レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第34章 障害物

表裏比興のモノ

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「遠いな……抵抗する部隊は?」 

 醍醐は仮説テントでじっと座ってコーヒーを飲んでいた。絶え間なく響くアサルト・モジュールの飛ぶ爆音と装甲車両の地響き。あわただしく連絡士官達が駆け回るのを満足げに眺める。

「元々胡州駐在の部隊は西園寺さんの息がかかっていますから。現在清原派に同調して篭城している部隊は三つ」 

 眼鏡の連絡士官が試すように手にした端末のモニターを隠して醍醐を見つめる。

「陸南の田村さんと北最上の織田さん……」 

 そこまで言うと醍醐はコーヒーをテーブルに置いて立ち上がる。そのまま正解を言われて安堵しているような将校をどかせるとそのまま端末のキーボードを叩き始める。

「陸南の四千は分断しているが織田さんの所は南下されるとことだな。南極の池。あいつはなんだって清原と組したがるのか……」 

 モニターにはロマンスグレーの中年男の顔が映っていた。

 池幸重少将。醍醐、地下佐賀と並ぶ嵯峨の三老と呼ばれる嵯峨家の家臣団の頂点に立つ男。兄の佐賀高家が嵯峨家の領邦欲しさに清原派に付いたような清原派の揺さぶりを受けたわけでもなくただ胡州星上の四条畷に継ぐ宇宙港を固めて沈黙する様は驚異的に見えた。

「あれじゃないですか?西園寺卿が嫌いだとか」 

「別にそんなことは無いだろ?惟基が嵯峨の家督を継げたのはあの人の助言があったからだぞ。嫌いならそもそも西園寺の三男で康子様に頭の上がらない惟基の相続を認めるわけが無い」 

 そう言って醍醐はモニターの前の椅子にどっかりと腰をかける。

「それなら何で……」 

 眼鏡の将校を一瞥してモニターを見る。そして醍醐はにんまりと笑ってその連絡将校を見上げた。

「わからん」 

 明るくそう言われると将校もただ呆れるしかなかった。

「あいつのことだ。俺と自分のどちらが強いか比べたいとかそんな理由じゃないのか?胡州は軍人の国だ。あいつも俺もそれを思い知らされて今まで生きてきた。名声や出世。どちらも上位の貴族じゃああって当たり前。今ではお互い将官として部隊を仕切るような立場になった。ならどっちが強いか決めてみたくなる。そんなところじゃないのか?」 

 平然と楽しむように言い切った上司に連絡将校はただ呆れた顔を向けるだけだった。

「でもそんな無意味で無謀な戦い……基地警備部隊は旧式の九七式しか配備されていないはずですよ。たとえ援軍が来たとしても……」 

「陥落するだろうな。遅かれ早かれ」 

 そう言うと醍醐は笑って見せる。その様子に再び眼鏡の将校は呆れた。

「だがな。それで十分なんだ。赤松の第三艦隊。士気は高いし練度もそれなりだ。だが豊州だのなんだのの勢力を飲み込んで大軍になった清原さんとこと比べるとどうしても見劣りする。俺等が宇宙に上がって支援しなければ戦いがどう動くか……」 

 醍醐の言葉に将校もようやく気づく。

「時間稼ぎですか?でも外惑星に展開している部隊が現在急行中ですし……」 

「おいおい、全面内戦に突入のフラグは立てないでくれよ。それに東都条約で長距離転移は禁止されているんだ。外惑星の艦隊は間に合わないよ。間に合ったところでそうなれば地球の勢力や同盟が顔を出すことになる。恐らく胡州は解体されて貴族云々の話ではなくなるな」 

 そう言われて将校はようやく気が付いた。この戦いは第三艦隊と清原派の合同軍の直接対決ですべての帰趨が決定されること。それを阻止するためには一刻も早く部隊を宇宙に上げる必要があること。

「それじゃあ、基地のシャトルで部隊を打ち上げればいいんじゃないですか?」 

「おいおい、それじゃあ上がったはいいが個別撃破されておしまいだよ。そのくらいのことは考えてるさ兄貴も」 

 実の兄が陸軍でもうだつの上がらない指揮官だと知っている醍醐。決して兄を舐めているわけではなかった。

「そうするとやはり我々が決戦に間に合うかどうか……」 

「そうだな。それとどれだけの部隊を宇宙に上げれるかで勝負の半分は決まる」 

 そう言うと醍醐は満足そうにテーブルに置きっぱなしになっていたコーヒーのカップを手に取り静かに飲み始めた。

「難しいが……やることはきわめてシンプルだ。大体の世の中のことはそんなものなのかもしれないな」 

 困ったような顔の参謀達を眺めながら満足げに醍醐は頷いた。
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