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【最終章①】廃界突入編
第158話 呼ばれた理由
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各国で竜人族の襲撃が相次いでいる事実を知らない颯太たちは、午後から行われるという4大国王会議の内容について報告を受けていた。
報告してくれたのは、
「みなさんお揃いですか?」
「ああ。よろしく頼むよ、カレン」
カレン・アルデンハークだった。
颯太の宿泊部屋にキャロル、ブリギッテ、アンジェリカも集い、カレンからの報告を受け取った。
「まず、今回の会議では――魔族討伐作戦の概要について話し合われるそうです」
「魔族討伐……」
「いよいよ来るべき時が来たのね」
「そのようですわね」
「わ、私が出撃するわけじゃないのに、なぜだか凄く緊張してきました」
この世界に来てまだ1年と経っていない颯太からすれば、たしかに魔族は脅威である存在という認識はあったが、生まれた時からその魔族の脅威と隣り合わせで生きてきたキャロルたちとは、危機意識の重さが違う。3人の表情から、颯太はそう感じ取った。
「魔族が住み着いている廃界への総攻撃は遅くとも1週間以内には実行する予定で話を進めていくそうです」
「1週間以内!? 随分と急な話だな」
魔族討伐というからには、相当な戦力をもって臨まなければならないはず。
ただでさえ、レイノアの一件で疲弊しきっている今のハルヴァに、魔族討伐に全力を注ぎこめるほどの余力があるかと言われると疑問符がつく。
「情報によると、あまり悠長にしていられない理由があるそうです」
「どんな理由なんですの?」
アンジェリカがたずねると、カレンは一瞬口をつぐんだ。
何か、言い辛そうにしている。
「……先日、たしかな筋からふたつの情報がもたらされました」
「ふたつの情報?」
「はい。ふたつとも廃界に関する情報です。……そのうちのひとつはアンジェリカさんにも関係があって」
「わたくしに?」
途端に視線がアンジェリカへと集まる。
「どういうことだ?」
「情報自体は数日前のものなのですが……今からひと月ほど前、ペルゼミネにある小さな村の酒場で、ある男性が廃界オロムへ向かうと言い残して出て行ったそうです」
「まさか……その男性って……」
「ミラルダ・マーズナー氏です」
「お父様が!?」
驚きを隠せないアンジェリカ。
父親が牧場を去ってからも「どこかで好きにしている」という程度に構えていたアンジェリカであったが、まさか廃界へ向かったとは予想外だったようだ。
「破天荒な方ではありましたけど、なんでまた廃界なんかに……」
「あの人のことだから魔族の生態調査に行ったって言われても納得してしまうけど」
ブリギッテの言葉がまったく冗談に聞こえないあたり、本当にミラルダ・マーズナーという人物は予想できない動きをする破天荒な存在であったらしい。
「もしかして、もうひとつの情報に何か手がかりがあるんじゃないか?」
颯太は一縷の望みをかけてカレンに問うが、
「残念ながらそうとは断言できません。もうひとつの情報というのも、ここ最近、廃界へ向かった人間のことなので」
「ミラルダさんの他にまだ廃界へ行こうって人がいるの?」
呆れたようにブリギッテが言う。
「ええ。その人物は――ランスロー王子だそうです」
「「「「!?」」」」
4人はお互いに顔を見合わせた。
「ランスロー王子って……レイノアの?」
「生きていらしたのですね」
「ランスロー王子……」
舞踏会の夜とペルゼミネの森。
やはり、そこで出会ったあのローブの男がランスロー王子だったに違いない。
ランスロー王子生存の言葉を耳にした颯太は、真っ先にそう思った。
「どうしてランスロー王子は廃界へ?」
「魔法を使えるようにするためじゃないかしら」
颯太の疑問に対し、ブリギッテは自らの仮説を述べた。
「恐らく、襲ってくる魔物はナインレウスが返り討ちにするはずだから……あとは旧オロム王都へ行って、魔法に関する情報を引っ張り出してくるってとこかしらね」
「そういえば、オロムって魔法国家だったんだよな?」
「はい。国民の誰もが魔法を使えたと言われています」
キャロルの語る情報がたしかならば、
「国民の誰もが魔法を使えて、どうしてオロムは滅びたんだろう」
「諸説紛々ですわ」
「有力なのは魔族を生み出したことによる自滅説ね。そもそも、あそこは他国から禁忌とすべきだと忠告を受けてきた《3大禁忌魔法》を広めようとしていたくらいだから、あんなバケモノを生み出すなんて造作もなかったんでしょうけど」
「それが暴走してしまったという見方が多いですね」
「なるほど……で、その3大禁忌魔法ってどんなのなんだ?」
答えたのはアンジェリカだった。
「ひとつは《死者蘇生》。ふたつ目は《精神支配》。最後は――《次元転移》ですわ」
「次元転移?」
「こことは違う別の世界とを結びつける魔法だそうです」
「!?」
次元転移魔法。
この世界と別の世界を結びつける魔法。
そして――まったく別の世界から来た颯太。
「まさか……」
話を聞いた颯太の顔はどんどん青くなっていく。
「ソータさん? 大丈夫ですか? なんだか顔色が優れないようですが」
見兼ねたカレンが気を遣ってたずねてくれる。だが、颯太としてはもう少し話を聞きたかったので「大丈夫だ」と強がってカレンに話を進めるように言う。
「とにかく、廃界へ何かと注目を浴びる人たちが集結しつつあります。これは只事ではないという判断を下し、早急に廃界への総攻撃を決定する見通しです」
「じゃあ、竜人族たちも出撃するんだな?」
「そうなるでしょうね」
ハルヴァからはメア、ノエル、キルカ、トリストンの4匹が選出されるだろう。それだけではなく、イリウス、リート、パーキースの3匹にも召集がかかるはずだ。
「まさに総力戦――人類の明日を占う決戦となるでしょうね」
カレンは少し興奮気味だった。
他の3人はまだちょっと信じられないといった感じが見受けられる。
颯太は――頭から次元転移魔法のことが離れなかった。
もし、次元転移魔法とやらが実在するなら、扱えそうなのは魔法を覚えていたというシャルルペトラくらいか。しかし、そうなると、
「俺をこの世界へ呼んだのは――シャルルペトラなのか?」
誰にも気づかれないように呟いた颯太の額にはじっとりと汗が浮かんでいた。
報告してくれたのは、
「みなさんお揃いですか?」
「ああ。よろしく頼むよ、カレン」
カレン・アルデンハークだった。
颯太の宿泊部屋にキャロル、ブリギッテ、アンジェリカも集い、カレンからの報告を受け取った。
「まず、今回の会議では――魔族討伐作戦の概要について話し合われるそうです」
「魔族討伐……」
「いよいよ来るべき時が来たのね」
「そのようですわね」
「わ、私が出撃するわけじゃないのに、なぜだか凄く緊張してきました」
この世界に来てまだ1年と経っていない颯太からすれば、たしかに魔族は脅威である存在という認識はあったが、生まれた時からその魔族の脅威と隣り合わせで生きてきたキャロルたちとは、危機意識の重さが違う。3人の表情から、颯太はそう感じ取った。
「魔族が住み着いている廃界への総攻撃は遅くとも1週間以内には実行する予定で話を進めていくそうです」
「1週間以内!? 随分と急な話だな」
魔族討伐というからには、相当な戦力をもって臨まなければならないはず。
ただでさえ、レイノアの一件で疲弊しきっている今のハルヴァに、魔族討伐に全力を注ぎこめるほどの余力があるかと言われると疑問符がつく。
「情報によると、あまり悠長にしていられない理由があるそうです」
「どんな理由なんですの?」
アンジェリカがたずねると、カレンは一瞬口をつぐんだ。
何か、言い辛そうにしている。
「……先日、たしかな筋からふたつの情報がもたらされました」
「ふたつの情報?」
「はい。ふたつとも廃界に関する情報です。……そのうちのひとつはアンジェリカさんにも関係があって」
「わたくしに?」
途端に視線がアンジェリカへと集まる。
「どういうことだ?」
「情報自体は数日前のものなのですが……今からひと月ほど前、ペルゼミネにある小さな村の酒場で、ある男性が廃界オロムへ向かうと言い残して出て行ったそうです」
「まさか……その男性って……」
「ミラルダ・マーズナー氏です」
「お父様が!?」
驚きを隠せないアンジェリカ。
父親が牧場を去ってからも「どこかで好きにしている」という程度に構えていたアンジェリカであったが、まさか廃界へ向かったとは予想外だったようだ。
「破天荒な方ではありましたけど、なんでまた廃界なんかに……」
「あの人のことだから魔族の生態調査に行ったって言われても納得してしまうけど」
ブリギッテの言葉がまったく冗談に聞こえないあたり、本当にミラルダ・マーズナーという人物は予想できない動きをする破天荒な存在であったらしい。
「もしかして、もうひとつの情報に何か手がかりがあるんじゃないか?」
颯太は一縷の望みをかけてカレンに問うが、
「残念ながらそうとは断言できません。もうひとつの情報というのも、ここ最近、廃界へ向かった人間のことなので」
「ミラルダさんの他にまだ廃界へ行こうって人がいるの?」
呆れたようにブリギッテが言う。
「ええ。その人物は――ランスロー王子だそうです」
「「「「!?」」」」
4人はお互いに顔を見合わせた。
「ランスロー王子って……レイノアの?」
「生きていらしたのですね」
「ランスロー王子……」
舞踏会の夜とペルゼミネの森。
やはり、そこで出会ったあのローブの男がランスロー王子だったに違いない。
ランスロー王子生存の言葉を耳にした颯太は、真っ先にそう思った。
「どうしてランスロー王子は廃界へ?」
「魔法を使えるようにするためじゃないかしら」
颯太の疑問に対し、ブリギッテは自らの仮説を述べた。
「恐らく、襲ってくる魔物はナインレウスが返り討ちにするはずだから……あとは旧オロム王都へ行って、魔法に関する情報を引っ張り出してくるってとこかしらね」
「そういえば、オロムって魔法国家だったんだよな?」
「はい。国民の誰もが魔法を使えたと言われています」
キャロルの語る情報がたしかならば、
「国民の誰もが魔法を使えて、どうしてオロムは滅びたんだろう」
「諸説紛々ですわ」
「有力なのは魔族を生み出したことによる自滅説ね。そもそも、あそこは他国から禁忌とすべきだと忠告を受けてきた《3大禁忌魔法》を広めようとしていたくらいだから、あんなバケモノを生み出すなんて造作もなかったんでしょうけど」
「それが暴走してしまったという見方が多いですね」
「なるほど……で、その3大禁忌魔法ってどんなのなんだ?」
答えたのはアンジェリカだった。
「ひとつは《死者蘇生》。ふたつ目は《精神支配》。最後は――《次元転移》ですわ」
「次元転移?」
「こことは違う別の世界とを結びつける魔法だそうです」
「!?」
次元転移魔法。
この世界と別の世界を結びつける魔法。
そして――まったく別の世界から来た颯太。
「まさか……」
話を聞いた颯太の顔はどんどん青くなっていく。
「ソータさん? 大丈夫ですか? なんだか顔色が優れないようですが」
見兼ねたカレンが気を遣ってたずねてくれる。だが、颯太としてはもう少し話を聞きたかったので「大丈夫だ」と強がってカレンに話を進めるように言う。
「とにかく、廃界へ何かと注目を浴びる人たちが集結しつつあります。これは只事ではないという判断を下し、早急に廃界への総攻撃を決定する見通しです」
「じゃあ、竜人族たちも出撃するんだな?」
「そうなるでしょうね」
ハルヴァからはメア、ノエル、キルカ、トリストンの4匹が選出されるだろう。それだけではなく、イリウス、リート、パーキースの3匹にも召集がかかるはずだ。
「まさに総力戦――人類の明日を占う決戦となるでしょうね」
カレンは少し興奮気味だった。
他の3人はまだちょっと信じられないといった感じが見受けられる。
颯太は――頭から次元転移魔法のことが離れなかった。
もし、次元転移魔法とやらが実在するなら、扱えそうなのは魔法を覚えていたというシャルルペトラくらいか。しかし、そうなると、
「俺をこの世界へ呼んだのは――シャルルペトラなのか?」
誰にも気づかれないように呟いた颯太の額にはじっとりと汗が浮かんでいた。
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