リュドミラの恋占い~身代わりの花嫁は国王陛下の番となる~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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初夜、終了

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 入浴を終えたあと、私は寝室でヴィルヘルムを迎える準備をしていた。結局、晩餐会を終えてからもほとんど会話することもなく、寝室にまで来てしまったのだった。

 準備と言っても、閨の授業で教わったこととしてはベッド周りを軽く整えて、ブラシで髪をとかすくらいのこと。あとは気持ちを落ち着けて、夫を待つように……と習った。

 しかし私には、解決せねばならない大きな問題が残っていたのだった。

「……さて、どうしたものかしら」

 ウェディングドレスを着ていた時は、エマの手により寄せ上げられ、美しく変貌を遂げていた胸元。しかしそれは、魔法が解けたかのようになだらかになっていた。

 パッドを何枚も入れるなどという、不正は断じて行っていない。しかし、標準サイズの胸が豊満な胸に変わるのは、もやは詐欺である。この落差をいかにごまかすか。ヴィルヘルムと顔を合わせてからずっと考えていたものの、解決策は未だに見つかっていなかった。

「……どうか、お助けください、お母様」

 祈るような気持ちで私は、生前の母上からもらった一冊の分厚い本を開いた。そこには、人生で役立つ知識が母上の手書きで記されていた。

『レイチェル、貴女は王女という立場だから、この先、大変なことが待ち構えているかもしれない。そんな時、この本を開いてちょうだい。きっと、助けになると思うわ』

 そう言って、母上は誕生日にプレゼントしてくれたのだった。

 ……が、しかし。そもそも子どもが読める内容に限られているため、初夜に関することなどは一切書かれていない。辛うじて「祖国を離れることになった時」という項目は該当するものの、そこには私の求める回答はなかった。

 時間が経つにつれて、焦りは募るばかり。そして、いっそごまかすのを諦めるべきかとも考え始めた。

(でも……大盛りを期待して並盛りだったら、どんな温厚な人でも怒って当然だわ。昔、刑法の本を読んだ時……砂糖の量を多く偽って販売したら罰金刑に処されたっていう判例があったはず。……罰金ぐらいでお許しいただけるかしら? いや、相手は国王陛下よ? だったら反逆罪や不敬罪のほうが近いんじゃなくて? あああああ、どうしよう……!)

 考えれば考えるほど、すっかりパニックである。

 サイドテーブルに置かれた時計を見ると、もうすぐヴィルヘルムが来る時間であった。しかし、その横に置かれたテーブルスタンドが目に入ったことにより、名案が思い浮かんだのだった。

 通常、寝室の明かりとしてはキャンドルスタンドが置かれているものだ。しかし置かれていたのは、ロウソクの代わりに夜灯石と呼ばれる石が使用されたものであった。

 夜灯石とは、日中陽の光に当てておくと、一晩中暗闇でも光り続けるという石だ。ロウソクのように使い捨てではなく何度も使えるため、古くは旅人や船乗りにも重宝されていた貴重なものである。

 ガラス製の丸い器の中に入っている夜灯石は三つ。そのおかげで、部屋はちょうど良い薄暗さだ。

「……ごめんあそばせ!」

 器から夜灯石を二つ取り出し、私はサイドテーブルの引き出しにしまい込んだ。すると部屋は、真っ暗の一歩手前ぐらいの明るさになったのである。

(これで、何とか切り抜けられるはず……多分)

 そこまでしたところで、寝室のドアがノックされたのだった。

「レイチェル、準備は良さそうか?」

「は、はい、ヴィルヘルム様」

 私が返事をすると、ヴィルヘルムは寝室へと入ってきた。入浴後ということもあり、彼の前髪は下ろされていた。結婚式や晩餐会とはまた違う雰囲気であり、‘‘これから過ごす夫婦の時間’’を強く意識させるものであった。

「式が終わってすぐに晩餐会で、今日は休む暇もなくて疲れただろう」

「い、いえ……そんなことは」

 ベッドの上に上がり込んでから、ヴィルヘルムは私に言った。やはり、狼のような獰猛さも野蛮さも見受けられない、落ち着いた口調であった。

 新婚初夜は、まず雑談から始まる。そして緊張がほぐれたところで、事に及ぶのである。

 彼は話上手な雰囲気はないので、おそらく途中で会話が途切れるに違いない。そこで私は、晩餐会について話すことに決めていた。

 晩餐会の時、気づいたこととしては、彼がやけに食べるのが早いメニューが一つあったことである。それについても、それとなく聞いてみようと私は考えていた。

「そうか。なら、良かった。とりあえず、今日はゆっくり休むといい」

「……え?」

 ヴィルヘルムは、そのまま寝る準備を始めたのだった。ものの五分で、私たちの初夜は終わってしまったのである。

「おやすみ」

「お、おやすみなさいませ」

 困惑する私をよそに、しばらくするとすぐに隣から寝息が聞こえてきたのだった。

(……私、世継ぎを産むために、リュドミラに来たのよね?)

 とはいえ、ヴィルヘルムにそれを問う勇気など私にあるはずもなく。夫が寝ることを望んだならば、妻はそれに従うしかない。仕方なく私も、寝ることにした。

 しかし目を閉じた瞬間。昼間に感じたあの甘い匂いが、鼻を掠めたのである。

 それは昼間と同じ香りのはずなのに、不思議と情欲を刺激するような妖しい香りに感じられたのだった。

(……いけない。変なこと考えてないで、早く寝なきゃ)

 そして私は、母上からもらった本に書かれていた一文を思い出した。

『知り合いもいない、何のゆかりもない土地に行ったならば、まずは‘‘恋人’’を作りなさい』

 さっそく私は、明日からそれを実行することを決意した。
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