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【最終章①】廃界突入編
第181話 樹竜VS磁竜
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ベイランダムの能力――磁力によって集まった騎士たちの武器。
そのすべてが、今やベイランダムの意思ひとつで動く「生きた武器」と化していた。
「あいつの能力は磁力か……」
こちらの主戦武器は剣。
銅剣ではなく鉄製の剣である以上、ベイランダムの能力によって吸い上げられてしまう。こうなると、戦えるのは同じ竜人族であるキルカだけだ。
「援護しようにも武器が奪われたんじゃ……」
ただ黙って、キルカの健闘を祈るしかない。
「ソータ!!」
その時、ソータたちのもとへやって来たのはジェイクだった。
「ジェイクさん!?」
「無事でよかった。馬車はなんとか無事だ。すぐに出発できる」
「で、でも、キルカが――」
「ここはキルカに任せよう」
颯太はすぐさま決断を下した。
フェイゼルタットの時のように、元々竜人族同士の戦いでは同じ竜人族をぶつけようというのは作戦上決まってはいた。
それでも、キルカもフェイゼルタットも、颯太がよく知る竜人族。
できることならその戦いを最後まで見届けたいところではあるが――颯太がこれから会わなければならない相手は決まっている。
智竜シャルルペトラ。
竜王選戦の頂点――竜王に最も近いと言われながら、この廃界に姿を現したというランスロー王子と一緒にレイノアを出た竜人族。そして何より――現代において、唯一、禁忌魔法とされる次元転移魔法を使えるとされる竜人族だ。
その詳細な場所は定かではないが、各国を襲撃した竜人族たちと深くつながっている可能性があると討伐部隊は睨んでいた。
颯太としても、廃界へ来たからにはシャルルペトラに会いたいと願っていた。
本当に、シャルルペトラが次元転移魔法を使えるのだとしたら、元の世界へ帰れるかもしれない。
まあ、まだ本当に帰るかどうか決めたわけではないが、本当なら決断を迫られることになるだろう。
颯太とブリギッテは立て直した馬車に乗り込み、ジェイクの先導ですぐ間近に迫った旧オロムの王都を目指す。
――一方、そんな颯太たちを見送ったキルカは、
「それでいいのよ。あんたたちがこの場にとどまっていると気になって戦闘に集中できないものね」
キルカは気を引き締め直して、ベイランダムへと向き直る。
「ご丁寧に待ってもらって悪かったわね」
「うちは全力でぶつかり合いたいだけよ。周りに人間どもが群がっていたら、あんた戦いづらいでしょ?」
「…………」
ベイランダムの指摘は当たっていた。
そばで颯太やブリギッテが見守ってくれているというのは精神的に強みになる。だが、戦闘が優位になれば、敵はその力の原動力になっているふたりに狙いを絞るだろう。
だからこそ、ここはタイマンでベイランダムを迎えたい。
「いくわよ!」
キルカの叫びと共に、地面から勢いよく木の根が飛び出してくる。
「おお! あれが噂に聞く樹竜の能力か!?」
「す、凄まじいな!」
周りで再出発の準備を進めていた他国の騎士たちは、初めて目の当たりにするキルカの能力に圧倒されていた。
「へぇ、海竜の能力にも驚いたけど、こっちの方が迫力あるわね!」
だが、ベイランダムの反応は違った。
驚くどころか、嬉々としてその能力を受けてたつと意欲満々。心から戦うことを好んでいるというふうに見える。
真っ直ぐにベイランダムへと向かう木の根――だが、
「こっちも攻撃するよ!」
パチンと指を鳴らすと、上空にとどまった塊から十数本の刀が雨のごとく降り注ぐ。それらは伸びてきた木の根をズタズタに引き裂き、それでとどまることなく地上にいるキルカへと向かってくる。
「くっ!」
形勢が逆転に、今度は狙われる立場となったキルカは咄嗟に飛び退いて剣の雨をかわす。
「あんな使い方もできるのね……」
各国を襲った4匹の竜人族の中でも、磁竜ベイランダムは最も戦闘好きな竜人族である。そのため、その戦い方のバリエーションも豊富。
「今度はこれでどう!」
ベイランダムは攻撃の手を緩めない。その意志を色濃く反映する鉄の塊は、まるで巨大な手のように大きく広がり、地上のキルカを押し潰そうと迫る。
「あははは! ぺしゃんこになっちゃえぇ!」
狂気を含む笑みを浮かべながら高笑いのベイランダム。
これまで戦ってきたどの竜人族とも違う異質の性格をした相手に、キルカは恐怖さえ覚えていた。――それでも、
「ここで私が逃げるわけにはいかない!」
空から降り注ぐ攻撃を回避し、すぐさま反撃体勢へ。
容赦をしていたら負ける。
ここは一気に攻めなくては。
しかし、
「無駄よぉ!」
キルカの植物による攻撃は、無機質な金属の塊を盾と矛にして戦うベイランダムとは相性が悪かった。真正面からぶつかった際、どうしても力負けをして押し込まれてしまうのだ。
「うぅ……このままじゃまずいわね」
劣勢となり、気持ちの面でも引き気味になるキルカ。
その時、脳裏に浮かんだのは、
『こんにちは、キルカ』
「!」
初めて会った時のアンジェリカの姿だった。
『お父様から聞いたわ。今日からここがあなたの家になるのよ』
まだ小さかったアンジェリカと過ごした日々が思い起こされた。
このまま、自分が破れてしまえば、後続の竜人族たちへ負担となる。それがきっかけになって、討伐部隊が総崩れにでもなったら。当然、そんなやわな連中じゃないと信じてはいるのだが――一度芽生えた不安はそう簡単に払拭できない。
だが、その不安が、キルカに力を与えた。
「……負けるわけにはいかない!」
キルカは襲い来る剣の雨に対し、逃げるのをやめた。
「? 自棄にでもなったのかしら?」
突然の行動に一瞬ためらったものの、ベイランダムは勢いのままに攻撃を続行。今度は一切よける素振りを見せなかったキルカ――その結果、
ズドォン!
天から降り注いだ鉄の塊は、キルカの頭上から地面へと貫くように落下。
「勝負あり、ね」
ベイランダムは勝利の笑みを浮かべる――が、その笑いは一瞬にして凍りついた。
そのすべてが、今やベイランダムの意思ひとつで動く「生きた武器」と化していた。
「あいつの能力は磁力か……」
こちらの主戦武器は剣。
銅剣ではなく鉄製の剣である以上、ベイランダムの能力によって吸い上げられてしまう。こうなると、戦えるのは同じ竜人族であるキルカだけだ。
「援護しようにも武器が奪われたんじゃ……」
ただ黙って、キルカの健闘を祈るしかない。
「ソータ!!」
その時、ソータたちのもとへやって来たのはジェイクだった。
「ジェイクさん!?」
「無事でよかった。馬車はなんとか無事だ。すぐに出発できる」
「で、でも、キルカが――」
「ここはキルカに任せよう」
颯太はすぐさま決断を下した。
フェイゼルタットの時のように、元々竜人族同士の戦いでは同じ竜人族をぶつけようというのは作戦上決まってはいた。
それでも、キルカもフェイゼルタットも、颯太がよく知る竜人族。
できることならその戦いを最後まで見届けたいところではあるが――颯太がこれから会わなければならない相手は決まっている。
智竜シャルルペトラ。
竜王選戦の頂点――竜王に最も近いと言われながら、この廃界に姿を現したというランスロー王子と一緒にレイノアを出た竜人族。そして何より――現代において、唯一、禁忌魔法とされる次元転移魔法を使えるとされる竜人族だ。
その詳細な場所は定かではないが、各国を襲撃した竜人族たちと深くつながっている可能性があると討伐部隊は睨んでいた。
颯太としても、廃界へ来たからにはシャルルペトラに会いたいと願っていた。
本当に、シャルルペトラが次元転移魔法を使えるのだとしたら、元の世界へ帰れるかもしれない。
まあ、まだ本当に帰るかどうか決めたわけではないが、本当なら決断を迫られることになるだろう。
颯太とブリギッテは立て直した馬車に乗り込み、ジェイクの先導ですぐ間近に迫った旧オロムの王都を目指す。
――一方、そんな颯太たちを見送ったキルカは、
「それでいいのよ。あんたたちがこの場にとどまっていると気になって戦闘に集中できないものね」
キルカは気を引き締め直して、ベイランダムへと向き直る。
「ご丁寧に待ってもらって悪かったわね」
「うちは全力でぶつかり合いたいだけよ。周りに人間どもが群がっていたら、あんた戦いづらいでしょ?」
「…………」
ベイランダムの指摘は当たっていた。
そばで颯太やブリギッテが見守ってくれているというのは精神的に強みになる。だが、戦闘が優位になれば、敵はその力の原動力になっているふたりに狙いを絞るだろう。
だからこそ、ここはタイマンでベイランダムを迎えたい。
「いくわよ!」
キルカの叫びと共に、地面から勢いよく木の根が飛び出してくる。
「おお! あれが噂に聞く樹竜の能力か!?」
「す、凄まじいな!」
周りで再出発の準備を進めていた他国の騎士たちは、初めて目の当たりにするキルカの能力に圧倒されていた。
「へぇ、海竜の能力にも驚いたけど、こっちの方が迫力あるわね!」
だが、ベイランダムの反応は違った。
驚くどころか、嬉々としてその能力を受けてたつと意欲満々。心から戦うことを好んでいるというふうに見える。
真っ直ぐにベイランダムへと向かう木の根――だが、
「こっちも攻撃するよ!」
パチンと指を鳴らすと、上空にとどまった塊から十数本の刀が雨のごとく降り注ぐ。それらは伸びてきた木の根をズタズタに引き裂き、それでとどまることなく地上にいるキルカへと向かってくる。
「くっ!」
形勢が逆転に、今度は狙われる立場となったキルカは咄嗟に飛び退いて剣の雨をかわす。
「あんな使い方もできるのね……」
各国を襲った4匹の竜人族の中でも、磁竜ベイランダムは最も戦闘好きな竜人族である。そのため、その戦い方のバリエーションも豊富。
「今度はこれでどう!」
ベイランダムは攻撃の手を緩めない。その意志を色濃く反映する鉄の塊は、まるで巨大な手のように大きく広がり、地上のキルカを押し潰そうと迫る。
「あははは! ぺしゃんこになっちゃえぇ!」
狂気を含む笑みを浮かべながら高笑いのベイランダム。
これまで戦ってきたどの竜人族とも違う異質の性格をした相手に、キルカは恐怖さえ覚えていた。――それでも、
「ここで私が逃げるわけにはいかない!」
空から降り注ぐ攻撃を回避し、すぐさま反撃体勢へ。
容赦をしていたら負ける。
ここは一気に攻めなくては。
しかし、
「無駄よぉ!」
キルカの植物による攻撃は、無機質な金属の塊を盾と矛にして戦うベイランダムとは相性が悪かった。真正面からぶつかった際、どうしても力負けをして押し込まれてしまうのだ。
「うぅ……このままじゃまずいわね」
劣勢となり、気持ちの面でも引き気味になるキルカ。
その時、脳裏に浮かんだのは、
『こんにちは、キルカ』
「!」
初めて会った時のアンジェリカの姿だった。
『お父様から聞いたわ。今日からここがあなたの家になるのよ』
まだ小さかったアンジェリカと過ごした日々が思い起こされた。
このまま、自分が破れてしまえば、後続の竜人族たちへ負担となる。それがきっかけになって、討伐部隊が総崩れにでもなったら。当然、そんなやわな連中じゃないと信じてはいるのだが――一度芽生えた不安はそう簡単に払拭できない。
だが、その不安が、キルカに力を与えた。
「……負けるわけにはいかない!」
キルカは襲い来る剣の雨に対し、逃げるのをやめた。
「? 自棄にでもなったのかしら?」
突然の行動に一瞬ためらったものの、ベイランダムは勢いのままに攻撃を続行。今度は一切よける素振りを見せなかったキルカ――その結果、
ズドォン!
天から降り注いだ鉄の塊は、キルカの頭上から地面へと貫くように落下。
「勝負あり、ね」
ベイランダムは勝利の笑みを浮かべる――が、その笑いは一瞬にして凍りついた。
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