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第26章 決起の日
病床の妻
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安東は車から降りると玄関で立ち止まった。
「御前……」
「いや、いい。気にしないでくれ」
心配そうに言葉をかけてくる運転手の田中にそう言うと玄関を開いた。目の前に座っている安東の子供時代からこの家に仕えている飯田という名の下男が眠りから覚めて驚いた表情で安東を見上げた。
「これは!御前!」
「気にするな。たまたま暇ができたから帰ってきただけだ」
そう言うと安東は静かに腰を下ろして軍用のブーツを脱ぐために腰をかける。
「恭子様は今日は発作もなく……」
「分かってる。ちゃんと顔は出すさ」
妻の恭子の名前を出されて少し照れながらコートを飯田に差し出した。
恭子は病んでいた。医師は心労がたたっていると言うが、それだけが原因でないのは安東にも分かっていた。確かに彼女は兄の赤松忠満と夫との対立に心を痛めていたのは事実だが、それ以上に何かがあるのではと安東は医師を問い詰めて答えを引き出した。神経系が次第に衰弱して死に至る病気。医師は安東にそう打ち明けた。神経系に欠陥がなければサイボーグ化しての延命は可能だが、肝心の脊髄から小脳にかけての神経に問題があるとなれば話は別だった。
延命の道が無い。そのことは恭子には黙っているが、彼女もうすうす感づいているらしく最近は軍務で忙しい安東がたまに顔を出しても会おうとしない日が続いていた。
「それじゃあちょっと見てくるよ」
軍靴を脱ぎ終えた安東は飯田にそう優しく言い残して廊下を恭子が暮らしている別館へと進んだ。彼の領邦である羽州はアステロイドベルトでも大型の小惑星が多く存在していて資源に恵まれたところだった。父母に早く死なれて姉であり今は敵である赤松家に嫁いだ姉の貴子と二人で烏丸卿の後見で暮らしてもこの中堅貴族にしては大きな帝都屋敷を管理できる程度の収入はあった。
庭の大きな緑色の岩に目をやると、そこには恭子の姿があった。
「恭子!起きていて……」
安東が思わず素足で庭に下りたのを見て恭子は驚くような表情で手にしていたトンボ珠を振り回しながら別館の方へと消えていった。
そのまま駆け出した安東。だが閉め切られたふすまを見てその手は戸から離れていた。
「おかえりなさい……」
ようやく搾り出したと言うような恭子の声に静かに頷く安東。何も言えずにただ日暮れの庭にたたずむ。
「調子はどうなんだ?」
「悪くは無いです」
扉の裏に張り付いて開かないように踏ん張っている恭子のことを思うと安東は胸が締め付けられる気持ちになった。始めは二人はこうではなかったはずだ。安東はそう思い返してみる。
「御前……」
「いや、いい。気にしないでくれ」
心配そうに言葉をかけてくる運転手の田中にそう言うと玄関を開いた。目の前に座っている安東の子供時代からこの家に仕えている飯田という名の下男が眠りから覚めて驚いた表情で安東を見上げた。
「これは!御前!」
「気にするな。たまたま暇ができたから帰ってきただけだ」
そう言うと安東は静かに腰を下ろして軍用のブーツを脱ぐために腰をかける。
「恭子様は今日は発作もなく……」
「分かってる。ちゃんと顔は出すさ」
妻の恭子の名前を出されて少し照れながらコートを飯田に差し出した。
恭子は病んでいた。医師は心労がたたっていると言うが、それだけが原因でないのは安東にも分かっていた。確かに彼女は兄の赤松忠満と夫との対立に心を痛めていたのは事実だが、それ以上に何かがあるのではと安東は医師を問い詰めて答えを引き出した。神経系が次第に衰弱して死に至る病気。医師は安東にそう打ち明けた。神経系に欠陥がなければサイボーグ化しての延命は可能だが、肝心の脊髄から小脳にかけての神経に問題があるとなれば話は別だった。
延命の道が無い。そのことは恭子には黙っているが、彼女もうすうす感づいているらしく最近は軍務で忙しい安東がたまに顔を出しても会おうとしない日が続いていた。
「それじゃあちょっと見てくるよ」
軍靴を脱ぎ終えた安東は飯田にそう優しく言い残して廊下を恭子が暮らしている別館へと進んだ。彼の領邦である羽州はアステロイドベルトでも大型の小惑星が多く存在していて資源に恵まれたところだった。父母に早く死なれて姉であり今は敵である赤松家に嫁いだ姉の貴子と二人で烏丸卿の後見で暮らしてもこの中堅貴族にしては大きな帝都屋敷を管理できる程度の収入はあった。
庭の大きな緑色の岩に目をやると、そこには恭子の姿があった。
「恭子!起きていて……」
安東が思わず素足で庭に下りたのを見て恭子は驚くような表情で手にしていたトンボ珠を振り回しながら別館の方へと消えていった。
そのまま駆け出した安東。だが閉め切られたふすまを見てその手は戸から離れていた。
「おかえりなさい……」
ようやく搾り出したと言うような恭子の声に静かに頷く安東。何も言えずにただ日暮れの庭にたたずむ。
「調子はどうなんだ?」
「悪くは無いです」
扉の裏に張り付いて開かないように踏ん張っている恭子のことを思うと安東は胸が締め付けられる気持ちになった。始めは二人はこうではなかったはずだ。安東はそう思い返してみる。
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