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第37話 トレナの決意
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「トレナ」
「っ!?」
優しく声をかけたつもりだったが、相手を驚かせてしまったらしく目を丸くして身構えられる。
しかしすぐにハッと何かに気づいて勢いよく頭を下げた。
「昨夜は助けていただき、ありがとうございました!」
「ああ、あのことか。別に気にする必要はない。己の強い権力を笠に着て弱者をいたぶるあのような輩は虫唾が走るほど嫌いなんでな」
原作だと俺がその立場なんだが、今は違う。
死亡フラグを叩き潰すために日夜努力をしており、トレナとギャスパー教諭の件もその一環だった。
その後、落ち着きを取り戻したトレナは詳しい事情を語り始める。
ギャスパーは特待生の責任者を解任され、それどころか今朝早くにこっそりと騎士団へ身柄を預けられたらしい。
どうやら他にもシャレにならない悪事を働いており、学園側もそれを重く受け止めて対処したようだ。
まあ、トカゲの尻尾切りと言ってしまえばそこまでなのだが、野放しにして被害が拡大するよりはよほどマシだろう。仮にこのまま学園に残り続けたとしても、原作の流れ的にろくな結果とはならなかっただろうし。
それに、新しく特待生の責任者に就任した女性教諭は経験も豊富で真面目な人物。
こちらの方がよほど期待できるというものだ。
それと合わせてトレナも学園に残れることとなった。
そもそもあの中年変態教師の暴走が原因なので彼女が責任を負うようなことなどまったくないのだが、やはりそこはトレナの生い立ちをよく思わない連中がギャーギャー喚いているようだな。
公爵家として、そのような連中の口は黙らせておく必要がありそうだ。
これが原因で今後入学してくる若者たちの未来が壊されてしまってはそれこそ国としては大きな損失になり得るのだから。
だからこそ、トレナが学園に残れて本当によかった。
彼女のようなケースが増え、優秀な人材が漏れることなく正しい教育を受けられるようになれたら、この国はもっとよくなるだろう。
――ただ、肝心のトレナ自身には迷いがあるようだ。
「私……これから学園でやっていけるのかどうか……少し分からなくなってきました」
今回の件でいろいろと余計なことを考えてしまったようだ。
そんなトレナに、俺はこのゲームのコンセプトでもある言葉を贈る。
「俺から言えることはひとつだけだ。――実力に家柄は関係ない」
「えっ?」
「より高みを目指して努力を続けていけば、必ず道は拓ける。絶望し、放棄することは簡単だろう。だが、大切なのは歩みを止めないことだ」
「エ、エナード様……」
これは俺が中学の担任からかけられた言葉だ。
俺はそれを信じてゲーム作りを続けていったが……大学時代にこいつのテストプレイ版をネットで配信し、そこでボロクソに貶され、レビューサイトで☆1.2という低評価を食らったことが原因でゲーム製作から身を引いた。
――今はこれを誤った判断だったと後悔している。
こいつはまだ一作目。
多くの失敗と収穫を経てよりよいゲームに成長させていく必要があったのだ。
だが、俺はそれをあきらめて逃げ出した。
その後何をやってもうまくいかなかったのはこの時についた逃げ癖だと思っている。
そんな悔しい思いを二度としないためにも……俺はこのゲーム世界を満喫する。
すべての死亡フラグを回避して。
「……ありがとうございます、エナード様」
顔を上げたトレナの表情は晴れ晴れしていた。
どうやら吹っ切れたみたいだな。
「私、頑張ります! これから学園に入ってくる、同じ境遇の子どもたちの道標となるためにも!」
「賢明な判断だ」
それだけ告げると、俺は踵を返してテオリアのもとへ戻る。
きっと彼女は大丈夫だろう。
同時に、トレナ絡みの死亡フラグも回避できたとみてよさそうかな。
「っ!?」
優しく声をかけたつもりだったが、相手を驚かせてしまったらしく目を丸くして身構えられる。
しかしすぐにハッと何かに気づいて勢いよく頭を下げた。
「昨夜は助けていただき、ありがとうございました!」
「ああ、あのことか。別に気にする必要はない。己の強い権力を笠に着て弱者をいたぶるあのような輩は虫唾が走るほど嫌いなんでな」
原作だと俺がその立場なんだが、今は違う。
死亡フラグを叩き潰すために日夜努力をしており、トレナとギャスパー教諭の件もその一環だった。
その後、落ち着きを取り戻したトレナは詳しい事情を語り始める。
ギャスパーは特待生の責任者を解任され、それどころか今朝早くにこっそりと騎士団へ身柄を預けられたらしい。
どうやら他にもシャレにならない悪事を働いており、学園側もそれを重く受け止めて対処したようだ。
まあ、トカゲの尻尾切りと言ってしまえばそこまでなのだが、野放しにして被害が拡大するよりはよほどマシだろう。仮にこのまま学園に残り続けたとしても、原作の流れ的にろくな結果とはならなかっただろうし。
それに、新しく特待生の責任者に就任した女性教諭は経験も豊富で真面目な人物。
こちらの方がよほど期待できるというものだ。
それと合わせてトレナも学園に残れることとなった。
そもそもあの中年変態教師の暴走が原因なので彼女が責任を負うようなことなどまったくないのだが、やはりそこはトレナの生い立ちをよく思わない連中がギャーギャー喚いているようだな。
公爵家として、そのような連中の口は黙らせておく必要がありそうだ。
これが原因で今後入学してくる若者たちの未来が壊されてしまってはそれこそ国としては大きな損失になり得るのだから。
だからこそ、トレナが学園に残れて本当によかった。
彼女のようなケースが増え、優秀な人材が漏れることなく正しい教育を受けられるようになれたら、この国はもっとよくなるだろう。
――ただ、肝心のトレナ自身には迷いがあるようだ。
「私……これから学園でやっていけるのかどうか……少し分からなくなってきました」
今回の件でいろいろと余計なことを考えてしまったようだ。
そんなトレナに、俺はこのゲームのコンセプトでもある言葉を贈る。
「俺から言えることはひとつだけだ。――実力に家柄は関係ない」
「えっ?」
「より高みを目指して努力を続けていけば、必ず道は拓ける。絶望し、放棄することは簡単だろう。だが、大切なのは歩みを止めないことだ」
「エ、エナード様……」
これは俺が中学の担任からかけられた言葉だ。
俺はそれを信じてゲーム作りを続けていったが……大学時代にこいつのテストプレイ版をネットで配信し、そこでボロクソに貶され、レビューサイトで☆1.2という低評価を食らったことが原因でゲーム製作から身を引いた。
――今はこれを誤った判断だったと後悔している。
こいつはまだ一作目。
多くの失敗と収穫を経てよりよいゲームに成長させていく必要があったのだ。
だが、俺はそれをあきらめて逃げ出した。
その後何をやってもうまくいかなかったのはこの時についた逃げ癖だと思っている。
そんな悔しい思いを二度としないためにも……俺はこのゲーム世界を満喫する。
すべての死亡フラグを回避して。
「……ありがとうございます、エナード様」
顔を上げたトレナの表情は晴れ晴れしていた。
どうやら吹っ切れたみたいだな。
「私、頑張ります! これから学園に入ってくる、同じ境遇の子どもたちの道標となるためにも!」
「賢明な判断だ」
それだけ告げると、俺は踵を返してテオリアのもとへ戻る。
きっと彼女は大丈夫だろう。
同時に、トレナ絡みの死亡フラグも回避できたとみてよさそうかな。
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