらいの小箱を取り出した。思わず立ち上がる杉田。そしてアイシャは彼の興味深そうな瞳を一瞥した後その一つを取り出し開封した。
緩衝材に包まれた小型の弁当箱のようなものが誠の席からも見えた。そして渡された杉田はいくつかのモジュラージャックとディスプレイのついたアストラルゲージをまじまじと眺める。
「これまでの順路を多少変えて、警邏隊にこれを持ってパトロールさせるくらいのことはできますわよね」
これ以上は妥協できない。そんなアイシャの意志のようなものを感じる鋭い視線が杉田を捉えていた。
「ええ……そのくらいのことなら……」
そう言いながら杉田は珍しい機械を興味深げに見る。彼としてもアイシャの提案は呑めないものでは無かった。
「これでこれまでのすべての犯行現場で観測されたアストラルゲージの値と一致する人物を特定していただければ結構です。後はうちのお仕事ですから」
「はあ」
アイシャの自信に満ちた言葉。杉田は興味のある機械を眺めながら曖昧にうなづいた。
杉田と言う老刑事はどうにか言葉を絞り出したと言う体でつぶやいた。
それまでなんとかこの十五人の共通点を提示して見せたカウラの言葉。そんな彼女の苦労に誠はただ黙って賛辞を送るだけだった。だが明らかに杉田の表情は気に入らないことばかりという風にしか見えなかった。
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「同盟厚生局がどんな資料を持っているか知りませんが……そんなよく分からない資料で絞り込んだ十五人を名指しで指定して捜査を進めろと?問題にならないですね。馬鹿馬鹿しい」
そんな杉田の一言にかなめが飛び掛りそうな勢いで立ち上がろうとするのをアイシャが何とか制した。しかし誠にもかなめの気持ちはよく分かった。
「犠牲者が出てしまったんですよ……」
「それは分かっているんですが……万が一、この資料が正しいとしましょう。それではこの十五人を呼んで任意で聴取を取るとして、根拠は何ですか?うかがった限りではその呼び出しをかける資料が同盟機構の持ち出し禁止の資料らしいじゃないですか?そんなものに頼って呼び出したところで弁護士を立てられたら即、証拠不十分で釈放ですよ」
「んなことは分かってんだよ!」
かなめはついに切れて机を叩き折ってしまった。その轟音と迫力でさすがの杉田も飛び上がってあとづさる。杉田を殺気を込めた瞳で睨み付けるかなめの前にさっと出たアイシャがかなめの壊した机をそのまま脇にどける。そして何事も無かったかのように元の椅子に戻った。
「確かに。私達も起訴が難しいことは十分予想していますよ。でもね、杉田さん……もしこの事件の犯人に興味を持つ人物が悪意を持ってこの十五人の中にいるだろう犯人と接触を図ったとしたらどうします?」
アイシャはその通称『伝説の流し目』と呼ばれる色気のある視線を杉田に向けた。こういう時はアイシャは悪いことを考えている。
「クラウゼ少佐……いや、警部。言っている意味が分かりませんが……」
杉田の表情が明らかに曇っている。誠は直感した。杉田はアイシャの言うことが分からないんじゃない分かりたくないんだ。事実、杉田の手元の湯飲みに伸びる手は震えていた。アイシャは当然のようにたたみ掛ける。
「杉田さん。私はあなたはそれほど愚かだとは思っていませんよ。分かりませんじゃなくて分かりたくないって意味なんじゃありませんか?」
アイシャの流し目が凡庸な顔立ちの杉田を捕らえた。しばらく目をそらし、頭を掻きながら考えた振りをしている杉田。その様子がさらにかなめをいらだたせて立ち上がる口実を与える。そして当然のように驚いた杉田が椅子を後ろに下げた。
「実際前の『同盟厚生局事件』を見れば分かるようにゲルパルトの非合法テロ組織やベルルカンや東モスレムのイスラム至上主義勢力による法術師の開発や取り込みの動きがあるのはご存知ですよね」
アイシャの落ち着いた言葉遣いに何とかかなめにおびえる心を奮い立たせるように杉田は椅子を元に戻した。そして口を開こうとするところでアイシャはそれを制するように言葉を続けた。
「現在、私達同盟司法局でも他者の法術適正を発動させると言う今回のような能力を持った例を確認してはいません。我々にとってもまた今回の容疑者の能力はきわめて興味深いんです。それはどの組織にとっても同じことだと言うのが専門家の一致した見解です」
『専門家の一致した見解』と言うアイシャの言葉に鬼の形相だったかなめが思わず噴出しそうになる。単にここに座っている誠達と吉田の意見をそれらしく修飾した『専門家』と言う言葉。その意味を知って必死に笑いをこらえているかなめの姿がおかしくて誠は思わず噴出したが、冷酷そうに見えるアイシャの細い目ににらまれて誠はそのまま黙り込んだ。
「つまり……法術に関心を持つ組織が本当に実在するとして、彼等がこの十五人との接触を図ると言いたいんですね」
さすがにここまで言われて杉田は苦々しげに話しの序の口に当たる前提条件をようやく認めてみせた。彼も警察組織の一員である。法術師を研究対象として集めている組織が多数あることも杉田は知っているだろう。集める手段も多額の報酬を払っての自発的協力から誘拐まで様々あることも十分分かっているはずだった。
それでも治安の守護者である警察が勝手気ままにテロ組織や他国の工作員に自分の庭を荒らされている事実を身内ではない司法局に認めるわけには行かない。そして組織人である杉田もまたその事実を自分の口から吐露することだけは避けたいというように表情をゆがめて座っている。
「本当にそんな組織が実在するかどうかだって?認めたく無いのは東都警察だけだろ?」
また怒りがふつふつと煮えてきたのかかなめがつぶやく。その言葉に杉田は不快感を隠そうとしない。カウラはかなめの肩に手を伸ばすがかなめは心配するなと言うようにそれをふりほどいた。
「別にそれらの組織に対する警察の内偵の実情まで知りたいわけではありませんから。それに東都警察お得意の別件逮捕や予防検束をお願いするつもりは無いですよ。人手を必要とするような戸別訪問も必要ありません。我々に与えられた時間は少ないですが……司法局は警察の面子をつぶすのが仕事ではありませんから」
アイシャの言葉に杉田は大きく安堵のため息をつく。それを見てまたかなめが噴出しそうになっているのが誠の腹筋を刺激する。
「今までお願いしていた警邏隊の巡回活動をこの十五人を重点的に行っていただければ結構です。それと……」
そう言って立ち上がったアイシャは部屋の隅の大きな箱に向かう。誠も見たことが無いいつの間にか置かれた上下1メートルほどの箱をアイシャが持ち上げようとする。
「ちょっと!そこの怪力二人!」
「誰が怪力だ!」
誠はアイシャの助けに向かうが売り言葉で挑発されたかなめは叫ぶだけで立ち上がる気配も無い。仕方なくアイシャと箱を持ち上げようとしてみた。結構な重さと中に入った多くの小箱が箱の上から見えた。
「菱川精密機械株式会社……」
誠は隙間のラベルを見て読み上げる。二人で運ぶ大きな箱に杉田は興味を示しているようだった。
「これが……新型の演操術系法術反応対応の簡易型のアストラルパターンゲージです」
テーブルの横に箱を置くとアイシャはその中の一つ。二十センチ四方くらいの小箱を取り出した。思わず立ち上がる杉田。そしてアイシャは彼の興味深そうな瞳を一瞥した後その一つを取り出し開封した。
緩衝材に包まれた小型の弁当箱のようなものが誠の席からも見えた。そして渡された杉田はいくつかのモジュラージャックとディスプレイのついたアストラルゲージをまじまじと眺める。
「これまでの順路を多少変えて、警邏隊にこれを持ってパトロールさせるくらいのことはできますわよね」
これ以上は妥協できない。そんなアイシャの意志のようなものを感じる鋭い視線が杉田を捉えていた。
「ええ……そのくらいのことなら……」
そう言いながら杉田は珍しい機械を興味深げに見る。彼としてもアイシャの提案は呑めないものでは無かった。
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