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【最終章②】竜王選戦編
第215話 合流、そして……
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「あれは――」
見上げた颯太の視線の先にあったものは――天を貫かんばかりに伸びた一本の光の柱。城の天井を突き破り、雲を引き裂いて伸び続けている。
「イネスめ……とうとう魔力を取り戻したか」
誰もがその不穏な光に恐怖心を抱く中、心当たりがあるらしいエルメルガは厳しい顔つきで光の柱を睨みつけていた。
「あれがなんなのかわかるのか、エルメルガ」
颯太が問うと、エルメルガは静かに頷いた。
「あの光はイネスの持つ魔力そのものじゃ」
「魔力? ――はっ!」
イネスがさらっていった聖女シャオ。人間でありながら、生まれつき魔力を有した希少な存在。その魔力を、イネスが狙っていたのなら、
「奪ったのか――シャオから魔力を!」
魔女イネスがシャオから魔力を奪ったことで、その力を完全に取り戻した――あの光は完全に力が戻った証明のようなものと捉えてよさそうだ。
「魔女イネスの狙いは一体何なんだ?」
「それは妾にもわからぬ。あの女は妾たちに竜王選戦における最高の舞台を用意するとだけ言った。妾たちはその話に乗っただけで、別に忠義心などというものは持ち合わせておらん。じゃがまあ、安心せい」
「え?」
「どれだけ魔力を得ようが所詮ヤツは人間の女。妾たち竜人族とやり合えば結果など火を見るより明らかじゃ」
「それは……」
「そうだけど」――と、颯太は言い切れなかった。
なんだか、嫌な予感がする。
事態は最悪の方向へと向かって進み始めたと感じた颯太は、
「エルメルガ、魔族を精製している魔法陣はこの建物の中にあるんだな?」
「そうじゃが……」
それを確認すると、今度はルコードに向かって、
「ルコード騎士団長! すぐに建物内部へ突入して魔法陣を破壊しましょう!」
「雷竜から何か聞き出したのか!?」
「今は説明している暇がありません! まずは当初の目的通りに魔法陣の破壊を最優先にしてください! そのあと――強敵の出現に備えておかないと!」
「! ……そうか。いよいよ黒幕のお出ましか」
颯太のただならぬ様子に、ルコードは決着が近づいていることを悟った。
同時に、その場でまだ行動可能な騎士たちをコロッセオ内部へと進めようと戦力把握に努めたが――これが思いのほか芳しくなかった。
戦える戦力が圧倒的に少ない。
ここへ来て、連合竜騎士団はガス欠に等しい状態であった。
「ソータ……」
メアはまだほぼ万全の状態。
それに、トリストンも無傷だ。
しかし、この先に控える魔女イネスと智竜シャルルペトラとの戦闘を考えれば、出来る限りこの2匹は休ませたい。雷竜エルメルガは先の戦闘のダメージもあって100%の力を発揮することは難しいだろうし。
「このままでは――」
万事休すかと思われたが、ここでとうとう待ちに待った助け舟がやってくる。
「……むっ?」
「? どうかしましたか、ルコード騎士団長」
颯太が問いかけると、ルコードは「ふっ」と笑って、
「聞こえないか?」
「え?」
ルコードに言われて、颯太は耳を澄ます。
すると、
「――――」
かすかに、人の叫び声のようなものが聞こえる。
それは決して恐怖に怯える叫びなどではなく、雄々しい勇士たちの雄叫び。
そう――
「援軍だ!」
「どうやら樹竜や鎧竜が竜騎士団を率いて来ているようだ――見ろ。言っている間に大軍勢の到着だ」
その援軍の先陣を切ってやってきたのは――空から舞い降りた4匹の竜人族であった。
「待たせたわね」
マーズナー・ファームのエースである樹竜キルカジルカ。さらに、
「き、君たちは!?」
颯太をはじめ、騎士たちが武器を構える。
無理もない。
キルカと共に援軍としてやってきたのは、
「うちらはもうあんたたちの敵じゃないわよ」
「いろいろありましたが、今は連合竜騎士団の一員なのです!」
「…………」
「ナイン、あんたは頷いてばかりいないで少しは喋りなさい!」
磁竜ベイランダム。
奏竜ローリージン。
奪竜ナインレウス。
かつて敵として戦った3匹の竜人族が、味方として連合竜騎士団の一員として戦う――これほど心強い助っ人はいなかった。
颯太は早速3匹が加わったことを説明。
変わり身の速さに疑う者もいたが、現状が現状だけに今は戦力となり得るならなんでも加えたいという本音が勝り、3匹を加えた。――いや、厳密に言えば、合計で4匹だ。
「エル! あなたもこちら側についたの!?」
「意外なのです」
「そう言ってくれるな。妾とてこうなるとはつい先ほどまで夢にも思っていなかったのじゃからな。……となると、残りはあとはニクスだけというわけか」
強力な助っ人の登場に、先ほどまでの緊張感がわずかに緩んだ――その矢先、
「ぬ? なんだ?」
騎士のひとりが、光の柱から迫り来る影を捉えた。その騎士が「敵襲!」と周りに知らせる間もなく、その影は颯太たちの前に静かに舞い降りた。
「なっ――」
あまりにも静かな登場に、颯太たちは面食らった。
現れたのは、
「お、女の子?」
キャロルより少し年上――17か18歳くらいの少女であった。
なんでこんなところにと思うと同時に、颯太はその少女の正体をすぐに見破った。
「りゅ、竜人族!?」
よく見ると、角と尻尾という竜人族の特徴が見受けられた。
オロム城から突き出た光の柱から現れた未確認の竜人族――となれば、
「君が――シャルルペトラか?」
紺色の長い髪に鋭い眼光。
驚愕に震えるナインレウスの反応から見ても間違いない。
現れたのは――智竜シャルルペトラだった。
「くっ!」
先手を打ったのはキルカだった。
植物の蔦を操り、その身を拘束しようとしたが、
「…………」
シャルルペトラはまるで戯れるかのごとく軽々と蔦を引き裂いてキルカの懐へと一気に距離を詰める。そのスピードはもはや瞬間移動に等しい。さらに、
「ぐはっ!」
ゼロ距離から腹部へと放たれた掌底により、キルカは吹っ飛ばされ、コロッセオの壁に叩きつけられた。それでも勢いは止まらず壁を突き破って内部まで飛んでいった。
「な、なんて威力だ」
颯太は唖然としてシャルルペトラを見つめる。
智竜シャルルペトラ――そのスペックは計り知れない。
見上げた颯太の視線の先にあったものは――天を貫かんばかりに伸びた一本の光の柱。城の天井を突き破り、雲を引き裂いて伸び続けている。
「イネスめ……とうとう魔力を取り戻したか」
誰もがその不穏な光に恐怖心を抱く中、心当たりがあるらしいエルメルガは厳しい顔つきで光の柱を睨みつけていた。
「あれがなんなのかわかるのか、エルメルガ」
颯太が問うと、エルメルガは静かに頷いた。
「あの光はイネスの持つ魔力そのものじゃ」
「魔力? ――はっ!」
イネスがさらっていった聖女シャオ。人間でありながら、生まれつき魔力を有した希少な存在。その魔力を、イネスが狙っていたのなら、
「奪ったのか――シャオから魔力を!」
魔女イネスがシャオから魔力を奪ったことで、その力を完全に取り戻した――あの光は完全に力が戻った証明のようなものと捉えてよさそうだ。
「魔女イネスの狙いは一体何なんだ?」
「それは妾にもわからぬ。あの女は妾たちに竜王選戦における最高の舞台を用意するとだけ言った。妾たちはその話に乗っただけで、別に忠義心などというものは持ち合わせておらん。じゃがまあ、安心せい」
「え?」
「どれだけ魔力を得ようが所詮ヤツは人間の女。妾たち竜人族とやり合えば結果など火を見るより明らかじゃ」
「それは……」
「そうだけど」――と、颯太は言い切れなかった。
なんだか、嫌な予感がする。
事態は最悪の方向へと向かって進み始めたと感じた颯太は、
「エルメルガ、魔族を精製している魔法陣はこの建物の中にあるんだな?」
「そうじゃが……」
それを確認すると、今度はルコードに向かって、
「ルコード騎士団長! すぐに建物内部へ突入して魔法陣を破壊しましょう!」
「雷竜から何か聞き出したのか!?」
「今は説明している暇がありません! まずは当初の目的通りに魔法陣の破壊を最優先にしてください! そのあと――強敵の出現に備えておかないと!」
「! ……そうか。いよいよ黒幕のお出ましか」
颯太のただならぬ様子に、ルコードは決着が近づいていることを悟った。
同時に、その場でまだ行動可能な騎士たちをコロッセオ内部へと進めようと戦力把握に努めたが――これが思いのほか芳しくなかった。
戦える戦力が圧倒的に少ない。
ここへ来て、連合竜騎士団はガス欠に等しい状態であった。
「ソータ……」
メアはまだほぼ万全の状態。
それに、トリストンも無傷だ。
しかし、この先に控える魔女イネスと智竜シャルルペトラとの戦闘を考えれば、出来る限りこの2匹は休ませたい。雷竜エルメルガは先の戦闘のダメージもあって100%の力を発揮することは難しいだろうし。
「このままでは――」
万事休すかと思われたが、ここでとうとう待ちに待った助け舟がやってくる。
「……むっ?」
「? どうかしましたか、ルコード騎士団長」
颯太が問いかけると、ルコードは「ふっ」と笑って、
「聞こえないか?」
「え?」
ルコードに言われて、颯太は耳を澄ます。
すると、
「――――」
かすかに、人の叫び声のようなものが聞こえる。
それは決して恐怖に怯える叫びなどではなく、雄々しい勇士たちの雄叫び。
そう――
「援軍だ!」
「どうやら樹竜や鎧竜が竜騎士団を率いて来ているようだ――見ろ。言っている間に大軍勢の到着だ」
その援軍の先陣を切ってやってきたのは――空から舞い降りた4匹の竜人族であった。
「待たせたわね」
マーズナー・ファームのエースである樹竜キルカジルカ。さらに、
「き、君たちは!?」
颯太をはじめ、騎士たちが武器を構える。
無理もない。
キルカと共に援軍としてやってきたのは、
「うちらはもうあんたたちの敵じゃないわよ」
「いろいろありましたが、今は連合竜騎士団の一員なのです!」
「…………」
「ナイン、あんたは頷いてばかりいないで少しは喋りなさい!」
磁竜ベイランダム。
奏竜ローリージン。
奪竜ナインレウス。
かつて敵として戦った3匹の竜人族が、味方として連合竜騎士団の一員として戦う――これほど心強い助っ人はいなかった。
颯太は早速3匹が加わったことを説明。
変わり身の速さに疑う者もいたが、現状が現状だけに今は戦力となり得るならなんでも加えたいという本音が勝り、3匹を加えた。――いや、厳密に言えば、合計で4匹だ。
「エル! あなたもこちら側についたの!?」
「意外なのです」
「そう言ってくれるな。妾とてこうなるとはつい先ほどまで夢にも思っていなかったのじゃからな。……となると、残りはあとはニクスだけというわけか」
強力な助っ人の登場に、先ほどまでの緊張感がわずかに緩んだ――その矢先、
「ぬ? なんだ?」
騎士のひとりが、光の柱から迫り来る影を捉えた。その騎士が「敵襲!」と周りに知らせる間もなく、その影は颯太たちの前に静かに舞い降りた。
「なっ――」
あまりにも静かな登場に、颯太たちは面食らった。
現れたのは、
「お、女の子?」
キャロルより少し年上――17か18歳くらいの少女であった。
なんでこんなところにと思うと同時に、颯太はその少女の正体をすぐに見破った。
「りゅ、竜人族!?」
よく見ると、角と尻尾という竜人族の特徴が見受けられた。
オロム城から突き出た光の柱から現れた未確認の竜人族――となれば、
「君が――シャルルペトラか?」
紺色の長い髪に鋭い眼光。
驚愕に震えるナインレウスの反応から見ても間違いない。
現れたのは――智竜シャルルペトラだった。
「くっ!」
先手を打ったのはキルカだった。
植物の蔦を操り、その身を拘束しようとしたが、
「…………」
シャルルペトラはまるで戯れるかのごとく軽々と蔦を引き裂いてキルカの懐へと一気に距離を詰める。そのスピードはもはや瞬間移動に等しい。さらに、
「ぐはっ!」
ゼロ距離から腹部へと放たれた掌底により、キルカは吹っ飛ばされ、コロッセオの壁に叩きつけられた。それでも勢いは止まらず壁を突き破って内部まで飛んでいった。
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