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序章 日常編
黒と翁
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side黒
その日の天月様の行先は、私たちが出会った九童であった。私と天月様の思い出の場所でもある。
今現在、九童は術師八家で一番実力がある家系だ。当主である翁が、上手い具合に若い術師を纏めている。このバランスが崩れた時が恐ろしいが、彼が育てている若者達も実力者揃いだ。今後の心配は、術師八家で一番必要ないであろう。
本当の意味で一番の実力者は北翁であるが、あの家は遺伝子操作を行う。当然、北翁への反感は術師八家の中でも強く根付いている。術師八家は、皆死に物狂いで技術を身に着けているのだから。術師の悲しいところはそれが出来なければ死ぬしかないのだけれど。
九童の入り口から誰の許可も得ず、天月様と共に中へ入る。一瞬だけ感じるピリピリという肌を焼くような感覚、どうやら大掛かりな結界が張ってあるようだ。天月様は当然のように無視して進むが、私のような小物は息をするだけで息苦しい。
そんな私の様子に気付いた天月様は、呆れたように息を吐いて手の平を私に押し当てる。それだけで呼吸が楽になり、ほっと息を吐く。天月様の実力は、本当に素晴らしい。
天月様は過去の記憶を辿り、奥の部屋へと足を進める。その間に何人もの術師とすれ違うが、私達に意識を向ける者はいない。間違いなく天月様が何らかの術を使っていらっしゃるのだ。
天月様は呼吸をするように術を使う。それは並みの術師には出来ないことで、当然私にも出来ない。しかも何の術を使ったのか、痕跡すら残さないのだ。そんな事は、早乙女巫女院最高権力者、月読様ですら出来ないことだ。
「邪魔する」
投手の部屋へ辿り着いた天月様は、その一言だけを障子越しにかける。ゆっくりと開かれる障子に、少しだけ驚いた様子の翁が笑みを見せた。天月様は少しだけ微笑み、真っすぐに翁を見つめる。
「おお、天月か。どうした、何かあったのか?」
「いや、何もない。ただ、届け物を預けに来た」
天月様はそう言うと小さな小箱を翁へと渡す。私ですらその中身は知らないが、天月様が知る必要がないと判断したのなら興味のない話だ。
本当に必要なら、天月様は私に説明してくださる。
「箱?中身は――」
「開けるな。ソレは資格がないものには従わない。…白鴉を語る者からの贈り物だ、取り扱いには気を付けろ」
「畏まりました、天月様」
「この箱は主を選ぶ。何人かに渡して様子見をした後、渡すべきと思った人間に渡して」
「了解」
天月様の一方的な言葉に慣れている翁は、どこか楽しそうに天月様の話を聞く。恐らく、自分の孫が大きくなったとかその様な感情を抱いているのだろう。恐れ多いにも程があるが、天月様に出会わせてくれた恩があるために露骨に伝えることも出来ない。
「黒、だったか?今は幸せか?」
「お陰様で」
「確かに、生き物の顔をしているな」
それだけ呟くと翁は満足そうに笑い、天月様に頭を下げた。相変わらず、何処まで見通しているのかすら分からない男だ。訳の分からなさなら天月様の上を行く。さすが年の功だと褒め称えれば本気で悩んでしまう程度には。
「黒、帰る。白が待ってる」
「白はどうか任務に出してください」
「いい加減、白を認める。じゃないと、私も黒を躾けるしかなくなる」
「…天月様?」
私の問いかけに答えることなく、天月様はその場に背を向け早乙女巫女院へと戻っていった。
◇
序章二話目の更新です。リメイクしてあります。
序章は1500文字前後の短い話を繰り返しています。
リメイク前の天月はチート巫女らしさが全くなかったので今回は少しだけ匂わせてみました。
次回のお話もよろしくお願いします。
その日の天月様の行先は、私たちが出会った九童であった。私と天月様の思い出の場所でもある。
今現在、九童は術師八家で一番実力がある家系だ。当主である翁が、上手い具合に若い術師を纏めている。このバランスが崩れた時が恐ろしいが、彼が育てている若者達も実力者揃いだ。今後の心配は、術師八家で一番必要ないであろう。
本当の意味で一番の実力者は北翁であるが、あの家は遺伝子操作を行う。当然、北翁への反感は術師八家の中でも強く根付いている。術師八家は、皆死に物狂いで技術を身に着けているのだから。術師の悲しいところはそれが出来なければ死ぬしかないのだけれど。
九童の入り口から誰の許可も得ず、天月様と共に中へ入る。一瞬だけ感じるピリピリという肌を焼くような感覚、どうやら大掛かりな結界が張ってあるようだ。天月様は当然のように無視して進むが、私のような小物は息をするだけで息苦しい。
そんな私の様子に気付いた天月様は、呆れたように息を吐いて手の平を私に押し当てる。それだけで呼吸が楽になり、ほっと息を吐く。天月様の実力は、本当に素晴らしい。
天月様は過去の記憶を辿り、奥の部屋へと足を進める。その間に何人もの術師とすれ違うが、私達に意識を向ける者はいない。間違いなく天月様が何らかの術を使っていらっしゃるのだ。
天月様は呼吸をするように術を使う。それは並みの術師には出来ないことで、当然私にも出来ない。しかも何の術を使ったのか、痕跡すら残さないのだ。そんな事は、早乙女巫女院最高権力者、月読様ですら出来ないことだ。
「邪魔する」
投手の部屋へ辿り着いた天月様は、その一言だけを障子越しにかける。ゆっくりと開かれる障子に、少しだけ驚いた様子の翁が笑みを見せた。天月様は少しだけ微笑み、真っすぐに翁を見つめる。
「おお、天月か。どうした、何かあったのか?」
「いや、何もない。ただ、届け物を預けに来た」
天月様はそう言うと小さな小箱を翁へと渡す。私ですらその中身は知らないが、天月様が知る必要がないと判断したのなら興味のない話だ。
本当に必要なら、天月様は私に説明してくださる。
「箱?中身は――」
「開けるな。ソレは資格がないものには従わない。…白鴉を語る者からの贈り物だ、取り扱いには気を付けろ」
「畏まりました、天月様」
「この箱は主を選ぶ。何人かに渡して様子見をした後、渡すべきと思った人間に渡して」
「了解」
天月様の一方的な言葉に慣れている翁は、どこか楽しそうに天月様の話を聞く。恐らく、自分の孫が大きくなったとかその様な感情を抱いているのだろう。恐れ多いにも程があるが、天月様に出会わせてくれた恩があるために露骨に伝えることも出来ない。
「黒、だったか?今は幸せか?」
「お陰様で」
「確かに、生き物の顔をしているな」
それだけ呟くと翁は満足そうに笑い、天月様に頭を下げた。相変わらず、何処まで見通しているのかすら分からない男だ。訳の分からなさなら天月様の上を行く。さすが年の功だと褒め称えれば本気で悩んでしまう程度には。
「黒、帰る。白が待ってる」
「白はどうか任務に出してください」
「いい加減、白を認める。じゃないと、私も黒を躾けるしかなくなる」
「…天月様?」
私の問いかけに答えることなく、天月様はその場に背を向け早乙女巫女院へと戻っていった。
◇
序章二話目の更新です。リメイクしてあります。
序章は1500文字前後の短い話を繰り返しています。
リメイク前の天月はチート巫女らしさが全くなかったので今回は少しだけ匂わせてみました。
次回のお話もよろしくお願いします。
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