41 / 111
朝の出来事
第41話 お嬢様の宝物
しおりを挟む
部屋に戻った誠は荷物を片付ける仕事があった。島田は入り口のそばで屈伸をしている。
「早くしろよー!」
サングラスをかけた島田が上目遣いに誠をにらむ。誠はそそくさと隣の和室に入ると、かけてあった儀礼服をバックに突っ込んだ。
「それだけか?荷物」
「ええ、とりあえず一泊ですから」
そう言うとジッパーを閉めてバッグを小脇に抱えた。大型のリュックを背負って島田が立ち上がる。
「おい!行くぞ」
ドアをたたいて島田が呼んでいるのが聞こえた。
「暑いなあ、さすがに。ビールでも飲みたい気分だな」
「島田先輩、帰りも運転でしょ?警察が飲酒運転したらまずいでしょ」
「まったく……うちの隊員で大型一種は誰でも持ってるくせに二種は……まあ、オメエに愚痴っても仕方ねえか」
島田はそう言うと苦笑いを浮かべた。
「それにしてもいい天気だな」
誠は島田の言葉に釣られて大きな窓に目を向けた。水平線ははっきりと見える。空の青はその上に広がり、太陽がそのすべてに等しく日差しを振りまいている。
「よしっと」
窓の前で島田が再び屈伸をした。彼が履いているのはビーチサンダルでいかにも浜辺に向かうのに適した格好に見えた。
「もしかしてプライベートビーチとかですか?」
ホテルの裏の、時期にしては閑散としているように見える浜辺を見た誠がつぶやく。
「いやあ……そこまでは高級じゃないらしいぞ、ここ。それにどうせアメリアのおばさんが『プライベートビーチなど邪道だ!』とか意味不明なこと言い出すから。一般海水浴場に行くんだと」
「誰がおばさんよ!誰が!」
いきなりドアが開いて胸だけを隠しているように見える大胆な格好をしたアメリアが怒鳴り込んできた。彼女はそのまま島田の耳をつまみ上げる。
「痛い!痛いですよ!鍵がかかってるでしょ?どうやって入ったんですか?」
島田がそう言う後ろから、一枚のカードを持ったかなめが入ってくる。
「一応、このホテルの名義はアタシだからな。当然マスターキーも持ってるわけだ」
「聞いてないっすよ!」
島田の驚く顔を見てかなめは満足げに頷く。涙目になりかけた島田を離したアメリアが誠の手をつかんで引っ張った。誠はとりあえずかなめの機嫌がよくなっていることに気づいてほっと胸を撫で下ろす。
「さあ誠ちゃん!行きましょうね!」
紺色の長い髪をなびかせながら誠を引っ張ってアメリアは廊下に出る。廊下には遠慮がちにアメリアの荷物を持たされている淡い緑色のキャミソールを着たカウラがやれやれと言ったように二人を眺めていた。
「んじゃー行くぞ!」
かなめが手を振ると皆はエレベータルームに向かった。
「西園寺さん。この絵、本物ですか?」
明らかにこの集団が通るにはふさわしくない瀟洒な廊下が続いている。そこにかけてあるのは一枚の絵画だった。
印象派、ということしか誠には分からない絵を指してかなめに尋ねた。かなめはまったく絵を見ることはしない。
「ああ、モネの睡蓮な。模写に決まってるだろ」
「そうですよね」
「本物は甲武の美術館にある」
かなめは当たり前のようにそう言った。
「へー。遼州星系にあるんですね……なんていう名前の美術館なんですか?そこ」
「西園寺記念美術館」
それだけ言ってかなめは立ち去る。あまりにも自然で当然のように振舞うかなめにただ呆然とする誠だった。
「本物持ってるの?かなめちゃん」
思わずアメリアが突っ込む。かなめはめんどくさそうに額に乗っけていたサングラスを鼻にかける。
「まあ、あの美術館の所有品は全部アタシ名義だからな……持ってるって言えば持ってるわけか……親父が9歳誕生日にプレゼントだってくれた」
相変わらずかなめはそっけなかった。
「誕生日プレゼントに……モネ……」
誠は『モネ』と言う画家が何者かは分からなかったが、それなりに価値のあるものらしいということだけは分かった。
「アタシは印象派は趣味じゃねえけどな……」
開いたエレベータの扉に入る。感心したようにかなめを見つめるアメリアと島田。カウラは意味がわからないと言うように首をひねりながら誠を見つめている。
「さすがにお嬢様ねえ。昨日の格好も伊達じゃないってことね」
アメリアが独り言のようにつぶやくと、かなめは彼女をにらみつけた。
「怖い顔しないでよ。別に他意はないんだから」
アメリアはサイボーグのかなめを怒らせても得は無いことは知っているのでなんとか笑ってごまかそうとする。
島田は両手で計算をしている。誠にはつぶやいている内容からして、実物のモネの睡蓮の値段でも推理しているように見えた。
扉が開き、エレベータルームを抜けたところで、先頭を歩いていたかなめの足が止まった。
「早くしろよー!」
サングラスをかけた島田が上目遣いに誠をにらむ。誠はそそくさと隣の和室に入ると、かけてあった儀礼服をバックに突っ込んだ。
「それだけか?荷物」
「ええ、とりあえず一泊ですから」
そう言うとジッパーを閉めてバッグを小脇に抱えた。大型のリュックを背負って島田が立ち上がる。
「おい!行くぞ」
ドアをたたいて島田が呼んでいるのが聞こえた。
「暑いなあ、さすがに。ビールでも飲みたい気分だな」
「島田先輩、帰りも運転でしょ?警察が飲酒運転したらまずいでしょ」
「まったく……うちの隊員で大型一種は誰でも持ってるくせに二種は……まあ、オメエに愚痴っても仕方ねえか」
島田はそう言うと苦笑いを浮かべた。
「それにしてもいい天気だな」
誠は島田の言葉に釣られて大きな窓に目を向けた。水平線ははっきりと見える。空の青はその上に広がり、太陽がそのすべてに等しく日差しを振りまいている。
「よしっと」
窓の前で島田が再び屈伸をした。彼が履いているのはビーチサンダルでいかにも浜辺に向かうのに適した格好に見えた。
「もしかしてプライベートビーチとかですか?」
ホテルの裏の、時期にしては閑散としているように見える浜辺を見た誠がつぶやく。
「いやあ……そこまでは高級じゃないらしいぞ、ここ。それにどうせアメリアのおばさんが『プライベートビーチなど邪道だ!』とか意味不明なこと言い出すから。一般海水浴場に行くんだと」
「誰がおばさんよ!誰が!」
いきなりドアが開いて胸だけを隠しているように見える大胆な格好をしたアメリアが怒鳴り込んできた。彼女はそのまま島田の耳をつまみ上げる。
「痛い!痛いですよ!鍵がかかってるでしょ?どうやって入ったんですか?」
島田がそう言う後ろから、一枚のカードを持ったかなめが入ってくる。
「一応、このホテルの名義はアタシだからな。当然マスターキーも持ってるわけだ」
「聞いてないっすよ!」
島田の驚く顔を見てかなめは満足げに頷く。涙目になりかけた島田を離したアメリアが誠の手をつかんで引っ張った。誠はとりあえずかなめの機嫌がよくなっていることに気づいてほっと胸を撫で下ろす。
「さあ誠ちゃん!行きましょうね!」
紺色の長い髪をなびかせながら誠を引っ張ってアメリアは廊下に出る。廊下には遠慮がちにアメリアの荷物を持たされている淡い緑色のキャミソールを着たカウラがやれやれと言ったように二人を眺めていた。
「んじゃー行くぞ!」
かなめが手を振ると皆はエレベータルームに向かった。
「西園寺さん。この絵、本物ですか?」
明らかにこの集団が通るにはふさわしくない瀟洒な廊下が続いている。そこにかけてあるのは一枚の絵画だった。
印象派、ということしか誠には分からない絵を指してかなめに尋ねた。かなめはまったく絵を見ることはしない。
「ああ、モネの睡蓮な。模写に決まってるだろ」
「そうですよね」
「本物は甲武の美術館にある」
かなめは当たり前のようにそう言った。
「へー。遼州星系にあるんですね……なんていう名前の美術館なんですか?そこ」
「西園寺記念美術館」
それだけ言ってかなめは立ち去る。あまりにも自然で当然のように振舞うかなめにただ呆然とする誠だった。
「本物持ってるの?かなめちゃん」
思わずアメリアが突っ込む。かなめはめんどくさそうに額に乗っけていたサングラスを鼻にかける。
「まあ、あの美術館の所有品は全部アタシ名義だからな……持ってるって言えば持ってるわけか……親父が9歳誕生日にプレゼントだってくれた」
相変わらずかなめはそっけなかった。
「誕生日プレゼントに……モネ……」
誠は『モネ』と言う画家が何者かは分からなかったが、それなりに価値のあるものらしいということだけは分かった。
「アタシは印象派は趣味じゃねえけどな……」
開いたエレベータの扉に入る。感心したようにかなめを見つめるアメリアと島田。カウラは意味がわからないと言うように首をひねりながら誠を見つめている。
「さすがにお嬢様ねえ。昨日の格好も伊達じゃないってことね」
アメリアが独り言のようにつぶやくと、かなめは彼女をにらみつけた。
「怖い顔しないでよ。別に他意はないんだから」
アメリアはサイボーグのかなめを怒らせても得は無いことは知っているのでなんとか笑ってごまかそうとする。
島田は両手で計算をしている。誠にはつぶやいている内容からして、実物のモネの睡蓮の値段でも推理しているように見えた。
扉が開き、エレベータルームを抜けたところで、先頭を歩いていたかなめの足が止まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
暗算参謀は王国を追放される――戦わずして勝ち続けた男の失脚譚――
まさき
ファンタジー
現代日本から異世界へ転生した主人公。
彼に与えられた唯一の能力は、瞬時にあらゆる数値を弾き出す「暗算」だった。
剣も魔法も使えない。
だが確率と戦略を読み解くことで、王国の戦を幾度も勝利へ導いていく。
やがて王国の戦略顧問として絶大な信頼を得るが、
完璧すぎる功績は貴族の嫉妬を招き、巧妙な罠により不正の罪を着せられてしまう。
証明できぬ潔白。
国の安定を優先した王の裁定。
そして彼は、王国を追放される。
それでも彼は怒らない。
数字は嘘をつかないと知っているからだ。
戦わずして勝ち続けた参謀が、国を去るその日までを描く、
知略と静かな誇りの異世界戦略譚。
無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜
黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。
ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。
彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。
賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。
地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す!
森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。
美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。
さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる!
剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。
窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!
【完結】孤独を抱いた英雄と、孤独に生まれた魔法使い〜元Sランクと訳あり美少年の共同生活〜
藤原遊
ファンタジー
かつて“英雄”と呼ばれた女冒険者と、魔族の血を引く訳あり美少年の共同生活。
静かな町外れで暮らす元Sランク剣士シズナ。
魔力が使えず、かつては戦場を駆け抜けた彼女は、今は人目を避けて暮らしている。
ある日、彼女は“人間ではない少年”を拾う。
魔王軍の血を引き、人間にも魔族にも馴染めなかった少年・リュカ。
異質な力に怯えながら、それでも彼は人の中で生きたかった。
「あなたの隣にいたい。守れるくらい、強くなって」
少年は英雄に恋をした。
孤独を知る二人が、“居場所”と“誰かの隣”を探す、あたたかくて少し切ない成長譚。
【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。
だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。
互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。
ハッピーエンド
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/03/02……完結
2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位
2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位
2023/12/19……連載開始
腹黒薬師は復讐するために生きている
怜來
ファンタジー
シャルバリー王国に一人の少女がいた。
カナリヤ・ハルデリス
カナリヤは小さい頃から頭が冴えていた。好奇心旺盛でよく森に行き変な植物などを混ぜたりするのが好きだった。
そんなある日シャルバリー王国に謎の病が発生した。誰一人その病を治すことができなかった中カナリヤがなんと病を治した。
国王に気に入れられたカナリヤであったが異世界からやってきた女の子マリヤは魔法が使えどんな病気でも一瞬で治してしまった。
それからカナリヤはある事により国外追放されることに…
しかしカナリヤは計算済み。カナリヤがしようとしていることは何なのか…
壮絶な過去から始まったカナリヤの復讐劇
平和な国にも裏があることを皆知らない
☆誤字脱字多いです
☆内容はガバガバです
☆日本語がおかしくなっているところがあるかもしれません
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる