レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第20章 大乱の予感

苦悩と友情

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 赤松忠満准将は第三艦隊司令室で画面の中のかつての友に苦い表情で接していた。

『俺は知らん』 

 先日飲み明かした安東貞盛はそう言うと下を向いた。恐らくそれが本心であることは気もそぞろのように見える視線で赤松にも分かっていた。だが今の立場ではそんな旧友の心情を思いやるだけの余裕は無かった。

「あのなあ、ワシは貞坊を責めるつもりで言うとるわけやないで。清原はんのすることに色々言いたいのはほんまやけどそれをすべて貞坊が把握し取るとは思うてないわ」 

 時に激しそうになるのを抑えながら赤松は言葉を続けようとして口ごもる。

 越州コロニーの鎮台府の艦隊が騒乱罪での城大佐の身柄の確保の為に出撃した憲兵隊の護衛艦を撃沈してそのまま濃州に向かっていることは二人とも知っていた。そしてその濃州は二人の親友だった斎藤一学の領邦であり、今は彼の妹の洋子や忘れ形見のトメ吉の子明子が住むコロニーとして思い入れのある場所だった。

『城さんがあそこのコロニーに含むところがあったのは昔からだ。そして清原さんは城さんとは親しい。俺がどうこうできる関係じゃないんだ』 

 そう言い訳をする画面の中の友。赤松も知っていた。安東がどうこうできる話ではない。確かに安東の『胡州の侍』の異名は烏丸派の陣営を固めるために宣伝されている重要な売り文句のひとつだった。そして彼を慕う多くの士官達がそんな安東を持ち上げており、その様子に清原准将が一目置いているのは事実だった。だがそれは大局を動かすほどのことではないことは赤松も十分承知していた。

 胡州はテラフォーミング化した遼州星系第四惑星と二つの衛星、そして衛星軌道上の十七のコロニー群と明日テロイドベルトの二十三のコロニー群で構成されている。物資を東和や外惑星コロニーに頼っているアステロイドベルトコロニー群では烏丸派の支持は少なくその中で越州は孤立していた。しかし、他のコロニーの防衛艦隊は現在外惑星ゲルパルトの動乱の仲裁のためはるか遠くに展開している。その状態で烏丸派の清原准将が親友の城一清提督に決起を依頼することは別に不思議な話でもなかった。

「どうしても……どないしても戦争にしたいんか?戦争がそんなに好きなんか?貞坊……」 

 答えなど求めていないと言うように赤松がつぶやく。

『すまん』 

 それだけ言うと安東は通信を切った。

「一人で苦しむなや……苦しんでどないすんねん。洋子や明子を殺すことになるかもしれへん城さんの行動を阻止でけへんことはお前のせいやないんや」 

 赤松はそう言うと伸びをした。執務室の応接用ソファーには赤松の片腕である別所が静かに座っていた。二人の目が合う。そして大きなため息が赤松の口から漏れた。

「ご心中お察し……」 

 そこまで言って別所は言葉に詰まった。一人顔を下げて目をこする赤松。上官の涙を初めて見た別所は当惑していた。

「ええよ、気いつかわんでも。どうしようもないことは世の中色々あるやん」 

 赤松は顔を起こした。目は赤く染まっているのが別所からも見える。

「ですがどう動きますか?恐らく討伐隊には第三艦隊が選ばれるでしょうが……」 

「清原さんは動くやろな。ワシ等が離れれば決起の好機や。見逃すほどアホやないやろ」 

 そう言ってそのまま椅子に身を投げて伸びをする赤松。その様子を見て赤松がかなり悩んでいることに別所は気が付いた。

「でも良いんですか?閣下の奥さんは……」 

「貴子さんのことは言っても無駄や。あの人はワシより男らしいよって。『情に流されるなら死になさい』と言われるのが落ちなんちゃうか?」 

 安東貞盛の姉に当たる赤松忠満の妻貴子。凛として常に武家の妻を演じている彼女の姿を見慣れている別所も赤松の言うことはもっともだと思っていた。しかし、問題はさらに複雑だった。赤松の妹の恭子は安東の妻だった。彼女は心が弱く、輿入れ後は長いこと床に伏せっていた。

「言いたいことはわかるんやけど……私情ははさみとうないなあ」 

 赤松はすぐさまそう言って別所の言葉をさえぎる。

「ともかく醍醐はんと作戦のすりあわせをせなあかんな。出かけるぞ」 

 そう言って立ち上がって詰襟の一番上のホックをかける赤松。つられて別所は腰に手をやるが先日の赤松の訓示で軍刀をはずしていたのを思い出して苦笑いを浮かべる。

「丸腰はやはり慣れないわなあ」 

 赤松はにこりと笑うと再び神妙な顔つきに戻って傾いていた帽子を被りなおした。

「おやっさん!」 

 ドアを開けるとそこには魚住と黒田の姿もあった。二人とも神妙な表情で赤松に敬礼する。

「官邸から出頭命令が出ました」 

 魚住の言葉にうなずいた後、廊下の天井を見上げる赤松。

「始まりやな」 

 そう言うと別所が先に立って歩くのに付き従う赤松だった。
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