特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』 遼州の闇

『特殊な部隊』の『真の敵』と『遼州人』の悲しいサガ

第47話 ぶっ壊れることを期待される若者

「じゃー誠ちゃん！とりあえず、ぶっ壊れて！胃と食道で『下町風お好み焼きもどき』作って！口から『酸っぱい北坂東の郷土料理』を出して！」

　本部の『運航部』の部長席に『特殊な部隊』の運行艦『ふさ』艦長が座っていた。

　彼女はアメリア・クラウゼ少佐と名乗る『特殊』な軍人である。

　誠から見ても結構、美女である。身長は180㎝を超えるほどデカイ。そして、異様に目が細かった。

「少佐。あんた等、本当に失礼な奴だな」

　誠は本心からそう思った。屯所の『運航部』のこのでかい部屋は、彼女に言わせれば自分の『城』らしい。部屋の女子部員はそれぞれ『特殊』な仕事でもしているのか、誰一人いなかった。

　無人の自分の仕事場に他人を引っ張り込んで、理性が『ぶっ壊れる』ことや口から『胃の内容物を吐くこと』を望む人間は特別なお医者さんからお薬をもらった方がいい。

　誠は本心からそう思った。

「だって……誠ちゃん『ぶっ壊れて吐瀉する芸』が売りの『若手芸人』じゃん！いきなり『気絶』したり、お得意の『胃弱』で悶絶したり……『顔芸』はいまいちだけど……そう言う『暴走』ネタのキャラととらえてるわけ！私は！」

　誠を見つめるアメリアは笑顔で、本心から誠に『ぶっ壊れて、吐瀉する』ことを期待していた。

「そんなの僕は望んでいません！」

　誠の反論にアメリアはあざ笑うような微笑みを浮かべる。

「望んでいようがいまいが関係ないわ！この東都共和国の世界を見てごらんなさい！世界が望んだように進むなんて幻想よ！」

　アメリアの言葉で誠は我に返った。

「確かに……2600年代にタイヤでガソリンエンジン車が走ってるなんて……地球の人達が知ったら卒倒留守でしょうけど……そんなのエネルギー効率から考えたら当然じゃないですか！」

　誠は理系脳だった。

　彼の常識からしてみればSFの空を飛ぶ自動車など完全に架空のものに見えた。

　第一、彼自身が普通に四輪自動車の運転すらまともにできないのである。空を飛ぶ飛行自動車の制御など選ばれたエリートしかできないのは全く持って当たり前の話なのである。

　免許が出なければ、いくら重力制御装置で空を飛べる飛行自動車が実現しようが普及するはずもない。当然東和共和国には飛行自動車など販売の予定も無かった。

　アメリアは完全に笑顔で細い目をさらに補足しながら突然咳払いをした。

　誠の現実逃避へのぎりぎりの状態で奇妙な変化が起きた。

　誠の視界の中でアメリアの表情が急にまともな人間に見えた。そして、彼女の糸目が少し開かれ、紺色の瞳が見えた。

『目の錯覚かな……』

　誠がそう思った次の瞬間、アメリアは語り始めた。