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悲劇の代償

第76話 隠ぺいされる『事件』

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 『特殊な部隊』の隊長室で呼び出された誠は、ランと並んで立っていた。

 目の前には自分と同い年ぐらいに見えるのに、執拗に『46歳、×イチ』と主張する『脳ピンク』に誠はただあきれるばかりだった。

 嵯峨はぎしぎし言う隊長の椅子に背もたれに体を預けて、頭の後ろで両手を組んで二人を見つめていた。

「神前。今回は、『おとり捜査』ってことで話が付いたから」

「おとり捜査?僕は拉致されたんですけど……」

 部隊長自らの捏造に誠は思わず反発した。

「まさか遼州同盟司法局直属の実力部隊と言う触れ込みの『特殊な部隊』なの、うちは。マフィアの三下にのこのこついて行きましたなんてかっこ悪くてさ、俺も言えなかったんだよ」

 そう言うと嵯峨は静かに誠に目を向けた。

 誠はこの『駄目人間』の底知れぬ恐ろしさに恐怖し、そんな『化け物』に息子を預けた母を恨んだ。

「そこで、まあお前の件は『マフィアの麻薬取引』の現場に、うちが突入したことにして、偉い人に報告したわけ。俺が地球系マフィアのボスをパクった件は、まあ連中も嫌な顔してたよ。『国際問題』だとか言いやがるんだ」

「『国際問題』?なんでですか?犯罪者を捕まえたのに」

 おっかなびっくり。そんな言葉がぴったり似合う表情の誠は、目の前の隊長の机に座っている嵯峨に向けてそう言った。

「いわゆる『国交』がねえもんな、地球圏と遼州星系同盟は。やれ『人権』がどうの、『私的財産権』がどうのと騒ぐんだよ、お互いに。社会に出ればそう言うのがあるんだよ」

 嵯峨は適当にそう言うと静かに目を机に落とした。

「神前の『素性』を表ざたにせずに、あの『地球圏犯罪者』の大物の身柄を拘束して、拘留を続けようっていいうんだからな。まあ叩けば埃が出る野郎だから、何とかなったみたいだけど」 

 直立不動の姿勢をとっているランと誠を前に嵯峨はそう言ってほほ笑んだ。
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