遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の死闘

橋本 直

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第八章 『特殊な部隊』の宴会

第18話 新体制と古き悪夢

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「おう、じゃあなんだ。とにかく新体制の基盤ができたことに乾杯!」 

 挨拶は短く済ます主義の嵯峨の言葉で宴席が始まった。

「さあ、どうぞ召し上がれ!」

 春子と小夏が階段を上がってきて、手際よく煮物の小鉢をテーブルに並べていく。

「焼鳥盛り合わせ!」 

「はい、いつも通りですね」 

 叫ぶアメリアに小夏が小鉢を渡す。気の利くアメリアは小夏から渡された小鉢をテーブルの面々の前に順々に置いて行った。

「そう言えばボンジリとか……いってみねーか?」 

「じゃあ、砂肝はどう?」 

 メニューを見ながらランと茜が注文を始めるのを春子がメモしていく。

「じゃあ、僕は豚串で。いつも島田先輩が頼むんですけど、今日は居ないんで僕が頼みます」

 誠は大柄なだけあって食欲もそれなりに旺盛だった。

「よく食うねえ、神前は。俺なんか、突き出しだけで満腹だよ。茜の『月3万生活』のおかげで粗食にも慣れちまってさ。こないだ焼肉なんて食ったら、腹を壊して大変だったよ」

 嵯峨は食事の場だと言うのにオジサントークで汚い話を平気でする男だった。

「お父様。話題は場所を選びましょうね」

 まるで母親である。茜の父を気遣う姿を見て誠は目の前の『駄目人間』がいつまでも大人になれない『ピーターパンシンドローム』を患っているのではないかと不審に思えてきた。

「ラン、地球はどうだった?久しぶりなんだろ……久しぶりの年数の単位が地質学的な歴史感覚になるけど」

 嵯峨の言葉でランが地球の会議に出席していたことを皆が思い出した。

「ああ、なんだか……人が多かったな。まあ東都と変わらないぐらいだが……人口が遼州の百倍だ。まあ結構疲れたよ。それにあの地球の間接税。なんとかならねーのか?」

 ランが口にしたのは100円のマックスコーヒーが地球で買うと500円になると言うあの話だった。誠達は聞き飽きたというようにため息つきながら鋭い目つきで周りを見回すランを見つめていた。

「いくら金持ち連中が自分達が払う直接税を廃止したいからって水一杯飲むのに東和円で500円もぼったくられるんだぞ……まあだから食えない貧乏人は地球から出て行くしか無くて植民惑星で好き勝手暴れてる。勝手に侵略されて暴れられるこっちの身にもなれってんだ」

 ランは難しい表情でそう言うとおしぼりで手を拭いた。

「へえ、そりゃ面白い話ね」

 かなめは相槌を打ちながら、誠のグラスに容赦なくラム酒を注ぎ込んだ。

「これ、飲まないと駄目なんですよね」 

 誠は沈んだ声を吐き出した。かなめとランの視線が誠に集まった。

「なんだよ、神前。相変わらずビールしか飲めねーのか?たまには上司に付き合ってやるのも人の道だぞ」

 かなめの暴挙を応援するようにランは無責任にそう言った。

「クバルカ中佐。ちょっと神前を苛めるのはやめた方がいいですよ」 

 カウラはそう言って烏龍茶を口に含む。店の一階から漂う香ばしい香りが室内に満ちていく。

「手羽先行こうかな……今日は」 

 その様子を見たかなめがそう言いながらラム酒を口に含んだ。

「あの、西園寺さん。どうしてもこれを飲まなければいけないんですか?」 

 さすがにこれから教導に来てくれる教官を前に無作法をするわけにはいかないと、誠はすがるような気持ちでかなめに尋ねる。

「ああ、じゃあ隣の下戸と一緒に烏龍茶でも飲んでろ」 

 そう言うとかなめは小鉢の煮物をつつく。

「地球のビールも良いがやっぱ東和のが一番だな」 

 ランはそう言って手酌でビールを飲み続けた。

「でも日本酒党のランちゃんがビール……似合わないわね。それに顔が赤いわよ!疲れてるんじゃないの?」 

 ビールを傾けながらアメリアが突っ込みを入れた。

「後は烏龍茶にしたほうがいいんじゃないですか?中佐はお強いですけど疲れていたら……」 

 こういう時は頼りになるパーラの言葉に誠も同意するようにうなづいた。

「そうですよ、中佐。どこかの馬鹿に挑発されても乗っちゃダメですよ」 

 アメリアがそう言うが、ランはその言葉を無視してビールを開けては面白そうにグラスに注ぐ行動を続けている。小さなランが次第に顔に赤みを帯びていく様を楽しそうに見つめているかなめの隙を見つけると、誠は素早く小夏にかなめに注がれたラム酒のグラスを渡し、新しいグラスにビールを注ぎ直す。

「あー、いい気分」 

 ビール大瓶二瓶空けたころにはランはすっかりご満悦だった。嵯峨はさすがに言っても無駄だと分かったのかいつの間にか目の前に置かれていたホッピーの替え玉を飲んでいた。

「ああ、やっぱそれくらいにしろ。後はジュースでも何でも飲めよ」 

 一応上官であり、シュツルム・パンツァー教導の師でもあるランに珍しくかなめが気を利かせて言ってみた。

「なんだ?アタシに説教とはずいぶん偉くなったじゃねーか、西園寺よー」 

 そのかなめを見るランの目は完全に座っていた。この時になってようやくかなめは間違いに気づいた。すでにアメリアとパーラは何かを感じたとでも言うように黙って春子が運んで来た焼鳥盛り合わせを並べている。

「空酒は感心しないな……何か他に頼むか?」

「それじゃあ、さえずりで!あれは鶏の食道なんだ。あの独特の食感……食通のアタシとしては欠かせない逸品だな」 

 嵯峨の気遣いに対する遠慮などどこかへ飛んで行ったランは元気にそう答えた。嵯峨が苦笑いを浮かべながら手を挙げる。

「あの!春子さん。さえずり!2つおねがいします」 

「はい!新さんも食べるのね」

 春子の言葉に嵯峨はランをちらちら見ながら苦笑いを浮かべていた。

「ああ、なかなか食が進まないのね誠ちゃん」 

 ラム酒の入ったグラスを片手に呆けている誠にアメリアがそう言って笑いかけた。

「それ飲まなきゃ食わせねえからな」

 かなめの非情な宣告に誠はただ目を白黒させながらグラスを見つめる。

「大丈夫だ……貴様の体格なら問題がないだろう」

 カウラはそうフォローになっていないフォローを入れた。

 誠は覚悟を決めてグラスの中のモノを飲み干した。

 焼けるような感覚が胃袋に走る。

「神前よくやった!」 

 かなめの怒鳴り声で誠は思わず胃の中のアルコールを吹き出しそうになるのを必死にこらえる。アメリアはそれを無視してネギまを口に運んだ。

「毎回いじられてばかりじゃかわいそうでしょ?」 

 そう言う割にはアメリアは何をするわけでもなくボンジリの串を手にニヤニヤ笑っていた。

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