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第六話 二人の距離
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side 柳 葵
「葵っ」
後ろから呼ばれて振り返る。ショッピングモールで『友達』に戻った、あのときから、橘は時々話かけてくるようになった。
「一緒に帰ろ」
少し、久しぶりの提案だった。面食らう。
「柊さんはどうしたの?」
「部活」
「そっか、良いよ」
橘は徒歩通学だけど、それにしては少しだけ距離がある。方向も同じだし話し相手になろう。
求められることを求められるだけ、余計なことは考えなくて良い。
「それでさ……舞ちゃんがね? 聞いてる?」
「うん、聞いてる」
「うん、そう、それでね?」
こうやって、好きな人が隣で楽しく話してくれている。あまりにも十分だ。贅沢だ。別れたのにこうして話せている。
「あれ、柳じゃん」
町中をすれ違いざまに声をかけられた。
「あ、夜鷹?」
中学の時の同級生だ。いつもゲームのしすぎで寝不足って感じだったけど、話してみると案外面白くて伊織と一緒によく遊んでいた。
「そうそう、久しぶり」
「ほんと、久しぶり」
確か、私立の高校行ったんだっけ。
「何の帰り?」
「モンスター帰り」
なんだ、それ、一狩りしてきたみたいな言い方しやがって。
「なんか良く分かんないけど。人生充実してそうだな」
「うん……。今はすごく充実してる。あ、柳も隣の人、彼女? 前言ってた橘さんだっけ?」
「あ、あぁ、まぁ橘なんだけど」
よく覚えてたな、コイツ。でも、その話はやめてくれ。さっさとどっかに行ってくれることを願う。
「おぉー、良いね。時々ゲームすると、コイツ惚気てきてさ。面倒くさいやつだけど、悪いやつじゃ……」
「夜鷹!」
柄にもなく、大きな声が出た。橘の前でこういう怒鳴り声がでると思っていなかった。
「何、恥ずか……」
橘に話しかけていた夜鷹がこっちを向く。俺の顔を見て何かを察したのか、夜鷹は黙った。
「橘だけど、付き合ってない。今は友達なんだ。そういうのじゃもうない。やめてくれ」
「……そうか。それはすまん」
気まずそうで、申し訳なさそうな顔を見て、少し頭が冷めた。夜鷹が勘違いするのもしょうがないだろう。彼女がいると思っていた友達が女子と歩いていたら俺もそうするかもしれない。でも、うん。今回はダメだった。
「まぁ、そういうことだからさ」
橘の横でこういう風に話すのは気まずすぎる。
「あ、あぁ。あ、お詫びの品としてはなんだけど、モンスターあげるよ」
なんだコイツの図太さ……。時々本当に頭おかしいんじゃないかと思う。
「いらんけど、もらうわ」
「うん」
話がややこしくなっても困るから、素直に受け取っておく。とにかく早くどこかに行って欲しかった。
「それじゃ」
「うん、すまん」
謝らないで欲しかった。余計に気まずくなるから。何を思っているのかよくわからない、どちかというと無表情に近いような顔で夜鷹が去っていた。
一瞬、怒りのようなもので熱くなった内側も落ちついてくる。モンスターを握る手が冷たかった。もう冬だってのに、外でこんなのもらっても嬉しくないな。
「ごめん、橘」
「あ……いや、うん。大丈夫」
橘の方を見ようとは思わなかった。自分がどんな表情しているかも分からないし、目が合ったりしたら余計気まずい。何を言ってもどうしようもない気がして俺は黙ってできるだけ遠くを見ながら歩いていた。
俺と、橘で家の方向が少しズレる分かれ道。ちょっと前は橘の家まで送ることもあったが、今日は絶対そういう日じゃない。
「じゃあ、ここで」
まだ、橘の顔を見れないまま、俺はそう告げた。
夕焼けはもう沈んで、空は少し紫がかっている。流石に日が落ちるのが早い。働かない頭を冬風が冷却していく。
でも、もう処理落ちしてるもんは変わらなかった。
本来の現実を突きつけられている。こうやって離れていくのが普通なんだ。この気まずさが本来二人の間にあるものだ。
モンスターを握る手が霜焼けになりそうだった。
「……あのさ、葵……」
橘が何か言おうとする。久しぶりに橘の顔を見た気がした。その瞳が揺れて手と唇が所在なさげに動いている。
気を遣ってくれている。もう、良いんだけどな、俺のことなんて気にしないで。
「ごめん、夜鷹にはデリカシーを覚えろって言ってくるわ。あいつインターネット生まれインターネット育ちなところあるから」
「うん、あ、いや、ううん……。その……」
良い、何も言わないで良いから。きっと俺が惨めな思いをするだけだから。
橘と目が合った。揺れる瞳を捕らえてしまった。
泣きそうな目をしていた。
「あ……あお……」
何かを、言葉にしようとその唇から声が漏れ出る。
それでも、俺はその目を強く見つめ返した。橘は推し黙った。多分、俺が黙らせた。
「じゃあ」
「あ……」
小さく発せられた橘の声が陰に吸い込まれていく。
「……明日……また、学校で……」
か細く発せられたその声を。俺は聞かないふりした。
少し、歩いて、多分もう橘からも見えなくなったぐらいのところで、モンスターを開けて、一気に飲んだ。
叫んでやりたかった。色んな感情を消化しきれないまま炭酸と一緒に飲み込んでいる。
時間が解決してくれる。今の気まずさも、俺の気持ちも。
ゆっくり消えるのを待てばいい。それまでは望まれるだけ、求められるだけに応えいこう。もっとも明日から話しかけられるかも怪しいんだけど。
「はぁー……」
吐いた息は白かった。
「葵っ」
後ろから呼ばれて振り返る。ショッピングモールで『友達』に戻った、あのときから、橘は時々話かけてくるようになった。
「一緒に帰ろ」
少し、久しぶりの提案だった。面食らう。
「柊さんはどうしたの?」
「部活」
「そっか、良いよ」
橘は徒歩通学だけど、それにしては少しだけ距離がある。方向も同じだし話し相手になろう。
求められることを求められるだけ、余計なことは考えなくて良い。
「それでさ……舞ちゃんがね? 聞いてる?」
「うん、聞いてる」
「うん、そう、それでね?」
こうやって、好きな人が隣で楽しく話してくれている。あまりにも十分だ。贅沢だ。別れたのにこうして話せている。
「あれ、柳じゃん」
町中をすれ違いざまに声をかけられた。
「あ、夜鷹?」
中学の時の同級生だ。いつもゲームのしすぎで寝不足って感じだったけど、話してみると案外面白くて伊織と一緒によく遊んでいた。
「そうそう、久しぶり」
「ほんと、久しぶり」
確か、私立の高校行ったんだっけ。
「何の帰り?」
「モンスター帰り」
なんだ、それ、一狩りしてきたみたいな言い方しやがって。
「なんか良く分かんないけど。人生充実してそうだな」
「うん……。今はすごく充実してる。あ、柳も隣の人、彼女? 前言ってた橘さんだっけ?」
「あ、あぁ、まぁ橘なんだけど」
よく覚えてたな、コイツ。でも、その話はやめてくれ。さっさとどっかに行ってくれることを願う。
「おぉー、良いね。時々ゲームすると、コイツ惚気てきてさ。面倒くさいやつだけど、悪いやつじゃ……」
「夜鷹!」
柄にもなく、大きな声が出た。橘の前でこういう怒鳴り声がでると思っていなかった。
「何、恥ずか……」
橘に話しかけていた夜鷹がこっちを向く。俺の顔を見て何かを察したのか、夜鷹は黙った。
「橘だけど、付き合ってない。今は友達なんだ。そういうのじゃもうない。やめてくれ」
「……そうか。それはすまん」
気まずそうで、申し訳なさそうな顔を見て、少し頭が冷めた。夜鷹が勘違いするのもしょうがないだろう。彼女がいると思っていた友達が女子と歩いていたら俺もそうするかもしれない。でも、うん。今回はダメだった。
「まぁ、そういうことだからさ」
橘の横でこういう風に話すのは気まずすぎる。
「あ、あぁ。あ、お詫びの品としてはなんだけど、モンスターあげるよ」
なんだコイツの図太さ……。時々本当に頭おかしいんじゃないかと思う。
「いらんけど、もらうわ」
「うん」
話がややこしくなっても困るから、素直に受け取っておく。とにかく早くどこかに行って欲しかった。
「それじゃ」
「うん、すまん」
謝らないで欲しかった。余計に気まずくなるから。何を思っているのかよくわからない、どちかというと無表情に近いような顔で夜鷹が去っていた。
一瞬、怒りのようなもので熱くなった内側も落ちついてくる。モンスターを握る手が冷たかった。もう冬だってのに、外でこんなのもらっても嬉しくないな。
「ごめん、橘」
「あ……いや、うん。大丈夫」
橘の方を見ようとは思わなかった。自分がどんな表情しているかも分からないし、目が合ったりしたら余計気まずい。何を言ってもどうしようもない気がして俺は黙ってできるだけ遠くを見ながら歩いていた。
俺と、橘で家の方向が少しズレる分かれ道。ちょっと前は橘の家まで送ることもあったが、今日は絶対そういう日じゃない。
「じゃあ、ここで」
まだ、橘の顔を見れないまま、俺はそう告げた。
夕焼けはもう沈んで、空は少し紫がかっている。流石に日が落ちるのが早い。働かない頭を冬風が冷却していく。
でも、もう処理落ちしてるもんは変わらなかった。
本来の現実を突きつけられている。こうやって離れていくのが普通なんだ。この気まずさが本来二人の間にあるものだ。
モンスターを握る手が霜焼けになりそうだった。
「……あのさ、葵……」
橘が何か言おうとする。久しぶりに橘の顔を見た気がした。その瞳が揺れて手と唇が所在なさげに動いている。
気を遣ってくれている。もう、良いんだけどな、俺のことなんて気にしないで。
「ごめん、夜鷹にはデリカシーを覚えろって言ってくるわ。あいつインターネット生まれインターネット育ちなところあるから」
「うん、あ、いや、ううん……。その……」
良い、何も言わないで良いから。きっと俺が惨めな思いをするだけだから。
橘と目が合った。揺れる瞳を捕らえてしまった。
泣きそうな目をしていた。
「あ……あお……」
何かを、言葉にしようとその唇から声が漏れ出る。
それでも、俺はその目を強く見つめ返した。橘は推し黙った。多分、俺が黙らせた。
「じゃあ」
「あ……」
小さく発せられた橘の声が陰に吸い込まれていく。
「……明日……また、学校で……」
か細く発せられたその声を。俺は聞かないふりした。
少し、歩いて、多分もう橘からも見えなくなったぐらいのところで、モンスターを開けて、一気に飲んだ。
叫んでやりたかった。色んな感情を消化しきれないまま炭酸と一緒に飲み込んでいる。
時間が解決してくれる。今の気まずさも、俺の気持ちも。
ゆっくり消えるのを待てばいい。それまでは望まれるだけ、求められるだけに応えいこう。もっとも明日から話しかけられるかも怪しいんだけど。
「はぁー……」
吐いた息は白かった。
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