1,484 / 1,557
待機
待機
しおりを挟む
待つ。これが苦手な人が多い。
誠は目の前の頭を掻き毟って暴れだしそうな女性を見ながらその事実を再確認していた。
「なんだよ」
「なんでもないですよ」
「その面がなんでもない面か?」
「止めなさいよ!かなめちゃん!」
アメリアの声に立ち上がりかけたかなめが息を整えるように深呼吸をして誠の目の前の席に腰を下ろす。誠はそれを見てようやく安心して目の前の端末に記されているアストラルゲージのグラフに目を向けた。
「西園寺。気持ちはわかる」
「わかって貰いたかねえよ!」
気を使ったカウラの言葉にもかなめは不機嫌に対応する。誠も思わず苦笑いを浮かべるがすぐに察してにらみつけてくるかなめの視線を避けるように身を伏せる。
すでに警邏隊の巡回が始まって二日。いや、まだ二日と言うべきだと誠は思っていた。直接の接触を避けながらのパトロールでのアストラルゲージチェック。そう簡単に犯人への道が開けるとは誠も思っていなかった。苛立ちの絶頂の中にいるかなめも理性ではそのことは分かっているだろう。しかし彼女の『待つ』と言う言葉に耐える限界はすぐそこまで来ているのは間違いなかった。
原因は昨日からこの捜査方法を提案したラーナが東都の同盟司法局本局に呼び出されていることだとは誠にも分かっていた。本来は彼女は同盟司法局法術犯罪特捜本部の捜査官であり、その部長嵯峨茜警視正の補佐が任務のはずであり、茜が追っている連続斬殺犯に関する情報があればいつでもそちらに出張することが誠達の豊川署への出向の条件でもあった。連続斬殺犯などという派手で腕っ節が強そうな相手を聞いて黙っているかなめではない。こちらの容疑者の十五人。男性9人、女性6人の構成だがどれもひ弱そうな面構え。法術が無ければかなめに取ってはどれも相手に不足がある存在なのだろう。
かなめが急に伸びをした。重量のある軍用義体に耐えかねて椅子が悲痛なきしみ声を上げる。
「うわー疲れるな!」
「何もしていない人は黙っていてよ!」
「なんだ?アメリア。アタシとやろうってのか?」
「ホントにかなめちゃんは脳筋ね……付き合ってらんないわ」
「なんだと!」
今度はアメリアに喧嘩を売る。さすがにモノクロの画面でグラフの針の動きばかりを追っていて疲れたのはかなめばかりではなかった。アメリアもいつもなら聞き流すかなめの啖呵につい乗ってしまった自分を恥じるように静かに席に着いた。ラーナのような捜査の専門家がここにいれば説得力のある説教で二人を何とかなだめることはできるのかもしれない。
困ったような顔でカウラが誠を見つめる。彼女も軍用に作られた人造人間である。軍務については培養液から出るまでに多くの知識を刷り込まれていたが、その中には警察の捜査活動はあるはずもなかった。たとえあったとしても今の二人には机上の空論と笑われるだけだ。カウラはただ黙っていらだつ二人が暴走しないかどうか監視するほかに手はなかった。
「でも、なんだか引っかかるんだよな……」
相変わらずかなめは冴えない表情で画面を見つめていた。豊川市の主要道路を走る警邏隊のパトカーの位置が彼女の画面の正面で展開している。何度とないかなめのため息に誠もカウラもうんざりしたような表情を浮かべていた。
「引っかかるも何も……これ以外に方法があるなら教えてくれ」
さすがに頭にきたカウラは手を後ろに纏めたエメラルドグリーンの髪に持っていくとそうつぶやいた。呆然と顔を上げるかなめ。その目にはこういう時らしく生気が無かった。
「アタシ等の使っている計器。当然小売はしてないよな」
「私に聞いてるの?」
アメリアが驚いたように目を見開く。そしてしばらく考えた後ようやく口を開いた。
「当たり前じゃないの。東和きっての財閥、菱川グループの切り札よ。そう簡単に売れる代物じゃないわよ」
アメリアの回答に画面から目を離さずに満足げにかなめはうなづく。そしてそのまま誠の顔を一瞥すると再び画面をモニターに向けた。
「法術関連の学会とかでは話題になっているのかな、このアストラルゲージとかは」
「それは当然じゃないの……!」
かなめの質問に気づいたことがあるというようにアメリアが顔を上げる。その様子でカウラは大きくうなづいてかなめを見つめた。
「法術関係の研究をしている国の機関ならどこでも同程度の製品は作れる。そして事件を取り上げた新聞に目を通す程度の余裕のある東都の大使館や連絡事務所の武官を抱えている国なら……」
「私達より先にターゲットにたどり着いてもおかしくないな」
かなめとカウラ。二人の言葉に誠はようやく結論を知ることになった。
「それじゃあ……急がないと」
誠が立ち上がりかけたところでアメリアがそれを制した。
「だからこれが一番早い方法なの!焦っても仕方ないわよ」
「クラウゼ少佐……」
泣き顔で誠はアメリアに目をやるがアメリアはかまうつもりは無いというようにそのまま画面に目をやっていた。
「後は天運だけだ」
カウラもまた誠をフォローするつもりは無いと言うように画面を眺めながら冷えたコーヒーを啜っていた。
「いっそのことその人斬りとやらがこの犯人を見つけ出してぶった斬ってくれれば話が早ええのにな」
「不謹慎なことを言うわね、かなめちゃんは」
アメリアがかなめの暴言にぽつりとつぶやく。しかし誰も本気で反論する気はない。
「でも警邏隊の人達の忍耐には感服しますね」
すでに二日目で誠達は警察官僚の忍耐強さに感服させられていた。それを素直に口に出しただけなのに誠はかなめから殺気のあふれた視線で睨まれた。
「まあ待ちましょう」
アメリアはそう言いながら手持ちの端末で乙女ゲームを再開した。
誠は目の前の頭を掻き毟って暴れだしそうな女性を見ながらその事実を再確認していた。
「なんだよ」
「なんでもないですよ」
「その面がなんでもない面か?」
「止めなさいよ!かなめちゃん!」
アメリアの声に立ち上がりかけたかなめが息を整えるように深呼吸をして誠の目の前の席に腰を下ろす。誠はそれを見てようやく安心して目の前の端末に記されているアストラルゲージのグラフに目を向けた。
「西園寺。気持ちはわかる」
「わかって貰いたかねえよ!」
気を使ったカウラの言葉にもかなめは不機嫌に対応する。誠も思わず苦笑いを浮かべるがすぐに察してにらみつけてくるかなめの視線を避けるように身を伏せる。
すでに警邏隊の巡回が始まって二日。いや、まだ二日と言うべきだと誠は思っていた。直接の接触を避けながらのパトロールでのアストラルゲージチェック。そう簡単に犯人への道が開けるとは誠も思っていなかった。苛立ちの絶頂の中にいるかなめも理性ではそのことは分かっているだろう。しかし彼女の『待つ』と言う言葉に耐える限界はすぐそこまで来ているのは間違いなかった。
原因は昨日からこの捜査方法を提案したラーナが東都の同盟司法局本局に呼び出されていることだとは誠にも分かっていた。本来は彼女は同盟司法局法術犯罪特捜本部の捜査官であり、その部長嵯峨茜警視正の補佐が任務のはずであり、茜が追っている連続斬殺犯に関する情報があればいつでもそちらに出張することが誠達の豊川署への出向の条件でもあった。連続斬殺犯などという派手で腕っ節が強そうな相手を聞いて黙っているかなめではない。こちらの容疑者の十五人。男性9人、女性6人の構成だがどれもひ弱そうな面構え。法術が無ければかなめに取ってはどれも相手に不足がある存在なのだろう。
かなめが急に伸びをした。重量のある軍用義体に耐えかねて椅子が悲痛なきしみ声を上げる。
「うわー疲れるな!」
「何もしていない人は黙っていてよ!」
「なんだ?アメリア。アタシとやろうってのか?」
「ホントにかなめちゃんは脳筋ね……付き合ってらんないわ」
「なんだと!」
今度はアメリアに喧嘩を売る。さすがにモノクロの画面でグラフの針の動きばかりを追っていて疲れたのはかなめばかりではなかった。アメリアもいつもなら聞き流すかなめの啖呵につい乗ってしまった自分を恥じるように静かに席に着いた。ラーナのような捜査の専門家がここにいれば説得力のある説教で二人を何とかなだめることはできるのかもしれない。
困ったような顔でカウラが誠を見つめる。彼女も軍用に作られた人造人間である。軍務については培養液から出るまでに多くの知識を刷り込まれていたが、その中には警察の捜査活動はあるはずもなかった。たとえあったとしても今の二人には机上の空論と笑われるだけだ。カウラはただ黙っていらだつ二人が暴走しないかどうか監視するほかに手はなかった。
「でも、なんだか引っかかるんだよな……」
相変わらずかなめは冴えない表情で画面を見つめていた。豊川市の主要道路を走る警邏隊のパトカーの位置が彼女の画面の正面で展開している。何度とないかなめのため息に誠もカウラもうんざりしたような表情を浮かべていた。
「引っかかるも何も……これ以外に方法があるなら教えてくれ」
さすがに頭にきたカウラは手を後ろに纏めたエメラルドグリーンの髪に持っていくとそうつぶやいた。呆然と顔を上げるかなめ。その目にはこういう時らしく生気が無かった。
「アタシ等の使っている計器。当然小売はしてないよな」
「私に聞いてるの?」
アメリアが驚いたように目を見開く。そしてしばらく考えた後ようやく口を開いた。
「当たり前じゃないの。東和きっての財閥、菱川グループの切り札よ。そう簡単に売れる代物じゃないわよ」
アメリアの回答に画面から目を離さずに満足げにかなめはうなづく。そしてそのまま誠の顔を一瞥すると再び画面をモニターに向けた。
「法術関連の学会とかでは話題になっているのかな、このアストラルゲージとかは」
「それは当然じゃないの……!」
かなめの質問に気づいたことがあるというようにアメリアが顔を上げる。その様子でカウラは大きくうなづいてかなめを見つめた。
「法術関係の研究をしている国の機関ならどこでも同程度の製品は作れる。そして事件を取り上げた新聞に目を通す程度の余裕のある東都の大使館や連絡事務所の武官を抱えている国なら……」
「私達より先にターゲットにたどり着いてもおかしくないな」
かなめとカウラ。二人の言葉に誠はようやく結論を知ることになった。
「それじゃあ……急がないと」
誠が立ち上がりかけたところでアメリアがそれを制した。
「だからこれが一番早い方法なの!焦っても仕方ないわよ」
「クラウゼ少佐……」
泣き顔で誠はアメリアに目をやるがアメリアはかまうつもりは無いというようにそのまま画面に目をやっていた。
「後は天運だけだ」
カウラもまた誠をフォローするつもりは無いと言うように画面を眺めながら冷えたコーヒーを啜っていた。
「いっそのことその人斬りとやらがこの犯人を見つけ出してぶった斬ってくれれば話が早ええのにな」
「不謹慎なことを言うわね、かなめちゃんは」
アメリアがかなめの暴言にぽつりとつぶやく。しかし誰も本気で反論する気はない。
「でも警邏隊の人達の忍耐には感服しますね」
すでに二日目で誠達は警察官僚の忍耐強さに感服させられていた。それを素直に口に出しただけなのに誠はかなめから殺気のあふれた視線で睨まれた。
「まあ待ちましょう」
アメリアはそう言いながら手持ちの端末で乙女ゲームを再開した。
10
あなたにおすすめの小説
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
戦国鍛冶屋のスローライフ!?
山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。
神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。
生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。
直道、6歳。
近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。
その後、小田原へ。
北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、
たくさんのものを作った。
仕事? したくない。
でも、趣味と食欲のためなら、
人生、悪くない。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる