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【最終章①】廃界突入編
第189話 【幕間】復活の銀竜
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ダステニア王都。
世界に夜の闇が迫る中、ダステニア城内の一室ではキャロルがベッドに腰を下ろし、窓から暗くなっていく空を眺めながら、討伐部隊の安否を気遣って祈りを続けていた。
「そんなに思い詰めているとあなたの方が先に倒れてしまいますわよ」
突然の声に、キャロルの体がビクッと強張る。
しかし、すぐにその主が聞き慣れた幼馴染のものだと知るとホッと胸を撫で下ろす。
「アンジェリカでしたか」
「夕食はいらないとお聞きしたので、軽めのものを用意してもらいました」
持ってきたのはパンとスープ。
颯太やノエルたちのことが心配過ぎて、食事が喉を通らない状態であったキャロルであったが、アンジェリカの持ってきたスープの匂いに思わずお腹が鳴る。
「ふふ、食欲は出たようですわね」
「……ありがとう」
幼馴染の体調を心配したアンジェリカの配慮。
自分を心配してくれる――それを実感したキャロルは、その心遣いに感謝しつつスープを口にする。
「この戦いが本当の本当に最後の戦いなんだよね?」
「そう願いたいものですわ」
キャロルの口調がいつもの丁寧なものではなく、仲の良い友人に話すような砕けたものになっている――こうなっている時のキャロルの精神状態は「誰かに頼りたい」という気持ちが透けている証だった。
同業者としてではなく、幼馴染として。
長い付き合いから、キャロルの気持ちを察したアンジェリカは、そっと寄り添うようにキャロルの横へ腰を下ろす。
「ソータさんたちなら大丈夫ですわ。連合竜騎士団に各国の竜人族が集まった最強の布陣――たとえ未知の廃界だとしても、やられるわけがありませんわ」
「そう、だよね」
キャロルだって、それは十分わかっているつもりだ。
それでも、湧き上がってくる不安を拭い去れないでいた。
「心配性なところは昔から変わっていませんわね」
「……しょうがないでしょ」
唇を尖らせるキャロル。
その様子を見て、アンジェリカは少し落ち着いてきたのだと安心する。
すると、コンコンとドアをノックする音がした。
誰だろうとキャロルが立ち上がったと同時に、上ずった声がドアの向こう側から聞こえてきた。その様子から、何か慌てているようだ。
「キャロルさんはいらっしゃいますか!?」
名前を呼ばれたキャロルがドアを開けてみると、立っていたのは、
「か、カレンさん!?」
外交局のカレン・アルデンハークだった。
「あ、あの、何かあったんですか?」
「じ、実は、あなたの牧場のメアちゃんの容態が――」
「め、メアちゃんに何かあったんですか!?」
「とにかくついてきて! 口ではうまく説明できないから、直接見てもらいたいの!」
雷竜エルメルガとの戦いで深手を負ったメアは、今もアークス学園の治療室で眠りについたままであった。そのエルメルガの容態に変化があったとなっては、リンスウッド・ファームの一員として家族同然であるキャロルとしては放っておける問題ではない。
カレンの案内でアンジェリカと共にアークス学園内にある治療室を目指し、城外へと出たキャロルは、そこで信じられない光景を目の当たりにする。
「な、何これ……」
あまりの事態に開いた口が塞がらない状態になってしまう。
アークス学園の校舎――その北側にある治療室のある校舎が凍りついてしまっていたのだ。
「ど、どうなっているんですの?」
あまりの異常事態に、ついて来たアンジェリカも唖然として校舎を見上げていた。
「幸い、今日は休校日だったから生徒は誰もおらず、校舎にも数人しかいなかったようだから被害はなかったようよ」
「い、一体何があったんですか?」
「……あそこにはメアちゃんがいたのは知っているでしょ? そして、メアちゃんの能力といえば――」
「! 氷を操る能力……」
凍りついた校舎と、そこで眠っていた銀竜メアンガルド。
この現象とメアが無関係とは到底思えない。あるとするならば、
「力が……暴走している?」
キャロルが導き出した答えはそれだった。
「力の暴走……そんなことが……」
「今まで一度もありません。――だけど、こんなことができるのはメアちゃんぐらいしかいません」
「やっぱりそうよね」
3人が並んで凍りついた校舎を呆然と眺めていると、10人ほどの武装した男たちがやってきて、校舎に入ろうと氷をハンマーなどで砕き始めた。
「あの人たちは?」
「アイザックがペルゼミネの人たちに中にいるメアちゃんの救出を依頼したんです」
「氷への対応といえば、北方領ペルゼミネの得意分野ですわね」
「……私も行きます!」
「「え?」」――と、アンジェリカとカレンが口にするよりも前に、キャロルは男たちのもとへ駆けだしていった。あの男たちと行動を共にすれば、メアのもとへ早くたどり着けるだろうと踏んだからだ。
颯太のようにメアと会話ができるわけではないが、メアの身に何かが起きているならば、よく顔を知っている自分がそばにいることで少しくらいは役に立てるだろう。
男たちのもとへ到着する直前――北校舎2階の一部が轟音を立てて崩壊した。
「な、なんだ!?」
作業中の男たちは崩壊した場所を見上げる。
白煙が立ち込めるそこに、うっすらと人影を発見したのキャロル――その影は一見すると人の姿だが、背中には大きな翼のようなものがついている。そこで、キャロルは崩壊した場所にあった部屋がメアの寝ている治療室であることに気がついた。
「メアちゃんが寝ていた部屋――じゃあ、あれってメアちゃん!?」
キャロルはメアの名を叫んだ。
しかし、返事はない。
その後も必死に呼びかけるが、なんの返しもなく、やがてその影は凄まじいスピードで飛び去って行った。
影が飛んで行った先にあるのは――廃界だ。
「メアちゃん……」
飛んで行ったのがメアであるのは間違いない。
だが、どうも様子がおかしかった。
メアが意識を取り戻した安堵よりも、その様子の変化が気になったキャロルだった。
世界に夜の闇が迫る中、ダステニア城内の一室ではキャロルがベッドに腰を下ろし、窓から暗くなっていく空を眺めながら、討伐部隊の安否を気遣って祈りを続けていた。
「そんなに思い詰めているとあなたの方が先に倒れてしまいますわよ」
突然の声に、キャロルの体がビクッと強張る。
しかし、すぐにその主が聞き慣れた幼馴染のものだと知るとホッと胸を撫で下ろす。
「アンジェリカでしたか」
「夕食はいらないとお聞きしたので、軽めのものを用意してもらいました」
持ってきたのはパンとスープ。
颯太やノエルたちのことが心配過ぎて、食事が喉を通らない状態であったキャロルであったが、アンジェリカの持ってきたスープの匂いに思わずお腹が鳴る。
「ふふ、食欲は出たようですわね」
「……ありがとう」
幼馴染の体調を心配したアンジェリカの配慮。
自分を心配してくれる――それを実感したキャロルは、その心遣いに感謝しつつスープを口にする。
「この戦いが本当の本当に最後の戦いなんだよね?」
「そう願いたいものですわ」
キャロルの口調がいつもの丁寧なものではなく、仲の良い友人に話すような砕けたものになっている――こうなっている時のキャロルの精神状態は「誰かに頼りたい」という気持ちが透けている証だった。
同業者としてではなく、幼馴染として。
長い付き合いから、キャロルの気持ちを察したアンジェリカは、そっと寄り添うようにキャロルの横へ腰を下ろす。
「ソータさんたちなら大丈夫ですわ。連合竜騎士団に各国の竜人族が集まった最強の布陣――たとえ未知の廃界だとしても、やられるわけがありませんわ」
「そう、だよね」
キャロルだって、それは十分わかっているつもりだ。
それでも、湧き上がってくる不安を拭い去れないでいた。
「心配性なところは昔から変わっていませんわね」
「……しょうがないでしょ」
唇を尖らせるキャロル。
その様子を見て、アンジェリカは少し落ち着いてきたのだと安心する。
すると、コンコンとドアをノックする音がした。
誰だろうとキャロルが立ち上がったと同時に、上ずった声がドアの向こう側から聞こえてきた。その様子から、何か慌てているようだ。
「キャロルさんはいらっしゃいますか!?」
名前を呼ばれたキャロルがドアを開けてみると、立っていたのは、
「か、カレンさん!?」
外交局のカレン・アルデンハークだった。
「あ、あの、何かあったんですか?」
「じ、実は、あなたの牧場のメアちゃんの容態が――」
「め、メアちゃんに何かあったんですか!?」
「とにかくついてきて! 口ではうまく説明できないから、直接見てもらいたいの!」
雷竜エルメルガとの戦いで深手を負ったメアは、今もアークス学園の治療室で眠りについたままであった。そのエルメルガの容態に変化があったとなっては、リンスウッド・ファームの一員として家族同然であるキャロルとしては放っておける問題ではない。
カレンの案内でアンジェリカと共にアークス学園内にある治療室を目指し、城外へと出たキャロルは、そこで信じられない光景を目の当たりにする。
「な、何これ……」
あまりの事態に開いた口が塞がらない状態になってしまう。
アークス学園の校舎――その北側にある治療室のある校舎が凍りついてしまっていたのだ。
「ど、どうなっているんですの?」
あまりの異常事態に、ついて来たアンジェリカも唖然として校舎を見上げていた。
「幸い、今日は休校日だったから生徒は誰もおらず、校舎にも数人しかいなかったようだから被害はなかったようよ」
「い、一体何があったんですか?」
「……あそこにはメアちゃんがいたのは知っているでしょ? そして、メアちゃんの能力といえば――」
「! 氷を操る能力……」
凍りついた校舎と、そこで眠っていた銀竜メアンガルド。
この現象とメアが無関係とは到底思えない。あるとするならば、
「力が……暴走している?」
キャロルが導き出した答えはそれだった。
「力の暴走……そんなことが……」
「今まで一度もありません。――だけど、こんなことができるのはメアちゃんぐらいしかいません」
「やっぱりそうよね」
3人が並んで凍りついた校舎を呆然と眺めていると、10人ほどの武装した男たちがやってきて、校舎に入ろうと氷をハンマーなどで砕き始めた。
「あの人たちは?」
「アイザックがペルゼミネの人たちに中にいるメアちゃんの救出を依頼したんです」
「氷への対応といえば、北方領ペルゼミネの得意分野ですわね」
「……私も行きます!」
「「え?」」――と、アンジェリカとカレンが口にするよりも前に、キャロルは男たちのもとへ駆けだしていった。あの男たちと行動を共にすれば、メアのもとへ早くたどり着けるだろうと踏んだからだ。
颯太のようにメアと会話ができるわけではないが、メアの身に何かが起きているならば、よく顔を知っている自分がそばにいることで少しくらいは役に立てるだろう。
男たちのもとへ到着する直前――北校舎2階の一部が轟音を立てて崩壊した。
「な、なんだ!?」
作業中の男たちは崩壊した場所を見上げる。
白煙が立ち込めるそこに、うっすらと人影を発見したのキャロル――その影は一見すると人の姿だが、背中には大きな翼のようなものがついている。そこで、キャロルは崩壊した場所にあった部屋がメアの寝ている治療室であることに気がついた。
「メアちゃんが寝ていた部屋――じゃあ、あれってメアちゃん!?」
キャロルはメアの名を叫んだ。
しかし、返事はない。
その後も必死に呼びかけるが、なんの返しもなく、やがてその影は凄まじいスピードで飛び去って行った。
影が飛んで行った先にあるのは――廃界だ。
「メアちゃん……」
飛んで行ったのがメアであるのは間違いない。
だが、どうも様子がおかしかった。
メアが意識を取り戻した安堵よりも、その様子の変化が気になったキャロルだった。
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