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第97話 賑やかな王都
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人だかりの中を両手に花の状態で進む優志一行。
行き交う人々の中には店の常連客もいて、
「おうおう、見せつけてくれるねぇ!」
「やっぱりそういう関係だったか」
目が合うたびに冷やかされる始末。
ただ、だからと言って腕にしがみついているふたりを引きはがすのはさすがに気が引けた。
理由は大きく分けてふたつある。
ひとつは主にリウィルを対象とすることなのだが、やはりこの人混みの中では迷子になりやすいという点。やらかし癖のあるリウィルは特にこの項目が引っかかりそうな気がしてならない。
もうひとつは――ふたりがとても楽しそうであるという点。
「あっちの屋台に売っているものが気になりますね」
「行ってみましょうよ、リウィルさん!」
優志を挟むリウィルと美弦は心底楽しそうに笑顔を振りまきながらいつもとは様子の異なる王都を満喫していた。
屋台で買い食いをしたり、輪投げなどのミニゲームをやっている店で盛り上がったりと、まるで日本の縁日のようにエンジョイしていた。
「まあ……ふたりが楽しそうならそれでいいか」
優志はふたりに聞こえないくらいの小さな声で天に向かいそう言った。
しばらく王都内を散策していた優志たちであったが、徐々に人混みが減少していくことに気がついた。
正しく言えば、人が減っているわけではない。
多くの人々が一ヵ所に集結しつつあったのだ。
「どうやらそろそろパレードが始まるみたいですね」
「そのようだな」
優志たちは人々の動きからパレードの開始を察知すると、城へ向けて歩き出した。
城へ行けば、ベルギウスが待っているはずだ。
城門近くに差しかかると、
「ユージ殿、お待ちしておりました」
騎士のひとりが声をかけてきた。
「ベルギウス様がお待ちです。さあ、こちらの特別席へどうぞ」
「ありがとう」
若い騎士に案内され、城内へと入る優志たち。
「先日、ユージ殿たちが造った例の風呂ですが、国王陛下は大層気に入り、毎日のぼせる寸前まで入っているくらいですよ」
「そこまで喜んでもらえるのは大変ありがたい話だけど、のぼせる直前まで入るのはちょっとやり過ぎかな」
「それほどあの風呂の効果が凄いということですよ」
優志のスキルを使用しなくても疲労が取れるよう、エアーの魔鉱石を埋め込んだ異世界式ジャグジー風呂は未だにフィルス国王を虜にしているようだった。
「さあ、こちらです」
騎士が案内した場所は城の一室――そこは外へと続いており、まるでテラス席のように王都内の様子が高い位置から見渡せた。
「こりゃまた壮観だな」
「ですね」
「私たちついさっきまであの人混みの中にいたんですよねぇ……」
美弦が呆気に取られてしまうほどの人の数。
その光景を目の当たりにした優志は、なんとなく渋谷のスクランブル交差点を思い出していた。以前、出張で東京を訪れた際に立ち寄ったことがあるのだが、ここの人混みはそれに匹敵する――或は、それを超越するほどの数だった。
「やあ、待っていたよ」
王都の様子に目を奪われていた優志たちの前に、この席へ招待したベルギウスが現れた――というより、最初からいたのだが優志たちの視界には入らなかったのだ。
「ベルギウス様、本日はこのような素晴らしい場所へご招待いただきまして――」
「そうかしこまらなくてもいいさ」
優志が社会人らしく礼を述べようとすると、ベルギウスはそれを制した。
「まあこっちに来て座りなよ。ほら、おいしいお茶とお菓子もあるから。遠慮は無用だよ」
ベルギウスの前にあるテーブルにはすでに3つ分のイスが設えられており、湯気の立つ紅茶においしそうなお菓子(スコーンのようなもの)が用意されていた。
「し、失礼します」
いつもとは違う雰囲気に呑まれ始めている優志は、緊張に顔を強張らせながら用意された席へと着く。それに続いて美弦とリウィルも座るが、優志以上に場慣れしていない美弦も緊張感に包まれていた。唯一、リウィルだけが平然としている。
「いい席だろう? ここからならパレードの様子がよく見渡せる」
「そ、そうですね」
「だからそんなに緊張しなくてもいいから」
あっけらかんとベルギウスは言い放つ。
それに優志も「はい」と返事はするのだが、どうにも勝手が違うのか、いまいちほぐれないでいた。いつもは優志の店でベルギウスを迎えることが多いのだが、城内に会うと次期国王候補という肩書がどうしても脳裏をちらついてしまう。
これもまたサラリーマンの悲しい性か。
平社員ならともかく課長や部長クラスと話をするとなると途端に縮こまる悪癖があることを思い出した。最近はそんな気遣いなどする場面もなく、比較的自然体で過ごすことが多かったのだが、身近な存在と感じ始めていた大物が大物らしいオーラをまとうとこうも変わるものかと驚いていた。
――とはいえ、ベルギウスの言う通り、いつまでも緊張していてはせっかくのパレードが楽しめない。
優志は気持ちを切り替えて臨もうと深呼吸をした――その時である。
「~~~~♪」
どこからともなく流れるファンファーレ。
「いよいよ始まったか」
どうやらあの音がパレード開始の合図であるらしい。
その証拠に、音が止まった直後に人々が一斉に大歓声をあげた。
「さて、本格的に騒がしくなる前に――ユージくん。君に報告がある」
「お、俺に報告ですか?」
虚を突かれて声が裏返りつつも、優志はベルギウスの言う「報告」に興味を持った。
「一体なんの報告ですか?」
「それはね――例の喋る魔人についてだ」
「!?」
あのダンジョンで遭遇した喋る魔人。
ベルギウスはその話題に触れるという。
果たして、魔人に一体何があったのだろうか。
行き交う人々の中には店の常連客もいて、
「おうおう、見せつけてくれるねぇ!」
「やっぱりそういう関係だったか」
目が合うたびに冷やかされる始末。
ただ、だからと言って腕にしがみついているふたりを引きはがすのはさすがに気が引けた。
理由は大きく分けてふたつある。
ひとつは主にリウィルを対象とすることなのだが、やはりこの人混みの中では迷子になりやすいという点。やらかし癖のあるリウィルは特にこの項目が引っかかりそうな気がしてならない。
もうひとつは――ふたりがとても楽しそうであるという点。
「あっちの屋台に売っているものが気になりますね」
「行ってみましょうよ、リウィルさん!」
優志を挟むリウィルと美弦は心底楽しそうに笑顔を振りまきながらいつもとは様子の異なる王都を満喫していた。
屋台で買い食いをしたり、輪投げなどのミニゲームをやっている店で盛り上がったりと、まるで日本の縁日のようにエンジョイしていた。
「まあ……ふたりが楽しそうならそれでいいか」
優志はふたりに聞こえないくらいの小さな声で天に向かいそう言った。
しばらく王都内を散策していた優志たちであったが、徐々に人混みが減少していくことに気がついた。
正しく言えば、人が減っているわけではない。
多くの人々が一ヵ所に集結しつつあったのだ。
「どうやらそろそろパレードが始まるみたいですね」
「そのようだな」
優志たちは人々の動きからパレードの開始を察知すると、城へ向けて歩き出した。
城へ行けば、ベルギウスが待っているはずだ。
城門近くに差しかかると、
「ユージ殿、お待ちしておりました」
騎士のひとりが声をかけてきた。
「ベルギウス様がお待ちです。さあ、こちらの特別席へどうぞ」
「ありがとう」
若い騎士に案内され、城内へと入る優志たち。
「先日、ユージ殿たちが造った例の風呂ですが、国王陛下は大層気に入り、毎日のぼせる寸前まで入っているくらいですよ」
「そこまで喜んでもらえるのは大変ありがたい話だけど、のぼせる直前まで入るのはちょっとやり過ぎかな」
「それほどあの風呂の効果が凄いということですよ」
優志のスキルを使用しなくても疲労が取れるよう、エアーの魔鉱石を埋め込んだ異世界式ジャグジー風呂は未だにフィルス国王を虜にしているようだった。
「さあ、こちらです」
騎士が案内した場所は城の一室――そこは外へと続いており、まるでテラス席のように王都内の様子が高い位置から見渡せた。
「こりゃまた壮観だな」
「ですね」
「私たちついさっきまであの人混みの中にいたんですよねぇ……」
美弦が呆気に取られてしまうほどの人の数。
その光景を目の当たりにした優志は、なんとなく渋谷のスクランブル交差点を思い出していた。以前、出張で東京を訪れた際に立ち寄ったことがあるのだが、ここの人混みはそれに匹敵する――或は、それを超越するほどの数だった。
「やあ、待っていたよ」
王都の様子に目を奪われていた優志たちの前に、この席へ招待したベルギウスが現れた――というより、最初からいたのだが優志たちの視界には入らなかったのだ。
「ベルギウス様、本日はこのような素晴らしい場所へご招待いただきまして――」
「そうかしこまらなくてもいいさ」
優志が社会人らしく礼を述べようとすると、ベルギウスはそれを制した。
「まあこっちに来て座りなよ。ほら、おいしいお茶とお菓子もあるから。遠慮は無用だよ」
ベルギウスの前にあるテーブルにはすでに3つ分のイスが設えられており、湯気の立つ紅茶においしそうなお菓子(スコーンのようなもの)が用意されていた。
「し、失礼します」
いつもとは違う雰囲気に呑まれ始めている優志は、緊張に顔を強張らせながら用意された席へと着く。それに続いて美弦とリウィルも座るが、優志以上に場慣れしていない美弦も緊張感に包まれていた。唯一、リウィルだけが平然としている。
「いい席だろう? ここからならパレードの様子がよく見渡せる」
「そ、そうですね」
「だからそんなに緊張しなくてもいいから」
あっけらかんとベルギウスは言い放つ。
それに優志も「はい」と返事はするのだが、どうにも勝手が違うのか、いまいちほぐれないでいた。いつもは優志の店でベルギウスを迎えることが多いのだが、城内に会うと次期国王候補という肩書がどうしても脳裏をちらついてしまう。
これもまたサラリーマンの悲しい性か。
平社員ならともかく課長や部長クラスと話をするとなると途端に縮こまる悪癖があることを思い出した。最近はそんな気遣いなどする場面もなく、比較的自然体で過ごすことが多かったのだが、身近な存在と感じ始めていた大物が大物らしいオーラをまとうとこうも変わるものかと驚いていた。
――とはいえ、ベルギウスの言う通り、いつまでも緊張していてはせっかくのパレードが楽しめない。
優志は気持ちを切り替えて臨もうと深呼吸をした――その時である。
「~~~~♪」
どこからともなく流れるファンファーレ。
「いよいよ始まったか」
どうやらあの音がパレード開始の合図であるらしい。
その証拠に、音が止まった直後に人々が一斉に大歓声をあげた。
「さて、本格的に騒がしくなる前に――ユージくん。君に報告がある」
「お、俺に報告ですか?」
虚を突かれて声が裏返りつつも、優志はベルギウスの言う「報告」に興味を持った。
「一体なんの報告ですか?」
「それはね――例の喋る魔人についてだ」
「!?」
あのダンジョンで遭遇した喋る魔人。
ベルギウスはその話題に触れるという。
果たして、魔人に一体何があったのだろうか。
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