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ある若者の運命と女と酒となじみの焼き鳥屋

第83話 飲み屋への道

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 女性ボーカルの唸るような絶唱を聞きながら、誠は豊川駅前の商店街をカウラの『ハコスカ』に乗せられて走っていた。

「……何度聞いてもいいねえ……やっぱり歌は『昭和』に限るな。しかもフォーク限定」 

 かなめはそう言うと助手席から伸びをしながら駐車場に降り立つ。誠は後部座席で身を縮めて周りを見渡した。地方都市の繁華街の中の駐車場。特に目立つような建物も無い。

「貴様の趣味の押しつけがましさを何とかした方がいいな。私は会う人すべてにパチンコを勧めたりなどしないぞ!」

 運転席から降り立ったカウラは挑発するようにかなめを見つめる。黒いタンクトップに半ズボンと言うスタイルのかなめは、にらみ返して唾を飛ばしながらカウラに食って掛かる。 

「別にいいだろ?音楽の趣味が合わねえと人は死ぬのか?……って『ペット』!いつまでそこで丸まってるんだ?」 

 誠は後部座席の奥で手足をひっこめて丸まりながら二人を眺めていた。

「西園寺がシートを動かさなければ彼は降りられない。そんなことも分からないのか?」

 赤いTシャツ姿のカウラが噛んで含めるようにかなめに言った。 

「すいません……」 

 誠は照れながら頭を下げる。その姿を見たかなめはめんどくさそうにシートを動かして誠の出るスペースを作ってやった。大柄な誠は体を大きくねじって車から降り立った。

 作り物のような笑顔で、カウラはようやく自由になった手足を伸ばす誠の姿を見つめている。一方、かなめはわざと誠から目を反らしてタバコに火をつけた。

「じゃあ、行くか?」 

 そう言いながらかなめは二人を連れて歩き出した。

「お疲れ様会って……なんかうれしいですね!ワクワクするな!」 

 無表情に鍵を閉めるカウラにそう話しかける。ムッとするようなアスファルトにこもった熱が夏季勤務服姿の誠を熱してそのまま汗が全身から流れ出るのを感じた。

「それが隊長の意向だ。私はそれに従うだけだ」 

 そうは言うものの、カウラの口元には笑顔がある。それを見て誠も笑顔を作ってみた。

「何二人の世界に入ってるんだよ!これからみんなで楽しくやろうって言うのに!それとまあこれから行く店は、うちの暇人達が入り浸ることになるたまり場みたいな場所だ。とりあえず顔つなぎぐらいしといた方が良いぜ。カウラ!ったくのろいなオメエは!」 

 急ぎ足のかなめに対し、カウラはゆっくりと歩いている。誠はその中間で黙って立ち止まった。

「貴様のその短気なところ……いつか仇になるぞ?」

 そう言うとカウラは見せ付けるように足を速めてかなめを追い抜いた。 

「う・る・せ・え・!」 

 かなめはそうそう言うと手を頭の後ろに組んで歩き始める。駐車場を出るとアーケードが続くひなびた繁華街がそこにあった。誠は初めての町に目をやりながら一人で先を急ぐカウラとタバコをくわえながら渋々後に続くかなめの後を進んだ。
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