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戦いの記録

第17話 ベタネタ

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「でもすげーよな。本当によく考えてるよこれ。でもまあ……アタシはもうちょっとかわいいのがいいけどな」 

「違います!」 

 ランの言葉にかなめから離れたアメリアが叫んだ。突然のことにランは驚いたように目をむく。

「かわいいは正義。これは昔からよく言われる格言ですが、本当にそうでしょうか?かわいい萌え一辺倒の世の中。それでいいのかと私は非常に疑問です!かわいさ。これはキャラクターの個性として重要なファクターであることは間違いないです。私も認めます。ですが、すべてのキャラがかわいければよいか?その意見に私はあえてNo!!と言いたいんです!」 

 こぶしを振りかざし熱く語ろうとするアメリアに部屋中の隊員が『またか』と言う顔をしている。

「なんとなくお前の哲学はわかったけどよー、なんでアタシはへそ出しなんだ?小夏の格好はどう見てもドレスだって言うのに。それと……」 

 ランが自分が書かれているアメリア直筆の設定画を手に取っている。だが、アメリアは首を振りながらランの肩に手を伸ばし、中腰になって同じ目線で彼女を認めながらこう言った。

「これはセクシーな小悪魔と言うキャラだからですよ。わかりますよね?」 

 思い切りためながらつぶやいたアメリアの言葉にランは頬を赤らめた。

「……セクシーなら仕方が無いな。うん」 

 ランのその反応にかなめは机を叩いて笑い出す。さすがのランも今度はただ口を尖らせてすねて見せる程度のことしかできなかった。

「あの、アメリアさん。この女性怪人、名前がローズクイーンってベタじゃないですか?」 

 誠がそう言いながら差し出したのは両手が刺付きの蔓になっている女性怪人の設定画だった。

「そのキャラはあえてベタで行ったのよ。その落差が良い感じなの!」 

 ついていけないというようにカウラは静かに自分の分のお茶をすする。かなめとランはとりあえず席に座ってお茶を飲みながら誠とアメリアの会話を聞くことにした。

「でも良いんですか?月島屋にはお世話になっているのは認めますけど……これって春子さんですよね、演じる人は」 

 誠は涼やかな表情と胸などを刺付きの薔薇の蔓で覆っただけの胸のあたりまで露出した姿の女性の描かれた紙をアメリアに差し出す。

「すげー!本当にオメーが描いてるんだなこれ」 

 感心したように声を上げたのはランだった。だが、アメリアはすぐにそれを手に取り真剣な目で絵を見つめていた。カウラの隣で黙っているのに飽きてアメリアの後ろに来たかなめがイラストを見てにやりと笑う。

「これはいいのか?胸とか露出が多すぎだろ?これじゃあ春子さん受けないんじゃねえの?」 

 そう言ってかなめは誠の頭を叩く。その手を振り払って誠は次のキャラを描き始めた。

「確かにこれはやりすぎだな……」 

「これで行きましょう!」 

 カウラの言葉をさえぎってアメリアが叫ぶ。すぐさまその絵はパーラとサラに手渡された。

「かなめちゃんの言うとおりとりあえず軍にはこれを流して宣伝材料にすれば結構票が稼げそうね。サラは女性キャラが苦手だから男ばかりでむさくるしい東和の各部隊の票はこちらが稼げるはずよ!あとは……」 

 アメリアはかなめに向き直った。そしてそのまままじまじとかなめを見つめる。その雰囲気にいたたまれないようにかなめは周りを見回す。だが、かなめの周りには彼女を見るものはほとんどいなかった。それどころか一部の彼女の視線に気がついたものは『がんばれ!』と言うような熱い視線を送ってくる。

「アタシがどうしたんだ?」 

 そう言うかなめをアメリアがにらみつける。かなめが一斉に『お前がやれ』と言う雰囲気の視線を全身に受けると頭を掻きながら身を引く。アメリアは誠が修正した設定画をめくってその中の一つを取り出した。

「それ、アタシのキャラか?それがどうしたんだ?」 

 そんなランの言葉にアメリアは再び厳しい瞳を向ける。だがすでにランは諦めきった様子を見せていた。それをアメリアは満足げに見下ろす。

「なんだよ、アタシがテメーになんかしたんか?え?」 

 ランは最後の抵抗を試みる。だがアメリアの瞳の輝きにランは圧倒されて黙り込んでいた。

「中佐。お願いがあるんですけど」 

 その言葉の意味はカウラとかなめにはすぐ分かった。かなめは携帯端末を取り出して、そのカメラのレンズをランに向ける。カウラは自分が写らないように机に張り付いた。

「なんだ?」 

「ぶっきらぼうな顔してくれませんか?」 

 アメリアの意図を察したかなめの言葉にランは呆然とした。

「何言い出すんだ?」 

 ランは呆れながらかなめを見つめる。

「そうね、じゃあかなめちゃんを怒ってください」 

「は?」 

 突然アメリアに怒れといわれてランは再び訳がわからないという顔をした。

「あれですよ、合成してイメージ画像に使うんですから。さあ怒ってください」 

 すでにアメリアの意図を察している上でアメリアの狙いに否定的なカウラまでそう言いながら笑っている。気の短いランは周りから訳のわからないことを言われてレンズを向けているかなめに元から悪い目つきでにらみつけた。

 シャッターの音がする。かなめはすぐ端末をいじってデータをアメリアに送った。アメリアは何度か端末を覗き込んだ後、満面の笑みを浮かべた。

「これ結構いい感じね。採用」 

「なんだよ!いったい何なんだよ!」 

 ランはたまらずアメリアに詰め寄った。

「静かにしてね!」 

 そう言ってアメリアは誠を一瞥してランの唇を指でつつく。その態度が腹に据えかねたと言うようにふくれっつらをするランだが、今度はカウラがその表情をカメラに収めていた。

「オメー等!わけわかんねーよ!」 

 ランは思い切り机を叩くとそのままドアを乱暴に開いて出て行った。

「怒らせた?」 

「まあしょうがねえだろ。とっとと仕事にかかろうぜ」 

 そう言うとかなめは誠の描いたキャラクターを端末に取り込む作業を始めた。それまで協力する気持ちがまるで無かったかなめだが、明らかに今回のメインディッシュがランだと分かると嬉々としてアメリアの部下を押しのけて画像加工の作業を開始するために端末の前に座っていた。

 そんな騒動を横目に正直なところ誠はかなり乗っていた。

 フェスの追い込みの時にはアメリアから渡されるネームを見るたびにうんざりしていたが、今回はキャラクターの原案と設定が描かれたものをデザインするだけの作業で、以前フィギュアやプラモデルを作っていた時のように楽しく作業を続けていた。

「神前は本当に絵が好きなんだな」 

 ひたすらペンタブを走らせる誠にカウラはそう言って呆れたように見つめる。だが、彼女も生き生きしている誠の姿が気に入ったようでテーブルの端に頬杖をついたまま誠のペンタブの動きを追っている。

「なるほど、これがこうなって……」 

 パーラは端末に取り込んだ誠の絵を加工するしている。その様子を楽しそうに見ているのはかえでとリンだった。

「やってみますか?」 

 そんなパーラの一言にかえでは首を横に振る。

「できないよ、僕にはこんなこと。それと……これ、もしかしてこれ、僕かな」 

 画面を指差して笑うかえでに思わず立ち上がったカウラはそのままパーラの前の画像を覗き込んだ。そこには男装の麗人といった凛々しいがどこか恐ろしくも見える女性が映し出されていた。

「役名が……カヌーバ黒太子。アメリア。悪役が多すぎないか?」 

 カウラの言葉にアメリアは一瞬天井を見て考えた後、人差し指をカウラの唇に押し付けた。

「カウラちゃんこれはあれよ……凛々しい悪役の女性キャラってそれだけで萌え要素なのよ」 

「そんなお前の偏った趣味なんて聞いてねえよ」 

「かなめちゃんはちゃんと出番をたくさん用意するからがんばってね」 

 壁に寄りかかってぶつぶつとつぶやいているかなめにアメリアが笑いかける。かなめはその言葉に頭を抱えてしゃがみこんだ。
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