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【最終章③】魔竜討伐編
第240話 シャルルペトラの提案
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「終わったんだな!?」
「そうだ! 竜人族たちが魔竜を打ち破ったんだ!」
連合竜騎士団に所属する竜人族たちとシャルルペトラが、魔族を生み出し続けていた諸悪の根源――魔竜イネスを倒したという報せは、あっという間に廃界内で魔族の残党狩りを続けている竜騎士たちに伝わった。
「とうとうやり遂げたか……」
感慨深げに呟いたのはハルヴァ竜騎士団団長のガブリエル・アーフェルカンプだった。
オロム王都の東側を中心に竜騎士を展開していたガブリエルが指揮する分団の竜騎士たちは勝利の一報に士気が大幅上昇。国籍など関係なく、お互いがお互いをフォローし合い、生きてこの廃界での戦いを勝ち抜くという強い意志が垣間見えた。
「我らも負けていられませんな」
「まったくだ!」
ハルヴァ竜騎士団のファネル・スミルノフとドラン・ドートランも士気が上がり、次々と魔族たちを蹴散らしていく。
それを見て、闘志を燃やしたのはハルヴァ竜騎士団副団長のリガン・オルドネスだった。
「我らも続くぞぉ!」
勢いづくガブリエルたちに負けじと、勇猛な雄叫びをあげながら魔族たちへと突っ込んでいく。
かつては恐怖の対象であった魔族であるが、今の連合竜騎士団の中に、魔族を恐れている者はひとりもいない。廃界へ到着する前までは魔族と戦うことに対して少なからず恐怖を覚えている者はいたが、シャルルペトラたちによってイネスが倒されたという事実が、竜騎士たちに無限の勇気を与えていた。
◇◇◇
「よし! では今の指示通りに動いてくれ」
オロム城周辺は事後処理に追われていた。
まず、残っている魔族の討伐を優先させるため、戦える竜騎士たちとメアたち竜人族を王都近辺へと向かわせた。この部隊はハルヴァ竜騎士団のハドリー・リンスウッドが指揮を執ることになり、連合竜騎士団の最高指揮官であるペルゼミネのルコード・ディクソンはシャルルペトラと共にそのままはオロム城の周辺調査を行うことになった。
「…………」
慌ただしく行動を開始した竜騎士団を、呆けた表情で眺めていたのは竜医として同行しているブリギッテだった。
「どうかしたのか、ブリギッテ」
心配になって颯太が声をかける。
「あ、う、うん。なんていうか……まだ実感がなくて……」
颯太とは違い、生まれた時から魔族の脅威に晒され続けていたブリギッテにはまだその脅威が去ったことへ実感が湧かないのだろう。
だが、それはブリギッテに限ったことではない。
連合竜騎士団の竜騎士たちの多くは、ブリギッテと同様に魔族の脅威が去ったことに対して実感を得られないでいた。まだ王都周辺にはコロシアムにある魔法陣破壊前に出現した魔族たちで溢れているが、竜人族たちの手助けがあれば殲滅も時間の問題だろう。
ルコードとしては、かつて魔法都市として繁栄を極めたオロムをより詳しく調査したいという気持ちが強かった。おとぎ話の中でしかその存在を確認されていなかった魔法都市の秘密がすぐそこにある――常に冷静でクールなルコードだが、実は人知れず興奮していた。
その一方、落ち着いているのは颯太だった。
すべての戦いが終り、本格的なオロムの調査が開始されたが、他の竜騎士たちのように浮足立ったり興奮状態だったりということはなかった。
颯太とブリギッテ――他、非戦闘要員たちは明日の朝一にダステニアへと帰還する流れとなっていたため、颯太はしばらく見ることはないだろうオロムの風景を目に刻み込めていたのだった。
「随分と落ち着いていますね」
そこへ、声をかける竜人族が1匹。
「シャルルペトラ……」
「こうして実際にお会いするのは初めてね」
ニコリと微笑んだ智竜シャルルペトラ。
颯太はようやく巡って来たチャンスを生かすべく、シャルルペトラにこれまでの疑問をぶつけてみた。
「君が……俺をこの世界に呼んだんだね?」
「そうよ」
「一体、どうして俺だったんだ?」
「あなただったからよ」
満面の笑みで言うシャルルペトラだが、颯太にはいまひとつピンと来ない答えだった。
「俺だったからって……それはつまり――」
「優しくて嘘がつけない。大真面目な人間を探していたのよ。本当はもっと別の世界にも足を運ぶつもりだったけど、あの世界であなたを見つけて、お父さんのもとへ送り込んだの。案の定、お父さんもあなたを気に入って、私の狙い通り、竜の言霊を託したってわけ」
「そうだったのか……」
そこで、シャルルペトラの表情がフッと暗くなる。
「すべてに決着がついたら、あなたに謝らなくてはいけないとずっと思っていたの。突然、なんの前触れもなくいきなりこの世界へ転移させてしまって……生活は一変したし、苦労は多かったでしょう?」
「いや……ハルヴァの人たちが親切にしてくれたからそこまで苦労はしなかったかな」
「それもあなたの人柄が成せることだと私は思うわ」
新たな竜王として君臨することになるだろうシャルルペトラにそう言ってもらえて、颯太は心から光栄に思う。
――だが、シャルルペトラがここへ来た目的は別なのだろうと颯太は感じていた。
「実は……竜の言霊によって集められた魔力はだいぶ余っていて、それはすべて私の中に取り込んだのだけど――その結果、今の私は次元転移魔法が使える状態になっているわ」
やはりか、と颯太は思った。
なんとなく、それを伝えに来たのではないかという予感があったのだ。
つまり、シャルルペトラが言いたいことは、
「あなたが望めば、あなたを元いた世界へ送り返すこともできるの」
そういうことだ。
「…………」
颯太は即答しなかった。
この世界に居場所を見つけた――キャロルやメアやブリギッテたちと別れるのはとても辛いことだ。しかし、それと同じくらい、田舎の両親のことが気がかりだった。すでに元の世界から姿を消して何ヵ月も経過しているため、家族は警察に捜索願を出しているだろうし、きっと心配しているだろう。
そんな両親に一目会い、無事を伝えたいという気持ちも強かった。
――ただ、戻るにしろ戻らないにしろ、その前に颯太にはやるべきことが残っていた。
「シャルルペトラ」
「何?」
「その質問に答えるより先に――俺はみんなに自分が異世界人であることを告げなくちゃいけない。そう約束して、ここへ来たからな」
「わかったわ」
元の世界へ戻るか、この世界で生き続けるのか。
その答えは、ダステニアへの帰還が予定されている明日以降に持ち越しとなるだろう。
――だが、
「でもさ……俺の希望はもう決まっているんだ」
「帰るか残るか――あなた自身の考えはまとまっているというわけね。それで、どっちなのかしら?」
シャルルペトラからの追及に、颯太は一度深呼吸を挟んでから答えた。
「俺は――」
果たして、その答えとは。
「そうだ! 竜人族たちが魔竜を打ち破ったんだ!」
連合竜騎士団に所属する竜人族たちとシャルルペトラが、魔族を生み出し続けていた諸悪の根源――魔竜イネスを倒したという報せは、あっという間に廃界内で魔族の残党狩りを続けている竜騎士たちに伝わった。
「とうとうやり遂げたか……」
感慨深げに呟いたのはハルヴァ竜騎士団団長のガブリエル・アーフェルカンプだった。
オロム王都の東側を中心に竜騎士を展開していたガブリエルが指揮する分団の竜騎士たちは勝利の一報に士気が大幅上昇。国籍など関係なく、お互いがお互いをフォローし合い、生きてこの廃界での戦いを勝ち抜くという強い意志が垣間見えた。
「我らも負けていられませんな」
「まったくだ!」
ハルヴァ竜騎士団のファネル・スミルノフとドラン・ドートランも士気が上がり、次々と魔族たちを蹴散らしていく。
それを見て、闘志を燃やしたのはハルヴァ竜騎士団副団長のリガン・オルドネスだった。
「我らも続くぞぉ!」
勢いづくガブリエルたちに負けじと、勇猛な雄叫びをあげながら魔族たちへと突っ込んでいく。
かつては恐怖の対象であった魔族であるが、今の連合竜騎士団の中に、魔族を恐れている者はひとりもいない。廃界へ到着する前までは魔族と戦うことに対して少なからず恐怖を覚えている者はいたが、シャルルペトラたちによってイネスが倒されたという事実が、竜騎士たちに無限の勇気を与えていた。
◇◇◇
「よし! では今の指示通りに動いてくれ」
オロム城周辺は事後処理に追われていた。
まず、残っている魔族の討伐を優先させるため、戦える竜騎士たちとメアたち竜人族を王都近辺へと向かわせた。この部隊はハルヴァ竜騎士団のハドリー・リンスウッドが指揮を執ることになり、連合竜騎士団の最高指揮官であるペルゼミネのルコード・ディクソンはシャルルペトラと共にそのままはオロム城の周辺調査を行うことになった。
「…………」
慌ただしく行動を開始した竜騎士団を、呆けた表情で眺めていたのは竜医として同行しているブリギッテだった。
「どうかしたのか、ブリギッテ」
心配になって颯太が声をかける。
「あ、う、うん。なんていうか……まだ実感がなくて……」
颯太とは違い、生まれた時から魔族の脅威に晒され続けていたブリギッテにはまだその脅威が去ったことへ実感が湧かないのだろう。
だが、それはブリギッテに限ったことではない。
連合竜騎士団の竜騎士たちの多くは、ブリギッテと同様に魔族の脅威が去ったことに対して実感を得られないでいた。まだ王都周辺にはコロシアムにある魔法陣破壊前に出現した魔族たちで溢れているが、竜人族たちの手助けがあれば殲滅も時間の問題だろう。
ルコードとしては、かつて魔法都市として繁栄を極めたオロムをより詳しく調査したいという気持ちが強かった。おとぎ話の中でしかその存在を確認されていなかった魔法都市の秘密がすぐそこにある――常に冷静でクールなルコードだが、実は人知れず興奮していた。
その一方、落ち着いているのは颯太だった。
すべての戦いが終り、本格的なオロムの調査が開始されたが、他の竜騎士たちのように浮足立ったり興奮状態だったりということはなかった。
颯太とブリギッテ――他、非戦闘要員たちは明日の朝一にダステニアへと帰還する流れとなっていたため、颯太はしばらく見ることはないだろうオロムの風景を目に刻み込めていたのだった。
「随分と落ち着いていますね」
そこへ、声をかける竜人族が1匹。
「シャルルペトラ……」
「こうして実際にお会いするのは初めてね」
ニコリと微笑んだ智竜シャルルペトラ。
颯太はようやく巡って来たチャンスを生かすべく、シャルルペトラにこれまでの疑問をぶつけてみた。
「君が……俺をこの世界に呼んだんだね?」
「そうよ」
「一体、どうして俺だったんだ?」
「あなただったからよ」
満面の笑みで言うシャルルペトラだが、颯太にはいまひとつピンと来ない答えだった。
「俺だったからって……それはつまり――」
「優しくて嘘がつけない。大真面目な人間を探していたのよ。本当はもっと別の世界にも足を運ぶつもりだったけど、あの世界であなたを見つけて、お父さんのもとへ送り込んだの。案の定、お父さんもあなたを気に入って、私の狙い通り、竜の言霊を託したってわけ」
「そうだったのか……」
そこで、シャルルペトラの表情がフッと暗くなる。
「すべてに決着がついたら、あなたに謝らなくてはいけないとずっと思っていたの。突然、なんの前触れもなくいきなりこの世界へ転移させてしまって……生活は一変したし、苦労は多かったでしょう?」
「いや……ハルヴァの人たちが親切にしてくれたからそこまで苦労はしなかったかな」
「それもあなたの人柄が成せることだと私は思うわ」
新たな竜王として君臨することになるだろうシャルルペトラにそう言ってもらえて、颯太は心から光栄に思う。
――だが、シャルルペトラがここへ来た目的は別なのだろうと颯太は感じていた。
「実は……竜の言霊によって集められた魔力はだいぶ余っていて、それはすべて私の中に取り込んだのだけど――その結果、今の私は次元転移魔法が使える状態になっているわ」
やはりか、と颯太は思った。
なんとなく、それを伝えに来たのではないかという予感があったのだ。
つまり、シャルルペトラが言いたいことは、
「あなたが望めば、あなたを元いた世界へ送り返すこともできるの」
そういうことだ。
「…………」
颯太は即答しなかった。
この世界に居場所を見つけた――キャロルやメアやブリギッテたちと別れるのはとても辛いことだ。しかし、それと同じくらい、田舎の両親のことが気がかりだった。すでに元の世界から姿を消して何ヵ月も経過しているため、家族は警察に捜索願を出しているだろうし、きっと心配しているだろう。
そんな両親に一目会い、無事を伝えたいという気持ちも強かった。
――ただ、戻るにしろ戻らないにしろ、その前に颯太にはやるべきことが残っていた。
「シャルルペトラ」
「何?」
「その質問に答えるより先に――俺はみんなに自分が異世界人であることを告げなくちゃいけない。そう約束して、ここへ来たからな」
「わかったわ」
元の世界へ戻るか、この世界で生き続けるのか。
その答えは、ダステニアへの帰還が予定されている明日以降に持ち越しとなるだろう。
――だが、
「でもさ……俺の希望はもう決まっているんだ」
「帰るか残るか――あなた自身の考えはまとまっているというわけね。それで、どっちなのかしら?」
シャルルペトラからの追及に、颯太は一度深呼吸を挟んでから答えた。
「俺は――」
果たして、その答えとは。
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