レジェンド・オブ・ダーク遼州司法局異聞 2 「新たな敵」

橋本 直

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引っ越し

掃除の時間

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 携帯をしまうアイシャの隣でかなめは含み笑いを浮かべていた。

「すいませんねえ、待っていただいちゃって」 

 島田、サラ、パーラが出勤しようとする当番隊員を押しのけて入ってくる。

「別に待ってなんかいねえよ」 

 そう言いながらトレーの隅に残ったリゾットをかなめはかき集める。カウラは散々文句を言いながら旨そうにリゾットを食べるかなめをいつものような冷めた目で見ていた。

「ちゃんとおやつも買ってきたよ」 

 サラが机の上にポテトチップスの袋を置いた。さらに島田、パーラも手一杯の菓子やジュースをテーブルに広げる。

「ちょっと弁当食いますから。ジュン!後のことは頼むわ」 

 島田はコンビニ弁当を広げる。愛称のジュンと呼ばれたキムはやかんから注いだ番茶を飲み干すと立ち上がった。

「じゃあ自分等は掃除の準備にかかります」 

 キムはエダ、そして食堂の入り口で待っている西をつれて消えた。

「神前、食い終わったか?」 

 番茶をすするかなめの視線が誠を捕らえる。

「まあどうにか。それじゃあ島田先輩、僕達も行きますよ」 

「頼むわ。すぐ追いつくと思うけど」 

 誠は島田の弁当を見て驚いた。島田はもう半分以上食べ終わっている。

「島田先輩、よくそんな速度で食えますね」 

「まあな。俺等の仕事は時間との戦いだからな。神前もやる気になれば出来ると思うぞ」 

 島田は一口でメンチカツをかみ砕いて飲み込んだ。

「そんなことはどうでも良いんだ。サラとパーラ。ヨハン達を手伝ってやれよ。それじゃあ行くぜ」 

 立ち上がったかなめは、トレーをカウンターに持っていく。

「私達の分も持ってってくれたら良かったのに」 

 そう言いながらカウラと誠のトレーを自分の上に乗せ、アイシャはそれをカウンターまで運ぶ。

「別にそれくらいで文句言われることじゃねえよ」 

 かなめは頭を掻いた。

「それじゃあ行くか」 

 カウラと誠も立ち上がった。ようやく決心がついたとでも言うように、菰田とヒンヌー教徒もその後に続く。

「菰田達!バケツと雑巾もう少し物置にあるはずだから持ってきてくれ」 

 食堂の入り口から覗き込んでいるキムがそう叫んだ。仕方が無いという表情で菰田、ヤコブ、ソンが物置へ歩き始める。

「ほんじゃあ行くぞー」 

 投げやりにそう言うとかなめは歩き出した。アイシャ、カウラもその後に続く。誠も仕方なく通路に出た。当番の隊員はすでに寮を出た後で、人気の無い通路を西館に向けて歩き続ける。

「しかし、ずいぶん使いかけの洗剤があるのね」 

 エダが持っている洗剤の瓶を入れたバケツにアイシャが目をやる。

「ああ、これはいつも島田先輩が掃除と言うと洗剤を買ってこさせるから……毎回掃除のたびにあまりが溜まっていってしまうんですよ」 

 誠は仕方がないというように理由を説明した。

「ああ、あいつ。そう言うところはいい加減だもんな」 

 かなめは窓から外を眺めながらつぶやいた。マンションが立ち並んでいることもあり、ビルの壁くらいしか見ることが出来ない。とりあえず彼らは西館一階の目的地へとたどり着いた。奥の部屋にカウラが、その隣の部屋にアイシャが、そして一番手前の部屋にかなめが入った。

「なんやかんや言いながら気があってるんじゃないか」 

 ポツリとキムがつぶやく。

「エダ、ベルガー大尉を手伝ってくれ、俺はクラウゼ少佐の手伝いをする」 

「私は誠ちゃんの方が良いなあ」 

 入り口から顔を出すアイシャをキムとかなめがにらみつける。

「お前と誠を一緒にすると仕事しねえからな。アニメの話とか一日中してたら明日の引越しの手伝いしてやらねえぞ」 

「わかりました、がんばりまーす」 

 アイシャはすごすごと引っ込んでいく。誠は左腕を引っ張られてかなめの部屋に入り込む。
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