レジェンド・オブ・ダーク遼州司法局異聞 2 「新たな敵」

橋本 直

文字の大きさ
103 / 105
新しい暮らし

珍妙な喋り方の警官

しおりを挟む
 誠達は遅刻したのを察して恐る恐る実働部隊事務所のドアを開けた。

「少し遅いのでなくて?」 

 実働部隊控え室では、湯のみを手にしてくつろいでいる茜がいた。当然のように彼女は紺が基調の東都警察の制服を着ている。 

「さっさと着替えて来いってわけか?」 

「そうね。そしてそのまま第一会議室に集合していただければ助かりますわ」 

 そう言うと茜はぼんやりと立ち尽くしている誠達の横をすり抜け、ハンガーの方に向かって消えていった。

「私も?」 

 アイシャの言葉に誠達は頷く。そのまま四人は奥へと進んでいく。

「おはよう!神前曹長、すっかり人気者ね」 

 そう言ってロッカールームから歩いてきたのは技術部部長許明華大佐だった。島田達を監督する立場上今週は徹夜続きのはずだが疲れ一つ見せず鋭い視線を誠に投げてくる。

「急いで着替えた方が良いわよ。茜さんはああ見えては怒ると怖いらしいから」 

「まあな。表には出ないがかなり腹黒いしな」 

「ダーク茜」 

 かなめとアイシャが顔を見合わせて笑う。カウラは二人の肩を叩いた。その視線の先にはハンガーに向かったはずの茜が、眉を引きつらせながら誠達を見つめていた。

「じゃあ、第一会議室で!」 

 茜の一にらみに耐えかねて目を反らしたかなめはそう言うと奥の女子ロッカー室へ駆け込む。カウラとアイシャもその後を追う。

「神前曹長もも急いだ方がいいわよ」 

 そう言うと明華は微笑んで去っていく。

 誠は急いで男子ロッカー室に入る。冷房の効かないこの部屋の熱気と、汗がしみこんだすえた匂い。誠は自分のロッカーの前で東和陸軍と同形の司法局実働部隊夏季勤務服に着替える。かなり慣れた動作に勝手に手足が動く。忙しいのか暇なのか、それがよくわからないのがここ。誠もそれが理解できて来た。

 とりあえずネクタイは後で締めることにして手荷物とそのまま第一会議室に向かった。小柄な女性が会議室の扉の前を行ったり来たりしている。着ている制服は東都警察の紺色のブレザーなので誠にも彼女が茜の部下であることが推測できた。。

「こんにちわ」 

 声をかけた誠を見つめなおす女性警察官。丸く見える顔に乗った大きな眼が珍しそうに誠を見つめる。

「えーと。神前曹長っすね。僕はカルビナ・ラーナ巡査っす。一応、嵯峨主席捜査官の助手のようなことをしてます!」 

 元気に敬礼するラーナに、誠も敬礼で返す。

「すぐに名前がわかるなんて……警察組織でも僕ってそんなに有名人なんですか?」 

「そりゃあもう。近藤事件以来、遼南司法警察でも法術適正検査が大規模に行われましたから。軍や警察に奉職している人間なら知らない方が不思議っすよ!」 

 早口でまくし立てるラーナに呆れながら、誠はそのまま彼女と共に第一会議室に入った。

「ラーナさん、まだかなめさん達はお見えにならないの?」 

 上座に座っている茜が鋭い視線を投げるので、思わず誠は腰が引けた。

「ええ、呼んできたほうがいいっすか?」 

 ラーナはそう言いながらその場しのぎの苦笑いを浮かべた。

「結構よ。それより話し方、何とかならないの?」 

 茜は静かに目の前に携帯端末を広げている。

「へへへ、すいやせん……癖で」

 あっけらかんとラーナは笑っていた。

「すまねえ、コイツがぶつくさうるせえからな」 

「何よかなめちゃん。ここは職場よ。上官をコイツ呼ばわりはいただけないわね」 

 かなめ、アイシャ、そしてカウラが部屋に到着する。その反省の無いかなめの態度に茜は呆れ果てたと言う表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...