リュドミラの恋占い~身代わりの花嫁は国王陛下の番となる~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中

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二人の令嬢

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「あちらの青いドレスをお召しの方、グラスが空になったみたいだから飲み物をお伺いしてきてちょうだい」

「はい、かしこまりました」

 玉座に座り、私は大広間を見回しては使用人たちに指示を出していた。

 隣の玉座に、ヴィルヘルムの姿はない。公務を終えてからこの夜会に来る予定なのだが、到着が遅れているのだ。

 今宵の夜会はリュドミラ王室が主催したもののため、彼が来るまでは私が会を取り仕切る必要がある。指示出しをするのは結婚式後の晩餐会以来だが、その時よりも大分気持ちは楽であった。王妃という自らの置かれた立場に、ようやく慣れ始めていたのである。

 そして、理由はそれだけではない。

(今日はヴィルヘルム様と一緒だから、さすがに袋叩きにはされないだろうし、ちょっと安心だわ)

 彼の存在が、何よりも心強く思えたのだった。

 とはいえ、調子に乗って目立つことをしては本末転倒だ。華美に着飾ることもせず、私はあえて無地のドレスを選んだのだった。

「レイチェル妃殿下。陛下のお乗りになった馬車が、つい先程、門前に到着したようです。いらっしゃるまでもうしばらくお待ちください」

「分かったわ、ありがとう……って」

 伝言を伝えに来たエマの顔を見て、私は目を丸くした。

「エマ、どうしたの? もしかして、体調が悪いの?」

「い、いえ……大したことではございませんので、どうかお構いなく」

 とは言ったものの、エマの顔色はとても悪く、額には汗が滲んでいた。彼女が体調を崩しているのは、誰が見ても明白だった。

「立ちっぱなしだと辛いでしょう? とりあえず、お座りなさいな。だれか、イスを持ってきてちょうだい」

「と、とんでもございません……、すぐ治りますので」

 エマは頑なに首を横に振った。しかし、私はどうにも彼女が放っておけなかった。

「分かったわ。だったら、少しだけ外で休憩して来なさいな。ここだと気が抜けないだろうし、他の子もいるから大丈夫よ。ね?」

 私が振り向くと、傍仕えのメイドたちか一斉に頷いた。

「じ、じゃあ……少しだけ、お言葉に甘えて」

「ええ。行ってらっしゃい」

 ようやく安心したのか、エマは広間の入口へと歩いて行ったのだった。

「ね、しばらくして戻って来なかったら、エマの様子を見に行ってもらえる? すぐ行くと多分気を使っちゃうから、時間は長めに見てね」

「はい、かしこまりました」

 私がメイドの一人に耳打ちしていると、グラスが割れる音が広間に響き渡った。

 慌てて音のした方を向くと、そこには床にへたりこんだエマと、彼女を睨みつける令嬢の姿があった。

 令嬢の名は、ジュリエッタ。リュドミラの同盟国ルードガレスの公爵の娘であり、結婚式で私を睨みつけていた張本人である。会うたびに不機嫌そうに私を睨んでくるせいで、すっかり顔も名前も覚えてしまったのだった。

「ちょっと!! 貴女がぶつかってきたせいで、グラスを落としたじゃない!!」

「た、大変申し訳ございません」

 床には、割れたグラスと零れたドリンクが散乱していた。どうやらエマがふらついてジュリエッタにぶつかり、ジュリエッタがグラスを落として割ってしまったようだった。

「早く、掃除しなさい」

「か、かしこまりました」

「ジュリエッタ様、彼女の代わりにあとは私が……」

「お黙り。私はこのメイドに命じたのよ?」

「し、失礼しました」

 近くにいた使用人が止めに入ったが、公爵令嬢にそう言われたらどうしようもない。不穏な空気を察して、私は慌てて玉座から立ち上がった。夜会の主催者は席を外す時以外は玉座から離れないのがマナーと聞いていたが、そんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。

「ほら、早くしなさい」

 ジュリエッタに急かされて、エマは床に散らばったガラス片を素手で拾い始めた。その手は、遠目から見ても分かるほどに震えていた。

「ところで貴女、お名前は?」

「え、エマと申します」

「……ふうん」

 ‘‘何か’’を察したように頷くジュリエッタ。それを見て、私は嫌な予感がしていたのだった。

 そしてその予感は、見事に的中してしまうのである。

「卑しい身分だから、使用人としての立ち振る舞いも不十分なんでしょうね」

「……っ!?」

 信じられないことに、ジュリエッタはガラス片を拾っていたエマの手をヒールで踏みつけたのだ。

 苦痛に顔を歪めるエマ。しかし、ジュリエッタが足を退けることはなかった。私は居ても立ってもいられなくなり、二人の元へと駆け出した。

(ヴィルヘルム様が居ない以上、私が場を収めなきゃ……でも、ジュリエッタが私の謝罪で許してくれるかしら?)

 あの態度を見るに、彼女が正妻の子以外を見下しているのは明らかだ。自分よりも年下とはいえ、そんな相手と対峙するのは緊張することだ。

 しかし。私の中では恐怖心よりも、使命感の方が勝っていたのだった。

(謝って済むならば、こんな頭……いくらだって下げてやるわよ!!)

 そう思って口を開こうとした、ちょうどその時。

 私よりも先に、ジュリエッタとエマの元へとたどり着いた人物がいた。

「ち、ちょっと!?」

 ドレスの裾が床に着くのも構わず、エマの傍にしゃがんでジュリエッタの足を手で払い除けたのは、美しい金髪の令嬢であった。

「大丈夫? 怪我はない?」

 そう言って、彼女ーーーハンデルク公爵令嬢のフリージアは、エマに問いかけたのだった。
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