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モニカのため息
「うーん、何か思ったのと違うわ」
自分しかいない調理室で、私はすっかり頭を悩ませていた。
ルドラディアの宮殿には広い調理室があり、そこは王族であれば自由に使って良いことになっている。
とはいえ、今は王族でお菓子作りをするのは私とダグラスだけなので、彼がいない時はほぼ貸切なのであった。
「やっぱり、スポンジはブランデーで浸した方が良かったかしら?」
試作品のケーキを食べながら、私はひとり呟く。
今日はルドラディア製菓協会本部で、ケーキ作りの勉強会が開催された。私もそれに参加したのだが、今はスパイスや木の実など、少し変わった食材とチョコレートを組み合わせるのが、トレンドらしい。
ちなみに協会本部の勉強会に、ダグラスが参加することはない。
理想が高いせいか、ダグラスは製菓協会の理事長とも深い溝があるようだ。察するに、理事長も彼の手厳しさに手を焼いているのだろう。行き過ぎた厳しさは、未来ある職人の芽を摘んでしまうことにもなりかねないのだから。
とはいえ、あくまで軋轢は理事長とダグラスの個人間の問題らしく、私はルドラディアの製菓協会から入会を歓迎された。そして、毎月行われる製菓の勉強会にも、必ず参加している。
そんな訳で帰ってきてから流行を取り入れたケーキを作ってみたものの、満足な出来に仕上がらなかったのだ。
「少し、スパイスを入れすぎたかしら」
チョコレートケーキにスパイスを合わせてみたのだが、どうやら加減を見誤ったらしく、香辛料の辛味がチョコレートの風味を打ち消してしまっていた。
一般人からすれば、おそらく「美味しい」と言われる味。けれども、ダグラスのようなプロが言う美味しいとは、遠く離れている。
本来、あれやこれやと試行錯誤するのもケーキ作りの醍醐味だ。しかし今の私には、それを楽しむ余裕は残っていなかった。
その原因は、他でもなくダグラスだ。
私が優勝した大会では、ダグラスを除く審査員全員が私に満点をつけたという。しかし彼の審査表には、私のケーキの改善点がいくつも書かれていた。
結婚してからも、ダグラスのケーキに対する評価が辛口なのは変わらない。ただただ美味しいと喜んでくれる義両親たちとは違い、彼は必ず手厳しい指摘をしてくるのだ。
自分としては最高の出来でも、ダグラスは私の想定していなかった問題を指摘する。それは全て正しいことばかりなので、反論の余地はない。
パティシエとしては、ケーキを美味しくする一助となっているので、感謝すべきことだろう。
彼は職人として立ち向かうべき高い壁であり、逃げるつもりはない。しかし、一人の人間として……否、妻としては、否定ばかりされるのは少し辛いのが本音だ。
どんなに頑張っても、彼の及第点には届かない。そう思うと、途端に気持ちが落ち込んでしまうのだった。
とはいえ、ダグラスの作る菓子はどれも美味しい。彼は数年前にショコラティエに転身したのだが、チョコレートという狭い範囲で、彼は確実に正解を出してくるのだ。
それを思うと、夫に対して苛立ちは湧かないし、尊敬せざるを得ない。けれども、私の中の自信は失われていくばかりであった。
「……これは、流石にあの人には出せないわ」
失敗作のチョコレートケーキに、私は独り言のように話しかける。
「ダグラス様……貴方の正解は、一体どこにあるの?」
三つに切った長方形のチョコケーキを皿に載せながら、私は深くため息をついた。
自分しかいない調理室で、私はすっかり頭を悩ませていた。
ルドラディアの宮殿には広い調理室があり、そこは王族であれば自由に使って良いことになっている。
とはいえ、今は王族でお菓子作りをするのは私とダグラスだけなので、彼がいない時はほぼ貸切なのであった。
「やっぱり、スポンジはブランデーで浸した方が良かったかしら?」
試作品のケーキを食べながら、私はひとり呟く。
今日はルドラディア製菓協会本部で、ケーキ作りの勉強会が開催された。私もそれに参加したのだが、今はスパイスや木の実など、少し変わった食材とチョコレートを組み合わせるのが、トレンドらしい。
ちなみに協会本部の勉強会に、ダグラスが参加することはない。
理想が高いせいか、ダグラスは製菓協会の理事長とも深い溝があるようだ。察するに、理事長も彼の手厳しさに手を焼いているのだろう。行き過ぎた厳しさは、未来ある職人の芽を摘んでしまうことにもなりかねないのだから。
とはいえ、あくまで軋轢は理事長とダグラスの個人間の問題らしく、私はルドラディアの製菓協会から入会を歓迎された。そして、毎月行われる製菓の勉強会にも、必ず参加している。
そんな訳で帰ってきてから流行を取り入れたケーキを作ってみたものの、満足な出来に仕上がらなかったのだ。
「少し、スパイスを入れすぎたかしら」
チョコレートケーキにスパイスを合わせてみたのだが、どうやら加減を見誤ったらしく、香辛料の辛味がチョコレートの風味を打ち消してしまっていた。
一般人からすれば、おそらく「美味しい」と言われる味。けれども、ダグラスのようなプロが言う美味しいとは、遠く離れている。
本来、あれやこれやと試行錯誤するのもケーキ作りの醍醐味だ。しかし今の私には、それを楽しむ余裕は残っていなかった。
その原因は、他でもなくダグラスだ。
私が優勝した大会では、ダグラスを除く審査員全員が私に満点をつけたという。しかし彼の審査表には、私のケーキの改善点がいくつも書かれていた。
結婚してからも、ダグラスのケーキに対する評価が辛口なのは変わらない。ただただ美味しいと喜んでくれる義両親たちとは違い、彼は必ず手厳しい指摘をしてくるのだ。
自分としては最高の出来でも、ダグラスは私の想定していなかった問題を指摘する。それは全て正しいことばかりなので、反論の余地はない。
パティシエとしては、ケーキを美味しくする一助となっているので、感謝すべきことだろう。
彼は職人として立ち向かうべき高い壁であり、逃げるつもりはない。しかし、一人の人間として……否、妻としては、否定ばかりされるのは少し辛いのが本音だ。
どんなに頑張っても、彼の及第点には届かない。そう思うと、途端に気持ちが落ち込んでしまうのだった。
とはいえ、ダグラスの作る菓子はどれも美味しい。彼は数年前にショコラティエに転身したのだが、チョコレートという狭い範囲で、彼は確実に正解を出してくるのだ。
それを思うと、夫に対して苛立ちは湧かないし、尊敬せざるを得ない。けれども、私の中の自信は失われていくばかりであった。
「……これは、流石にあの人には出せないわ」
失敗作のチョコレートケーキに、私は独り言のように話しかける。
「ダグラス様……貴方の正解は、一体どこにあるの?」
三つに切った長方形のチョコケーキを皿に載せながら、私は深くため息をついた。
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