おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

文字の大きさ
155 / 246
【最終章①】廃界突入編

第175話  いざ廃界へ

しおりを挟む
※3月21日(水)~26日(月)は作者不在のため投稿をお休みします。
 次回投稿は27日(火)のAM7:00~8:00を予定しています。



 廃界へ向けてダステニアを発った連合竜騎士団。

 ハルヴァ竜騎士団が集結した、レイノア王都での交渉団も迫力のある陣容であったが、今回の廃界遠征は規模がまるで違った。

 遠征騎士団は東西南北あらゆる方面からの襲撃にすぐさま対応できるよう、ダイヤモンド型に広がっており、そこに戦闘特化能力を持つ竜人族を配置している。さらに空からも翼の生えた空戦型ドラゴンたちがにらみを利かせていた。

「これはまた凄いな……」
「これだけの竜騎士と竜人族、それにドラゴンがいればどんな相手だろうと負ける気がしないわね」

 興奮気味の颯太とブリギッテ。だが、同乗するダステニアのオーバ竜医は冷静だった。

「そうであることを願うが……やはり何かと曰くのある廃界だ。ペルゼミネ調査団もそれを見越して他国へ協力を仰ぎ、4大国家の同盟を進めたくらいだからな」
「そうでしたね……俺たちも気を引き締めないと」
「油断大敵ってわけね」

 勇壮な騎士たちの行進に舞い上がっていた気持ちを静めて、心を落ち着かせた。
 
 ちなみに、颯太たちの乗る場所の周囲はイリウス、リート、パーキースのリンスウッド組で守られていた。
 ノエルたち竜人族は遠征団の四方を囲むように配置されているためこの場にはいないが、イリウスたちは「慣れた者の近くの方がこいつらもヤル気が出るだろう。俺もおまえの近くにいた方が安心して守れる」というハドリーの計らいにより実現した。

 ダステニア王都を出る前、颯太はオーナーとしてイリウスたちとも言葉を交わしていた。

「そういえば、イリウスたちと何を話していたの?」
「オーナーとして激励したいんだよ」

 リートとパーキースは緊張した面持ちだったので、それを解すために笑顔を心がけて「訓練通りにやれば大丈夫だ」と励ました。
 一方、経験豊富なイリウスには特に気負いは見られず、「うっかり馬車から顔出して魔族に食われねぇようにしろよ」と逆に注意されたくらいだった。

「イリウスはハドリーさんと何度も死線をくぐっているベテランだから心配はいらないんだろうけど、リートとパーキースはちょっと緊張しているようだったな」
「ふむ……ドラゴンと会話ができると、正確に心理状態を把握できていいな」
「私たち竜医はドラゴンの気持ちに寄り添うため、ドラゴン専用の心理学とか学びましたもんね」
「そうだったな」

 ダステニアにあるアークス学園の卒業生であるふたりには懐かしい話題なのだろう。しみじみと過去を振り返っている。
 
 遠征団はダステニア王都を発ったあと、メアとエルメルガが戦闘した森を突破し、レスター川を渡り切ったその先が、

「ここからが廃界だ」

 オーバの言った通り――いよいよ廃界へと足を踏み入れる。

「すでに先頭はかなり先まで進んでいますね」

 馬車の窓から身を乗り出して先頭を確認しようとするが、すでに肉眼では確認できないほど先へと進行していた。

「場慣れしているペルゼミネ竜騎士団で先頭集団を固めているからな。彼らにとっては慣れたものなのだろう。だからといって、油断や慢心をしているわけではないだろうが」
「……ですよね」

 颯太もその辺りに関しては心配していない。
 これまでの交流から、ペルゼミネ竜騎士団――に関わらず、ダステニアもガドウィンも、竜騎士団の人間は信用できると確信していた。

「しかし……廃界とやらは随分と殺風景なところだね」

 オーバの抱く第一印象と、颯太の抱く廃界の第一印象はまったく同じだった。
 砂漠とまではいかないが、草木の生えていない荒れ果てた赤い土に覆われた地面が果てしなく続いている。

「まさに荒野って感じですね」
「話ではもう少し先へ進むと森があるそうだ。とはいえ、規模はかなり小さく、枯れ木ばかりだというが」

 廃界という言葉から思い浮かぶイメージ通りの光景が広がっていた。
 とはいえ、かつてはここにも国があったのだ。
 それも、話に聞く限りでは4大国家のどの国よりも進んだ文明を持っていた魔法大国だったという。

 そんな大国――オロムの破滅のきっかけになった「魔族」と呼ばれる生物。
 そして、竜王選戦が始まったことでここ数日一気に活発化した竜人族たちの動き。

 そのすべての結末が――この廃界にある。

 しかし、廃界入りしてから30分ほどが経つと、

「それにしても……ここまでまだ魔族を1匹も見ていないわね」
「他の場所で交戦している様子もないようだ」

 拍子抜けしてしまうほど遠征は順調だった。
 代わり映えのしない風景が延々と続き、穏やかな陽気も手伝って眠気さえ感じてしまうほどであった。

「……静かね」
「魔族はオロム王都周辺に数多く生息しているらしいが……さすがにここまで大人しいと逆に不安を覚えるな」
「そうですね」

 何か変化はないか――そう思った颯太が馬車の窓から顔をのぞかせた時だった。

「うん?」

 何か、違和感があった。
 それは、前方およそ50m先にある木にあった。

「何かいる?」

 背の高い木のてっぺんに、何やら人影がある。
 一体誰だ――なんて暢気な思考は一瞬で消え去った。


「敵だぁ!」

 
 遠くの方で、騎士の誰かが叫んだ。
 影の正体は人――ではなく、

「! 敵の竜人族が出たぞ!」
「う、嘘っ!?」
「いよいよ来たか」

 動揺するブリギッテ。
 対照的に、腹を括ったのか、驚くほど冷静なオーバ。

 敵は一体どの竜人族なのか。
 確認しようとした矢先、

 ズドォン!

「うわっ!?」

 凄まじい衝撃が、颯太たちの乗る馬車を襲う。
 あまりにも強過ぎて、馬車がひっくり返ってしまうほどだった。
 周りの騎士やドラゴンたちも、奇襲に面食らっていてすぐに対応できないでいる状況であった。

「ぐ、ぐぅ……」

 なんとかひっくり返った馬車から這い出てきた颯太だったが、その直後に強烈な突風が襲いかかって来る。

「こ、今度はなんなんだ!?」

 ブリギッテとオーバの無事を確認したいところだが、突風で巻き上げられた赤い土が颯太の視界を遮る。
 そして、


「また会ったな、わが父レグジートに認められた竜の言霊を持つ者よ」


 聞き覚えのある声だった。
 というより、忘れるわけのない声だった。

「……エルメルガ」
「名前を憶えてもらえていたとは光栄じゃな」
 
 メアと死闘を繰り広げたエルメルガが立っていた。

「少しお主と話がしたくてな。悪いが、同行願おうか」
「……応じると思うか? ここはおまえにとって敵陣のど真ん中だぞ」
「じゃな。ゆえに、この赤土の煙幕が晴れるまでしか待てぬ。断れたら――やるべきことはひとつじゃ」

 バチン!

 エルメルガの手から放たれた雷撃が、足元の小石を吹き飛ばした。
 次はおまえだ。
 そんなメッセージ性を感じるパフォーマンスだ。
 ついて行かなければダメか――颯太が覚悟を決めた時だった。


「ソータァァァ!」

 
 煙幕を引き裂いてエルメルガに飛びかかったのは――ハドリーを背に乗せたイリウスだった。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。