5 / 12
貴方に食べさせるケーキはありません
「モニカ、ここにいたのか」
「!!」
私がため息を吐いた矢先、ダグラスが調理室にやって来たのだった。
「お、お帰りなさいませ。ダグラス様。その……夕方頃お戻りになられると伺っておりましたが、随分と早いお帰りで」
「ああ、予定より早く終わったんだ」
ダグラスは隣国に三日間の日程で視察に行っていたのだが、どうやら彼は早めに帰宅したようだ。
「新しいケーキを試作してたのか?」
「は、はい……ダグラス様も何かお作りになるのですか?」
それとなくケーキの載った皿を彼から遠ざけつつ、私は尋ねた。
チョコレートは彼の専門分野であり、何を言われるか分かったものではない。だからなるべく、話題を逸らしたかったのだ。
「ああ。ちょうど訪問先で珍しいスパイスやドライフルーツを手に入れたから、試しに何か作ってみようと思ってな。できたら、夕食のデザートにでも出す予定だ」
「そうなんですの……楽しみにしてますわ」
「……ところで」
そこで、ダグラスの視線がチョコレートケーキへと移ってしまった。
「そのケーキは、食べてみたのか?」
「……はい。でも……召し上がっていただける程の完成度では、ありませんでした」
軽く俯きながら、私は言った。
「まだ残ってるのか。だったらひとつ、食べてみてもいいか?」
「……結構です」
自分より優れた者にご指導ご鞭撻いただくのが、パティシエとしてあるべき姿だろう。しかし今の私は、彼の批評を受ける気にはなれないでいた。
「まさか、全部捨てるのか?」
「いえ、ローガンと食べようかと思います。そろそろ彼も、帰ってくる頃かと思いますので」
もうじきローガンが公務から帰ってくるはずなので、一緒に食べようと思ったのだ。彼はきっと、美味しいと言ってくれるはずだから。
「三つあるなら、ひとつ食べても二つ余るだろう?」
「いいえ。ここには貴方に召し上がっていただけるケーキはありませんわ……っ!!」
「私には食べさせられないが、あいつには食べさせられるということか」
「ええ。……では、失礼します」
私はケーキを載せたトレイを持って、調理室から出ようとした。
……ダグラスの顔つきが、とてつもなく険しくなっていることにも気づかず。
「待て、モニカ」
ダグラスは、厳しい口調で私を呼び止めた。
「まずはトレイを置きなさい。話はそれからだ」
シェフやパティシエの世界では、説教を受ける時、必ず手に何も持たないというルールが存在する。それは、手に持った料理や調理器具を床に落とすのを避けるためであった。
彼は自分に指導を入れるつもりなのだと、私は察した。
「!!」
私がため息を吐いた矢先、ダグラスが調理室にやって来たのだった。
「お、お帰りなさいませ。ダグラス様。その……夕方頃お戻りになられると伺っておりましたが、随分と早いお帰りで」
「ああ、予定より早く終わったんだ」
ダグラスは隣国に三日間の日程で視察に行っていたのだが、どうやら彼は早めに帰宅したようだ。
「新しいケーキを試作してたのか?」
「は、はい……ダグラス様も何かお作りになるのですか?」
それとなくケーキの載った皿を彼から遠ざけつつ、私は尋ねた。
チョコレートは彼の専門分野であり、何を言われるか分かったものではない。だからなるべく、話題を逸らしたかったのだ。
「ああ。ちょうど訪問先で珍しいスパイスやドライフルーツを手に入れたから、試しに何か作ってみようと思ってな。できたら、夕食のデザートにでも出す予定だ」
「そうなんですの……楽しみにしてますわ」
「……ところで」
そこで、ダグラスの視線がチョコレートケーキへと移ってしまった。
「そのケーキは、食べてみたのか?」
「……はい。でも……召し上がっていただける程の完成度では、ありませんでした」
軽く俯きながら、私は言った。
「まだ残ってるのか。だったらひとつ、食べてみてもいいか?」
「……結構です」
自分より優れた者にご指導ご鞭撻いただくのが、パティシエとしてあるべき姿だろう。しかし今の私は、彼の批評を受ける気にはなれないでいた。
「まさか、全部捨てるのか?」
「いえ、ローガンと食べようかと思います。そろそろ彼も、帰ってくる頃かと思いますので」
もうじきローガンが公務から帰ってくるはずなので、一緒に食べようと思ったのだ。彼はきっと、美味しいと言ってくれるはずだから。
「三つあるなら、ひとつ食べても二つ余るだろう?」
「いいえ。ここには貴方に召し上がっていただけるケーキはありませんわ……っ!!」
「私には食べさせられないが、あいつには食べさせられるということか」
「ええ。……では、失礼します」
私はケーキを載せたトレイを持って、調理室から出ようとした。
……ダグラスの顔つきが、とてつもなく険しくなっていることにも気づかず。
「待て、モニカ」
ダグラスは、厳しい口調で私を呼び止めた。
「まずはトレイを置きなさい。話はそれからだ」
シェフやパティシエの世界では、説教を受ける時、必ず手に何も持たないというルールが存在する。それは、手に持った料理や調理器具を床に落とすのを避けるためであった。
彼は自分に指導を入れるつもりなのだと、私は察した。
あなたにおすすめの小説
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~
3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。
ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。
しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。
そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。
ちょいぽちゃ令嬢は溺愛王子から逃げたい
なかな悠桃
恋愛
ふくよかな体型を気にするイルナは王子から与えられるスイーツに頭を悩ませていた。彼に黙ってダイエットを開始しようとするも・・・。
※誤字脱字等ご了承ください
愛の重めな黒騎士様に猛愛されて今日も幸せです~追放令嬢はあたたかな檻の中~
3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
令嬢オフェリアはラティスラの第二王子ユリウスと恋仲にあったが、悪事を告発された後婚約破棄を言い渡される。
国外追放となった彼女は、監視のためリアードの王太子サルヴァドールに嫁ぐこととなる。予想に反して、結婚後の生活は幸せなものであった。
そしてある日の昼下がり、サルヴァドールに''昼寝''に誘われ、オフェリアは寝室に向かう。激しく愛された後に彼女は眠りに落ちるが、サルヴァドールは密かにオフェリアに対して、狂おしい程の想いを募らせていた。
独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい
狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。
ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389