おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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番外編  西の都の癒しツアー?

第148話  ダステニア王都

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 ダステニア王都の第一印象は「活気がある」だった。

 他の国の王都が地味だとは言わない。
 けど、ここは熱気が異質だった。

 颯太たち護衛団は入国審査を受けるため、王都の入り口である巨大な門の前で待ちぼうけを食らっていた。ペルゼミネやガドウィンの時には書類を提出したり持ち込む荷物を厳しくチェックしたりした――ここでもやっていることは変わらないのだが、

「よお、ジェイク」
「シームか。元気にしていたか?」
「おかげさまでな。ソラン王国を襲った竜人族の能力で石像にされたと聞いた時は肝を冷やしたが、おまえも元気そうで何よりだ」
「そいつも今じゃうちの貴重な戦力だからな。何が起こるかわからんよ」
「まったくだな。そういえば、子どもが生まれたんだって?」
「そうなんだよ! これが俺によく似てるんだよ!」
 
 ダステニア竜騎士団に所属し、入国審査の責任者でもあるシームという騎士が、親しげにジェイクへと話しかけていた。
 ジェイクだけではない。
 周りの騎士たちは古い友人との再会に会話を弾ませていた。

「さすがに友好国としての歴史が古いだけあってお互いの騎士団の交流も盛んみたいだな」
「僕らのような若い騎士を除けば、大体の人に知り合いがいる感じですね」

 ダステニアに知り合いのいない颯太は同じくまだ顔見知りの騎士がいないテオやルーカと共に手続きの終了を待っていた。

 その際、門の向こうに広がるダステニア王都の光景を眺めてみる。

 まず目につくのは無数の屋台。
 食べ物が売られている店がほとんどだが、中には大きな葉っぱや何かの生物の尻尾を置いている店もある。用途不明だが、漢方薬的なものだろうか。
 颯太がそういった発想に至る理由は、王都の雰囲気が社員旅行で訪れた香港の繁華街に似ていたからだった。ラフマン家のリーやシャオという名前も、なんとなくその国の人っぽい名前に聞こえる。

 結局、護衛団が王都内へ入れたのは約1時間後のことだった。

 大勢の人で賑わう王都を進み、リー・ラフマンがいるというアークス学園を目指す。
 しばらくすると、

「あれが……」

 馬車の窓から見えたのは広大な敷地内に建てられた大きな校舎。
 威圧感のあるドラゴンの像がそびえ立つそこが、

「アークス学園……」

 ブリギッテやアンジェリカも通っていたという学園。
 一見すると、颯太のいた世界で見てきた「学校」となんら変わらないように映る。
荘厳なオーラを放つ校門には厳つい顔の警備員らしき人物が立っていたが、ジェイクが「ハルヴァからリー学園長に会いに来た」と告げた途端ににこやかな表情へ変わり、「どうぞこちらでございます」と案内されて学園内へと入って行く。

 学園には学生と思われる少年少女たちが突然の来訪者を目にして驚いているようだった。
 
「思ったよりも学生の数が多いですね。もっと小規模なものかと」
「竜医だけじゃなく、対人医療の専門家や薬用植物の管理資格者を育成することも含まれているからな」
「この校舎だけでいろんな分野の専門家を育成できるわけですね」

医療大国の名は伊達ではないようだ。
 
「ハルヴァではこういった教育施設は作らないんですか?」
「一応計画はあるそうだが……計画している修学局はまだできたばかりでな。ハッキリ言ってノウハウ不足は否めない。まあ、こっちに人材を派遣して優れた部分を吸収しようと努力はしているようだが」

 竜騎士団や商業は他国にも負けないハルヴァだが、こと「教育」という分野においてはまだまだ発展途上らしい。

「施設もそうだが、教え役である人間もいないからな」
「人材不足というわけですね」
「ハルヴァにとっちゃ永遠の懸念材料になりそうだな。他国に比べて人口も少ないし」

 優れた人材確保のための施設作りだが、ハルヴァの場合は慢性的な人材不足という問題も足を引っ張っているのが原因ようだ。

 それから、学園内を進んでいた馬車はある場所で停止した。
 
「着いたようだな。降りるとするか」
「はい」

 ジェイクに促されて颯太は馬車から降りる。その目の前には一際大きな建物があり、その入り口の扉の前には大柄な中年男性が立っていた。

「ようこそ、アークス学園へ!」

 両サイドを屈強な男に守られたその人物こそ、

「リー・ラフマン学園長――タカミネ・ソータをお連れしました」
 
 ジェイクが深々と頭を下げる。やはり相当立場のある人物なのだろう。颯太は思わず「ゴクリ」と唾を飲んだが、

「ハッハッハ! そんなにかしこまらなくてもいいよ」

 リー学園長はニコニコと人のよさそうな笑顔を浮かべてジェイクの肩をポンポンと優しく叩いた。

「長旅で疲れたろう? 今日はゆっくりしていってくれ。宴の準備も進ませているから」
「ありがとうございます」
「うむ。――で、あちらが例の……」

 颯太を発見したリーがたずねると、ジェイクは「そうです」と答える。どことなく、ジェイクは緊張しているような印象を受けた。

「お噂は届いておりますよ、ソータ殿」
「こ、光栄です」
「本来は申し出をしたこちら側がハルヴァへと出向くのが筋というものですが、いかんせんわたくしも学園長という仕事柄、どうしても長期的にここを空けておくことができなくて……それでも、なんとか娘の恋を成就させてやりたいとブロドリック大臣に書面を通してご相談をしたのですが――こうして実現できて本当にありがたい!」
「は、はあ……」

 大富豪との接し方について何が正解なのかいまいちわからない颯太は、とりあえず取引先にするような低姿勢で挑む。
 だが、元商人という気質がそうさせるのか、リーのマシンガントークの熱は冷める兆しさせ見せない。

「おっと、少し喋り過ぎましたな」
「い、いえ、そんなことはありません。私にとってこのダステニアは初めての国なので、見るものすべてが新鮮に映り、良い経験になっています」
「ほお……実に礼儀正しいお方だ。数々の武勇伝から、あまり細かなことは気にしない豪胆な方だと想像しておりましたが――いやいや、これは驚きですな」

 一体どんな噂が耳に届いているかはさておいて、とりあえずリーには良い印象を持ってもらったようで何よりだ。
 今回はお見合いという形だが、ここで先方に不快な思いをさせるわけにはいかない。下手をした国際問題にまで発展しかねないからだ。

「娘のシャオはまだ学園におるようでしてな。もう少しすると戻ってくると思うのですが」
「そうですか」

 颯太に癒しの時間がやってくるのはもう少し先になりそうだ。
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