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従兄弟は策士で腹黒い
「巻き込んで済まなかったね。でも助かったよ、モニカ」
そう言って、リシャルドは二杯目のワインを口にした。赤ワインを飲んでいるのに、一切口元を汚さない。大国の王子に相応しい、品のある所作である。
しかし、私は知っている。顔に似合わず、この男はいわゆる“食えない奴”なのだ。
「別に、気にしないで。それにしても……面倒なことに巻き込まれちゃったわね」
「ははっ、違いない」
すかさず二口目のワインを口にして、リシャルドは口だけで笑う。しかしその目元は、まったくもって笑っていなかった。
「……今日はやけに、殺気立ってるわね」
「そうかな?」
私とリシャルドは、バルコニーで雑談をしていた。ユスティアも誘ったものの、「お二人の邪魔になってしまうから」と言って、広間に戻って行ったのだった。身内とはいえ、王子と王女に挟まれて気詰まりだったのかもしれない。そして今彼女は、広間でイェジィのお守りをしていた。
「ところで。そっちのご家族は変わりないかい? 今はおチビたちの体調不良で大変だろうけど」
「ええ、特に変わりないわ。二人ともやんちゃすぎてたまに手に負えないけど……それくらいかしら。イェジィみたいに落ち着いてくれるのは、いつになるのやらって感じ」
「ははっ、うちのイェジィだって甘えたい盛りで、困ったものだよ。最近だとユスティアにべったりで、どうしようもないんだ」
ガラス扉越しに広間を除くと、イェジィと楽しげに話すユスティアの姿が見えた。心做しか先程会った直後よりも、顔色は良い。口に出さずとも、彼女もクラーラのことで思い悩んでいるのだろう。
「それにしても……クラーラ様と共通の顔見知りの男性客だなんて、よく見つけたわね」
「今日は運が良かっただけさ。叔父上がいて良かったよ」
クラーラはリシャルドにエスコートを要求したものの、その作戦は失敗に終わった。なぜなら迎えに行く直前で、彼はエスコート役を交代したからである。
元々私は、会の参加者である父方の叔父上にエスコートを頼むつもりであった。宮殿の門前に着いてからも、メイドには叔父上を呼ぶように伝えた。
ちょうどその頃、リシャルドはクラーラからエスコートを指名されたと伝言を受けたらしい。そこで彼は代役を探していたところ、偶然叔父上を見つけたようだった。
エスコート役については、指名されたとしても理由があれば代役を立てることができる。そのルールを、リシャルドは利用したのだ。
とはいえ、クラーラと初対面の人間を代役にはできない。リシャルドの父上も国王という立場であるがゆえに、彼に代役を任せることはできない。そこでリシャルドは、クラーラと面識のある男性客を探したようだった。
叔父上はウクラーリフの公爵家に婿入りした方なので、当然ながらクラーラとも顔見知りだ。そこでリシャルドは、叔父上に頼んで私のエスコートを引き受ける代わりに、代役として彼にクラーラのエスコートを頼んだらしい。エスコートは親戚や家族が優先のため、クラーラとしても「従姉妹を迎えに行く」と言われたら文句を言えないのだ。
「とりあえず……今日はクラーラ様も貴方に話しかけて来ないし、平和に過ごせそうね。良かったじゃない」
クラーラも試飲会に飛び入り参加したものの、リシャルドに話しかける素振りはなかった。他の客たちと歓談しながら、酒を飲んでいるだけである。
「って……どうしたの? リシャルド」
「……」
リシャルドは、無言でユスティアを見つめていた。その表情はどことなく物憂げであり、彼にしては珍しいものであった。
「モニカ。壁にボールを強く当てたならば、強く跳ね返ってくるものだろう?」
「まあ、そうね。それがどうしたの?」
「でも自分が強くぶつけても、ボールは一向に返って来ないんだよ、これが」
「……は?」
「どうしたものか」
意味がわからない私に構うことなく、リシャルドはワインをまたひと口あおった。やたら酒を飲むペースが早いのは、気のせいではないだろう。
正直、リシャルドが言っている意味はまったく理解できない。しかし視線の先にユスティアがいるということは、彼女が関わっているに違いない。
「ねえ、ユスティアと何かあったの?」
「色々と、ね。でも、俺は父上とは違うから。もっと上手くやるよ」
「……」
ラフタシュでは、生まれ順で王位継承順は決まらない。きょうだいの中で優秀な者が次期国王ないし女王として指名されるのだ。
だが、リシャルドはすでに王位を継ぐことが決まったようなものである。学業も優秀であり、人当たりも良い。そして、ユスティアという将来の王妃にふさわしい女性を妻に選んだ。彼が王位を継ぐことに異を唱える者は、どこを探してもいないだろう。
……が、しかし。意に沿わないならば平気で親すらもこき下ろす。やはりこの男は、食えない奴だ。
彼の父親―――ヘンリク国王は、ラフタシュ王家が開かれて以降、一、二を争う問題児として有名だったという。ちなみに彼が一、二を争っている相手は、他ならぬ私の母―――ヘンリク国王の妹のテレサである。
ヘンリク国王は、リシャルドが生まれる前はヨアンナを妻としたことが最大にして唯一の功績と言われていたらしい。
そしてリシャルドが生まれてからは、リシャルドの父であることが第二の功績であると言われている。つまりは、ヘンリク国王本人が褒められることはほとんど無いのである。
+次は0:32更新予定。
リシャルドのユスティアへの愛はとても深く、そして……とんでもなく危ういもので……?
お楽しみに♡
そう言って、リシャルドは二杯目のワインを口にした。赤ワインを飲んでいるのに、一切口元を汚さない。大国の王子に相応しい、品のある所作である。
しかし、私は知っている。顔に似合わず、この男はいわゆる“食えない奴”なのだ。
「別に、気にしないで。それにしても……面倒なことに巻き込まれちゃったわね」
「ははっ、違いない」
すかさず二口目のワインを口にして、リシャルドは口だけで笑う。しかしその目元は、まったくもって笑っていなかった。
「……今日はやけに、殺気立ってるわね」
「そうかな?」
私とリシャルドは、バルコニーで雑談をしていた。ユスティアも誘ったものの、「お二人の邪魔になってしまうから」と言って、広間に戻って行ったのだった。身内とはいえ、王子と王女に挟まれて気詰まりだったのかもしれない。そして今彼女は、広間でイェジィのお守りをしていた。
「ところで。そっちのご家族は変わりないかい? 今はおチビたちの体調不良で大変だろうけど」
「ええ、特に変わりないわ。二人ともやんちゃすぎてたまに手に負えないけど……それくらいかしら。イェジィみたいに落ち着いてくれるのは、いつになるのやらって感じ」
「ははっ、うちのイェジィだって甘えたい盛りで、困ったものだよ。最近だとユスティアにべったりで、どうしようもないんだ」
ガラス扉越しに広間を除くと、イェジィと楽しげに話すユスティアの姿が見えた。心做しか先程会った直後よりも、顔色は良い。口に出さずとも、彼女もクラーラのことで思い悩んでいるのだろう。
「それにしても……クラーラ様と共通の顔見知りの男性客だなんて、よく見つけたわね」
「今日は運が良かっただけさ。叔父上がいて良かったよ」
クラーラはリシャルドにエスコートを要求したものの、その作戦は失敗に終わった。なぜなら迎えに行く直前で、彼はエスコート役を交代したからである。
元々私は、会の参加者である父方の叔父上にエスコートを頼むつもりであった。宮殿の門前に着いてからも、メイドには叔父上を呼ぶように伝えた。
ちょうどその頃、リシャルドはクラーラからエスコートを指名されたと伝言を受けたらしい。そこで彼は代役を探していたところ、偶然叔父上を見つけたようだった。
エスコート役については、指名されたとしても理由があれば代役を立てることができる。そのルールを、リシャルドは利用したのだ。
とはいえ、クラーラと初対面の人間を代役にはできない。リシャルドの父上も国王という立場であるがゆえに、彼に代役を任せることはできない。そこでリシャルドは、クラーラと面識のある男性客を探したようだった。
叔父上はウクラーリフの公爵家に婿入りした方なので、当然ながらクラーラとも顔見知りだ。そこでリシャルドは、叔父上に頼んで私のエスコートを引き受ける代わりに、代役として彼にクラーラのエスコートを頼んだらしい。エスコートは親戚や家族が優先のため、クラーラとしても「従姉妹を迎えに行く」と言われたら文句を言えないのだ。
「とりあえず……今日はクラーラ様も貴方に話しかけて来ないし、平和に過ごせそうね。良かったじゃない」
クラーラも試飲会に飛び入り参加したものの、リシャルドに話しかける素振りはなかった。他の客たちと歓談しながら、酒を飲んでいるだけである。
「って……どうしたの? リシャルド」
「……」
リシャルドは、無言でユスティアを見つめていた。その表情はどことなく物憂げであり、彼にしては珍しいものであった。
「モニカ。壁にボールを強く当てたならば、強く跳ね返ってくるものだろう?」
「まあ、そうね。それがどうしたの?」
「でも自分が強くぶつけても、ボールは一向に返って来ないんだよ、これが」
「……は?」
「どうしたものか」
意味がわからない私に構うことなく、リシャルドはワインをまたひと口あおった。やたら酒を飲むペースが早いのは、気のせいではないだろう。
正直、リシャルドが言っている意味はまったく理解できない。しかし視線の先にユスティアがいるということは、彼女が関わっているに違いない。
「ねえ、ユスティアと何かあったの?」
「色々と、ね。でも、俺は父上とは違うから。もっと上手くやるよ」
「……」
ラフタシュでは、生まれ順で王位継承順は決まらない。きょうだいの中で優秀な者が次期国王ないし女王として指名されるのだ。
だが、リシャルドはすでに王位を継ぐことが決まったようなものである。学業も優秀であり、人当たりも良い。そして、ユスティアという将来の王妃にふさわしい女性を妻に選んだ。彼が王位を継ぐことに異を唱える者は、どこを探してもいないだろう。
……が、しかし。意に沿わないならば平気で親すらもこき下ろす。やはりこの男は、食えない奴だ。
彼の父親―――ヘンリク国王は、ラフタシュ王家が開かれて以降、一、二を争う問題児として有名だったという。ちなみに彼が一、二を争っている相手は、他ならぬ私の母―――ヘンリク国王の妹のテレサである。
ヘンリク国王は、リシャルドが生まれる前はヨアンナを妻としたことが最大にして唯一の功績と言われていたらしい。
そしてリシャルドが生まれてからは、リシャルドの父であることが第二の功績であると言われている。つまりは、ヘンリク国王本人が褒められることはほとんど無いのである。
+次は0:32更新予定。
リシャルドのユスティアへの愛はとても深く、そして……とんでもなく危ういもので……?
お楽しみに♡
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