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第141話 決断
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ボロウと別れた後、優志は塔から真っ直ぐ店に戻った。
その帰りの馬車の中で、優志はボロウから声をかけられた。
「回復屋……本気で魔界へ乗り込もうっていうのか?」
「そのつもりだ。……もちろん、無茶で無謀だとは思っている」
「だったら、心残りをなくしておくんだな。魔界へ行ったら、確実にこちらへ戻ってこられるなんて保証はないからな」
「心残り……」
ボロウから言われた直後、優志の脳裏に浮かんだのはリウィルの姿であった。
「……当ててやろうか?」
「え?」
「おまえの心残りだよ」
ニヤニヤ笑うボロウ。
どうやら本当に優志の心残りへあてがあるようだ。
「ズバリ、女だろ?」
「!?」
そしてそのあては見事的中した。
「い、いや、別にリウィルのことなんて――」
「俺はリウィルなんて一言も言っていないぜ?」
「あ……」
やられた。
優志は完全にハメられた。
「まあ、妙に所帯染みていたからそうだろうなとは思っていたが」
「所帯染みているって……それに、俺とリウィルはそんな関係じゃないよ」
「そうか? 俺はお似合いだと思うがね」
そう答えたボロウは真剣な顔つきをしていた。ただ単に、優志をからかおうとしているわけではない。
「女のために戦う。結構じゃないか。何が何でも生きて帰るという気概を持てるのであればそれもまたひとつの武器だ」
「何が何でも生きて帰る、か」
この世界を守るために――最初は純粋にその気持ちだけだった。しかし、時間を置いていろいろと考えてみると、鍛え抜かれた騎士たちや自分よりも優れたスキルを持つ真田や三上のような若者たちが束になっても打ち勝つことができない。
そんな場所へ、回復しか能のない自分が行って、本当に彼らの力になることができるのだろうか。ただの足手まといになり、かえって負担となってしまうのではないか。
「不安か?」
「まあ……確かに、俺には誰かを回復させることができても力がない。いざって時に、みんなの足を引っ張るようになるんじゃないかと」
「なるほどね……わかった!」
「わかった?」
「ああ、それはこっちの話だ。それより、ゼイロ副騎士団長の話では明日の朝にも迎えが来ることになっている。だからよ……今日が最後の夜ってことになる」
「…………」
夜は除くとして、確かにもしものことを考えたら店に戻ってくるのも――リウィルに会えるのも今日が最後かもしれない。
優志は大きく深呼吸をする。
まるで、何か決意を固めたかのように。
◇◇◇
早速魔界へ向かう増援部隊に志願したことを告げた。
「っっ!!?!?!?!!?!?」
案の定というかなんというか、一番衝撃を受けていたのはリウィルであった。完全に思考が停止しているようで、ダズやエミリーが声をかけてもまったく反応を示さない。
「で、でも、どうして魔界へ乗り込むなんて……」
心配そうに尋ねたのは美弦だった。
かつて、勇者召喚された彼女も、本来ならば勇者の一人としてその召喚術というスキルを駆使して魔王討伐に向かうはずだった。しかし、戦うことへの恐怖が勝り、今では優志の店で働いている。
ゆえに、美弦はずっと罪悪感を抱えていた。
自分と同じ目的で召喚された同年代の者たちは、皆この世界を救うために魔界へと乗り込んでいった。その一方で、自分は安全な位置で楽しい異世界生活を満喫している。時々、そのことを思い出して胸が苦しくなっていた。
――そういった心境もあったのだろう。
美弦は優志の決意を耳にした時、心の奥底で何かが弾けたような感覚があった。
「あの、優志さん」
「なんだい?」
「私も……私も魔界へ行きます!」
これまでに見たことのない、力強い眼差しだった。
「美弦ちゃん……」
優志も、美弦の強い決意を感じ取っていた。
そこでようやくリウィルも意識を取り戻す。
「ま、待ってください! ユージさんもミツルさんも! 魔界がどんな場所か分かっているんですか!」
この世界で生きてきたリウィルには、優志たちよりも身近に魔界を感じ、その脅威を知っている。だからこそ、二人が揃って魔界へ向かうことに断固反対であった。
「リウィル……心配をしてくれてありがとう」
「そんな……心配するのは当たり前です。もし……もし、ユージさんやミツルちゃんに何かあったら」
「でも、このままだと魔王は倒せない……つまり、いつまで経っても平和な世界にならないってことですよね?」
「リウィル、俺と美弦ちゃんは死にに行くんじゃない。この世界を平和にするため、魔界へ向かうんだ」
「それは分かっていますけど……」
優志と美弦の表情や態度から、リウィルはこれ以上何を話しても二人の決意が揺るがないだろうと悟った。
それでも拭えぬ不安を取り去るため、声を上げたのは二人の冒険者であった。
「そういうことなら俺たちも参戦しよう」
「魔界か……腕が鳴るな」
フォーブの街を代表する二大御冒険者――ダズとエミリーだった。
「ダズ! エミリー!」
「俺たちもこの世界に生きる者だ。おまえたち異世界人の力に頼り続けているわけにはいかないからな」
「私たちにもやれることやる。それは、君たちのことを知ってからずっと考えていたんだ」
「二人とも……」
新たに魔界へ乗り込む仲間が増えた。
優志や美弦だけでなく、リウィルにも心強い味方となる。
「さて、そうと決まったら今日は前祝だ。派手にいこうぜ!」
ダズの合図で、店内にいた人々は一斉に騒ぎ始める。
いつもと変わらぬ賑やかな店の雰囲気。
リウィルはなんだか不安に感じていたことが嘘のように晴れやかな気持ちでその騒ぎを見つめていた。
「リウィル、俺たちも騒ごう」
「行きましょう、リウィルさん!」
「はい!」
優志と美弦に手を引かれて、リウィルも騒ぎに加わった。
ボロウの言っていたような展開にはならなかったが、優志の心内にはしかとリウィルの顔が焼き付いている。
この笑顔を見るために、必ず生きて帰ってくる。
そう強く心に誓ったのだった。
その帰りの馬車の中で、優志はボロウから声をかけられた。
「回復屋……本気で魔界へ乗り込もうっていうのか?」
「そのつもりだ。……もちろん、無茶で無謀だとは思っている」
「だったら、心残りをなくしておくんだな。魔界へ行ったら、確実にこちらへ戻ってこられるなんて保証はないからな」
「心残り……」
ボロウから言われた直後、優志の脳裏に浮かんだのはリウィルの姿であった。
「……当ててやろうか?」
「え?」
「おまえの心残りだよ」
ニヤニヤ笑うボロウ。
どうやら本当に優志の心残りへあてがあるようだ。
「ズバリ、女だろ?」
「!?」
そしてそのあては見事的中した。
「い、いや、別にリウィルのことなんて――」
「俺はリウィルなんて一言も言っていないぜ?」
「あ……」
やられた。
優志は完全にハメられた。
「まあ、妙に所帯染みていたからそうだろうなとは思っていたが」
「所帯染みているって……それに、俺とリウィルはそんな関係じゃないよ」
「そうか? 俺はお似合いだと思うがね」
そう答えたボロウは真剣な顔つきをしていた。ただ単に、優志をからかおうとしているわけではない。
「女のために戦う。結構じゃないか。何が何でも生きて帰るという気概を持てるのであればそれもまたひとつの武器だ」
「何が何でも生きて帰る、か」
この世界を守るために――最初は純粋にその気持ちだけだった。しかし、時間を置いていろいろと考えてみると、鍛え抜かれた騎士たちや自分よりも優れたスキルを持つ真田や三上のような若者たちが束になっても打ち勝つことができない。
そんな場所へ、回復しか能のない自分が行って、本当に彼らの力になることができるのだろうか。ただの足手まといになり、かえって負担となってしまうのではないか。
「不安か?」
「まあ……確かに、俺には誰かを回復させることができても力がない。いざって時に、みんなの足を引っ張るようになるんじゃないかと」
「なるほどね……わかった!」
「わかった?」
「ああ、それはこっちの話だ。それより、ゼイロ副騎士団長の話では明日の朝にも迎えが来ることになっている。だからよ……今日が最後の夜ってことになる」
「…………」
夜は除くとして、確かにもしものことを考えたら店に戻ってくるのも――リウィルに会えるのも今日が最後かもしれない。
優志は大きく深呼吸をする。
まるで、何か決意を固めたかのように。
◇◇◇
早速魔界へ向かう増援部隊に志願したことを告げた。
「っっ!!?!?!?!!?!?」
案の定というかなんというか、一番衝撃を受けていたのはリウィルであった。完全に思考が停止しているようで、ダズやエミリーが声をかけてもまったく反応を示さない。
「で、でも、どうして魔界へ乗り込むなんて……」
心配そうに尋ねたのは美弦だった。
かつて、勇者召喚された彼女も、本来ならば勇者の一人としてその召喚術というスキルを駆使して魔王討伐に向かうはずだった。しかし、戦うことへの恐怖が勝り、今では優志の店で働いている。
ゆえに、美弦はずっと罪悪感を抱えていた。
自分と同じ目的で召喚された同年代の者たちは、皆この世界を救うために魔界へと乗り込んでいった。その一方で、自分は安全な位置で楽しい異世界生活を満喫している。時々、そのことを思い出して胸が苦しくなっていた。
――そういった心境もあったのだろう。
美弦は優志の決意を耳にした時、心の奥底で何かが弾けたような感覚があった。
「あの、優志さん」
「なんだい?」
「私も……私も魔界へ行きます!」
これまでに見たことのない、力強い眼差しだった。
「美弦ちゃん……」
優志も、美弦の強い決意を感じ取っていた。
そこでようやくリウィルも意識を取り戻す。
「ま、待ってください! ユージさんもミツルさんも! 魔界がどんな場所か分かっているんですか!」
この世界で生きてきたリウィルには、優志たちよりも身近に魔界を感じ、その脅威を知っている。だからこそ、二人が揃って魔界へ向かうことに断固反対であった。
「リウィル……心配をしてくれてありがとう」
「そんな……心配するのは当たり前です。もし……もし、ユージさんやミツルちゃんに何かあったら」
「でも、このままだと魔王は倒せない……つまり、いつまで経っても平和な世界にならないってことですよね?」
「リウィル、俺と美弦ちゃんは死にに行くんじゃない。この世界を平和にするため、魔界へ向かうんだ」
「それは分かっていますけど……」
優志と美弦の表情や態度から、リウィルはこれ以上何を話しても二人の決意が揺るがないだろうと悟った。
それでも拭えぬ不安を取り去るため、声を上げたのは二人の冒険者であった。
「そういうことなら俺たちも参戦しよう」
「魔界か……腕が鳴るな」
フォーブの街を代表する二大御冒険者――ダズとエミリーだった。
「ダズ! エミリー!」
「俺たちもこの世界に生きる者だ。おまえたち異世界人の力に頼り続けているわけにはいかないからな」
「私たちにもやれることやる。それは、君たちのことを知ってからずっと考えていたんだ」
「二人とも……」
新たに魔界へ乗り込む仲間が増えた。
優志や美弦だけでなく、リウィルにも心強い味方となる。
「さて、そうと決まったら今日は前祝だ。派手にいこうぜ!」
ダズの合図で、店内にいた人々は一斉に騒ぎ始める。
いつもと変わらぬ賑やかな店の雰囲気。
リウィルはなんだか不安に感じていたことが嘘のように晴れやかな気持ちでその騒ぎを見つめていた。
「リウィル、俺たちも騒ごう」
「行きましょう、リウィルさん!」
「はい!」
優志と美弦に手を引かれて、リウィルも騒ぎに加わった。
ボロウの言っていたような展開にはならなかったが、優志の心内にはしかとリウィルの顔が焼き付いている。
この笑顔を見るために、必ず生きて帰ってくる。
そう強く心に誓ったのだった。
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