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第10章 引っ越し準備
知られたくない部屋
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昨日のかなめの怒鳴り声が耳から離れない。そんな状態でゆっくりと誠は目を開ける。ドアを叩きつける音にようやく気がついて起き上がると、そのままベッドから降りて戸口に向かう。太陽はまだ窓から差し込める高さではない。頭をかきながらドアを開けた。
「おせえんだよ!さっさと着替えろ!」
そこには島田と菰田がジャージ姿で突っ立っていた。珍しい組み合わせに誠は目を疑った。
「それとこいつ。返しとくぞ」
寝ぼけた目で菰田から渡された三冊の雑誌に目をやる。この前のコミケで買った18禁同人誌だと確認すると自然と意識が冴え渡った。
「どうしてこれを……」
「あのなあ、お前がよこしたんだろ?部屋にあるとこれからくる女性陣に見つかるとか言って『図書館』に持ってきたじゃないか」
誠はようやく事態が飲み込めた。
西館の二階の三つの空き間。男子寮に於いては『図書館』と呼ばれる特別な部屋があった。
そこは一言でいえばエロの殿堂である。その手の雑誌、ゲームや動画のディスクなどが山ほど保存されている。寮では階級によってそこの使用可能時間が決められており、誠も何度か利用したことはあった。
「あそこに来るんですか?西園寺さん達は?」
正直、誠は呆れていた。寮の住民も必要な時以外は近づかないようにしている聖域である。そこに女性のしかも士官が住み着くことになるとは想像もつかない。
「だから急いでるんだ。お前は少ないから良いがこいつは……」
島田は含み笑いをしながら菰田を見つめる。
「うるせえ、とっとと着替えて来い!」
そう言うと菰田が力任せにドアを閉めた。
もしあの部屋の以前の役割を知ればかなめは激怒し、カウラは呆れ、アメリアはにんまりと笑って寮の住民をゆするに違いない、
誠はとりあえずTシャツにジーンズと言うラフなスタイルで『図書館』に向かった。
「消臭剤はどうした!」
「西が買いに行ってます!」
「急げよ!島田!サラはどう動いてる」
「さっき電話した時は起きたばかりだったみたいだから3時間くらいはどうにかなるぞ!」
そこはまるで戦場である。島田と菰田が仕切り、『図書館』の中に入る。畳の下からダンボールを次々と運び出す管理部の面々。据えつけられた端末のコードを巻き取っているのは技術部員達だ。
しかし、誠が『図書館』に入ったとたん饐えた匂いが鼻についた。見たものの不信感を増幅させるような積み上げられたティッシュペーパーの箱が卑猥な雰囲気を醸し出す。
「島田先輩。本当にここでいいんですか?」
誠はそう言いながら部屋を見渡す。正直この部屋にあの三人を入れるとなればどんな制裁が自分に加えられるかと想像しながら誠は島田の表情を探る。
「大丈夫だって。この部屋の存在は寮の男子隊員共通の弱みだ。誰もこの部屋のことは知られたくないはずだからな」
「そうよねえ。知られたくないわよねえ」
島田と誠が振り向いた先には満面の笑みのアメリアと、消臭剤を買ってきたばかりの西からスプレー缶を取り上げているかなめ、そしてこめかみに指を当てあきれているカウラの姿があった。
「貴様等、私達にここに『住め』というわけか?」
見開いた目を島田と菰田に向けるカウラに二人は目を見合わせてすぐさまうなだれた。
「菰田ちゃん。そこのゲーム一山で手を打つってのはどうかしら。パートの白石さんがこの部屋を見たら……さぞ面白いショーが見れそうね」
周りで呆然としている隊員を尻目にアメリアはそこにあるエロゲーのジャケットを物色する。
「アホだなオメエ等」
かなめは西から取り上げた消臭スプレーを撒き散らかしている。
「それはですねえ……」
島田は完全に追い詰められた。じりじりと彼の額に浮かぶ汗は暑さのせいではないだろう。
「間違えました!この下の階です!」
苦し紛れに島田が叫ぶ。
「それにしちゃあずいぶん必死じゃねえか」
周りで隊員達は冷や汗を流している。気分で暴れるかなめは彼らにとっては天敵である。とりあえずどうすれば彼女から逃げれるか必死に考えている姿は今の誠にも滑稽に見えた。
「ここじゃあ無いのならそこに案内してくれ」
額に手を当てたカウラの目線が誠に注がれ、彼もまた苦笑いを浮かべた。
「良いんですか?あそこって日が当たらないからカビとか……」
「文句は言うな!他に部屋が無いんだからしょうがないだろ!」
誠に島田が耳打ちする。菰田は複雑な表情で三人を案内する。一階の西館。日のあたらないこの部分は明らかに放置されていた区画だった。階段を下りるだけでもその陰気な雰囲気は見て取れた。
「島田、あご砕いて良いか?」
かなめはそう言いながら指を鳴らしている。カウラも半分はあきれていた。アメリアは『図書館』に未練があるように上の階を眺めている。
「大丈夫ですよ!ここは元々豊川紡績の女子寮だったんですから、西館には女子トイレもありますし……」
「苦しい言い訳ね」
アメリアの声が陰気な廊下に響く。『図書館』の改装が無駄に終わることが決まった寮の住人がその後に続いて階段を下りていく。まずは一番階段に近い部屋。島田は鍵を取り出すと扉を開けた。
意外にもカビの臭気は漏れてこなかった。島田を先頭に菰田、カウラ、かなめ、アメリア、誠が部屋に入っていく。部屋には奇妙な冷気以外は特に問題はなさそうに見えた。
「意外と良い部屋じゃねえか。西日が当たるのかね、畳が焼けてるみたいだけど……」
「畳は近日中に入れ替えます!」
かなめの投げた視線に、悲鳴にも近い調子の島田の声が響いた。
「でも何でここじゃ駄目だったんだ?」
カウラは特に痛みもない壁を見回している。
「そうよねえ。あそこの匂いがそう簡単に取れるとは思ってなかっだでしょうに。ああ、かなめちゃんはタバコを吸うから関係ないか」
「一言多いんだよ!馬鹿が」
かなめはそう言うといつものようにアメリアの腿を蹴り上げる。
「蹴ることないでしょ!」
太ももを押さえながらアメリアがかなめをにらみつける。
「島田先輩。もしかして……」
「幽霊が出るって言う落ちはつまらねえから止めとけよ」
かなめは天井からぶら下がる蛍光灯に手を伸ばしながらつぶやく。
「やっぱりその落ち、駄目ですか?」
開き直った島田がドアを蹴飛ばしている。
「やっぱりそうなのね」
「もう少し面白いネタ用意してくれよ。つり天井になっているとか」
「それのどこが面白いんだ?」
三人に日常生活を破壊されている誠から見れば、アメリア、かなめ、カウラの発言は予想通りのものだった。
「島田先輩、言ったとおりじゃないですか。この三人がそんなこと気にするわけないって」
そう言いながら西は買ってきた消臭スプレーを撒いて回る。
「そうだよね……」
女子は幽霊を怖がるものと言う自分の彼女のサラを基準とした考え方を改めざるを得ない島田だった。
「幽霊……写真撮ったら一気にネットで人気者ね!」
「アメリア、幽霊なんていないぞ」
いかにも嬉しそうなアメリアとそれをなだめるカウラ。かなめはと言えば日に焼けた畳が気になるようで、中腰になった畳を右手でなでていた。
「たしかに西園寺さん達なら平気ですよね、幽霊くらい」
誠の一言にかなめが怒りの目でにらみ付けてくる。
「なんでそこでアタシなんだ?」
「いや……その……あの……」
口ごもる誠をしり目に安心したように菰田が部屋をのぞき込む隊員達に目配せした。それまでこの部屋に伝わる因縁話を気にして部屋に入るのを躊躇していた男子隊員達は、かなめ達の落ち着きに励まされるようにして部屋に駆け込むと手にしたはたきやほうきで掃除を始めた。
「ったく下らねえことばかりやってないでオメエ等も働け」
そう言ってかなめは思い切り島田の尻を蹴り上げた。
「おせえんだよ!さっさと着替えろ!」
そこには島田と菰田がジャージ姿で突っ立っていた。珍しい組み合わせに誠は目を疑った。
「それとこいつ。返しとくぞ」
寝ぼけた目で菰田から渡された三冊の雑誌に目をやる。この前のコミケで買った18禁同人誌だと確認すると自然と意識が冴え渡った。
「どうしてこれを……」
「あのなあ、お前がよこしたんだろ?部屋にあるとこれからくる女性陣に見つかるとか言って『図書館』に持ってきたじゃないか」
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西館の二階の三つの空き間。男子寮に於いては『図書館』と呼ばれる特別な部屋があった。
そこは一言でいえばエロの殿堂である。その手の雑誌、ゲームや動画のディスクなどが山ほど保存されている。寮では階級によってそこの使用可能時間が決められており、誠も何度か利用したことはあった。
「あそこに来るんですか?西園寺さん達は?」
正直、誠は呆れていた。寮の住民も必要な時以外は近づかないようにしている聖域である。そこに女性のしかも士官が住み着くことになるとは想像もつかない。
「だから急いでるんだ。お前は少ないから良いがこいつは……」
島田は含み笑いをしながら菰田を見つめる。
「うるせえ、とっとと着替えて来い!」
そう言うと菰田が力任せにドアを閉めた。
もしあの部屋の以前の役割を知ればかなめは激怒し、カウラは呆れ、アメリアはにんまりと笑って寮の住民をゆするに違いない、
誠はとりあえずTシャツにジーンズと言うラフなスタイルで『図書館』に向かった。
「消臭剤はどうした!」
「西が買いに行ってます!」
「急げよ!島田!サラはどう動いてる」
「さっき電話した時は起きたばかりだったみたいだから3時間くらいはどうにかなるぞ!」
そこはまるで戦場である。島田と菰田が仕切り、『図書館』の中に入る。畳の下からダンボールを次々と運び出す管理部の面々。据えつけられた端末のコードを巻き取っているのは技術部員達だ。
しかし、誠が『図書館』に入ったとたん饐えた匂いが鼻についた。見たものの不信感を増幅させるような積み上げられたティッシュペーパーの箱が卑猥な雰囲気を醸し出す。
「島田先輩。本当にここでいいんですか?」
誠はそう言いながら部屋を見渡す。正直この部屋にあの三人を入れるとなればどんな制裁が自分に加えられるかと想像しながら誠は島田の表情を探る。
「大丈夫だって。この部屋の存在は寮の男子隊員共通の弱みだ。誰もこの部屋のことは知られたくないはずだからな」
「そうよねえ。知られたくないわよねえ」
島田と誠が振り向いた先には満面の笑みのアメリアと、消臭剤を買ってきたばかりの西からスプレー缶を取り上げているかなめ、そしてこめかみに指を当てあきれているカウラの姿があった。
「貴様等、私達にここに『住め』というわけか?」
見開いた目を島田と菰田に向けるカウラに二人は目を見合わせてすぐさまうなだれた。
「菰田ちゃん。そこのゲーム一山で手を打つってのはどうかしら。パートの白石さんがこの部屋を見たら……さぞ面白いショーが見れそうね」
周りで呆然としている隊員を尻目にアメリアはそこにあるエロゲーのジャケットを物色する。
「アホだなオメエ等」
かなめは西から取り上げた消臭スプレーを撒き散らかしている。
「それはですねえ……」
島田は完全に追い詰められた。じりじりと彼の額に浮かぶ汗は暑さのせいではないだろう。
「間違えました!この下の階です!」
苦し紛れに島田が叫ぶ。
「それにしちゃあずいぶん必死じゃねえか」
周りで隊員達は冷や汗を流している。気分で暴れるかなめは彼らにとっては天敵である。とりあえずどうすれば彼女から逃げれるか必死に考えている姿は今の誠にも滑稽に見えた。
「ここじゃあ無いのならそこに案内してくれ」
額に手を当てたカウラの目線が誠に注がれ、彼もまた苦笑いを浮かべた。
「良いんですか?あそこって日が当たらないからカビとか……」
「文句は言うな!他に部屋が無いんだからしょうがないだろ!」
誠に島田が耳打ちする。菰田は複雑な表情で三人を案内する。一階の西館。日のあたらないこの部分は明らかに放置されていた区画だった。階段を下りるだけでもその陰気な雰囲気は見て取れた。
「島田、あご砕いて良いか?」
かなめはそう言いながら指を鳴らしている。カウラも半分はあきれていた。アメリアは『図書館』に未練があるように上の階を眺めている。
「大丈夫ですよ!ここは元々豊川紡績の女子寮だったんですから、西館には女子トイレもありますし……」
「苦しい言い訳ね」
アメリアの声が陰気な廊下に響く。『図書館』の改装が無駄に終わることが決まった寮の住人がその後に続いて階段を下りていく。まずは一番階段に近い部屋。島田は鍵を取り出すと扉を開けた。
意外にもカビの臭気は漏れてこなかった。島田を先頭に菰田、カウラ、かなめ、アメリア、誠が部屋に入っていく。部屋には奇妙な冷気以外は特に問題はなさそうに見えた。
「意外と良い部屋じゃねえか。西日が当たるのかね、畳が焼けてるみたいだけど……」
「畳は近日中に入れ替えます!」
かなめの投げた視線に、悲鳴にも近い調子の島田の声が響いた。
「でも何でここじゃ駄目だったんだ?」
カウラは特に痛みもない壁を見回している。
「そうよねえ。あそこの匂いがそう簡単に取れるとは思ってなかっだでしょうに。ああ、かなめちゃんはタバコを吸うから関係ないか」
「一言多いんだよ!馬鹿が」
かなめはそう言うといつものようにアメリアの腿を蹴り上げる。
「蹴ることないでしょ!」
太ももを押さえながらアメリアがかなめをにらみつける。
「島田先輩。もしかして……」
「幽霊が出るって言う落ちはつまらねえから止めとけよ」
かなめは天井からぶら下がる蛍光灯に手を伸ばしながらつぶやく。
「やっぱりその落ち、駄目ですか?」
開き直った島田がドアを蹴飛ばしている。
「やっぱりそうなのね」
「もう少し面白いネタ用意してくれよ。つり天井になっているとか」
「それのどこが面白いんだ?」
三人に日常生活を破壊されている誠から見れば、アメリア、かなめ、カウラの発言は予想通りのものだった。
「島田先輩、言ったとおりじゃないですか。この三人がそんなこと気にするわけないって」
そう言いながら西は買ってきた消臭スプレーを撒いて回る。
「そうだよね……」
女子は幽霊を怖がるものと言う自分の彼女のサラを基準とした考え方を改めざるを得ない島田だった。
「幽霊……写真撮ったら一気にネットで人気者ね!」
「アメリア、幽霊なんていないぞ」
いかにも嬉しそうなアメリアとそれをなだめるカウラ。かなめはと言えば日に焼けた畳が気になるようで、中腰になった畳を右手でなでていた。
「たしかに西園寺さん達なら平気ですよね、幽霊くらい」
誠の一言にかなめが怒りの目でにらみ付けてくる。
「なんでそこでアタシなんだ?」
「いや……その……あの……」
口ごもる誠をしり目に安心したように菰田が部屋をのぞき込む隊員達に目配せした。それまでこの部屋に伝わる因縁話を気にして部屋に入るのを躊躇していた男子隊員達は、かなめ達の落ち着きに励まされるようにして部屋に駆け込むと手にしたはたきやほうきで掃除を始めた。
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