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『女王様』と『正義のヒロイン』と『偉大なる中佐殿』

第142話 警戒し挑戦を挑む敵

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『中佐殿!出ていいか?』 

 そう言うとかなめは機をカタパルトデッキに固定させる。誠は続いて固定装置をパージして後に続く。

 誠は全天周囲モニターーのブリッジの管制官の席に座る島田の彼女、サラ・グリファン少尉の姿に目をやった。

『おい!サラ!出撃命令まだか!』 

 かなめが叫ぶ。

『作戦開始地点に到着!各機発進よろし!』 

 サラがやけ気味に叫んだ。

『んじゃ行くぞ!αツー!05式狙撃型!出んぞ!』 

 リニアカタパルトが起動し、爆炎とともにかなめの機体が誠の視線から消えた。誠はオートマチック操作でカタパルトデッキに機体を固定させる。

「クバルカ中佐。何か一言無いんですか?僕は何をするのかとか、誰を回収するのかとか……」

 誠は久しぶりの実機搭乗の緊張に脂汗を流しながらそう言った。

『わりーが今回はオメーにババを引いてもらう予定だ』

 幼くてかわいらしいランの口元から誠に向けて非情な一言が放たれた。

『うらやましいねえ……神前。殺し放題だぜ、オメエは』 

 ランの隣の画面の中のかなめが下品な笑みを浮かべている。そのサイボーグ用ヘルメットのバイザーに隠れたたれ目は相変わらずごみを見るような眼で誠を見ていることだろう。

 そんな戸惑う誠のことなど無視するかのように、宇宙装備福姿の技術部の男子隊員は手にした誘導灯にはカタパルト射出の準備完了のマークが点滅していた。

「αスリー!05乙!出ます!」 

 カタパルトが作動するが、重力制御システムの効いたコックピットは、視野が急激に変わるだけで何の手ごたえも感じなかった。ただ周りの風景だけが移り変わる。

「宇宙だ」 

 誠は射出され、慣性移動からパルス波動エンジンの加速を加えながら目の前に広がる闇の深さに感じ入っていた。

『何、悦にいってるんだ?ちゃっちゃと移動だ。すぐカウラも出てくるぞ!』

 目の前に光る点。かなめの言葉が響いた。

『αワン!05式電子戦仕様!出る!』 

 カウラの機体も『ふさ』を発艦した。

『『紅兎こうと』弱×54、クバルカ・ラン!推参!』

 ランはさすがに『偉大なる中佐殿』なので、その出撃時の言葉にも『偉大な風格』を感じさせた。確かに彼女がどう見ても8歳女児なのは違和感だらけだが誠もそのリアルを受け止めるようになってきていた。

『まだ『那珂』からの発艦は確認されていません!先手は取りました!』
 
 ピンクの髪をなびかせてサラが叫んだ。

『なんだ。近藤の馬鹿野郎、こんくらいのことも読めねえとはお先が知れるな』 

 かなめにの言葉には余裕が感じられた。

 ランもカウラも特に何も言わない。

 機動性に劣る05式4機は『那珂』に向けてゆっくりとした加速を続けた。

『敵戦力出撃!『那珂』、『阿武隈』から艦載機発進!数22!作戦地点に向け速度200にて進行中!』 

 サラからの伝言。ランは表情を曇らせる。

『火龍22機か。アタシの読みより多いなー……ちょっと大げさ……ってか当然かなアタシは『最強』だから』

 そう言ってランは舌打ちをする。

 誠から見るとそれはまるで敵がランを恐れて逃げ出すのが当然だというような態度だった。 
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