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第七話 ぶつかって
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「そういうのじゃもうない……か……」
喉に刺さった小骨が抜けない、胸を襲う鈍痛が引かない。泣きそうなほどに心はぐちゃぐちゃなのに冷たい空気と仄暗い道が私を嫌に冷静にさせた。
私を追い返すような葵の強い目を思い出す。初めて向けられた目だった。
葵は、葵は、葵は。私のことをどう思ってるんだろう。
当たり前に気づかなくちゃいけないことに今になって気づいた。私は葵に気を遣わせている。葵は友達でいるのも嫌なのかもしれない。
進んだ心が、また戻る。分かったと思ったことが分からなくなる。
時間はこれを解決してくれるだろうか。どんな風に解決するだろうか。
「はぁ……」
吐いたため息は白かった。
また、葵と話さない日が何日か続いた。小夜香にはもうあの帰り道のことも、思ったことも話した。小夜香は何か考えてくれているみたいだった。私が落ち込んでいるのもあって、色んなところでぎこちない。
「もう……無理なのかなぁ」
終わってしまったことなのだろうか。あの時に、別れようなんて言っちゃったから。最低だ。最低続きだ私は、何も上手くいってない。動き出したくても、葵はどうして欲しいのか分からない。分からない。分からないことだらけだ。
ベッドに寝転がって、葵とのトーク画面を開く。当たり障りのない会話。最後は葵のスタンプで終わっている。
モヤモヤを抱えたまま、眠りにつく。朝になれば大体気分も幾らかにマシになる。
「結月、帰ろ」
六限が終わって、帰る準備をしている時、小夜香に誘われた。
「小夜香、部活は?」
今日はいつもだったら小夜香は部活の日だと思ってたんだけど。
「今日は休み」
「そっか、うん。帰ろ~」
今日は天気がいい。雲が高くて、気持ちも遠くに飛んでいきそうだった。
陽が沈んでいく。小夜香と話していると落ち着いた。
「てかさ~、数学進むの早くない? ついてけないよ」
「ふふ、そうね。高校の勉強難しいわよね」
「いいな、小夜香。頭良くて」
「そんな、大したことないわよ」
「前回学年二位だったくせに。ホントに羨ましい。頭良くて、私バカだから」
「そんなこと……結月?」
気づくと私は俯いて、立ち止まってしまっていた。
「バカだよ。バカだから、好きなのに振っちゃって。バカだから、葵が気を遣ってくれるのも気づかなくて。というか、それよりずっと前に、もっと葵の話聞いてれば、分かってれば……」
こんなこと言われても小夜香は困るだけなのは分かっていた。でも、押し込んだままにできなかった。
「多分、それは私でも分からないわよ」
「…………そうだよね」
自嘲気味な笑いが溢れる。
「結月、」
少し語気を強くして小夜香が私の名前を呼んだ。
「私、柳くんのこととか、二人の間のこととか、恋愛とか、全然分かんないし、結月のことも多分全部は分かんないだけど。その……痛みとか、結月の悩みとかは伝わってくる。だから、私からするとなんでこれが柳くんに伝わらないのってもどかしいのだけど。その、だから。というかなんていうか……」
小夜香が言葉を探している。
「結月、今のままだと。このままだと、絶対、絶対柳くんと他人になっちゃうよ? ゆっくり離れていって、時間が二人を他人にしちゃうよ?」
「そんなの……分かってる! 分かってるよ! それぐらい! でも、分かんない! 傷つけて傷つくだけなんだもん! どうしたらいいの?」
小夜香の言葉は、あまりにもその通りで、グサリと私の胸に刺さった。
私は私の味方してくれている小夜香を睨んで叫んでしまった。
「私は! 結月に後悔して欲しくない!」
小夜香も怯まなかった。顔を赤くして、いつも綺麗な小夜香の声が慣れない大声で掠れる。
「……っ……後悔なんて、もうたくさんしてる!」
喉が焼けるように熱い。
「でも! 結月最初言ってたじゃない。ちゃんと話すって。あれ、話したの?」
「……」
話せてない。話せるわけない。付き合っていた時のことなんて到底、話せるわけがなかった。
「やっぱり、話せてないんじゃない」
「……小夜香は関係ないから。関係ないからそんなこと言えるんだよ」
口にしてみて最低だなって思う。小夜香は私を心配してくれたのに。俯いていた顔を上げると小夜香の瞳に涙が浮かんでいた。あ……。やってしまった。また。
「そうよ。関係ないから。関係ないから言ってるのよ」
小夜香が深く息を吸う。
「結月、私。とても臆病なのよ。知ってるでしょ?」
「うん……」
小夜香は昔から慎重な子だった。小さい頃、階段を降りるのが怖くて、手すりにしがみついたりしていたのが変に記憶に残っている。
「ほら、橋渡るのとか。怖くて、結月、手を繋いでくれたじゃない。だから……今度は私が結月が怖いのを、背中を押したいのよ。何が正しいのか、私も分かってなくて、とても怖いのだけど。最大限の勇気を込めて言わせてもらうわ」
俯いていた目が私を見据える。目が少し吊り上がって、とても綺麗で整った顔。大人っぽいんだけど今日は目元が腫れていて少し子供っぽく見えた。
「何も伝えられないで、ぐずって後悔して欲しくない。好きなら、ぶつかってきなさいよ。他人事だからこういう風に言えるのは分かってる。でも」
『そう思うのよ』そういう小夜香の顔はとても強くて、かっこ良かった。
強くて、かっこよくて、可愛くて、美人で、優しい。わがままで、すぐに怒る私とは違う。
こんな人が葵の恋人になれば葵も幸せだろうに。
でも、少し想像してみて、やっぱり嫌だなと頭を振る。
私が、葵を好きなのだから。私が幸せにしたい。私が幸せになるのが葵とが良い。
「だから言わないとなのか」
大丈夫かな、と不安になる。
こんな風に葵ともぶつかれるだろうか。葵はぶつかってくれるだろうか。
「小夜香、ありがと。バレンタイン近いじゃん。その時、チョコ渡して、それで、告白する。全部」
それで、ダメだったら諦める。縁がなかったって、全部諦める。
「大丈夫? それで」
「うん、話せなかったら、次の日も話に行く」
「絶対だよ?」
「うん」
そう言って私は笑った。小夜香も少し呆れ気味に笑った。多分、あんまり信用されてない、でもしょうがない。
私も実は、そんなに私のことを信用してない。また怖気ついたら小夜香に叱られるかもしれない。
「久しぶりに怒鳴ったら、すっきりしたー!」
空に向かってそう叫ぶ。
「近所迷惑よ……」
「小夜香は?」
私の言葉に小夜香が困惑する。でも、意を決したような顔をして。
「私も、言いたいこと言えてすっきりしたー!」
「近所迷惑だよ? 小夜香」
「殴るわよ」
小夜香の口から『殴るわよ』なんてパワーワードが出てきたもんだから思わず笑ってしまった。
喉に刺さった小骨が抜けない、胸を襲う鈍痛が引かない。泣きそうなほどに心はぐちゃぐちゃなのに冷たい空気と仄暗い道が私を嫌に冷静にさせた。
私を追い返すような葵の強い目を思い出す。初めて向けられた目だった。
葵は、葵は、葵は。私のことをどう思ってるんだろう。
当たり前に気づかなくちゃいけないことに今になって気づいた。私は葵に気を遣わせている。葵は友達でいるのも嫌なのかもしれない。
進んだ心が、また戻る。分かったと思ったことが分からなくなる。
時間はこれを解決してくれるだろうか。どんな風に解決するだろうか。
「はぁ……」
吐いたため息は白かった。
また、葵と話さない日が何日か続いた。小夜香にはもうあの帰り道のことも、思ったことも話した。小夜香は何か考えてくれているみたいだった。私が落ち込んでいるのもあって、色んなところでぎこちない。
「もう……無理なのかなぁ」
終わってしまったことなのだろうか。あの時に、別れようなんて言っちゃったから。最低だ。最低続きだ私は、何も上手くいってない。動き出したくても、葵はどうして欲しいのか分からない。分からない。分からないことだらけだ。
ベッドに寝転がって、葵とのトーク画面を開く。当たり障りのない会話。最後は葵のスタンプで終わっている。
モヤモヤを抱えたまま、眠りにつく。朝になれば大体気分も幾らかにマシになる。
「結月、帰ろ」
六限が終わって、帰る準備をしている時、小夜香に誘われた。
「小夜香、部活は?」
今日はいつもだったら小夜香は部活の日だと思ってたんだけど。
「今日は休み」
「そっか、うん。帰ろ~」
今日は天気がいい。雲が高くて、気持ちも遠くに飛んでいきそうだった。
陽が沈んでいく。小夜香と話していると落ち着いた。
「てかさ~、数学進むの早くない? ついてけないよ」
「ふふ、そうね。高校の勉強難しいわよね」
「いいな、小夜香。頭良くて」
「そんな、大したことないわよ」
「前回学年二位だったくせに。ホントに羨ましい。頭良くて、私バカだから」
「そんなこと……結月?」
気づくと私は俯いて、立ち止まってしまっていた。
「バカだよ。バカだから、好きなのに振っちゃって。バカだから、葵が気を遣ってくれるのも気づかなくて。というか、それよりずっと前に、もっと葵の話聞いてれば、分かってれば……」
こんなこと言われても小夜香は困るだけなのは分かっていた。でも、押し込んだままにできなかった。
「多分、それは私でも分からないわよ」
「…………そうだよね」
自嘲気味な笑いが溢れる。
「結月、」
少し語気を強くして小夜香が私の名前を呼んだ。
「私、柳くんのこととか、二人の間のこととか、恋愛とか、全然分かんないし、結月のことも多分全部は分かんないだけど。その……痛みとか、結月の悩みとかは伝わってくる。だから、私からするとなんでこれが柳くんに伝わらないのってもどかしいのだけど。その、だから。というかなんていうか……」
小夜香が言葉を探している。
「結月、今のままだと。このままだと、絶対、絶対柳くんと他人になっちゃうよ? ゆっくり離れていって、時間が二人を他人にしちゃうよ?」
「そんなの……分かってる! 分かってるよ! それぐらい! でも、分かんない! 傷つけて傷つくだけなんだもん! どうしたらいいの?」
小夜香の言葉は、あまりにもその通りで、グサリと私の胸に刺さった。
私は私の味方してくれている小夜香を睨んで叫んでしまった。
「私は! 結月に後悔して欲しくない!」
小夜香も怯まなかった。顔を赤くして、いつも綺麗な小夜香の声が慣れない大声で掠れる。
「……っ……後悔なんて、もうたくさんしてる!」
喉が焼けるように熱い。
「でも! 結月最初言ってたじゃない。ちゃんと話すって。あれ、話したの?」
「……」
話せてない。話せるわけない。付き合っていた時のことなんて到底、話せるわけがなかった。
「やっぱり、話せてないんじゃない」
「……小夜香は関係ないから。関係ないからそんなこと言えるんだよ」
口にしてみて最低だなって思う。小夜香は私を心配してくれたのに。俯いていた顔を上げると小夜香の瞳に涙が浮かんでいた。あ……。やってしまった。また。
「そうよ。関係ないから。関係ないから言ってるのよ」
小夜香が深く息を吸う。
「結月、私。とても臆病なのよ。知ってるでしょ?」
「うん……」
小夜香は昔から慎重な子だった。小さい頃、階段を降りるのが怖くて、手すりにしがみついたりしていたのが変に記憶に残っている。
「ほら、橋渡るのとか。怖くて、結月、手を繋いでくれたじゃない。だから……今度は私が結月が怖いのを、背中を押したいのよ。何が正しいのか、私も分かってなくて、とても怖いのだけど。最大限の勇気を込めて言わせてもらうわ」
俯いていた目が私を見据える。目が少し吊り上がって、とても綺麗で整った顔。大人っぽいんだけど今日は目元が腫れていて少し子供っぽく見えた。
「何も伝えられないで、ぐずって後悔して欲しくない。好きなら、ぶつかってきなさいよ。他人事だからこういう風に言えるのは分かってる。でも」
『そう思うのよ』そういう小夜香の顔はとても強くて、かっこ良かった。
強くて、かっこよくて、可愛くて、美人で、優しい。わがままで、すぐに怒る私とは違う。
こんな人が葵の恋人になれば葵も幸せだろうに。
でも、少し想像してみて、やっぱり嫌だなと頭を振る。
私が、葵を好きなのだから。私が幸せにしたい。私が幸せになるのが葵とが良い。
「だから言わないとなのか」
大丈夫かな、と不安になる。
こんな風に葵ともぶつかれるだろうか。葵はぶつかってくれるだろうか。
「小夜香、ありがと。バレンタイン近いじゃん。その時、チョコ渡して、それで、告白する。全部」
それで、ダメだったら諦める。縁がなかったって、全部諦める。
「大丈夫? それで」
「うん、話せなかったら、次の日も話に行く」
「絶対だよ?」
「うん」
そう言って私は笑った。小夜香も少し呆れ気味に笑った。多分、あんまり信用されてない、でもしょうがない。
私も実は、そんなに私のことを信用してない。また怖気ついたら小夜香に叱られるかもしれない。
「久しぶりに怒鳴ったら、すっきりしたー!」
空に向かってそう叫ぶ。
「近所迷惑よ……」
「小夜香は?」
私の言葉に小夜香が困惑する。でも、意を決したような顔をして。
「私も、言いたいこと言えてすっきりしたー!」
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