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『秩序の守護者』を自任する老人
第45話 『楽観主義』を危惧する『老人』
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敬礼を終えて納得した顔をした近藤を見て、カーンは満足しながら話を続けた。
「敵であれ尊敬すべき人物だよ嵯峨君は。地球圏や他のどの確認された軍事勢力にも彼ほどの人材はいない。敵として当たるに対して彼ほど愉快な人物はいないよ。そんな彼が選んだ人材なんだ。敵に値する嵯峨君が選んだ人材なんだ。彼が選んだ青年が私達を失望させるような『語るに足りない凡人』では無いと考えるのが当然の帰結だろ?」
そう言うカーンの口元に満足げな笑みが浮かんでいるのに近藤は気付いた。
そして、その笑みはカーンの踏み越えてきた、敵味方を問わない死体の数に裏打ちされていた。
「近藤君は……前の大戦では司令部勤務か……それでは仕方がないね。この私の『愉快な気持ち』は近藤君には理解できないだろうな」
「『愉快な気持ち』……ですか……」
カーンの問いに近藤は口をつぐんだ。自分の『第二次遼州戦争」の開戦から敗戦までの経歴が軍の参謀部勤務だということはカーンも十分に承知しているはずだった。
「それならば少しは前線の地獄と言うものを味わった方がいいのかもしれないな。司令部の『楽観主義的』な空気は、人間の闘争本能をすり減らすものだ。そしてその闘争本能無しには、既存の秩序を変えることは難しい。一方、君は認めたくないようだが、嵯峨君はもし私の情報が確かなら、戦争の『裏側』で常に最前線に身を置いていた人物だ」
近藤にはカーンの言葉は理解できなかった。戦争には表も裏も無い。強いものが勝つ。そう思っている自分をカーンは憐れむような目で見つめている事実が近藤には許せなかった。
それと同時に勝てるはずの戦いに敗れていく最前線の兵士達に感じた負い目と言うものも思い出して近藤はただ黙り込むしかなかった。
「戦争はね、政治なんだよ。中でも嵯峨君は特に『見えない敵』と常に渡り合う必要のある困難な仕事をしていたようだ。君にはそれを知る機会は十分にあったんだ。君は知ろうとしなかっただけ……それだけだ」
近藤はカーンの言葉の意図を図りかねた。
「自分達、『戦争指導者』は決して『楽観主義者』などではありません!」
ようやく近藤の発した言葉にカーンは静かに首を横に振った。
「そうかな?君達はあまりに『楽観的』だ。私はそのことを知っている。嵯峨君も、そう思っているよ。間違いなく」
嵯峨と言う名前を口にするたびにカーンは愉快そうに眼を細めた。
近藤は黙ったまま静かにカーンを見つめている。その意思と寛容が混ざり合うような落ち着いた言葉とまなざし。言っていることにはそれぞれ反論はあったが、近藤はカーンと言う闘士の怖さを再確認した。
意思と経験と洞察力。そのすべてにおいて自分はカーンの足下にも及ばないことはこの数分で改めて自覚された。
「敵であれ尊敬すべき人物だよ嵯峨君は。地球圏や他のどの確認された軍事勢力にも彼ほどの人材はいない。敵として当たるに対して彼ほど愉快な人物はいないよ。そんな彼が選んだ人材なんだ。敵に値する嵯峨君が選んだ人材なんだ。彼が選んだ青年が私達を失望させるような『語るに足りない凡人』では無いと考えるのが当然の帰結だろ?」
そう言うカーンの口元に満足げな笑みが浮かんでいるのに近藤は気付いた。
そして、その笑みはカーンの踏み越えてきた、敵味方を問わない死体の数に裏打ちされていた。
「近藤君は……前の大戦では司令部勤務か……それでは仕方がないね。この私の『愉快な気持ち』は近藤君には理解できないだろうな」
「『愉快な気持ち』……ですか……」
カーンの問いに近藤は口をつぐんだ。自分の『第二次遼州戦争」の開戦から敗戦までの経歴が軍の参謀部勤務だということはカーンも十分に承知しているはずだった。
「それならば少しは前線の地獄と言うものを味わった方がいいのかもしれないな。司令部の『楽観主義的』な空気は、人間の闘争本能をすり減らすものだ。そしてその闘争本能無しには、既存の秩序を変えることは難しい。一方、君は認めたくないようだが、嵯峨君はもし私の情報が確かなら、戦争の『裏側』で常に最前線に身を置いていた人物だ」
近藤にはカーンの言葉は理解できなかった。戦争には表も裏も無い。強いものが勝つ。そう思っている自分をカーンは憐れむような目で見つめている事実が近藤には許せなかった。
それと同時に勝てるはずの戦いに敗れていく最前線の兵士達に感じた負い目と言うものも思い出して近藤はただ黙り込むしかなかった。
「戦争はね、政治なんだよ。中でも嵯峨君は特に『見えない敵』と常に渡り合う必要のある困難な仕事をしていたようだ。君にはそれを知る機会は十分にあったんだ。君は知ろうとしなかっただけ……それだけだ」
近藤はカーンの言葉の意図を図りかねた。
「自分達、『戦争指導者』は決して『楽観主義者』などではありません!」
ようやく近藤の発した言葉にカーンは静かに首を横に振った。
「そうかな?君達はあまりに『楽観的』だ。私はそのことを知っている。嵯峨君も、そう思っているよ。間違いなく」
嵯峨と言う名前を口にするたびにカーンは愉快そうに眼を細めた。
近藤は黙ったまま静かにカーンを見つめている。その意思と寛容が混ざり合うような落ち着いた言葉とまなざし。言っていることにはそれぞれ反論はあったが、近藤はカーンと言う闘士の怖さを再確認した。
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