おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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外伝長編  ドラゴン泥棒編

第3話  キャロルとエイミー

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 ドラゴンの卵が盗難被害に遭ったとなれば、さすがにダステニアの竜騎士団も黙ってはいない。
 キャロルがオーバに相談を持ち掛けた翌日、学園は緊急休校となり、授業の代わりにもっともドラゴンの卵に触れる機会の多い育成科の生徒が騎士たちから事情聴取を受けることとなった。

 その中でも騎士たちの注目を集めたのは謹慎明けのエイミー・フラデールであった。
 彼女への聴取は特に注意を払って行われたのだが、そんな状況下においてエイミーは意外な行動に出ていた。


「黙秘している?」

 竜騎士団からの聴取を終え、学生寮に戻って待機する旨をオーバに伝えるため職員室を訪れたキャロルは、エイミーが竜騎士団からの聴取に対してずっと黙秘を続けていることを教えられた。
 
「まあ、実際に彼女が竜舎から卵を持ち出している現場を君が目撃しているのだから、何も言えないのだろうが」
「…………」

 キャロルは昨夜の出来事を竜騎士団へ報告していない。
 エイミーには何か事情があるのだろうというのがキャロルの見立てであるが、すでに竜騎士団が出張ってきて調査を始めている以上、エイミーが卵を持ち出したことを自白するのは時間の問題に思われた。

「前回は容疑だけだったが、今回は君という目撃者がいる。……やはり、ここは竜騎士団へ真実を告げた方がよさそうだな」
「! ま、待ってください! もう少しだけ時間をください!」

 キャロルは抗議するが、オーバの反応は鈍い。
 恐らく、キャロルがエイミーへ直接語りかけても、何も答えてはくれないだろう。何せ、キャロルとエイミーは友だちでもなんでもなくただのクラスメイト――おまけに、お互いの存在をつい最近知ったばかり。そんな相手を、エイミーが信頼して真実を語るとは到底思えなかった。
 しかし、

「……分かった」

 オーバはキャロルの気持ちを汲む。

「あと一日だけ待つ。明日の夕刻になったら、事情を竜騎士団へ打ち明け、エイミー・フラデールの身辺調査を開始する。こちらも手を打つが……望み薄と思ってくれ」
「分かりました!」

 キャロルは一日だけという約束を取り付けると、すぐさま行動に移そうと職員室を飛び出していった。

「やれやれ……相変わらず忙しない子だ」

 苦笑いを浮かべながらオーバは立ち上がり、奥の部屋へと移動。そこには一匹の鳥が気持ちよさそうにソファで寝ている。

「鳥らしく木の上で眠ったらいいのにな。――キュルちゃん、出番だ」

 オーバの呼びかけに反応した愛鳥キュルちゃん。

「今から言う場所へ飛んでメッセージを伝えてもらいたい」
「クエー」
 
 キュルちゃんを肩に乗せて、オーバは職員室から出て中庭へと出る。メッセージを伝え終わると、そのままキュルちゃんを大空へと解き放った。

「頼んだぞ……」

 東の方向へ飛んでいくキュルちゃんを眺めながら、オーバは呟くのだった。


  ◇◇◇


 なんとかしてエイミーの口から真実を聞き出したい。
 そう願うキャロルは校舎同士を結ぶ渡り廊下を進んでいた。そこはこれから職員室へ終了の報告をしに向かう生徒たちが通る道でもあるので、これまでに数人の生徒とすれ違った。そして、渡り廊下が終わろうとした時、

「あっ!」

 キャロルは思わず声を上げた。
 目の前に現れたのは、これから職員室へ終了の報告へ向かうエイミーだったのだ。
 千載一遇のチャンス。
 すぐ横を通り抜けていくエイミーに、キャロルは勇気を出して声をかけてみた。

「あ、あの」
「……何かしら?」

 振り返ったエイミーはどこか虚ろげだった。
 一応、反応を示してはいるものの、心ここにあらずといった様子で、その瞳は濁っているように映る。
 その異様な気配にキャロルは一瞬体が強張る。しかし、すぐに持ち直して聞きたかったことを素直に伝えた。

「昨日の夜……ドラゴンの卵を竜舎から持ち出した?」
「!」

 キャロルの言葉に、エイミーは目を見開いて驚く。だが、すぐにその表情は先ほどと変わらぬ平坦なものへと戻った。

「そう……見ていたのね。どうするの? 竜騎士団に通報する?」
「その前に――あれはあなたの意思でやったことなの?」
「……どういう意味かしら?」
「もしかして、誰かに脅されたとか?」
「!」

 再びエイミーに反応が見られた。
 クールな感じを装っているが、意外と顔に出やすいタイプらしい。
 だが、これでほぼ決まりだ。

「やっぱり、誰かの指示で仕方なくやったんだね?」
「……違うわ。ていうか、なんなの、あなた。いきなり話しかけてきてずけずけと……あれは私がやったのよ。私の意思で。私だけで」
「なら、ドラゴンの卵は今どこにあるの?」
「それは……」

 エイミーは口ごもる。
 そして、答えられないと感じたのか、「失礼するわ」とその場を立ち去った。
 キャロルとしては無理にでも引き止めて追及すべきだと思うが、恐らく、このままとどまらせてもあの堅い口をこじ開けるのは不可能だろうと判断し、別のアプローチをかけてみることにした。

「よーし……戻ってクラリスちゃんにも相談しなくちゃ」

 次なる行動のため、キャロルは寮への道を急ぐのだった。
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