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第17話 夜の聖樹

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 ウィラや妖精たちが聖樹から離れられないと分かった。
 
「なるほどねぇ……大変だ」
「ホントねぇ」
「他人事みたいに言っているけど――あなたはここに残ってよ」
「えっ?」

 シャーニーの視線は真っ直ぐ俺を見据えている。
 ……いや、「もしかしたら」って危惧はあったけど、まさか俺もここに残って一夜を過ごすってことになるのか?

「で、でも、ルディがここで寝るのは厳しいんじゃないかしら?」

 俺を気遣って、ローナがシャーニーに尋ねる。
妖精ならまだしも、人間である俺がこの聖樹で暮らしていくのはさすがに無理があるだろう。ウィラやシャーニーには申し訳ないけど……ここらで一旦村へ戻りたいというのが本心だった。

 ――だが、シャーニーの口から思わぬ情報がもたらされた。

「それなら、自分が住みやすいように変えちゃえばいいんじゃない?」
「「へっ? 変えちゃう?」」

 まったくもって状況が想像できない発言だった。
 しかし、シャーニーの表情からは「えっ? 何か変なこと言った?」と言わんばかりの怪訝さが伝わってくる。……どうやら、俺と妖精たちの間には、聖樹に関する知識に信じられないくらいの温度差があるようだ。

「あぁ……シャーニー?」
「何?」
「その、『変えちゃえばいい』の部分をもう少し詳しく説明してもらえないだろうか」
「いいわよ。――ていうか、実際にやってみた方が早いかも」
「実際に?」

 サラッと言ってのけたけど……実際にやるって、一体何をどうすればいいっていうんだ? 皆目見当もつかない。
 俺がまったく動きださないと見ると、シャーニーからある提案がなされた。

「例えば、主様が聖樹を登っていこうとしたらますどうする?」
「えっ? 聖樹を登る? ――だとしたら……」

 聖樹を見上げる。
 高さはかなりあるな。王都にあった時計台よりも大きいし……ここを登っていくとなると相当な労力が必要になる。おまけに足場も不安定だし――

「足場?」

 そうだ。
 登りづらいと感じるのは、足場が悪いからだ。
 もし、俺がこの聖樹の構造を自由に変えられるのだとしたら、上に向かって伸びる階段を作る。それなら、苦労することなくこの聖樹を登っていけるだろう。

「階段を作るかなぁ」

 脳裏に浮かんだその考えを口にすると、

「なら、その階段を作ってみたら?」

 シャーニーがそう付け足した。

「は? 階段? どうやって?」 
「やってみるのが一番よ」

 親指をビシッと立てながらシャーニーは言うけど……どうやって?

「あっ――」

 その時、ある考えが頭に浮かんだ。
 この聖樹に初めて足を踏み入れた時に得た感覚――あれに近い。本能が訴えかけているというか、「こうするべきだ」と脳内に直接誰かが囁いているような……いずれにせよ、不思議な感覚と言えた。

「やってみるって……やり方は分かるの、ルディ」
「……ああ」

 ローナの問いかけに、俺は静かに答えた。
 てっきり、「分からない」という返事がくると予想していたローナは、思わぬ言葉にキョトンとしていた。

 俺としても、まだ半信半疑だが……シャーリーの言う通り、やってみるか。
 この聖樹を俺の好きなように変えられるのかどうか。
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