遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の死闘

橋本 直

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第八章 『特殊な部隊』の宴会

第19話 新世紀の農奴制の世界『地球』

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「それにしても……地球圏の人達は私達のことをどう思ってらっしゃるのかしら?」

 ビールを飲みながら茜は仕事の話に持っていこうとする。

「連中か?遼州人はほとんど他の星系に移住してねーからな。完全に他人事だよ。と言うか今の地球人にとって地球以外は搾取の対象でしかねーんだ」

 ランの地球嫌いは誰もが知るところだったので一人食べ慣れない普通の店のお通しに舌鼓を打つ嵯峨以外はうんざりした顔でそれに聞き入るしかなかった。

「地球の連中は……特に権力を握っている一部の上流国民は自分を『神に選ばれた民』だと思ってる。確かに金持ってるもんな。そのほとんどは貧乏人のはずなんだが、アタシが行く仕事で行く場所には一人もそう言った庶民は一人もいなかった。全員が巨大企業をいくつも持ってる金持ちが暇を持て余して国を動かす仕事を片手間にしているだけ。完全に金持ちと貧乏人が別れて暮らしてる。そういう意味では甲武に近いな。何が『自由と民主主義』だ。金持ちがいくらでも金持ちになる自由と金持ちが暮らしやすくなるために自分の権限を補強するためだけにやる選挙なんて無駄なだけだ。地球はうんざりだ、まだイクチオステガが生きてた前に行った時の地球の方が百倍マシだ。そん時は地球人なんかいなかったし当然見たくもねー金持ちもいなかった」

 ランの吐き捨てた言葉に地球で最初に鼓膜を持った両生類として生存していた『イクチオステガ』の名前が出てくるところに誠は笑っていいのか怒って良いのかどうすればいいのか悩んでいた。

 ランの愚痴は続いた。

「地球は行くたびにひどくなってる!しかも、スイスは地球でもマシな方だと聞いていたが……連中はアタシ等遼州人にはデカい面をしたいんだ。アタシは法術師。距離の概念がねー。会議場の奇麗奇麗な環境を見てすぐに連中の見栄を見透かして、アタシは跳んだ。軍人なら敵の本当の姿を見なきゃなんねー。それを確認しようと市街地の中でも辺鄙な場所を選んでな」

 ランはそういうとレバーを口に運んだ。原始両生類が生きていた時代と資本主義が破綻して貴族制に移行しつつある地球を比べるのは無理があるのではないかと思いながら誠はただ苦笑いを浮かべていた。

「姐御、地球はそんなに悪いところじゃねえと思うんだけどな。アタシも陸軍士官学校時代に甲武四大公家を代表する国賓として2回ほど行ったが別におかしなことは無かったぞ」

 かなめはふらふらと頭を揺らしている誠を支えながらそう言った。

「そりゃーオメーが甲武一のお姫様だからだ。国賓待遇のVIPに連中が自分の恥なんか見せるわけがねーだろーが。それにオメー、亜空間運航船で行ったろ?税関でガイガーカウンターを取り上げられたんじゃないか?」

 ランは鋭い目つきでかなめを見つめながらそう言った。

「なんで姐御がそれを知ってるんだ?地球は放射能汚染がひどいって聞いてたから持って行ったら取り上げられた。でも、アタシがいた場所の放射能レベルは表示されている画面があちこちに有ったがほとんど普通なレベルだったぞ」

 そういうとランの言葉に関心が無いというようにかなめはラムを口に含んだ。

「そりゃあ、お前は甲武の『お姫様』だからな。地球人がそんな相手に本音を見せるわけない。アタシは『距離の概念を持たない法術師』だ。この基地から地球まで直接跳んで税関なんて通らず会場に直行した。もちろんガイガーカウンターも持参してな。税関を通してたら連中は間違いなく地球の恥である10年に一度は起きる核戦争による放射能汚染を隠すために取り上げるからな。そこで会場の放射能濃度を測ってみたらやっぱりゼロに近かった。でもこれは逆に不自然だと思う。それが士官なら当然の反応だ」

 ビールを飲みながらランは話を続けた。

「アタシは休養日を見つけてスイスのジュネーブのさっき言った観光客が行かないような裏町に跳んだ。そこで見たのは……地球がいかに腐った『ディストピア』かということだけだった」

 ランの口調に苦渋の色が帯びてきているのはかなり酔いが回ってきている誠にも分かった。

「まずアタシはガイガーカウンターを見てみた。それは凄い値だったぞ。そんな放射能濃度なら東和の原発の近くなら間違いなく避難勧告が出るレベルだ。そんな中で地球の庶民は暮らしてる。地球の食品は東和は一切輸入を禁止してるよな?当たりめーだ。あんな環境で作った食い物で育ったらすぐがんになるぞ。だから地球圏が遼州圏に隠してる地球圏の本当の平均寿命は隊長が甲武の諜報部にいた時に調べた限りでは50歳に満たないんだ。庶民はみんな放射能漏れをしている原発の隣に住んでるようなもんだ。上級国民はそんな事より自分の持ってる株の値段の方が気になるんだ……腐った連中だ。救いようがねー!」

 ランの言葉に誠は絶句した。遼州が法術を隠していたように地球圏はその放射能に汚染された星の環境を隠し通せると思っている。その為には入国の際にすべての放射能測定器を取り上げる。その異常性に誠は言葉が無かった。

「そんなひでー環境で生きてるんだ。そしてその放射能がもとで死んでいく。地球の金持ち連中は庶民が貧しいのは努力不足による『自己責任』だというの名のもとにメディアやネットを駆使して世論を操作して民主的な手法で福祉の完全停止に成功したからな。連中が遼州向けに発表している地球人の平均寿命はそんな環境とはかけ離れたアタシが会議をしていた会議場の中の『神に選ばれた民』の平均寿命なんだ。連中は自分達だけ安全な食い物を食い、自分達だけ安全な環境で生きている。だから100年も生きる。当たり前の話だ」

 ランの言葉を嵯峨は黙り込んだまま聞いていた。その様子を見て嵯峨はランが見た以上のものを地球での生体実験場から脱出する過程で見てきていると酔っぱらった誠でも確信することが出来た。

「そうしてアタシはそんな上級国民の顔も見るのも嫌になってジュネーブの裏路地をさまよった。そん時はこのどう見ても餓鬼にしか見えないなりが便利だったね。日本語しかしゃべれねーアタシでも路地の貧しい庶民たちは温かく迎えてくれる。アタシはそんな一軒に立ち寄ったわけだ。会議場にあふれてた自分達だけ豊かな暮らしをして絶対に這い上がることなどできない庶民を『努力不足』の一言で切り捨てて平然としている上級国民と違って、そこに生きてる庶民たちはアタシが遼州人と知っても平然としてたぞ。上級国民の気取った連中みたいに変に身構えたりせずに言葉が違う可哀そうな子供扱いだったけど、そこには会議場の冷たい雰囲気とは違う温かさがそこにはあった。まあ、連中が話すドイツ語とかフランス語に対応してくれる携帯端末のアプリが有ってくれたからこそできる技なんだけどな」

 ランはどこか得意げにそういうとジョッキを空にした。

「アタシが案内されたのはひでー部屋だった。六畳に満たない部屋に一家八人が雑魚寝だ。どうやらこれでも地球ではかなりマシなほーらしーや。そしてやたらとデカい大型ディスプレイと高性能端末。こんなもんがなんでこんな貧乏な家で買えるのかと不思議に思ったがなんでも政府が強制的に配るらしいや。上級国民の政治家共はそれを使って庶民を扇動して自分がより豊かになるように世論を操作している。そこでは年中サッカーの試合をやってる。他の番組は政府の広報番組のチャンネルと野党のこれもまた政府批判の報道番組のチャンネルしかねえから見る気にならねえんだと。そこの餓鬼は学校から帰ると一日中サッカーの試合を見ているらしい。そしてそこの主人は端末にかじりついてひたすらネットだ。自分の指示する貧乏人の事なんて一度も考えたことのねー政治家を礼賛する記事をひたすら応援するためにな」

 ランはテレビは将棋中継とニュースしか見ないしネットはやらないことはここにいる誰もが知っている事なのでそんな環境に置かれたランが戸惑っている様を想像するとあちこちで笑い声が起きた。

「アタシが世話になったそこの家は今は野党になってる企業のCEOの政党を支持しているんだが、そこの主人はひたすら自分の支持する政党の金持ちの党首を褒めたたえるコメントを入力し続けてた。まるで何かにとりつかれているよーにしかアタシには見えなかったよ。今の政府の悪口をネットに上げ続けるのが日課なんだそーな。テレビでスポーツを見ることと政治家の悪口を言うことだけが庶民の楽しみなんだ。でもびっくりしたのはアタシが持ってる携帯端末。日本語からドイツ語に瞬時に通訳できるんだな。アタシが会議の間アタシ担当としてついてた日本語が出来るだけの馬鹿がいた。アイツ要らねーじゃん。アタシはこれ一台でその家家族とすぐに友達になれたぞ。通訳なんて今の時代無意味なんだよ」

 ランはポケットから携帯端末を取り出して一同に見せつけた。誰もが当たり前だろと突っ込まないことに必死だった。ランはその様子に機嫌を直して自分が大事な話をしているんだと威張っているような態度で話を続けた。

「そこで出る食い物は全て勤務先からの配給だ。地球圏は遼州圏みたいに札や貨幣の現金を使ってない?そりゃあそうだ。連中の給料は全てそう言ったサブスクリプションで消える仕組みになっている。店もあるが間接税500パーセントなんて庶民には払えねーからな。地球圏は『今でも札や貨幣が現金決済の主流の遼州圏は遅れてる』って言うが、庶民が何か困ると物々交換で暮らしてる地球圏の方がよっぽど遅れてるじゃねーか?オメー等未だに貨幣が存在しねー遼帝国人か?アタシは何度もツッコみたくなったよ」

 ランの愚痴を真面目に聞いているのはカウラとアメリアだけだった。パーラとサラは雑談にうつつを抜かし、嵯峨はそんなことは知っていると笑っていた。

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