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『力』と『責任』と『敵』

第27話 失敗の責任

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 誠は『壊れた』。

 口から吐瀉しながら訳も分からないことを叫び続けている誠が、不自然な髪の色の女性士官達に隊長室から引きずり出されて行った。

 最後にエメラルドグリーンのポニーテールの女性士官の手で消臭スプレーを撒いて立ち去る。

 そして一時間が経った。

 嵯峨は雑然とした隊長の机で、安物の甲種焼酎を飲んでいた。

 一振りの黒い鞘に味のある鍔の日本刀がその足元に置かれていた。目の前に立つ東和陸軍の制服に白鞘を持った少女は、ちらちらとそちらに目をやる。

「やっぱ、あいつ大丈夫かね?」

 嵯峨はそれとなく、『文化財』に手をやるランにつぶやいた。

「まーあんなもんだろ、最近の若いのなんて。まあ何か馬鹿をやったらそん時は考えねーとな……」

 ランは余裕のある笑みで自分の愛用の『殺人機能付き文化財』の日本刀を眺めた。

「でもさあ……『泣いて馬謖を斬る』って本当に斬ることないじゃないと思うよ」

 そう言いながら嵯峨は扇子で顔をあおぎながらほほ笑んだ。

「そんなぬるい世の中だから戦争ばっかなんだよ。失敗したらちゃんと責任を取るような理想的な世の中をアタシは実現したいんだ……アタシもそいつの上司として喜んで『自害』でもなんでもするつもりだ……いい上司だろ?部下に『切腹』させたら、ちゃんとそいつの首を斬り落とした後、辞世の句を詠んで『自刃』する上司……なかなかいねーぞ」

 冗談なのか何なのかよくわからないギャグをランが口にした。

「そりゃまあな。地球人は普通は『切腹』したら死ぬから。まあ、遼州ジョークはそれくらいにしてと……」

 嵯峨はそう言って日本刀から手を離さないランを笑いながら見つめた。
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