完結♡聖女の狙いは私の旦那様!?~褒賞に選ばれた美貌の王子は、溺愛執着モードにチェンジしたようです~

4月2日コミカライズ配信♡二階堂まや

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野イチゴを狙うのは小鳥ではなく

「もう……そんなこと言ったら、お父上が悲しむわよ」

「平気だよ。父上が人から悪口を言われて傷付いてるのなんて、一度も見たことがない。多分、心臓が鋼でできてるんじゃないかな?」

 ヘンリク国王は、結婚前まで女好きと悪名高き存在だったらしい。そんな彼の息子となれば、リシャルドも女好きなのではないか。そんなレッテルを幼少期に貼られていたのを、今でも根に持っているようだった。

 私も“ワガママ王女テレサの子”と時折後ろ指を指されることもあるが、何せハリーストはのどかな小国だ。のんびりしたお国柄もあり、国内でそんな意地悪を言ってくる人はいない。

 しかし、リシャルドは大国ラフタシュの第一王子という立場にある。私なんかよりも数多の誹謗中傷に晒されてきたことは、想像に難くない。

 とはいえ、それも今や昔の話だ。今の彼は“女好きの子”ではなく、“非の打ち所のない王子”という立場を見事に確立したのだから。

「今はもう、貴方にそんなことを言う愚か者はいないでしょう? そろそろ許して差し上げたら?」

「いや、まだしばらく無理だね。あの人の息子としては許したけど、跡を継ぐ王子という立場としては、まだあの国王のことを許してない」

「……一体何なのよ、その面倒な理屈は」

 まるで反抗期の子供のような口ぶりで、リシャルドは言った。変なところで頑固なのだ、この男は。

 将来を期待される次期国王のこんな姿、誰も想像できないだろう。

「ところで……上手くやるってどんなふうにやるのかしら?」

 イチゴ酒の炭酸割りを一口飲んでから、私は問いかけた。凡人の自分が優秀な彼の考えをすべて理解するなど無理な話なのは、分かりきったことだ。なので、深堀りはせず会話を続けることにしたのだ。

「そうだなあ。とりあえず、言って伝わらないなら身体を使ってみる……とかかな」

「な、何て?」

 一気に話の雲行きが怪しくなり、私は二度聞きした。慌ててリシャルドの顔を見たものの、ふざけた様子はまるで見当たらない。私にはそれが、逆におそろしく感じられた。

「意味はそのまんまだよ。実力行使って言った方が良いかな?」

「待って、リシャルド。女の子を泣かせるだなんて、許さないわよ?」

「ははっ、それは絶対にない。だってそうしたら、最終的にあの子を幸せにしたいっていう目標から離れてしまうからね」

 そこでふと、先程のリシャルドの発言を思い出す。壁に強くボールを投げるというのは、ユスティアに深い愛情を与えるということの比喩のように思えてきたのだった。

 詳細は分からないが、ユスティアがリシャルドと結婚したのも、彼の猛烈なアプローチの末であると聞いたことがある。貴族学校で彼女に友人になりたいと声をかけたのも、そこから交際に発展させたのも、プロポーズしたのも、他ならぬリシャルドである。

 なぜだか彼は、ユスティアにおそろしく執心しているのだ。察するに、今もそれは変わらないのだろう。

「幸せに……ね。そう願うのは素敵なことだけれども、見返りを求めたら苦しくなって来るんじゃないかしら? それに、口に出す言葉だけが愛ではないんじゃなくて?」

 それとなくユスティアを庇うように、私は言った。彼女の控えめな性格から考えると、リシャルドに愛を伝えることは少ないのかもしれない。しかし、それでリシャルドに何かされるのは、さすがに可哀想だ。

「別に、見返りは求めてないよ。ただ、愛情の深さは同等でありたい、あの子とは“鏡映し”の関係になりたいと思ってるだけだよ。だから、彼女の中の自分への気持ちを育てている。それだけさ」

 リシャルドは、そんな恐ろしい一言をさらりと口にしたのだった。

 相手が期待に応えてくれないならば、相手に対する期待を減らすというのが、常人の考え方だろう。

 ……しかし、リシャルドは逆だ。自分がユスティアに向けている大きさの愛情を、彼女にも求めている。そしてただ求めるに留まらず、“自分の手で”自分に向ける愛情を作り出そうとしているのだ。

 彼がユスティアを深く愛していることはおそらく事実だ。しかしその裏には、凄まじい束縛心が潜んでいるのだ。

 ……こいつ、手に負えないわ。

「とりあえず、久しぶりに話せて良かったよ。ご両親にもおチビ二人にもよろしく伝えておいてくれ」

「……ええ、分かったわ。とりあえず、あんまりのめり込まないようにね」

「ふふっ、もう沼にはまって抜け出せないところまで来てるなら、どうしようね」

「……」

「冗談だよ、モニカ」

 その言葉は、まったくもって冗談には聞こえなかった。しかし、外野の私が夫婦関係にこれ以上の口出しはできない。私はため息を吐いて、リシャルドと共に広間へと戻った。

「戻ったよ、ユスティア」

「あら、お二人共お帰りなさい」

「おにい様あのね、僕、おねえ様をちゃんとえ、エスコート? してたんだよ!」

「ふふっ、とっても頼もしかったんですのよ」

「凄いじゃないか、イェジィ。偉いぞ」

 そんな和やかなやり取りが繰り広げられていれば、普段ならば微笑ましく思えるものだ。しかし今は、ただただユスティアのことが心配でならない。

 今宵の夜会服として、リシャルドは小鳥の刺繍が袖口に施されたジャケットを選んでいる。そしてユスティアは、野イチゴの刺繍が胸元や裾を飾っているドレスを着ていた。

 ユスティア、頼むから気づいてちょうだい。野イチゴを狙っているのは可愛らしい小鳥なんかじゃなくて、獰猛な大ワシなのよ……!

 なんて、この場で私が言えるはずもなく。代わりに私は、ユスティアの肩をぽんっと叩いたのだった。

「モニカ王女殿下?」

「なんか、色々大変だろうけど……応援してるわ」

「……? ありがとうございます」

 ユスティアやリシャルドからすれば、聖女の一件を夫婦で頑張って乗り切ってね、という意味に聞こえるひと言。しかし、私が別の意味を含めたのは、言うまでもない。

 野に咲く可愛らしいイチゴが、大タカにぱくっと食べられませんように。

 そんなことを思いながら、私はイチゴ酒をもう一度、口にした。

+次は1:12更新予定(夜中更新ラスト)。
クラーラの要求を見事にかわしたリシャルド。しかし、新婚旅行の途中で彼が倒れてしまい……?
お楽しみに♡
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